194 花籠遊里
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[「聞いちゃダメなことだったかな。」>>109 そういわれた時、口を噤めばよかったと何度思ったか知れません。 僕の言葉に、同じく間を置く「夢」の一文字>>110
傷付いておられるのでしょう。 とても判りやすい御方です。 寄り添いたいと願っているのでしょう。 淡藤揺らす、彼の『花』と。
だからこそ、紡がなくてはならない言の葉でありました。 言い聞かせるように、落ちる言葉は 一体誰を、言い聞かせるためのものだったのでしょうか。]
ごめん、な さい。
[謝罪が零れ落ちました。 俯いた僕には、彼の表情は見えません。 僕の表情もまた、彼に知られることはないでしょう。]
(114) 2014/09/18(Thu) 01時半頃
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[微笑むことなんて、今は出来そうにありませんでした。]
(*30) 2014/09/18(Thu) 01時半頃
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[宵闇に融ける囁き>>111に、まだ顔を上げられず。 ペティンガーさまの指先が僕の髪を、手を救い上げた頃 漸く面を上げて、眉を下げた表情で なんとか微笑んで見せたのでございます。]
夢物語は、大好きですよ。
[幸せで終わる、嘘ですから。 誘いの言葉を受けたなら、少しの間逡巡した後。]
地下に行かれますか? それとも、もう少し静かな場所にでも。
[お話だけなら、何も地下へ向かうことはないでしょう。 どちらにいかれますかと、微笑みました。]
(116) 2014/09/18(Thu) 01時半頃
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── 追憶の一片 ──
[それは歳を遡ることいくつの事であったでしょう。
ある日、新しい花見習いが来ると告げられることも無いままに 突如この廓にやってきた一輪がありました>>*26 何も知らず、何も判らぬまま 髪を乱し乱されやってきた花は 銀月の色を有した、淡藤の一輪でございます。
僕には彼が、怯えているように見えたのです。 何も知らぬ世界につれて来られ、困惑しているように見えたのです。
眸が触れ合った気がしました。 ですから僕は、安心させるようにと 彼へ微笑んだ事を覚えています。]
(*32) 2014/09/18(Thu) 02時頃
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「大丈夫ですよ。」
[そういって、手をとり。 小さな身体で彼を庇い立ち。 『花』には『花』になるための規則があると教育係を買って出ました。
『花』は美しくなければならないと ですから乱暴に扱わないでくださいと 連れてこられた御方のその手を、無理やりに剥がしたことを覚えています。]
(*33) 2014/09/18(Thu) 02時頃
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[その『花』が、手折られてしまうかもしれないのです。 きっとそれを、花主さまは許しなどしないでしょう>>1:1 昨夜も一人、『花』が姿を消しておりました>>1:#0
行方など、知れません。
亀吉さんがそうならぬ為にも、お伝えしなくてはなりませんでした。 もしもまだ、『夢物語』に終わらせられるのならと。 余計なお世話を、焼いたのでございます。 そこに、自戒を含めながら。
僕自身へと、言い聞かせながら。]
(*34) 2014/09/18(Thu) 02時頃
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[其の度にあの呪詛が 『丁』の涙が 中庭に植えた秋櫻が
心を締め付けていくようでありました。]
(*35) 2014/09/18(Thu) 02時頃
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[ペティンガーさまはどちらをお望みになられたでしょう。 どちらにせよ僕は、大きな軍手を外して仕舞い 『蝶』の掌をとったのです。
淡藤が睫毛を濡らしていることも>>113 その手を傷つけていることも、知らぬままに**]
(117) 2014/09/18(Thu) 02時頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2014/09/18(Thu) 02時半頃
看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2014/09/18(Thu) 02時半頃
