64 色取月の神隠し
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[ぽたり、ぽたりと大粒の滴を零しながらも話される内容に確認を入れる。
双子――ではなかったが、ふたりに出会った時に名前を右から左に流していたからだ。
童女の涙に動揺して、やたら疑問符ばかりになっていることに眼鏡は気付いていない。]
団子……私も食べたいぞ。
[ぽそり。]
あ…ああ。 おじさん じゃないぞ。
あきづきじんえもんは、おじさん じゃない。
あきづきじんえもんは、永遠におにいさん だ。
[しゃくり上げる童女に対して、何を言っているのか。
まるで洗脳のように、繰り返して念を押している。
どさくさに紛れて、変なことも言っている。
きっと恐らく多分、あたふたしている所為なのだろう。]
―――全くもって、へんじゃないぞ?
[童女の顔に笑みが浮かべば、眼鏡の顔も自然と*綻んだ*]
…ううん。
[ふるふると童女がおかっぱの頭を振る。
離れようとした手の、着物の袖を小さな手がぎゅっと掴んだ
そうじゃない。と、頭だけをもう一度振る。
少しの間、そうして袖をぎゅうと掴んだまま俯いていた]
朝はね、朝顔っていうの。
ヒトの子なの。
わたしが、ここに連れて来ちゃったの。
…一緒に、いたかったの。
[だから、と言葉を継ぐ間、仁右衛門の声に顔をあげる]
…?
あきづきじんえもんおじさんも、お団子欲しいの?
[きちんと名前を全部呼んで、ことりと首を傾げる。
ほんの少し考えるようにして、頷いた]
じゃ、朝と一緒に草団子分けてあげる。
だから、一緒に食べよ?
月見団子と一緒にくるんである草団子を仁右衛門に示し、
……。
あきづきじんえもんって言っても、おじさんはおじさんなのに。
───やっぱり、へんなのー。
[柔らかな眼鏡の奥の笑みに釣られるように、
童女の笑顔も大きくなった。
涙のあとは残したまま、くすくすと次第に笑い声が広がって*行く*]
――あやかしの里――
[離そうとした着物の袖が掴まれる
頭を振り、俯く姿にその意は理解して、再び手を頭にぽふっと置いた。]
――――…連れて、きちゃったのか。
[童女の言葉に眼鏡の奥の瞳が揺れる。
互いに全てを話した上ではないことは、短い応えながらも察せられた。]
あのな――…
[一瞬目を伏せるが、直ぐに向き直り。
真っすぐにそのひとつ目を見つめる。]
聞いて、呉れるかい?
[一緒に居たかったと言う気持ちが全く理解出来ない訳じゃない。
寂しかったのだろうと先程の話からも。
けれど、此の侭では駄目だと。
相手が童女であっても、きちんと話そうと。
本当の意味でヒトと妖が歩み寄れる切欠になればよいと。
そのお互いを"知り"合う為の種を撒くつもりで口を開いた。]
君が、本当に朝のことを大好きなら――――…
何も話さずに勝手に連れて来てはいけない。
[瞳の穏やかさは変わらぬまま、ゆっくりゆっくり話を続ける。]
君を、君達をヒトが恐れるのは、彼らがあまりにも君達を"知らない"からだ。
知らない、と言うことは時に恐怖を生み、あらぬ想像を作り出してしまう。
例えば今回のように、ヒトを一方的に連れてきたりすれば、残された彼らはまた、そのことに恐怖し、君達を誤解してしまう。
朝にだって、君とは別の朝の世界がある。
だから、その彼女の世界と一方的に別れさせるというのはいけないことだと、私は思う。
君だって、朝が悲しむ姿は見たくないだろう?
[黒髪を優しく撫でる。]
先程も言ったが、本当に仲良くなってその絆が本物ならば、その相手は絶対逃げない。
君がそれ程までに慕う朝なら、きっと君の正体を知っても逃げなかったと思うよ。
君が朝を信じて全てを話し、その上で二人が此方に来ることを選んだのなら、私は何も言わない。
そうであれば、おそらく朝も心残りのないように動くだろうから。
[撫でていた手を肩に置く。]
…私の話していることが解るかい?
本当に相手を想うということは、己の気持ちよりも先に、相手のことを一番に考えるということ。
だから―――――
[柔らかく微笑む。]
朝を見つけたら、きちんと*謝ろうな*
[その後、童女から共に団子をと言われれば嬉しそうにして。
けれど、己が呼び名から如何しても"おじさん"が消えないことにがっくりと肩を落としたのだった**]
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