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[――はらはらと落ちゆく風花が、僕の瞳に浮かんでいた。]
[
ケイトは、よく見てる。でも見過ぎてて勘違いしてるよ?
僕はトレイルがいつか”落とす”ことは覚悟していたし、何より特別になりたいだなんて思ったことなかった。
本当にね。そんな望みは抱いてなかったよ。
[――そうでなければ
目を閉じる。浮かぶ冬の情景に取り残された子どもが、いる。]
[車椅子の所まで案内されれば礼をいい、
...は其れにゆっくり腰を下ろした
自分が幻で死なないと断言するメルヤ
懸念を物色する発言、其れを私は信じることはできなかった
肉体は死なないかもしれない。されど
――心は死ぬのに
自分自身の安寧を許さぬ殉教者に
できることは...にはきっと何もない]
……っ
[きしり、と痛む関節
そう、痛みがでたのならそれは神経にまで食い込んできたのだろう
思い出したのは空の絵
だれよりも、自由に――羽ばたけた、なら
そんな儚い願い]
[メルヤの言葉
普段通りにですって?
まったくもって見えないわ。貴方にとって残念なことにね
隠しようもない、は確かにね……嗚呼
少しばかり周囲の気温も冷えてきたかしら
[...の吐く息にも白さが混じるようになればそう呟いた後]
…まるでマリオ・ネットみたいね
不自然な事に気付かぬ道化師さん
[奇妙な位に何時も通り
それを取り繕うようにと歪な歯車回し続け
彩るのは言葉の糸でがんじがらめに
純粋すぎる表情浮かべる彼に
...が向ける表情は無表情ではあるが視線に訝しさを帯びる
されど答えを、聞いたなら
――私の周囲の気温はまた、少しだけ下がった]
[彼の目の前降り注ぐ小雪は
彼の心を浚ってゆく]
[訝しむ彼に溜め息を吐きたい気になった
覚悟なんか関係ないのにね]
あら、特別というよりも
[あたりまえに、貴方を友人としてか弟分としてかわからねど
そのように見てほしかったんじゃなかったの?と
告げようとするが言葉にはしないでおいた
理由は簡単。きっと彼は其れを認めない
違うと自分に告げるだろうから
雪山で眠る事を選んだ子供に、マッチの火を渡す事は難しい]
貴方自分で望みに気づいてないのね――″可哀想″な子
[私はそう呟き、吐息を零した]
[
大丈夫? ケイト
車椅子も無しに…動いたのは酷使し過ぎじゃないかい?
[ケイトが巡らせているか、メルヤにわかる筈もなく。
ただ労りの声を掛けた。]
[
”呼んで”しまったためか、また寒々しさを覚えたせいもあった。]
(けど。君に対してはいつもと変わらない筈なんだよ。ケイト。)
[おそらく、トレイルに対しての態度が奇怪なせいか、彼女にも普段通りに接していないように思われたのだろうか。
事実は、わからない。受け取り手が、すべてなのかもしれない。]
そうだね。……寒いよ。
[もう少しだけ。引きづる出すように。
瞳を閉じれば浮かび上がる。冬の夜空に丸くなった子どもに触れる。すり抜けて、メルヤの元には戻らない幼い自分。]
僕は手品師紛いで道化師じゃないんだけど
昨日は人間らしいと言って、今日はマリオ・ネットかい?
[メルヤは取り繕っていない。奇妙なぐらいに何時も通りにしか、振る舞えない。
心が、揺さぶられないからだ。
”家族”に対する思慮、心配、悲哀。そういった類のものじゃない。あの幼い子どもに象られた子どもは、置き去りにされているごく”一部の心”は――人に影響されないものだ。]
特別というよりも……。
[言葉を、留めてくれたのは助かった。
その答は凍ってかじかんでいる、心に置いてしまっていることだ。
いくら呼び掛けても振り向こうともしない。人間は、自分のことすら儘ならないものなのだろう、と気付く。]
……言って置くけど僕は君より年上なんだよ?