看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2014/09/18(Thu) 02時半頃
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…、はい。
[「謝らなくていい」>>118 そう謂われてしまえば、僕からはもうなにも紡げませんでした。
僕は此処にしか咲けぬ『花』であり、『蝶』を惑わす櫻にございます。 この枝葉に止まる御方を、癒し、満たすことだけが、僕に許されたことなのです。 甘過ぎる程の夜、昨夜の内は『誠』であっても 忘れぬと約束した言葉に嘘はなくとも。
───夢物語なので、ございます。
この籠には在るのは『蝶』と『花』。 『おうじさま』でも『おひめさま』でもないのです。 それでも偽りの夢物語だからこそ、艶やかに咲き誇ることができるのです。]
(120) 2014/09/18(Thu) 11時頃
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[哀しげに、判りやすい表情をしていた僕へと 『蝶』のお誘いが降り注ぎました。 その言葉に拒否することを、僕たちは出来るはずがないのです。 ひとひらの秋色が無意識の裡を通りすぎていきました。 僕はふるりと頭を振り、やわらかな微笑みを浮かべます。]
顔も洗わなければと思っておりましたから 面倒だなんて、思いません。 今宵、選んでいただき…光栄です。
[裡に秘めたる想いを覗くほど、不粋な『花』ではありません。 今宵の夢物語に選ばれた僕は、それこそ『しあわせ』でありましょう。 ベルさまとはまた違う、美麗な顔に苦笑が見てとれたなら 重ねた手に、そっと力を込めるのです。 黒蝶が導くままに、僕は足を進めたでしょう。]
(121) 2014/09/18(Thu) 11時頃
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── 地下牢 ──
[手早く身を清め、色を知らぬ着物に袖を通します。 土で汚れた手も顔もさっぱりとさせたなら、櫻色から真白なリボンへと変えて 項へと、練り香水を少量施します。 まだ少し濡れたままの射干玉を結いて、僕は地下牢へと足を向けるのです。
中庭から廊下に上がるとき、この小さな身体を引き上げてくださった御方です。 今宵は、優しくして下さいますでしょうか。
どこかの牢へと辿り着いたのならば、僕はペティンガーさまを見詰め 緩やかに微笑んでみせるのでした**]
(122) 2014/09/18(Thu) 11時頃
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[ふわりと首筋から香る櫻は、あの時も香っていたでしょう。
小さな身体を見下ろす、二つの眸。 呆然としたような表情には、射干玉の眸を向けました。]
僕は櫻子と申します。 櫻の子と書いて、おうじです。
[力の加わった手に、そうともう片方の手を乗せました。 体格が違えば、手の大きさも違うでしょう。 片手では溢れてしまう彼の手を、両手でしっかりと包み込んだのです。]
(*37) 2014/09/18(Thu) 11時半頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2014/09/18(Thu) 11時半頃
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[僕が地下牢に訪れた時の事にございます。 丸く切り離された月のような窓辺のひとつに 淡藤の銀花が、咲こうとしていたことでしょう。 視線は今宵射止めた『蝶』を捉えます。
お判りやすい御方のように 射干玉が揺らぐことなどありません。
すう、と伏せる視線。 すとんと、微笑みの落ちた顔。 僕の足は迷うことなく、今宵の『蝶』を探すのです。]
長い髪は、乾きにくくていけませんね。
[辿り着いた先、最初に掛けられた声はそのようなものでした>>125 眉を下げて笑われるお顔には、困ったように申し上げます。 ペティンガーさまがタオルを手に、僕の居場所を作ってくださり 「おいでよ」と唄われて、される動作。 僕は一度二度と瞬きをして射干玉をまあるくさせました。]
(126) 2014/09/18(Thu) 16時半頃
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…──ふふっ、はい。
[柔らかなお布団を叩く手に、黒手袋がなかった事に目を留めながら 僕は耐え切れずほんの少しだけ、微笑みを零してしまいました。 勿論、袖にて口許は隠しましたが 笑った事を隠すつもりなど、僕にはさっぱりとなかったのでございます。
性欲だけが、心や身体を満たすではありません。 きっとこの御方は僕に、身体の快楽を求めているのではないのでしょう。
ならばと僕は空けられた彼の足の狭間へ そうっと腰を落ち着ける事にいたしましょう。]
何をなさるのですか?
