17 吸血鬼の城
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[血を与えるのは女にとって初めてのこと。
兄と同じように、と。
兄の行為を思い出しながら牙を突きたてた。
サイラスの身に纏わる薬の気配を感じながら
女は血の甘さに酔う]
く……ッ
[それは、めくるめく一瞬だった。
淫らに表情を人前で緩めるなど、以前のその男には考えられぬことで……。
襲い掛かるのは、羞恥と人でなくなったという絶望。だけど、それよりも、痺れた脳髄は、]
渇いた……。
[そう、すぐに求め始めるのは、赤い、血液……。]
――…ふ。
[目の前の男の聲に思わず笑みが漏れる]
うまくいったのは良いのだけれど
ちょっと効き過ぎてしまっているかしら。
[白薔薇へと紅い双眸が向かうのを認め
困ったように首を傾いだ]
[何年ぶりだろう、
聲が増えた]
目覚めた……か
[離れた場所の同胞に、
満足そうな声音を向ける]
ぐぅ……
[頭に声が響くことにも慣れておらず、
また頭を振る。
そして、それが城主の声だとわかると、肩で息をしながらも、思案をし…やがて…]
――……渇く……
[搾り出すはやはり本能の呟き。]
く……くく
[加減もせずに力を注いだのだろう。
吸血の本能に襲われているらしい薬屋の聲
城主は事も無げに言ってみせる]
渇くなら、満たせばいい。
血が
欲しいのだろう?
[一時ならワインで誤魔化す事も出来るだろうが
其れを教える心算は、己には無い]
この城に招いた人間はまだ幾らも居る。
其処の従者は、お前の従者でもあるのだ
好きに使うが良い。
――………。
[ツキン、と。
また胸が痛む。
柳眉を寄せてふるりと小さく首を振るった]
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─客室─
[兄の遺体から離れ、仮初の静謐が支配する客間の一室。 喧騒が届くのも未だ、物言わぬ影の用意したらしい紅茶を口にしながら、ぼんやりと古びたペンを手元で弄んでおりました。]
………、っふ…。
[ペンを見れば、思い起こされるのは遠い思い出。 軽やかな銀の羽根と交換に兄が手にした古びたペンは、ところどころ柄の塗りが剥げるほど
──兄が常に、身につけていたものでした。]
(34) 2010/06/22(Tue) 00時頃
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……。
[はたり。 流れ落ちるものを拭うことなく、思い起こすのは翡翠の瞳、兄の最後の姿、天上の青、案ずるように掛けられた薬屋の青年の声。>>2:223
どれほどの時、そうしていたでしょう。 やがて顔を上げ、流れ落ちたものを丁寧に拭き取りました。 そうして真紅のドレスの胸元に、似つかわしくない男物のペンを差したのです。]
(35) 2010/06/22(Tue) 00時頃
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泣くのは──、これが最後。
……見守っていてね、お兄さま。
[きゅ。と、ペンを右の手でロザリオのように握ります。 そうして瞳に強い色を浮かべて、仮の自室を後にしました。]
(36) 2010/06/22(Tue) 00時頃
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――……従者、
ああ、従者ならば、
良い?
[吸血本能に理性を失っている今、
制止がなければ、手は白薔薇を摘み取ろうと動き始める。]
――お兄様が良いと仰られるなら
私はただ、其れを受け入れるのみ。
[女は俯き小さく聲を響かせた]
サイラス。
[人であるときの名を呼び、男を止める]
……血の吸い方は、知っているか?
間違えるな
あれは、未だ殺してはならん。
[かかる城主の声には、微かに反応する。]
殺しては……いけ ない
[ぼんやりと虚ろにそれは理解しただろう。]
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─廊下─
[廊下に歩み出ますと、ざわざわと落ち着かぬ人の声が響いています。 時折聞こえてくる大きな声、あれは怒声でしょうか。>>29
迷い、歩みが変えぬままに廊下を進んだのです。 その先に、幾人かの気配がざわめいています。]
…マーゴットさまですの?
[黒髪の少女の背に声をかけます。 漆黒のドレスは変わらぬまま、けれどヴェールは白い顔を覆ってはいないようでありました。]
(45) 2010/06/22(Tue) 00時頃
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そう、殺すな。
……アレの血を吸っても構わぬが
殺してはならぬ。
[幾度となく我等に血を捧げてきた
白薔薇ならば構わないと城主は告げ
けれど、殺すまでは吸うなと念を押した]
――…私のローズ
お前が嫌だと言うならば
私は其れを止める事もする。
お前の望みは、何処にある?
