17 吸血鬼の城
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嗚呼……確かに、其の通りだ。
血を与えすぎたか?
欲に忠実に向かった先が白薔薇とは――…
[漸く紡ぎだした、恐らくは彼女の本心を聞き
城主は同意を向ける]
それでは、薬屋への仕置きは私が。
お前にはもう一度機会をやろう。
分け与える血の量は、違えぬようにな。
そう、其の2人の娘に変わり果てた姿を晒すが良い。
[サイラスへ、冷たい声音が降り注ぐ]
ただし
どれほど渇き、疼こうとも
其の二人の血は吸わせぬ。
私のローズを、軽んじた罰だ。
[反動が何処へ飛び火するか、其れもまた見物。
内心で思いながら、新たな同族に告げた]
[繰り返される事実に拗ねるような気配。
けれど目の前に甘えられる相手などいない。
小さく唸り唇を尖らせた]
――…血を与えすぎたなら私の不手際。
けれど私がお兄様に与えられた量よりも
うんと少なかったのに……
[新たな眷属から牙が向けられようと
兄も自分も害されはしない。
内に宿る力の違いは感じ取っている]
ありがとう、お兄様。
今度は間違いが起こらぬように致します。
[閉じた眸、だが、城主の声は響く。
それには、まだ青色の眼だったせいか頷いた。]
――……わかりました。
彼女らにそれであることを見せ、
されど、手出しはしません。
[それがどれほどの苦しみか、今は考えず、
深い眠りに入る。]
吸血の欲は、思ったよりも強いもの。
与えすぎては其れまでの全てが消え去ってしまう。
心せよ。
[ローズマリーへ向ける城主の言葉には、彼女が記憶をなくした理由がある
幾度も与え続ける事でより
闇の住人へと変わってゆくはずだった。
それでも、人のこころ、感情と言うものは
中々消え去るものではないようだが]
――…あの詩人は、しかし 惜しかったな
[喰らった後で、そう呟く]
どうせなら、無理矢理に血を与えてやればよかったか。
抗われてつい我を忘れた――…私もまだ、青い
――…良い子だ。
[城主に従う彼の言葉
思わず笑みが毀れる。
其の先にある彼女たちの、彼自身の
苦しみを思って]
[静々と兄に了承の意を告げる。
自分の時は如何だったのだろう。
一瞬過る疑問に眉を顰めた。
知らない。
分からないままでいい。
思い出してはいけない。
何処かで声がする。
けれどもう一人の自分が思い出してと叫んでいる]
――…残念、でしたね。
[詩人に想い馳せる兄に対してそう呟くのは
兄が詩人に少なからず興味を抱いて居ることを知っていたから]
嗚呼……本当に、残念だ。
生まれ変わる時の、絶望の産声が聞きたかった。
[心底惜しいと呟く。
彼女の心のうちで叫ぶ声までは、聞こえない]
だが
まだ人間は幾らも居る。
……次の余興を考えるのもまた、愉しいものだ。
絶望の産声………
[単純な思考の女には兄の高尚な趣向はよく分からず]
全てが全て絶望するのかしら。
[ぽつ、と零されるのはこれから眷属に迎えようと
思う者に対しての思案。
自分もまた絶望したのだろうかという不安。
そんなことはない、と否定の言葉を欲し問う]
この享楽の宴はお兄様のためのもの。
お兄様が愉しめることを私は望みます。
――……、……。
[兄の深い孤独を想えばツキンと胸が痛む。
埋まらぬ孤独に想いを馳せ女は緩く目蓋を閉じた]
……あの詩人は、頑なに快楽を拒んでいたからな。
[全てが全てかと言うのには
そうではないだろうと否定の言葉を送る。
ただ、其れまでに幾らかの間があった]
私は充分、愉しんでいる。
お前も――…お前は……愉しめているか?