[ほんの少しだけ、意地悪がしたくなってしまいました。 判っていると背を向けて座る事はせず 判らぬふりで面を向き合わせ 小首を傾げて、上目遣いに見上げましょう。]
(127) 2014/09/18(Thu) 16時半頃
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[あゝ、それでも。 追憶の一片にある頃の僕の眸と 今し方向けた射干玉に、差異が無い事をと願います。
淡藤の花を見詰めた射干玉は、悲しげに伏せられた事でしょう。
呪詛に侵されつつある僕の心に蓋をして 瞼を伏せて、僕は僕自身に見て見ぬ振りをしたのです。]
(*38) 2014/09/18(Thu) 16時半頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2014/09/18(Thu) 17時頃
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───なんて、冗談です。
[僕のちょっとした冗談にどういった反応が返ってきたでしょう。 どこか満足げに笑う僕は、稚児のようだったかもしれませんし 『蝶』を惑わす『花』の如く、色香を放っていたかもしれません。
やがて僕はくるりと背を向けて座りなおし しっとりと湿ったままの髪を結った、白をするりと解きます。 視線は一度、今宵の『蝶』へと向け 「拭いてくださるのでしょう?」と小首を傾げては笑み 向き直りては木格子の向こう側、薄暗い闇を見詰めているのでありました。]
(129) 2014/09/18(Thu) 19時頃
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…僕は、とてもお喋りが好きで お話のしすぎだと、よく叱られることがあるのです。
[緩やかに開いた櫻色の唇は、返事を待つことなく ゆっくりと言葉を紡ぎました。 牢の中には水音や嬌声も響き始める頃合でしょう。 僕の声が何処まで届き、どれ程紛れるのかは判りませんが 調べはまるで、独り語散るようなものでありました。
そう、これは独り言。
髪を拭き、撫でていただく合間の 僕の勝手な独り言です。]
(130) 2014/09/18(Thu) 19時頃
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『蝶』と『花』が寄り添えるのは、この籠の中だけにございます。
『花』は根を張り籠に囚われ。 『蝶』は籠へと誘われ訪れる。
一夜の夢は嘘でも誠でもなく 『夢』でしかないのです。
(131) 2014/09/18(Thu) 19時頃
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ですが、『蝶』でもなく『花』でもなく
『人』同士であるならば、…───どうなのでしょう?
(132) 2014/09/18(Thu) 19時頃
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……僕は『外』の事を知りませんから 詳しくなど、判りませんが。
[僕の独り言は、一度休符を添えました。 闇夜を見ていたはずの射干玉も、心に蓋をするかのように そっと、そうっと閉じるのです。
駆け回る呪詛を噛み殺しましょう。
僕は此処に咲く、此処にしか咲けない『花』なのだから。]
(133) 2014/09/18(Thu) 19時頃
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亀吉、さん。
[僕は、銀花の名前を呟きます。 あの頃は>>*39 「とても佳いお名前ですね。」と、微笑みました。 目出度いお名前だと教える事になるのは それから数日後の事になりましょう。
今の刻、僕は緩やかにその瞼を閉じていました。 微笑む事は難しく、悲しむ事も難しい。 心に蓋をしてしまっているからか>>133 僕の表情は、どこかで迷子にでもなっているかのようでした。]
(*42) 2014/09/18(Thu) 20時半頃
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[『花』である僕は『外』を知らず。 『花』でしかない僕は『花』以外にはなれません。
『ふつうのしあわせ』を知っていれば>>*21 『人』になる事が出来たのでしょうか。
何も知らずに育った僕は 毎夜、毎宵、『蝶』に望まれる事こそが『しあわせ』なのです。 それ以外を求めてはならないのだと、謂い聞かされて育ちました。
男と謂う性に生まれたにも関わらず 殿方を満足させるためだけの、命です。
それが僕の、『花』である理由なのでございます。]
(*43) 2014/09/18(Thu) 21時頃
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[それならばどうして、あんな独り言を語散てしまったのでしょう?
