17 吸血鬼の城
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―ベネットの部屋―
[首筋を流れる血に、城主の唇が触れる。 思うがままに吐息を漏らすことさえ「今この場」では許されないことを知っている彼は、首を左側に傾け、ゆっくりと伸ばすことくらいしかできなずにいた。
一歩だけ足を進める。無慈悲なダガーを留める金具が、無遠慮にカチャリと音を立てるのを聴き、黒薔薇は微かに眉を顰めた。]
>>92 護衛は必要ございませんか? ……私の役目のひとつと認識しているのですが。
[違う、それは本心ではない。そのことも、彼は知っている。己が城主の生死に拘るのは、ただの執着と渇き故のことでしかないということを。
ベネットがナイフを仕舞うことを見つめながらも咎めなかったのは、そんな思いが頭の中を過ぎっていたからかもしれない**]
(100) 2010/06/24(Thu) 07時半頃
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――…灰に、なる?
[城主の聲に首を傾げてしまうのは
死して灰になった者を知らぬから]
お兄様と同じなら、
それも良いかも知れない。
[想いが知らず聲となり――
けれど紡がれた聲の、その響きに女は微笑む。
嗚呼、まだ居て良いのだと、そんな事を感じながら]
お兄様が行くなと言って呉れるのなら
私は何処にも行かない。
若し、身体が灰になってしまっても、魂はお兄様の傍に。
[白薔薇の呟きにゆるく瞬く]
セシル、貴方は……
私が刺される事を望んでいるの?
それとも……
貴方が私を、刺したいと、そう言っているの?
[――海の泡。
この名の語源を語ってみせたのは誰だっただろう。
ツキ、と女のこめかみには小さな痛み**]
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−ベネットの部屋→合わせ鏡の間>>101−
[城主の影のごとく、黒薔薇は主人の側にピタリとついて歩く。]
先程の件ですが。 あながち猫の躾というのも、間違いではございませんね。私は現に、こうして銀の首輪をつけております。
私が旦那様と同じ眷属にならぬ限り、旦那様の愛玩動物にしかなれますまい。
……いいえ。 それを厭だと申し上げたいのではございません。そういう「事実」もまた、私めにとっては堪らなく愉快なことなのですよ。
厭ならば、城からとっくに逃げ出しておりますし、今頃は森の何処かで死体となっているやもしれません。**
(102) 2010/06/24(Thu) 13時頃
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可愛らしいことを言う。
[ローズマリーの囁きに篭る想い
純粋な魔たる城主には存在しない思慕というもの
向けられるのはこそばゆくもあり、柔かに笑みを返す]
其の美しい髪が
愛らしい貌が
見れぬようになるのは……厭だな。
お前は此処に居れば良い
行く先など、他には無いだろう?
[行くな、と言う言い方をしない。
惑わし、逃げ道を塞いでおく
そんな方法しか、知らぬ故に**]
[ 呟きは無意識のもの
聞かれていたことに、それは目を眇める]
まさか、そのようなこと。
……ただ、童話を一つ思い出しただけです。
[儚い人魚の――人ならざる者の御伽噺]
お嬢様を刺して、
私が「戻る」ようなこと、あっても困りますでしょう?
[童話の道理は現実にはない、
からかうように囁いた]
[城主の言葉に女の貌が綻ぶ]
愛しいお兄様――…
私は此処に居ります。
お兄様のいらっしゃるこの城が私の在るべき処。
――…若し、他に行く先が在ろうとも
私はお兄様の傍に……
[逃げ道を塞がずとももう逃げる気などないのに。
傍に居たい、それは本心であるのに。
伝わらぬもどかしさを感じながらも
女はそれを伝えようと言葉を重ねた]
[白薔薇の言う童話の一つを女は知っている。
此処で童話を読んだ記憶もないのに
話の内容はおぼろに残っていた]
――…戻れるか如何か試してみる?
けれどそれなら……
お姫様が貴方で、私が王子様かしら。
[困るとも困らないとも言わず小さく笑う。
胸を深く刺されれば簡単に死ねるだろうか。
それでも今は――置いて逝く心算はないのだけれど]
[白薔薇が声、それに感情は伺えない]
試しても、よろしいのですか?
[人たる身であれば、
冗談でも言わぬだろうことを紡ぐ。
ぬくもりを失った心に残る感情は、負たるものばかり]
――ああ、でもそうでした、
それでは役割が逆でございますね。
正しき役割であらば――私は既に刺された身、でしょうか?