[虚無が襲う。
食あたりかと笑い飛ばすには、少し重い]
――…そう。
[兄の返事に思わず安堵が漏れた。
彼の置いた間に気づく余裕さえなく]
………、……。
[問い掛けに短くはない間が生じる]
愉しみたいのに……
お兄様から離れていると虚しさばかり……
[魔性となった自分を受け入れてくれるのはこの兄だけ。
そんな思いから呟かれた聲は微かな音色]
可愛いことを言う。
この狭い城のなか、離れている距離が寂しいか。
[柔かな声音で囁く]
――…私を求めるなら、名を呼ぶが良い。
何時でも傍に向かおう**
――…お兄様の姿が見えないと寂しいわ。
気配を感じてはいても触れられないのが寂しい。
[女が求めるのは確かな存在。
夢や幻で満たされる事は無く。
続く囁きに灯るのは喜び]
お兄様……。
[感謝の気持ちをのせ小さく囁いた]
[決して自分はいい人間ではない。
それでも、薬師を選んだ理由を考えた。
そう、それは、今は眩しくてみれない。
純粋な心。
だけど、それは、魔の血によって塗り潰されていく。
いや、とっくになかったのかもしれない。
毒を処方する薬師になった瞬間に。]
――…嗚呼、聞こえている
愛しい 私のローズ
[小さな囁きも、全て
霧の包む城の中ならば城主の耳に届く。
娘の慟哭を後ろに
霧が留まるのは白薔薇の香に包まれた広間]
あの蒼天は、確かに
手にして留めておきたいものだが
元は人であるからか
執着の強いことだ
[呟く二人へ向けた声音は、微かな嘲笑を含む。
姿は今だ表さぬまま、気配を暫く残していた*]
愛しいお兄様……。
[城主の聲に返すのは何時もと同じ言葉。
蒼空と紡がれれば思考は其方に向かう]
留めておきたい。けれど彼は逃げなかった。
[これからも逃げずにいてくれるだろうかという期待と
離れていってしまうかもしれないという不安が交錯する]
………これが、執着?
[全ては執着ゆえのことだろうか。
兄が言うならそうなのかもしれない。
女から反論の聲はあがらなかった]
[新たな眷属の立てた音が鼓膜を震わす。
す、と細まる眸は僅かに愉しげな色を湛え]
――…サイラス。
お兄様の命をしかと成し遂げて
お兄様が喜んで下さるように――…
[囀る聲には常と同じ甘い響き]
[迷いを許さないといったローズマリーの声が
嬉しげに響く。]
そう、其れは執着。
[想いの無い吸血鬼には
彼女の心情は真に理解出来るものでなく]
愛しいだろう
傍に置きたいのだろう
お前達の望むままに――愉しむといい
――さあ
本性を隠す必要は無い
曝け出し、欲望のままに踊れ。
嗚呼
けれど、サイラス
お前は暫くひとを喰らうな。
あれの血を、蒼天を一時でも味わったのだからな
[新たに迎え入れた眷属の小さな返事]
――…そう。
いいこね、サイラス。
[愉悦の滲む聲には
くすくすと愉しげな音が混じった]
[心酔する城主の言葉に異論を唱えることはない。
生ずる感情の名さえ女には思い出せていないのだから]
愛しい……
[兄の言葉を繰り返せばまたツキンと痛みがはしる]
――…嗚呼。
[切ない吐息を聲にのせ女は心を揺らす]
[渇きに、また苦しそうな息遣いになった。]
――……ッ
[しかし、城主の、食らうな、の命に唇は震える。
そして、震えてなお、小さく小さく、やはり、はい、と返事をした。]
[一人、部屋に残り、息をつく。]
[渇きを癒したくて、水差しから水を注いで飲み干すけれど]
[もちろん、そんな渇きではないのだから、効果はない。]
どうした、サイラス……?
[城主は薄く哂う]
力が足りぬと言うのなら
我が身に流れる純血を――ひとたび分けてやらなくも無いが。
[お前は暫くひとを喰らうな。
その禁忌が、頭の中で繰り返されている。]
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