17 吸血鬼の城
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[彼女は記憶を取り戻してしまったのか
あれほどに血を幾度も交わしたのに
あれほどに魅了し縛り付けておいたのに
今度こそ
全てを忘れるほどに、血を交えねば――
毀れる心理が
永遠を生きる純血たる城主の孤独と絶望の深い闇が
甘美な甘さを伴い、目前の青年へと流れ込む。
ヘクターが見た片鱗よりも、濃密に
伝えるのは
この世の果てにある光景]
|
― 書庫 ―
[俯く女の肩が震える]
――…私は間違ってしまった。 如何して貴女たちの事を忘れていたのかしら。 覚えていれば……若しかしたら……
[過ぎた時を戻す術などないのに 紡いでしまうのは悔恨からか]
嗚呼、でも……… 覚えていても帰れないの。 帰れなかったの。 あのひとを、独りになんて出来ないから……
[ごめんなさい、と繰り返される謝罪の言葉]
(18) 2010/06/24(Thu) 23時半頃
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――旦那様、
そちらの方のご友人達が……
「お友達に会いたい」
と、そのように仰っていられるのですが、
如何なさいましょう?
名を……
呼んではいけなかった……?
[闇の帳が下りる白薔薇の庭園でその名を教えられながらも
この城に来てからは呼ぶことの無かった名を紡いだ女は
城の主に微かな聲で問う]
――…嗚呼、件の二人か
構わぬぞ?
あれは黒薔薇が部屋へ連れて行った。
[未だ目覚めの聲は聞こえて居ない]
……お前は、最早私の手を離れたのだな。
[妹として傍に置いた娘が
己の名を呼び、対等に聞こえる位置から問いかけてくる。
其れがどういうことなのか
終末を感じ、聲を投げた]
好きに呼ぶが良い。
お前を咎めるものは、最早此処には居らぬ。
――…私のローズ、とは
もう呼んでは呉れないの?
[妹であった頃よりも柔らかな聲で城主に問う]
嗚呼……、尋ねてばかりね。
子供みたいだと呆れられてしまうかしら。
[別段対等を望んだわけではなく
ただ名を呼びたかっただけ]
貴方はこれまでも咎めなどしなかったじゃない。
|
― 書庫 ―
[ふと気配を感じた。 紛う事なき城主の気配にゆるく扉を振り返る。 影を下がらせただけで開け放たれたままの扉。 その向こうには城主の後ろ背――]
ヴェスパタイン…… 逢いに来て呉れたの……?
[緩く首を傾ぐ。 これまでと違っていたのは城主への呼び方]
(40) 2010/06/25(Fri) 00時半頃
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お前は、ローズマリー
私のローズは、もう居らぬ。
[低く冷たく突き放す]
……そうか?
嗚呼……そうだったかもしれぬ。
咎めるようなことなど、しなかっただろう
ただ一度を除いて。
[薔薇は2人のこえを聞きながら]
[あらたな眷属の気配に、そっと囁く]
おはようございます。
ご気分は如何?
[耳元を羽でくすぐるような囁く]
ああ、あなたのお友達が
あなたのことを心配なさって、
お部屋へと向かわれたことか、と。
――――喉は 渇いては おられませんか?
|
― 書庫 ―
[アメジストを思わせる銀糸に女は微かに目を細めた]
――…そう。
[僅かに気落ちするような声で呟き 影が少女へと這い寄るのに気づけば 花の髪飾りの一つを手に取り握り締めた]
でも、本当にそれだけ……? それだけなら…… 何時もなら態々足を運んだりしないでしょう? ロビンを呼ぶか……影だけに片付けさせるのに……
[冷たい声が怖いとは思わない。 ただ寂しくて哀しい。 やはり思い出してはいけなかったのだろうか。 涙に濡れた女の表情がまた翳る]
(47) 2010/06/25(Fri) 00時半頃
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[傍にいるわけでもないのに聞こえた囁きにはっとする。]
……僕は……
[今の気分など……こんな気持ちをなんと言い表せば良いのだろう。]
――…私は、もう必要ないの?
[十二年の記憶も確かにあるというのに
居ないといわれた女は途惑う]
お兄様、と呼ぶべきだったの……?
ずっと、思い出さずにいるべきだったの…?
[縋るような聲が城主に向けられる
ただ一度を除いて、その言葉の意味が分からず
女は柳眉を寄せた]
お前に紡いだ夢は消えたのだろう?
思い出したのならば何処へなりと
お前の望む場所へ行けばいい。
日の下に出ることは叶わぬが
もうお前を縛るものは何も無い
[柳眉を寄せるローズマリーの姿が目前にありながら
城主は彼女を見ようとしない]
――…嗚呼、目覚めたのか……ベネット?
