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[ただ脳裏に浮かぶ朧月は今や好い人。
其れがどうにも泣いているような気がして、かの瞳が魅せたいつの日かの寂寥が余計に気持ちを焦らせる。余裕を見せたつもりの言葉はただ早歩きしているようにも思た。
然しそれでも、気のせいかもしれないけれども。
星に宿されたとんでもない出来事が、堕ちた月へと降り掛かる様な胸騒ぎがした。]
…――俺、急いで帰らなきゃならな、…いんだけど…さ。
[ 一刹那。
気持ちを誤魔化し弛めた頬を引き締め、神妙に言の葉を紡ごうとしたその視界の隅にて。遠い遠い道の果て。大きな屋敷に造られた窓辺
そこに彼が、居た気を持ったならば。
…今や花に成り掛けた蝶の顔は強張り、ただその紺瑠璃を酷く揺らし咽は水に飢える。]
…ええ。昔の知り合いです。
[絞り出す声はどこかよそよそしい
出して
……今は無理です。でも、脱走する手引きなら。
今はこの廓の主に買われて下さい。
水揚げまでには時間があるでしょうし、それまでに機を伺えば今ここで逃げ出すよりは逃げ伸びる事の出来る可能性は高い。
主に口を聞いてこの花を買ってと甘言することはできます。
……どうなさいますか?
[急いで帰らなければ、と言ったその亀吉の知り合い
メモを貼った。
【人】 半の目 丁助[それ程の長居はせずに、おぼろの部屋を後にする。 (79) 2014/09/22(Mon) 20時頃 |
メモを貼った。
[こてりと。緩にちいさく余所余所しい返答へ首を傾げた。
男はただ前籠で花や蝶が行方不明になっているとは梅雨知らず、無知故に訝しむ視線さえ投げながら――そうして来たる返事にはこくりと浮かんだ疑問を腹に降ろしては「何かが在った気がした」窓辺から視線を外す。]
―――み、…水揚げ、
[ぱちり、ぱちりと瞼は瞬いた。
廓に通って居た自分が知らぬわけではない其れ。以前酒場にて小耳に挟んだことによれば其のような花を買った人さえ。]
……それ、一歩間違えば俺…ヤバいでしょ。
[伏せ掛ける瞳は凄みさえ垣間見え。自分が自分の気に入らない輩に抱かれること、そしてその姿なんて考えたくも無いと、首を振り髪を揺らし。ひとつ、瞬き。
首筋に掛かる髪先に擽ったさを覚え、その首元へと手を置いたのならば。軈ては吐息を空に混ぜ、彼の提案
……裏切らないでよ。
[そんな言葉を手土産に。]
……そうですね。間違えば貴方は汚されますでしょう。
でもそれは私が身体を張って止めましょう。
亀吉君の知り合いなら、此処へ繋がれているのは本意ではないのでしょうし。
この薄汚れた身で誰かを助ける事ができるなら、その方がいい。
[亀吉の名を切なげに呟いていた彼
ならばそれを助けるもまたいいかと笑み零し]
裏切ったならこの首へし折っても構いません。
助けますよ――空にかかる月に誓って。
[逡巡の後この提案を受け入れた彼に微笑みかければ、主へと声をかけに馬車を後にしたろう]
[視界の隅に捉えた二つの影
遠目からと、一瞬の出来事にそれが誰であるかなどは分からない。
だからこそ青年が望むのはただ一つ]
(……どうか、知り合いでありませんように)
[首元を繋ぐ鎖に視線を落としながら、唇を噛み締める。
舌に広がる鉄錆。少し乾いた唇を湿らせては、張り付いた喉を潤す。]
(…お腹、空いた)
[呑気なあまりにも悠長な生理現象。自身に呆れつつも、下げた顎を上げ睫毛を上向かせた先は扉の向こう]
……俺は『花』じゃない。『人』だ。
[いつか、彼は告げていた。
物語を紡ぐのは人であると。
花籠を壊すことは出来ない。
花は翅を望んではいけない。
(それは花に与えられた運命であるけれど)
小鉢にて尾びれを揺らした梅の花。
小さな水面の下でしか咲けぬ命。
箱庭にて根を下ろす花々達の香りは未だ忘れることはない。]
(…でも、俺にはあの手がある。
月の下で、引いてくれたあの人の手の感触を俺は…覚えてる)
[月が綺麗だと謂って『外』へと導いてくれた手。
青年の脳裏に浮かぶは霧雨の中でもはっきりと歪んだ脣。がなり立てる金属音は騒々しく空気を軋ませる。]
──…ッ、こんな、モン…っ
[爪が革に食い込み、厭な音の後鋭い痛みが走る。
青年は眉間の皺を刻みつつも、やめる気配も見せず続けること少し。
閉ざされていた扉が開かれた]
[“煩い”その理由一つに見張りだろうか。屈強な男が現れては此方を見下ろす。青年はたじろぐことなく睨み返せば男の舌打ちが小部屋を揺らす。
それでも怯むことなく視線を投げつければ、やがて歪められた男の脣は弧を描き、下卑た笑みを浮かべて]
「嗚呼、紫とは大違いだ」
[と、比較するような言葉を投げつける。]
…紫?
