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……そうだね。
でも、ここまで悪いと隠しようもないから。
[嘯いて、ケイトの方を見つめる。
静かな鳶色の双眸は、普段と変わらない。奇妙なぐらい、いつも通りだった。]
普段の僕、か。
……ケイトから見たら僕はそんなに普段通りに見えないかな?
思い遣りとかじゃないよ。お互い踏み込んで踏み込まないだけ。
なかった、だけ、かな――?
[トレイルのこと好きじゃない。という言葉には返さなかった。
どんな返答をしても、今のメルヤ自身では、不自然に彩られる]
[どこかで聴いたフレーズが、耳朶に伝ったのはその時だったろうか。
凍えかけている心が、軋みをあげている。少しだけ起きて貰えないだろうか。この聡い彼女を、誤魔化すために。
ふっと、寒気が急速に増していた。
浮かべたのは何の澱みもなく柵もない、純真なほどの表情で。]
僕の瞳にはいつだって、花は咲いていたよ。
トレイルの、彼の瞳にはいつだって紫苑の花が咲いていたように。
[幼気でさえあるような声音で、零すのは本音。
目を閉じれば、ほら。浮かび上がる]
[――はらはらと落ちゆく風花が、僕の瞳に浮かんでいた。]
[
ケイトは、よく見てる。でも見過ぎてて勘違いしてるよ?
僕はトレイルがいつか”落とす”ことは覚悟していたし、何より特別になりたいだなんて思ったことなかった。
本当にね。そんな望みは抱いてなかったよ。
[――そうでなければ
目を閉じる。浮かぶ冬の情景に取り残された子どもが、いる。]
[車椅子の所まで案内されれば礼をいい、
...は其れにゆっくり腰を下ろした
自分が幻で死なないと断言するメルヤ
懸念を物色する発言、其れを私は信じることはできなかった
肉体は死なないかもしれない。されど
――心は死ぬのに
自分自身の安寧を許さぬ殉教者に
できることは...にはきっと何もない]
……っ
[きしり、と痛む関節
そう、痛みがでたのならそれは神経にまで食い込んできたのだろう
思い出したのは空の絵
だれよりも、自由に――羽ばたけた、なら
そんな儚い願い]
[メルヤの言葉
普段通りにですって?
まったくもって見えないわ。貴方にとって残念なことにね
隠しようもない、は確かにね……嗚呼
少しばかり周囲の気温も冷えてきたかしら
[...の吐く息にも白さが混じるようになればそう呟いた後]
…まるでマリオ・ネットみたいね
不自然な事に気付かぬ道化師さん
[奇妙な位に何時も通り
それを取り繕うようにと歪な歯車回し続け
彩るのは言葉の糸でがんじがらめに
純粋すぎる表情浮かべる彼に
...が向ける表情は無表情ではあるが視線に訝しさを帯びる
されど答えを、聞いたなら
――私の周囲の気温はまた、少しだけ下がった]
[彼の目の前降り注ぐ小雪は
彼の心を浚ってゆく]
[訝しむ彼に溜め息を吐きたい気になった
覚悟なんか関係ないのにね]
あら、特別というよりも
[あたりまえに、貴方を友人としてか弟分としてかわからねど
そのように見てほしかったんじゃなかったの?と
告げようとするが言葉にはしないでおいた
理由は簡単。きっと彼は其れを認めない
違うと自分に告げるだろうから
雪山で眠る事を選んだ子供に、マッチの火を渡す事は難しい]
貴方自分で望みに気づいてないのね――″可哀想″な子
[私はそう呟き、吐息を零した]
[
大丈夫? ケイト
車椅子も無しに…動いたのは酷使し過ぎじゃないかい?
[ケイトが巡らせているか、メルヤにわかる筈もなく。
ただ労りの声を掛けた。]
[
”呼んで”しまったためか、また寒々しさを覚えたせいもあった。]
(けど。君に対してはいつもと変わらない筈なんだよ。ケイト。)
[おそらく、トレイルに対しての態度が奇怪なせいか、彼女にも普段通りに接していないように思われたのだろうか。
事実は、わからない。受け取り手が、すべてなのかもしれない。]
そうだね。……寒いよ。
[もう少しだけ。引きづる出すように。
瞳を閉じれば浮かび上がる。冬の夜空に丸くなった子どもに触れる。すり抜けて、メルヤの元には戻らない幼い自分。]
僕は手品師紛いで道化師じゃないんだけど
昨日は人間らしいと言って、今日はマリオ・ネットかい?
[メルヤは取り繕っていない。奇妙なぐらいに何時も通りにしか、振る舞えない。
心が、揺さぶられないからだ。
”家族”に対する思慮、心配、悲哀。そういった類のものじゃない。あの幼い子どもに象られた子どもは、置き去りにされているごく”一部の心”は――人に影響されないものだ。]
特別というよりも……。
[言葉を、留めてくれたのは助かった。
その答は凍ってかじかんでいる、心に置いてしまっていることだ。
いくら呼び掛けても振り向こうともしない。人間は、自分のことすら儘ならないものなのだろう、と気付く。]
……言って置くけど僕は君より年上なんだよ?
