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[来店の予定は、店員たちには既に知れ渡っている。
ケイが何やら妙なことを口走っていたっけ。
予想に反し、他の客と同等の出迎えを受ければ、>>*0
僅かに緊張をほどき、
普段常連客が占拠している奥のテーブル席へと向かう。
注文は千冬のそれに、空のグラスを2つ追加しただけ。
4人掛けの。昼間ゴロウ達と歓談した其処は
今は落ち着いた照明の元、静かな佇みを見せて。
向かい合う形で腰かけるために、
絡まりをほどくように離れる指先から銀糸、
その先の昼より鋭さと妖艶さを増した双眸を見つめ。]
そりゃあ……稀っていうか。初めてだし
緊張は、してるよ
ここに、人間を招き入れるってことは
それなりに、意味があること、だし
[種族が違う者同士連れだっての来店は、ままある。
しかし相手が人間となれば、また別だ。]
――…千冬
千冬。その……そっち、
ちょっと詰めて
[スーツケースを置き、奥に腰掛けた彼の。
向かいに行きかけた足を止め。
その手前の――つまりその隣の、椅子を引く。]
[背に翼を収めた彼には窮屈を強いるかもしれない。
でも、それでも。
一旦縮めた距離を、今は少しでも離したくなくて。]
千冬
ごめん、さっきちょっと嘘ついた
[彼に向けてやや斜めに身体を傾け、
肘をついた先に顎を乗せながら
覗き込むような角度で、隣の男に語り掛ける。]
ここに客として来るのが初めてだから
――…じゃなくて
千冬の、隣にいるから
緊張っていうか、なんか、どきどきしてる
[きっと場所が何処だって、それは変わらないと。
悪戯を懺悔するように、困ったように眉を潜め。
一旦離れた掌を掴むと、自身の手首に導く。
時計の針と違い、不規則に脈打つ鼓動を伝えるように。]
俺、どうしちゃったんだろ
[苦笑いを浮かべるように、くちびるの形を変えて。
独白めいた自嘲を、繰り返す。
ね?と。首を傾げた表紙に、
結わえた前髪が僅かに零れた。]*
メモを貼った。
――― 夢 ―――
[触れるリツ
眠たくはない――― 眠たくはないが
自然と、目蓋を降ろして、人間態と似た、半目。
擡げた鼻先には、面差しが触れて
濡れた感触を得て、それを拭う、押し付ける。
泣いていると理解しても
顔が近過ぎて、その泣き顔を見ることは叶わず。
たが、涙の感触だけを、拭い続けた。]
はは。
……… いま泣かせたのはどっち、だろうねえ。
[過去の大切なものか、それとも、違うのか、と。]
メモを貼った。
[獏の身体は、重たくはない。
獏の身体は、体温があった。
何時までも落ち切らない黄昏の温度と、同じ。
腕を回すことは出来ない、短い腕で
傍目から見れば、これはこれで、事案だ。
拭っても拭っても溢れる涙
地味に慌てるのも、おれの方。]
うん。
[今は、そのことばは、飲み込んだ。
その代わりに。]
あんたが生きてる限りの、責任は取る。
ああ、 ……… うん?