[やわりと微笑う音は途切れる]
――…………。
[良いとも悪いとも言わなかった。
ただ長い沈黙だけが落ちる]
嗚呼……
[柔かな女の甘い囁き
其れが偽りだと、己が人としての生を奪った結果だと
知っているのに、空虚な胸がひととき塞がる心地]
愛しいローズ
お前はお前の望むとおりに、あれば良い
[けれど其の口で泡と消えると言う
彼女にかける言葉は
傍に居て欲しいと願うものではなくなっていた]
[書庫に置かれた幾つかの手記
城主が知らぬものなど、無い
あれを燃やし、灰としなかったのは
何故か
何時か記憶が戻り
この手をすり抜けて逝く事を
諦めていたのか
其れとも、其の上でまだ此処へ残ると
可憐な口元から紡ぎだされるのを、望んだのか
今になっては動機も遠く霞む**]
正しき道筋ならば――…
王子様は刺されはしないわ。
別の娘と幸せに暮らしました、でしょう?
[やがて白薔薇の眷属に
御伽噺の結末を語る聲には少しだけ懐かしむ音]
私の望みはお兄様と共にある事――…
[城主の言葉に返す聲には揺らがぬ音色**]
そう、では其の望みを叶えよう。
……永久に私の傍らに……
愛しい、私のローズ
[意思の篭った風に響く聲
城主は満足気に囁き返す**]
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−廊下→合わせ鏡の間 >>103>>104−
「おいていく」…… ええ。私めはヒトの身にございます。いずれ朽ちて果てる定めにあるもの。墓も作られずに捨て置かれ、ただ風化してゆくのが、私の「死」には似合いでしょう。
私だけ「救われたい」とは、思いません。 旦那様の生命の永さからすれば、それは愚かしいものに見えるのやもしれません。ですが、私はそれで構いません。
[それは、己が他の人間に齎した「死」の形と同じもの。マフィアの世界で、破壊と暴力を担って生きてきた彼の。]
ええ。もし私が死ぬ時は、どうか旦那様の血肉にして戴きたく思います。それは、私にとって揺るがぬ真理です。
[鏡の世界で、従者はそればかりに思いを馳せる。 城主の孤独には漠然とした想像しか思い描けず……城主が己に「置いていく」と告げたことも、まして同僚が自身を「ガラスの囲いに咲く薔薇」と言ったことなど、ヒトの身故に気づかぬままだった**]
(153) 2010/06/24(Thu) 18時半頃
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執事見習い ロビンは、本屋 ベネットに話の続きを促した。
2010/06/24(Thu) 21時頃
お兄様――…
あのこが、呼ぶの。
あのこの呼び声が、聞こえたの……
[今はもう其れも届かなくなり
感じるのは血の気配と死の匂い。
気が焦るばかりで上手く情報を集められない。
こめかみが酷く痛みを訴えていた]
――…私のローズ
[揺らぐ気配
僅かに眉根を寄せる]
其の娘は
取るに足らぬただの人の子だ。
お前とは別の存在だろう?
[言い聞かせるように囁きを送る]
白薔薇が食事を終えただけのこと。
片付けは影が間も無く。
……何が呼ぶと言うのだ。
別の、存在……
私とは違う世界の、こ……
分かってる
分かってるのに……
[行かなくてはいけないのだと
無くしたはずの記憶の欠片が告げている]
――……っ!
食事を、終えた……?
白薔薇が…、あのこを……?
[兄の囁く事実に目の前が白むような感覚]
わかっているのに――…
なお、行こうと言うのか
[重い呟き]
………………――――好きにするが良い。
[やがて間を置いて
突き放すような一言が返った]
ひとつ
先に言っておこう
……其れの墓を作ることは、まかりならん。
わかっていような?
[書庫の様子に、城主は何時に無く厳しい聲を向ける。
彼女の揺らぎのもとを
特別に扱う事は絶対に、避けねばならなかった]
――…ぅ、……くっ
[酷い頭痛が女を苛む。
城主の聲が、何処か遠く聞こえた]
私のローズ
お前が誰のものか……言えるだろう?
[僅かな嗚咽。
城主はうって変わって、穏やかな聲を響かせる]
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[素人のナイフというものは、一見あしらいやすいようでいて、実はそうでもない。彼らの火事場のクソ力もさることながら、視線と刃の位置が決して一致するとは限らない恐ろしさがあるのだ。]
[使えるのはおそらくダガー1本。 左手を己の背後に回し、ダガーの柄を握った。]
(184) 2010/06/24(Thu) 22時頃
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――…お兄様、の……
[穏やかな城主の聲に返す聲は何処か虚ろで]
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[ベネットが振るったナイフは、力が込められていたせいか、刃の上で不規則に弾けた。
2本目の剣を抜き、そのまま力で壁際に追い詰めた。]
(186) 2010/06/24(Thu) 22時半頃
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愛しい私のローズ……
そう、お前は私のもの。
[閨で情人にかけるような囁き。
彼女のひととしての嘆きを拭い
魔へと――己へと繋ぎとめる為の]
其処にあるのは、遠い夢。
……早く此方へ、戻ってくるのだ。
今其れを影に片付けさせよう。
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