せめて”可哀想”な人にして欲しいな。
[否定も肯定もしなかった。
例え的外れであっても、”今さら”だ。
トレイルに、彼に。特別になりたいとか。思ったことなどなかったのは確かだ。
関係性に名が、付くことの方を厭うた。
積もり積もった腐れ縁と、呼ぶには他にも先に患者が会っているのに比喩としてはおかしいけれど。どこかで互いに。奇妙に縁が絡んでしまったと思っていたかもしれない。
今となっては、わからない――。]
私は大丈夫。なんてことはないわよ
……だってあのおたんこなす引っ張ってくるのに
車椅子が邪魔だったんですもの
それに此処に来るまで私は歩いていたのよ?
どうということはない
[労わる言葉に、大丈夫と言わんばかりにそう告げるも
ひるむ様に距離をとる姿に、瞳で苦笑い]
[いつもと変わりない筈と、そう思っている事自体が違うのだと
彼が気付くのは何時だろう
トレイルへの態度の奇怪さもさることながら――……否、これ以上は止そう
結局、受け取り手がどう思うかによって感じ方とは違うのだ]
寒いなら上着を着たほうがいいわ
幻ではなく″現実″に寒さを感じているのなら
[私では冬空の下の子に触れられない
存在を知らないから其れにすら思い至らない
きっとそれが、他者の記憶を留めようと睥睨していた代償なのだろう]
どちらにせよ一緒よ、手品的な意味では
だって昨日の貴方と今日の貴方、違いすぎるんですもの
まるで心の一部を何処かに置き忘れた様よ
[言いえて、妙か]
[探しても見つからぬ迷子の子の様に
人とは惑うものなのだろう。心も、きっとそう
合縁奇縁、絡み合うえにしは時として人の感情の琴線を揺さ振る]
あら、私から見れば貴方は十分子供っぽいけれどね
年齢と関係なく
[肯定も否定もしないことからああ、剥離が凄いなとは思った
心の一部分か大部分か全てか。よくはわからねど昨日感じた彼の輝きは無い
憶えることを信条にしている彼が、切り捨てるなんて
なんて、皮肉なことなんでしょうね]
……貴方はこれからどうするつもり?
私は、自室に戻って――歩行訓練でもしようと思ってるの
[空の絵、彼の隣で空を見上げている絵
あの景色を再現したい
その為には、沈んでばかりもいられない
病状を少しでも遅らせる為に。自分にできる限りの事をしたい
花よりも強く咲き誇るために*]
おたんこなすはいいね。
[余りいじめないでやってよ。などと言葉は喉奥へと引っ込めた。
おそらくそれは、本当ならば口にする筈がない。]
そうだけどね。…あまり関節を酷使するのは良くないよ。
あと、冷やすのもかな。
[どうやら、近くの相手にまで影響があるらしい。
おそらく体に障る凍える雪の寒さが、固い透明な鱗から発しているのだろう。]
[
メルヤが剥離しつつある”心”の一部は、彼女達に奇異に映るのだろうか。]
そうだね。ケイト
[身震いを起こす。季節にそぐわず、手がかじかんでいるようだ。
細かい作業が出来そうに無いが、少しやりたいことがある。]
[真冬の空で蹲る。あの幼い自分自身は、自分のいうことな聞きやしない――。]
…そっか。そんなに違うんなら。
何とかした方が、いいのかな?
君の想像力は豊かだね。
[少しの悪戯めいた笑みを含めたのは、誤魔化しだったのか。的が当たっていたためか。]
女性から見れば男なんて子どもだってことだろうね。
仕方無いか。
[ケイトに、これ以上の深入りをさせるつもりは無かった。
メルヤにとってケイトの存在が軽いのではなく、少しでも傷付かないために。
薄々と勘付いているが、こんな奇怪な現象の深層になど辿り着かなければいいとメルヤは思う。]
……僕は。
少しトレイルの部屋で休むよ。
ちょっと体力的に限界がね。
[勝手知ったる何とやら、と言った風情でトレイルの寝台に腰を下ろす。
トレイル達の部屋とメルヤの部屋は少し遠い。筋弛緩剤を投与されていないが体は凍え、治療もろくに受けていない傷がどうなっているかは知れない。
少し、休みたいな。――そう、再び告げて、ベッドに横になる]
ケイト。
無理、し過ぎないように……ね。
[歩行練習をすると、勝ち気な瞳。告げた言葉は、どこまでもケイトを案じるものだ
彼女は部屋を辞去しただろうか?