[すこし、間抜けたおと
あんたも、おれも、と、彼が言うから。
抱き締められた鼻先を揺らして、目を瞬かせて。]
見てた。
見てる。
また、探すさ。
[とろりと崩れる、夢の終わりに。
確かに、そう、答えたんだ*]
――― 部屋で ―――
[目覚めたのは、変わらず、リツの部屋。
気付けば、朝陽が差し込んでいて。
現実でも泣いた跡
拭っていなければ、今度こそ、指で拭いたがる。]
おはよう。
[食わなかった夢は、彼の記憶に残っている筈だが
いつものように、そう告げて、笑った。
部屋を出て行くのは、完全に陽が昇ってから。
――― 数日後には、また、喫茶店に誘うのだ。
公園で待ち構えて、と言うよりも、寝こけて。
まさかその時間が、客と店員に変化を齎しているとは
思いも寄らない、のだった。]
メモを貼った。
―夢―
[
短い腕は俺に届くことはないけれど。]
――、……頼もしいやつ
[生きてる限り。
ああ、ほんとうに、たのもしい。]
―自室―
―――、
[蜂蜜みたいにとろける黄昏の中、
胸の奥に、刻み込まれる。]
……お、おは、
……おは よ う……
[うろたえ、全面的に声に出た。
言ったこと、したこと、
いろいろ一気によみがえってきて
頭が沸騰気味だった。
――そばに居てくれるのは、
ほんとうに、ありがたかった、けれど。]
―あれから。―
[昼まで居る間、
ミネラルウォーターや、
よく食べているパンやらを
差し出してみた。]
……腹減ってるなら、
食べてよさそうな、夢、あったら、
……食べていいし
[俺の、夢。そうは言ったが、見分け方はあるんだろうか。]
―喫茶店への誘い
――、また、寝てる。
[エフは公園で昼寝中。
一風変わった待ち合わせといえば、
そうなのかもしれない。
会えるのを、心待ちにしてるのも、ほんとう。
そっと、顔を覗き込むくらい。
自覚してるとおり、俺は鈍い。
目の当たりにするまで、
客と店員の間の関係が変わっていることにも、気づかないのだった。]
――― 部屋では、 ―――
[夢と現、違うのはおれの様相。
なにも――― 夢を口に運ばなかったので
寝起き風情から一発、欠伸が漏れた。]
ふわあ、 …… どんな顔だ、それ。
[夢とは異なる、リツ
眠気まなこのおれでも、指摘する。
涙を拭った指には、濡れた跡が残っていて
そういえば、涙を糧にする人外の存在も
思い出した。美味いのか、舐めてみる、素面で。]
………
[しょっぱかった、と言う顔を、した。眼鏡の裏。]
メモを貼った。
[そして、差し出される水に、パン
好んで口にすることのない
人間の食べ物に、まじまじ、興味を示す獏だった。
見て、一口食べて、糧にはならないが
リツが差し出す物なら取り敢えず食べる、素直さで。]
死神。
死神に追われてる夢、なら
食べて良い夢だねえ。
[分かり易い、悪夢。
悪夢も見分けが付けやすいものばかりではないから
ぼんやり説明しながら、その日は過ごした。
見付ければ、きっと、夢に、食べに来る*]
[
ゆっくりな時間稼ぎをしても
すぐに辿り着く目的地の扉前
ケースに寄るとは、はぐらかされた感覚
不満を表わすよう、繋いだ手に、爪でもたてようか悪巧み
――交わす視線の熱に、悪戯心が融けた
手を結んだ儘、緩慢な足取りで訪れた精霊
店内は想像より、人が少なく
マスターは相変わらずの愛想の良い接待か]
……お世話になるな。
[>>*1出迎えてくれたのは、親しい天邪鬼
黒がベースの制服姿に、柔和に声かけ]
黒が基調とされた服も似合う。
普段と色が違うだけで、随分と印象も変わる
[悪びれも恥じらいも欠如した、指を結んだ2人
されど長らかな立ち話は紡げずとも、喜色を噛んで
注文したつまみとグラスは間もなく到着]
そう。
昼と夜では、招待する意味は変わるからね。
[実際はこの喫茶店に人外が人間を誘う、一般的理由に乏しい
されど、自分がと或る昼間に出逢った
梧郎を此の喫茶店へ誘った時と
今彼を招待した時とでは
自分の中でも
意味も、価値も、大きく変わる案件
…… 狭いが、平気か
[言われた通り、起因を見出すことなく奥の席
冷気を失わない男の隣りには、呼気を感じる彼の音]
――― あくる日
[その後も、昼間は寝て、夕方は寝る、日々。
元々昼間の喫茶店に顔を出すのも
連日とは言えない頻度で、夜の方が多かった。
寝転ぶベンチは、先日蛇が座っていた、特等席。
仰向けにうたた寝。
眼鏡の掛けたままで、ちょっと、角度がずれている。
今日は金髪のこどもに邪魔されることなく
その為に、起きるまで、時間が、かかった。
何せ、そっと、静かにされたものだから。]
[―――嘘
…おま、え
[知らず指は、彼の鼓動を、脈を聞き。
一度視線を外したが、再度湖水の眼に吸い寄せられる。
間近でぶつかる眼差しが、瞼も下ろさず問いかけ]
……その顔も、――…中々良いな。
[甘ったるく強請るような視線に
煩い鼓動を鷲掴まれたような――そんな錯覚
参った、と静かに笑気を吐いて、そのまま]
そう……それは私が、怖いから?