[新たな聲。彼に対する白薔薇の語りかけに薄く笑みを零した]
2人が、ここへ……?
[起きたばかりで混乱していたのと、強烈な喉の痛みでいままで気がつかずに居られたのに、指摘されて気がついた喉の渇きが襲ってくる]
……っ。
[今は、不味い。2人を、部屋に入れないようにしなくては――]
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――…最後?
[ことりと女の首が傾がれる。 信じられない。 信じたくはない、と翡翠の眸が揺れた]
如何して此方を見て呉れないの? 如何して……如何して…… 傍に居ていいって言って呉れたのに……
[女を襲うのは更なる絶望。 ぎゅっと胸の上で両の手を握り締め 翡翠は城主の姿を見詰め続けた]
(51) 2010/06/25(Fri) 01時頃
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夢は消えていないの。
お兄様と呼んだことも
此処で暮らした日々も覚えているのに。
失くしてなどないのに……。
私が望んでいるのは貴方の傍なのに。
他の場所など望んでないのに。
[震える頼りない聲が城主へと向けられ]
――ええ、お二人も。
よろしかったですね、
どちらから先にいただかれるのです?
ああ、殺してしまうのがお嫌でしたら、
すこしだけいただけばよろしいのですよ。
――ご友人なのでしょう?
きっと喜んでご提供くださいますでしょう。
もっとも、加減を損なうと――
命までいただいてしまうことになるやも、しれませんが。
[白薔薇の囁きは渇望を煽るように、
ねっとりとその耳元に、響く]
……可笑しな事を言う。
ローズマリー
[溜息と共に囁きが落ちる]
縛り付けられる生活に未練があるのか
未だ私の傍を望むのは
此処ならば途切れぬ贄が届くからか?
ならば今まで通り宴を開くが良い
お前を城主とし、この城を任せてやっても……
|
― 書庫 ―
[美しいひと。 初めて出逢った時と同じ事を思った。 城主から滲む虚無をさびしいとも思う。
魅せられたのは何時からか。 そんな事を考えていれば亜麻色の髪がさらと揺れた]
私にとっては大事なこと、なのに。
[僅かに拗ねるような音色]
哀しいと思ったことはあるけれど 憎いと思ったことは一度もないわ。 ――…憎まれているのは私の方だと思ってた。
(59) 2010/06/25(Fri) 01時頃
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いた、だく……?
[ぎり、と唇を噛む。少しだけいただけばいいと、その言葉が余計に渇きを酷くする。けど、加減の仕方なんて分からない。忘れようとしても白の薔薇の言葉はどろりと耳に絡みついたように耳に残っていて]
……嫌だ、血なんて飲むもんか……!
あの二人は咬みたくない……!
[確かに城主の甘い囁きは女を縛っていた。
けれど女はふるふると首を振るい]
縛り付けられる生活だなんて思ってなかった。
贄が欲しくて傍にいたいんじゃない。
違う、違うの……。
ヴェスパタイン、貴方が居るから……
貴方と一緒に、居たいだけ、なのに……
[如何すれば伝わるだろう。
頑なな心に向き合う聲には切なるものが混じり]
[咬みたくないと頑なに拒む新たな眷族の聲
其れを心地良いと感じる事で幾らかの余裕が生まれる]
失った記憶を取り戻してなお
私の傍に居たいとは酔狂な事だ。
其れが望みなら
傍らで咲き続けるが良い
――…白の薔薇と共に
[切なる聲に、城主は顔を歪めそう告げた]
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[憎まれていた訳ではないと知れば過る安堵。 歪む城主の表情を認めれば女はゆらと立ち上がり ゆっくりと、僅かに覚束ぬ足取りで彼に歩み寄り]
貴方が時間を与えてくれようとしたのに 怯えて拒んで……貴方を傷付けて…… ごめんなさい……
[白く儚い手が、城主の頬へと伸ばされる]
私も貴方の傍が心地好かった。 傍に居てくれる事が、嬉しかった。
(69) 2010/06/25(Fri) 01時半頃
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あの2人 は?
―――ならば、誰ならよろしいの?
[くすりくすり と それは哂う]
好きだから傍にいたいの
[女が城主に抱くのは恋心ではなく
それよりも深い情愛。
仮令それが伝わらずとも――]
愛しているわ
[漸く口に出来た言葉に
女は綻ぶような笑みを城主に向けた]
……あ、
[「誰なら」そうだ。誰なら良いというんだ?自分はあの二人以外ならどうでもいいと、そう考えていた……?先ほどまで思っていたことに愕然とする。]
……それ、は……
[誰も咬みたくなければこの渇きに絶えながら餓死でもするか、或いは殺されるかするしかない――]
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