その言葉の直後に。横になって意識を手放した、メルヤにはわからなかった*]
メモを貼った。
メモを貼った。
ふふ、貴方の大切な子をこれ以上虐める気はないわよ
[揶揄を1つだけ落とせば...はこれ以上何も云わないと肩をすくめた
彼の忠告した事には、気をつけるわと告げるものの
...は忠告を聞くつもりは微塵もなかったのであった
無理をしてでも抗うと、決めたから
心を剥離するというのは、他者から見て奇異に映るものだ
多かれ少なかれ、その人が持つ本来の多様性を排除しているからだろう
それは多分、記憶を何も零す事がないようにと
自分が気を張り詰めていたからかもしれない]
[身震いをする彼に、差し出すブランケットがないのが酷くもどかしい]
さぁね。其れを決めるのは貴方自身
私は神様じゃないし母親でもないから貴方にこうした方がいいというアドバイスは
正直、できかねる
とはいえ私の一意見としては
――捨てるのは簡単でも、拾うのは難しいわと
想像力に関しては私、文学少女でしたもの
[悪戯めいた笑みを見れば、表情筋動かして精一杯口角をあげた]
あら、男からみても女の子は夢見る少女の時もある
若しくは母の様に力強い時もある
人次第、受け取り手次第
[彼がこれ以上立ち入らせないようにしている様子はわかった
だから私は、その線引きを受け入れ其れ以上は踏み込まない
無暗に暴く事が、その人のためになるわけではないから
無理をしすぎるなと言った直後に寝台に突っ伏した彼はそのまま夢の中]
無理をしてるのは貴方じゃないの、まったくもう
[車椅子を操り、...は毛布をそっと彼にかける
そのままその部屋を辞して向かうのは自分の部屋
殺風景な部屋。でも其処には手すりがある
″歩行訓練用の手すり″が
それが...にとっては此処が終末病棟(ホスピス)ではなく
回復病棟(リハビリテーション)であるとそう思える僅かな希望の残渣であった]
――私、諦めないわ
見ててキルロイ。みてて、皆
私は、だれよりも、自由になる。なってみせる
[手すりをとれば再開する、両の脚で歩く事
滲む汗すら気合いで飛ばし
私はあるく、あるく、あるく
いつか病棟を抜け出して、貴方に会いに行く
貴方の絵に描かれている様な青い空を見に行くの
その願いをかなえる為には安楽にしてなんて、いられない]
貴方に、あいたい
[願いは唯、其れだけ*]
―夢と幻と現の境―
Thou'lt come no more;
《もうおまえは戻っては来ない》
Never, never, never, never, never.
《二度と、二度と、二度と、二度と、二度と》
意識を手放せば此処に訪れるであろうと思っていた情景とは違った。
ありふれた日常の中。”連れて行かれた”みんなの幸せそうな光景。いつも幻に見る人達。
内に秘めた悲哀。慟哭。未練。特別な相手の傷跡になりたくなかった人が、時折。ほんの時折、僕にだけ遺していったもの。
悲しかったのだろう。辛かったのだろう。同調程度で共感ではなくとも、最後の心を零したことで少しでも救われたならと、祈っていた。
誰の特別になるでもなく、誰かの特別になるでもなく――。
その立ち位置を自ら望んだ。気付いていても気付かぬ振り。不干渉。誰にも踏み込まず踏み込ませない。
―夢と幻と現の境―
伝えたい。
伝えたくない。
だけどどこかに遺して置きたい。
その想いを伝えるのに、僕は打って付けの人材だったのだろう。
けれども、僕もひとりの人間で。
僕にだけ打ち明けたひと達。その全てを抱え込む。
日に幾度も記憶を鮮明に蘇らせ、潰されそうになるような気持ちに駆られることもあった。
―夢と幻と現の境―
想いは、重みだ。重く圧し掛かるものを、捨てきれず。そっと僕にだけ遺していったものを、誰かに伝えることはその想いを踏みにじるも同然であったため口には出来ない。
