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奏者 セシル! 今日がお前の命日だ!
お兄様……
気が晴れぬなら……
白く美しい薔薇でも愛でて
お心をお慰めになっては如何でしょう。
[感情の読めぬ聲が城主へと囁かれる]
白薔薇を?
[黒薔薇へ手を伸ばす城主へ
かかる声音
廊下へ出て行った彼はこの場に居らず]
追うのは、億劫だが。
[折角の提案ならば。
向かうべきかと気乗りのしない聲を洩らす]
億劫と仰られるなら無理にとは申しません。
お兄様のお心のままに……
[兄が黒薔薇と戯れるならそれ以上何も言わず。
気乗りせぬ彼の聲に静かに頭を垂れる]
あれが気になるなら
……お前が後を追えば良いだろう?
[聲は幾らかからかう風を持って響く]
――……死ねたのに、
[呟きはけれど、耳の良い者には響いた]
私が………?
[からかうような声音に僅かに首を傾げる]
――…私が行って良いのかしら。
[ぽつと呟く聲は感情を殺したように、薄い]
――……っ
[白薔薇の呟きに女の表情が強張る。
嗚呼、彼も私を置いていくのだろうか。
そんなことを思い翡翠は伏せられた]
[死にたかったのか。
彼のつぶやきには少し、驚いている。
だけど、自分も同じようなことを考えている。]
私のローズ
お前の思うままに、生きるが良い。
[行って良いのかどうか。
その聲を後押しするように、囁きを向ける]
何度も口にするほどあれが気になるのだろう?
お前のしたい事をすれば良い。
それだけの力がお前にはあるのだから。
[従者の呟きは聞こえていても、城主の其の囁きはまだ
ひとの身である彼には届かぬもの]
お兄様……
[城主の聲に伏せた亜麻色の睫毛が震える]
気になるから留めたいと思うのかしら。
嗚呼、私はあのひとを留めておきたいの。
[望むことを口にする。
けれど女にはそれが良いのか悪いのか
そんなことさえ分からない。]
この力はお兄様に与えられたもの。
この力はお兄様の為だけにふるわれるもの。
[自らに言い聞かせるように小さく繰り返す]
どうした、私のローズ
[傍に居ながら、聲を使うのは
彼女の内なる聲を聞かせたくないと
可笑しな心持ちから。
どの道同族には聞こえていると言うのに]
気に留まれば、喰らいたいと思う事もある
留めて置きたいと思う事もある
そう、お前が其の力を得て、此処に居るように。
如何もしないわ、お兄様。
[返事をするまで暫しの間があった。
それは自らに暗示を掛けるための時間]
――…私はお兄様に望まれたから
今、此処に居るのね。
[今はその事実だけで良い。
それ以前の事を兄に問うことはしなかった。]
そう、私がお前を望んだから
お前は永遠に美しいまま、私の傍で咲く事が出来る。
[間をおいた返事に、柔かに笑みを混ぜる。
其れは、崩れていた調子が戻った様子を伝えた]
それなら良いの。
私は――…お兄様を少しでもお慰めできる華でありたい。
[親鳥を慕う雛のように女は兄を心酔する。
兄の笑みを認めれば安堵したようにふ、と微笑を過らせた]
嗚呼
[浮かべた微笑を振り返り、城主は吐息を洩らす]
お前が何時も満ち足りて
美しく咲いている事が
私を慰めてくれるのだ。
其の微笑みを曇らせる事のないように
お前はお前が望むままに、生きると良い。
【人】 小悪党 ドナルド[>>88>>96 (116) 2010/06/23(Wed) 01時半頃 |
【人】 小悪党 ドナルド>>118>>122 (132) 2010/06/23(Wed) 02時頃 |
[これは女が失った過去の記憶の欠片。
女は良家の娘として人として生を受けた。
元来身体が弱く外に出る事も稀だった。
唯一知る外の世界は白薔薇の咲く庭園。
遊びに来てくれた二人の兄妹だけが心の慰め。
医師から二十歳まで生きられぬと宣告されていた。
長く生きられぬと知りながらそれを嘆くことはなかった。
もう少しだけ丈夫であれば、と思ったことはあるけれど
限りある生をひたむきに生きていた。
残る時間があと二年に迫った時――
この城の城主と出会う。
出会いは白薔薇咲く庭園だった。
――美しくも哀しげなひとだと女は思った。]
[無知な女は彼を魔性だと気付かない。
気づいた頃にはすでに手遅れ。
城主は女の命が短い事を知り憐れに思ったのか
時を止める術がある事を明かす。
このままで良いのだと、女は抗った。
神から与えられた命をまっとう出来るだけで良い。
家族や親しいあの兄妹と離れるのは辛いと
――そう、一度は拒絶したのだ。
けれど次に目覚めた時には
抗った記憶も人だった記憶も失っていた。
否、本当は何か大事なものをなくしたのだと
それだけはわかっていたのだけれど
此方を見詰める城主の眸が何処か寂しそうに感じられて
その日から、城主の傍にあることが自分の存在する理由となった]
――…私の望みはお兄様と共にあること。
お兄様がそう仰って下さるなら
私は限りある生を――…
[言い掛けた自身の言葉に、瞬く。
何を言おうとしていたのだろう。
緩く首を振りその言葉を打ち消した。
続けるべき言葉が見つからず女の聲がぴたりと止んだ]
【人】 小悪党 ドナルド>>131 (142) 2010/06/23(Wed) 02時半頃 |
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