『外』の世界知る方なれば きっとその世界へ戻れるのではないかと。 そして『外』の世界の方が 幾分幸せなものではないかと僕は思っているのでしょうか。
判りません。 知りません。
自覚(わ)かりたくなどありません。
僕はそっと瞼を閉じます。 『花』としてあるために。]
(*44) 2014/09/18(Thu) 21時頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2014/09/18(Thu) 21時頃
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[悪戯は思惑通りに成功いたしておりました>>136 呆けたお顔がこちらに向いて、瞬き繰り返されるのを 思い出しては、笑みを堪えて小さく肩が揺れるのです。 接吻けなどはいたしませんでした。 この判りやすい御方も、僕へ唇を重ねる事は無かったのでございます。
僕の微笑みに返る言葉は減らず口のようでもありました>>137 それでも僕を傷つける刃ではなく やられたと鳴る喉の音は、耳に心地よいものでありました。
独り、『花』が唄を紡ぐ頃合には 優しい手は、髪を愛しんでいてくださいます。 湿り気は髪からタオルへと移り 唄は『花』から何処まで移るのでしょう。
他の音を、他の存在を緩やかに拒むように。 穏やかな声が響いておりました。]
(147) 2014/09/18(Thu) 21時半頃
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おかしな御方ですね。
[それは多分に意味を含みます。
『人』で居られるあなたさまなのに。 櫻には蔦など在りはしないのに。 どちらも口には致しません。 僕はただ、眸を閉じた暗闇の中、どのような色も浮かべぬままに 『蝶』の応え唄を聴いておりました。
お互い、表情など見えません。
寂しさ募る悲しき笑みを浮かべる『蝶』も 眸を閉じて蓋をした迷子のような『花』も 聴こえるのは、牢屋に不釣合いな唄と唄。
『蝶』の綴る『夢』に 押し黙っているかのようだった唇は、再び動き出したのでございます。]
(148) 2014/09/18(Thu) 21時半頃
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─────いいえ。
[それはまるで、拒絶するような声でした。 叫ぶというほどではありませんでしたが、確かに強く。 そして確かに、振り払うような調べでありました。]
他の『花』ならば判りません。 ですが僕は、この籠から出ればきっと。
…───枯れ朽ちてしまいますから。
[僕は微笑んで囁きました。 軋む音は、どこぞの牢の木格子でしょう。]
(150) 2014/09/18(Thu) 22時頃
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[抱擁見せ付けるような人の悪い笑みが向けられても>>143 大切そうに、銀月を抱きしめていても。 僕が返したのは、今のような微笑みでした。
蝋燭揺らめく薄暗き地下に 太陽のように輝く金が舞い降りたときも>>146 僕が向けたのは、微笑みでした。
僕は望まれるままにしか咲けぬ『花』。
櫻へととまる『蝶』を 癒し、慰め、満たすことこそが僕の『しあわせ』。
望まれなければ成り立たず。 望まれて初めて花咲くのです。
『外』の世界になど。]
(151) 2014/09/18(Thu) 22時頃
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[根を張る『櫻』を、どなたさまが愛してくれると謂うのですか。]
(152) 2014/09/18(Thu) 22時頃
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‘Tis better to have loved and lost than never to have loved at all.
(一度も愛したことがないより、 愛して喪った方がどれほどしあわせか。)
(*45) 2014/09/18(Thu) 22時頃
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[呪詛に軋んだのは、僕の心だったのでございます。]
(*46) 2014/09/18(Thu) 22時頃
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