17 吸血鬼の城
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愛しいお兄様……。
[城主の聲に返すのは何時もと同じ言葉。
蒼空と紡がれれば思考は其方に向かう]
留めておきたい。けれど彼は逃げなかった。
[これからも逃げずにいてくれるだろうかという期待と
離れていってしまうかもしれないという不安が交錯する]
………これが、執着?
[全ては執着ゆえのことだろうか。
兄が言うならそうなのかもしれない。
女から反論の聲はあがらなかった]
[新たな眷属の立てた音が鼓膜を震わす。
す、と細まる眸は僅かに愉しげな色を湛え]
――…サイラス。
お兄様の命をしかと成し遂げて
お兄様が喜んで下さるように――…
[囀る聲には常と同じ甘い響き]
[迷いを許さないといったローズマリーの声が
嬉しげに響く。]
そう、其れは執着。
[想いの無い吸血鬼には
彼女の心情は真に理解出来るものでなく]
愛しいだろう
傍に置きたいのだろう
お前達の望むままに――愉しむといい
――さあ
本性を隠す必要は無い
曝け出し、欲望のままに踊れ。
嗚呼
けれど、サイラス
お前は暫くひとを喰らうな。
あれの血を、蒼天を一時でも味わったのだからな
[新たに迎え入れた眷属の小さな返事]
――…そう。
いいこね、サイラス。
[愉悦の滲む聲には
くすくすと愉しげな音が混じった]
[心酔する城主の言葉に異論を唱えることはない。
生ずる感情の名さえ女には思い出せていないのだから]
愛しい……
[兄の言葉を繰り返せばまたツキンと痛みがはしる]
――…嗚呼。
[切ない吐息を聲にのせ女は心を揺らす]
[渇きに、また苦しそうな息遣いになった。]
――……ッ
[しかし、城主の、食らうな、の命に唇は震える。
そして、震えてなお、小さく小さく、やはり、はい、と返事をした。]
[一人、部屋に残り、息をつく。]
[渇きを癒したくて、水差しから水を注いで飲み干すけれど]
[もちろん、そんな渇きではないのだから、効果はない。]
どうした、サイラス……?
[城主は薄く哂う]
力が足りぬと言うのなら
我が身に流れる純血を――ひとたび分けてやらなくも無いが。
[お前は暫くひとを喰らうな。
その禁忌が、頭の中で繰り返されている。]
|
――客室――
[>>213獲物を握り締め、部屋を去る男を見送るのは、部屋の隅に控える影の召使のみ。
眠りの園に安らぐ少女にヘクターの決意を知る術はなく。 あどけない寝顔に向けられた言葉をついに聞くこともなかった]
(332) 2010/06/22(Tue) 22時頃
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――…お兄様はお優しい。
[遠く囀る聲に他意はなく
ただ女の思った儘が紡がれている]
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[少女は幸せな眠りから解き放たれて。ふわ、と小さく欠伸をして、まだ眠たげな瞼を擦りながらベッドを抜け出た]
……ヘクター、……起きてる?
[遠慮がちに声を掛けながら、隣室の扉を開けるが ベッドは既にもぬけの空で、部屋には人の気配はない] ヘクター……。いないの? どうしたんだろ、一人で探索に行っちゃったのかなぁ……。
……起こしてくれれば良かったのに、って……ん?
(335) 2010/06/22(Tue) 22時頃
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[じくりと左腕を何かが通り過ぎる感覚がした。 おそるおそる視線を遣れば、左手の甲に薄らと色づく紋様が浮かんでいた]
これって、魔物の気配を知らせてるってことだよね……?
[ヘクターの言葉を思い出し、黒い瞳が不安に揺れた。 ときり、ときりと心臓が高鳴り、嫌な予感が胸をぎゅうと締め付ける]
ヘクター! いないの? ……返事してよ!!
(336) 2010/06/22(Tue) 22時頃
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――…喰らってしまいなさい。
咽喉が渇いて仕方ないのでしょう?
血が、欲しいのでしょう?
お兄様に刃向かう者には死を――…
当然の事でしょう……?
[新たな眷属となった男に甘く囁き誘う]
[聴こえてくるローズマリーの声に、ぼんやり
ああ、いいのか、と思う。思った。]
[ヘクターの目的を聞き、
ローズマリーの囁きを受け、城主もまた許可を下す]
……其の男を、喰らえ。
二度と其の槍持てぬように
――…問題ありませんよね、お兄様?
[緩く首を傾げ問う仕草。
女はこの城主のために在り
女はこの城主のために動くのが当然と思っている。
兄の聲に微かな安堵を過らせ]
手が足りぬ時は私もお使い下さい。
私は、お兄様のために在るのですから……。
嗚呼、問題無い。
……愛しいローズ
狼藉者を相手にさせたくは無いが……
滅多に見れぬ見世物かもしれぬ。
……来るか?
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[もしかして、ヘクターはドナルドやサイラスの部屋を訪れているのだろうか。一刻も早く魔物の気配を知らせなければいけないのに、行方が分からないなんて――]
(どうしよう――、どうすれば良い?――……)
[焦りの表情を浮かべながら、室内をぐるぐると歩きまわり。
もしかしたら――と思いついて、 部屋の暗がり、影の吹き溜まる場所に声をかける]
あのさ……。 ヘクターのいるところ、分かる? 分かるなら、すぐに案内して。
[尋ねる声に応えて、影が動き出した。 少女はその後をもどかしげに追って部屋を出た]
――客室→ ――
(351) 2010/06/22(Tue) 22時半頃
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靴磨き トニーは、メモを貼った。
2010/06/22(Tue) 22時半頃
――…良かった。
滅多に見れぬ見世物……?
それは、愉しそうね。
お兄様が呼んで下さるのなら
私は何処にでも参りましょう。
おいで、私のローズ。
……白薔薇が少し、心散らされている。
[心を持たぬ城主には
彼を静める術が無い。
音も無く傍らに現れたローズマリーへ
城主は僅かに眉を寄せた微笑みを向けた]
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[長い廊下を少女は、懸命に走る]
ヘクター! どこ! ……どこにいるの? 返事してよ!! ねぇ!
[自分が気付く位だ、とっくにヘクターは魔物の気配に気付いているだろう。 荒事に向かない自分が駆けつけたところで、役に立たないどころか足手まといになりかねない]
(372) 2010/06/22(Tue) 22時半頃
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[そんなことは分かっているけれど]
(――ヘクターは私を怖いものから守ってくれる。 傍に居て、優しくしてくれるから。信じさせてくれるから)
[だから、少女は懸命に彼の背中を追うのだ]
何? 今の――?
[遠くで破滅的な音が聞こえ、そして左腕の紋様が燃えるように熱を持つ]
―― →サイラスの部屋の前 ――
(378) 2010/06/22(Tue) 23時頃
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――…そう。
困ったものね……。
お兄様と私以外に、心乱されるなんて……
[サイラスを見ていた翡翠が城主へと向けられる。
見上げた眸には城主の貌だけが映り込んだ]
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ヘクタァァーーーーーーーッッ!!
[目の前に誰が立ち塞がるならば、突き飛ばしてでも先へ進み、サイラスの部屋に飛び込もうと]
(388) 2010/06/22(Tue) 23時頃
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