せめて”可哀想”な人にして欲しいな。
[否定も肯定もしなかった。
例え的外れであっても、”今さら”だ。
トレイルに、彼に。特別になりたいとか。思ったことなどなかったのは確かだ。
関係性に名が、付くことの方を厭うた。
積もり積もった腐れ縁と、呼ぶには他にも先に患者が会っているのに比喩としてはおかしいけれど。どこかで互いに。奇妙に縁が絡んでしまったと思っていたかもしれない。
今となっては、わからない――。]
私は大丈夫。なんてことはないわよ
……だってあのおたんこなす引っ張ってくるのに
車椅子が邪魔だったんですもの
それに此処に来るまで私は歩いていたのよ?
どうということはない
[労わる言葉に、大丈夫と言わんばかりにそう告げるも
ひるむ様に距離をとる姿に、瞳で苦笑い]
[いつもと変わりない筈と、そう思っている事自体が違うのだと
彼が気付くのは何時だろう
トレイルへの態度の奇怪さもさることながら――……否、これ以上は止そう
結局、受け取り手がどう思うかによって感じ方とは違うのだ]
寒いなら上着を着たほうがいいわ
幻ではなく″現実″に寒さを感じているのなら
[私では冬空の下の子に触れられない
存在を知らないから其れにすら思い至らない
きっとそれが、他者の記憶を留めようと睥睨していた代償なのだろう]
どちらにせよ一緒よ、手品的な意味では
だって昨日の貴方と今日の貴方、違いすぎるんですもの
まるで心の一部を何処かに置き忘れた様よ
[言いえて、妙か]
[探しても見つからぬ迷子の子の様に
人とは惑うものなのだろう。心も、きっとそう
合縁奇縁、絡み合うえにしは時として人の感情の琴線を揺さ振る]
あら、私から見れば貴方は十分子供っぽいけれどね
年齢と関係なく
[肯定も否定もしないことからああ、剥離が凄いなとは思った
心の一部分か大部分か全てか。よくはわからねど昨日感じた彼の輝きは無い
憶えることを信条にしている彼が、切り捨てるなんて
なんて、皮肉なことなんでしょうね]
……貴方はこれからどうするつもり?
私は、自室に戻って――歩行訓練でもしようと思ってるの
[空の絵、彼の隣で空を見上げている絵
あの景色を再現したい
その為には、沈んでばかりもいられない
病状を少しでも遅らせる為に。自分にできる限りの事をしたい
花よりも強く咲き誇るために*]
おたんこなすはいいね。
[余りいじめないでやってよ。などと言葉は喉奥へと引っ込めた。
おそらくそれは、本当ならば口にする筈がない。]
そうだけどね。…あまり関節を酷使するのは良くないよ。
あと、冷やすのもかな。
[どうやら、近くの相手にまで影響があるらしい。
おそらく体に障る凍える雪の寒さが、固い透明な鱗から発しているのだろう。]
[
メルヤが剥離しつつある”心”の一部は、彼女達に奇異に映るのだろうか。]
そうだね。ケイト
[身震いを起こす。季節にそぐわず、手がかじかんでいるようだ。
細かい作業が出来そうに無いが、少しやりたいことがある。]
[真冬の空で蹲る。あの幼い自分自身は、自分のいうことな聞きやしない――。]
…そっか。そんなに違うんなら。
何とかした方が、いいのかな?
君の想像力は豊かだね。
[少しの悪戯めいた笑みを含めたのは、誤魔化しだったのか。的が当たっていたためか。]
女性から見れば男なんて子どもだってことだろうね。
仕方無いか。
[ケイトに、これ以上の深入りをさせるつもりは無かった。
メルヤにとってケイトの存在が軽いのではなく、少しでも傷付かないために。
薄々と勘付いているが、こんな奇怪な現象の深層になど辿り着かなければいいとメルヤは思う。]
……僕は。
少しトレイルの部屋で休むよ。
ちょっと体力的に限界がね。
[勝手知ったる何とやら、と言った風情でトレイルの寝台に腰を下ろす。
トレイル達の部屋とメルヤの部屋は少し遠い。筋弛緩剤を投与されていないが体は凍え、治療もろくに受けていない傷がどうなっているかは知れない。
少し、休みたいな。――そう、再び告げて、ベッドに横になる]
ケイト。
無理、し過ぎないように……ね。
[歩行練習をすると、勝ち気な瞳。告げた言葉は、どこまでもケイトを案じるものだ
彼女は部屋を辞去しただろうか?
その言葉の直後に。横になって意識を手放した、メルヤにはわからなかった*]
メモを貼った。
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