[自覚がないのか、此方を喜ばせたいのか。
どちらだ、と問いかける代わり
試すような口振りは、それでいて縋るよう]
…――しかし、困ったね。
そんな顔を見せられては、
私は今夜お前を、
子供として扱えないかもしれない
[優しい響きを伴って注ぐ言葉は、穏やかな物腰を取り
相反、躊躇いを払った仕草で、彼の腰に腕を回した]
…――もっと、近くへ。
ほら、酒を注いでやるから。
[密会を交わすような淡い声量の囁きは
スーツケースから取り出した箱を開いて
中から、甘露の強い、日本酒を登場させても継続]
グラスを持って。
酔ったお前は、介抱してやるから、安心を。
[そのまま透明のグラスに、遠慮なく琥珀を満たしていく。
自分のはその後に。
されど彼の方が、アルコールの量が多いのは
逃したくないと言う、短絡な願望の所為だ。**]
[―――… ぱち。
いくらか時間をかけて、目を開く。]
リツ。
[既に、逢魔が時に近い、時刻。
寝起きの口が、おはよう、より先に名前を呼んだ。
それから、両手を伸ばす、起こしてくれ。]
― 公園
[――顔を見れば、思い出す。
半分シーツに顔を隠しながら
「あんたのせいだ」
とぼそりと答えた。
意識してるのが
俺ばっかりみたいじゃ ないか
眉間にしわを寄せていたところで
ぺろり、となめられた。
本気で頭がショートした。――素面で!やるな!
そんな、その。意趣返し、こめて]
――今日は、俺の勝ち
[と。額をかるく、つついたのだ]
−時は少し遡り−
……どーも
[店主からの出迎えは常と変わらなかったが、
同僚その1は少し違った。>>*1
昼間、ブローリンとケイの様子が少しおかしかったが
そういえばコテツもゴロウと何やら話していた気がする。
もしかしたら、千冬の爆弾発言も
聞き逃してくれていたのかもしれない。
誰より混乱し、舞い上がっていたトレイルは正直、
あの時とその後の記憶が既にあやふやだ。]
[千冬とコテツが、
装いの色彩について語るのを小耳に。
そういえば甚平の色がどうとかという話だった、
なんてぼんやりと記憶を手繰り。
厨房から姿を覗かせる同僚その2には。>>*2
目線だけで、挨拶を送る。
何だか感慨深い視線を感じれば、
いたたまれないような、こそばゆいような
複雑な心境で。
兄、というのは彼のような存在だろうか、
なんて想像してみる。
本人に伝えるかどうかは、
何れ運ばれてくる料理の出来映えで決めようか。
なんて生意気な思想を孕み。]
―
[エフに名前を呼ばれるのは、すきだ。]
―――、…ん。
[伸ばされた両手を掴んで、
力をこめて引き起こす。
最初に喫茶店前でしたときと同じ。]
メモを貼った。
−それから−
[以前と似た問答に対しての。
新たな解に、意外そうに目を瞠る。
昼と夜の違いについて、
把握していると改めて告げられば、より高まる鼓動。
それは緊張している時とも、似ていて。
遅れて届く、いっそ切なさすら感じる歓びに。]
俺は、へーき
千冬は? 翼、痛くないの
[座る席を決めるのに迷いはない。
すでにこころはぎゅうぎゅうづめで、苦しく。
隣で発せらる冷気で鎮静が間に合わないほど呼気に熱が、籠る。]
[リツ
公園で見掛けた際は
もっと、前だけ見て、表情は少なかった気がした。
理由を、もっと、理解しなければならないのだが
『あんたの所為』
なんて言われてしまえば、尋ねるよりも
はは、と、抜けるみたく、笑う方が先に出て。]
三勝二敗…… 四勝二敗だったか。
[小突かれて、後頭部、ベンチに逆戻り。
夢の分も数えて
指折る獏は、ぼんやりと、意趣を叩きこまれた。]
[今日、今、触れたのは、額ではなくて、後頭部。
別に、痛みはない――― あの日とは違う。
あの日は、半分、寝ていたし。]
あんた、負けず嫌い?
[それでも、デジャヴする視界に、笑う。
伸ばした指はあの日と同じように甘えて
また、起こされる、立ち上がる。
そのまま指を離したがらないのがおれで
起こされたくせに、引き寄せて、先を歩く。
陽が落ちる、黄昏の夢と違う、じき星が出る。
ぽつ、ぽつ、街燈が点って、世界から取り残される。]
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