花売り メアリーは、小悪党 ドナルドの姿を壁際に認めて一度瞬く。
2010/06/22(Tue) 00時半頃
――…お兄様。
[城主の聲に頼りない聲が返される]
私、は………
[望みを問われ心の軋む音。
聲無く頭を振りうずくまる]
私のローズ……お前は何も我慢する必要は無い。
お前の望むままに
あれはお前が作った眷族だろう?
[彼女の心の内を知ってか知らずか。
心もとない聲へ、城主は優しく語り掛ける。
まるでひとの兄妹を錯覚させるような]
|
─廊下─
[バタバタと駆け去る音が聞こえます。 そうして、それを見送る幾人かの姿もまた。]
マーゴットさま。 ああ…。
[彼女の表情に、先程の出来事が知られていたのだと知るのです。 はしばみ色の瞳を伏せ、胸元のペンを一度指で触れました。>>54]
──…お気遣い、感謝致しますわ。
[けれどもそれ以上感情を乱すことはせず、まっすぐに黒い瞳を見つめて、僅かに哀しく微笑みました。 そうして、その場の見慣れぬ面々へも視線を巡らせたのです。]
(63) 2010/06/22(Tue) 00時半頃
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[血を飲み込めば、渇きは満たされるだろう。
代わりに戻ってくるのは、
人としての理性。
眸の色は、青色に戻って……]
我慢、なんて………
[滲む聲は兄の言葉を否定出来なかった。
けれど如何して良いのか分からずに
ただ途方にくれてしまう]
お兄様……
私は此処に居ても良いのでしょうか。
[優しい兄の聲に縋るように甘く頼りない囁き。
女は居場所を無くしてしまうのが怖かった]
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ごきげんよう。
…お加減でも優れませんの?
[壁に凭れるように座り込むドナルドの様子に、僅かに小首を傾ぎます。>>47 どこか痛みを堪えるようにも見えたのは、光の齎す錯覚でしょうか。
細い眉根を寄せ、片手をひらりと上げる隻眼の男性の顔を少し覗いたのです。]
(69) 2010/06/22(Tue) 01時頃
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私のローズ
お前が此処以外に何処へ行くのだ?
[可笑しな事を言う
そんな風に笑い]
……お前は、わたしのもの。
そうだろう?
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─廊下─
……。マーゴットさま。貴女にも。
[祈りの声に、小さく膝を折って礼を返します。 痛々しいほどに儚げな白い顔に、毒の痕跡はありません。
けれども、尚もその唇と爪の先に散った鮮やかなまでの薄紫色が、奇妙に目を引くのです。
──平穏を祈る言葉は、胸の中にもうひとつ。 祈りを呟くように、胸元のペンを握り締めたのです。 今は何処にあるかも分からぬ、翡翠の君に。]
(82) 2010/06/22(Tue) 01時頃
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――…嗚呼。
そうね……、私は此処以外の場所を知らない。
お兄様の傍以外では生きられない。
[ゆるく目を伏せる。
言い聞かせるように繰り返される言葉]
私はお兄様のもの。
そうよね……、お兄様。
[聲には未だ覇気がなく頼りなさばかりが目立つ]
|
お風邪…ですの?
[ドナルドの言葉に、ことりと小さく首を傾げます。>>79 冗談のように軽い口調、けれども真実息苦しくはあるようでした。]
あっ…、無理をしては。
[立ち上がる様子に慌てて声をかけかけ、その視線の先につられたように目を遣ります。 廊下の先、ここまで声は届かぬものの、不穏な空気は伝わってくるようでした。]
(87) 2010/06/22(Tue) 01時頃
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そうだ、
お前は私のもの。
そして
新たに生み出した眷属は、おまえのもの。
[力関係を改めて教え込むような淀みない聲
熱を帯びているのは、食事の後ならば致し方ないもの]
憂いを帯びた貌も美しいが
……お前にそのような揺らぎを与えるものは
相応の罰が必要だ。
どうしたい、私のローズ
お前の望みを言ってみろ。
私はお兄様のもの。
[僅かに頷く気配が伝う]
新たな眷属は――…私の………。
[その言葉は最後まで続かずにふるふると首を振るう]
いいえ、全てはお兄様のもの。
私はお兄様が喜んで下さればそれで……
[殊勝な言葉を口にして儚い笑みを湛えた]
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