彼女の、彼の、運命に人知れず憂いを憶えれば胸に遺った想いがまた蘇る。
そうして僕は思い出す。
他には誰もいない食堂の斜め向かい。夜の中庭。静寂が支配する、部屋の中。
僕は何も言わなかった。ただそこに居た。そこに彼がいたのは、何故だったのだろう。
気付いていたのだろうね。君は。どんな時でも突っ伏して顔を隠していた僕に、時折気紛れに頭を撫でる。
声をあげて泣くことこそ、無かった。顔をあげないまま、ただ静かに涙する。
どちらも言葉は交わさなかったように思う。
―夢と幻と現の境―
まるで映写機のフィルムをまわすように、突然目の前の光景が変わった。
――中庭の樹の下で、幼い子どもが蹲って泣いている。
思えばこの頃から泣き方は変わっていないのだろう。我ながら可愛げがない。
「いい加減寒いから……こっちに来てくれないかな?」
頭の上にまで雪を積もってきている。幼い自分自身に声を掛ける。現実に厚着をしても、幼い自分がここで蹲ったままでは何の意味も成さないだろう。
――”……ネイサン”
自分の存在などまるっきり入ってないかのように、慕っていたピエロの彼の名を呼ぶ。その死を知った衝撃で、《幻》に囚われてしまった。弱さに付け込まれた。
そうは知っても、そこまでわかっても。自分の心を持て余す。いつも、どうやって宥めていただろうか。
「彼は死んだんだよ。でも、僕は生きている。どうしようもないことに。……そこで泣いていたって」
ぽつり。蹲ったままの筈の幼い自分の聲は、内側から響くように明瞭にきこえる。
―夢と幻と現の境―
”ぼくが、ワガママいってるんじゃない。”僕”がぼくを受け入れてくれないから、ここにいるのに”
突き付けられた真実に、視界が歪んだ。《幻》に取り込まれたと思い込もうとしていたその心は、違う。
幻覚症状が内に広がりそれを利用して、置き去りにした。――深層意識の無意識で必要のない”心”を殺すため。
おそるおそる。触れた子どもは冷え切っていた。触れた先から溢れ出たのは、切り捨てようとした心の部分の激情。
おのれ自身への呻き、悲しみ、嘆きの心を、殺すべく貫いたのだ。
その奥にはおのれが抱くかすかな切なさ。空っぽだった望みを置く場所。僅かな未練。幼い自分が象徴しているのは、そういった自らへの感情。
(……ああ)
道理で、と思う。道理で思い通りにならない。おのれの感情ほど儘ならないものはない。
小さく小さく蹲ったままの子どもが、かすかに名を呼ぶ。
その名を耳にして、ひどく冷ややかなものに支配された。
―夢と幻と現の境―
僕は”きみ(ココロ)”よりも誰かの望みの方が大事だ。
中庭に、池があったなら放り込んだだろう。
無感情に。自らを労るような想いはすべて、この幼い姿をした自分の中だから。
容赦もなく、投げ捨てただろう。
――でもそのことで。
誰かが傷付くのを見るのは嫌だな、という躊躇いが生じる。
言葉通り
文字通り
自らに対する心はそこにしか無いから
――僕のことなど、どうでも良かった。
―トレイルの部屋―
[寝起きはやはり最悪だった。真冬の夜に置き去りにしてきたままだから、凍えるような体温も戻らない。
ふるり。体を震わせれば頭を振った。
おのれ自身の心ほど、儘ならないものはない。殺そうとして、でも死にたくない。剥離しかけているのか背反している。]
タルト…の、様子を見に行かなきゃ。
[節々が痛い。寒気というには生易しい凍えそうな冷気を感じる。ろくに治療を受けていない背と、擦りむけた手。
メルヤはおのれの怪我を確かめながらも、脳裏の奥に追いやった。
トレイルの部屋で、手品に使えそうなものを物色する。花を毟るわけにはさすがにいかないだろう。ティッシュで小さな花を作るのせいぜいだった。
ノートの切れ端を使っての紙吹雪も白一色ではやや味気ないが材料不足だ]
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