[青年が不思議そうに鸚鵡の如く問いかければ、男は瞳に愉悦を滲ませ言葉を転がす。]
[そしてその“紫の人”が此処にいる男娼の一人であること。
艶やかな黒髪の持ち主であること。
そして、訪れた日にちを耳にして、瞳を強張らせただろう。]
………嘘、だろう。
[“藤之助さん?”問う声は儚く響く。
(あるはずがない。そんなこと。けどあの花見習いが嘘を吐いたのか?本当に?)
憔悴はまともな思考を、判断を鈍らせる。
狼狽しきっていた青年は気付かなかった。厭らしい貌をした男が一歩、二歩と距離を縮めていることに。
顎を掴まれてしまうまで。]
【人】 半の目 丁助 ……成程、おうじは仕度に向かったのですね。 (88) 2014/09/22(Mon) 22時頃 |
【人】 半の目 丁助 ああ、甘いもの。 (94) 2014/09/22(Mon) 22時半頃 |
[何故そんなにも尽くしてくれるのかと、疑問は心中を渦巻くけれど。
その後の月言葉が鼓膜を叩けば、「キミは、」と。]
もしかして、キミは。
[行方知れぬ花のことは、知らないけれど。確か櫻が数本の花を教えてくれたと、和やかな宵闇を脳裏に。
軈てその後のの姿も彼の主人の元へと消えたならば、少しして鉄籠から出されることもあっただろうか――]
………鶴、と。
[そんな呼名を宙に吐き、ひとつ。ふたつ。歩を進める。
――その呼び名は、亀と名につく彼と対局したような――それでいて、お揃いの物ではあったけれど。]
[足の裏は鉄籠の硬いものから地面の柔らかな其処へと。
ゆうるりと音も立てずに、まるで影のように静かに。逆を言うならばお淑やかに。…そんなことが似合う人柄でもないけれど、せめてもの少しの間、その主への本心を隠すかの様に。
鶴と、名を紡いだ声は果たして誰かに、隣に咲く花
紺瑠璃の裏には夢を隠し、その夢さえ隠すように瞳を伏せる。]
…連れて行くなら、早くしてくれるかい。
[――但し素直な口先が、主の逆鱗に触れたのならば。
添う花の前で頬を叩かれでも、しただろうか。]
―霧雨の朝から数日―
[内臓がジクジク痛む。寝転がった石の床の冷たさが頬に刺さった。
此処は花籠から遠く離れた下賤な檻。花とも呼べない奇異な姿形をした者達を客が買う処。
そして店を構える前の男が奉公し、逃げ出した処。
店が見つかってから連れ戻されるまでは早かった。店の女は見逃されたものの、当の男は折檻、折檻、折檻。]
…………飽きた、って…
[自分が何かを主張したところで、此処では何も変わらない。
ゴロンと寝返りを打つ。後ろ手に回された腕に課せられた手錠が金属音を鳴らした。
さて今日の仕事はといえば「店の前に手錠で繋がれる係」これは店の趣向を伝える為。
「花が吸う煙草の火を背中で消す係」花に、自分よりも下の人間がいると思わせる為。
外から、扉の鍵が開く音。始業の時間だ。]
[排水溝が臭う店頭で、椅子に腰掛けながら空を見上げた。まだ、月は出ていない。
思い出すのは連れ戻される前の夜。無理やり言わせた言葉。]
馬鹿か。
[空に唾でも吐きかけるように自嘲した。背中の熱さと風の冷たさを感じながら、眠るように瞼を伏せる。*]
メモを貼った。
[問われた言葉
…鶴、ですか。良い名ですね。
[新しくついた花見習い。揶揄の様な口先
少しばかり怒る主に責任持って育てろと言われれば頷いて]
私は紫。宜しくお願いしますね。
[そう言って鶴に微笑みかければ、水揚げの日を聞いて脳裏で計算。そして耳元で]
……1か月。その間に亀吉の居所を探します。
くれぐれも、君は怪しい動きをしない様に。
私は処罰されてもいいですが、君には待っている人がいるのでしょう?
[忠告した後そう尋ね]
メモを貼った。
メモを貼った。
[主の姿に少しだけ肩の荷を下ろしたのは寸分。読めぬ宵闇よりかは大分マシだと呆れさえ滲ませた笑みを浮かべ、――そうして告げられた期間
…一ヶ月?…長すぎる。
ここから先を行った森の中、そこに月が落ちてる筈だ。
…きっと。
[震える声は何の為か。悪寒は胸を過っては背筋を這い、ただ悪戯に気持ちを焦らすのみ。
「…だから、そこを始めに探して」
続けた聲は低く地面を這いずり回る。
脳裏にちらついた月光の名残
―…怪しい動きなんて、するもんか。
[月さえ。そう。彼さえ無事ならば、例えこの身が永久に地下の宵闇へ沈むこととなろうとも。
然しそうでないなら別だと――唇は歪に形を変えては、続いた質問にはただただ秘密と顔を背け]
…紫。キミが月と何の縁があるかは知らないけど。
信用は、する。今だけは。
でも俺は、キミが罰されることになろうとも、その身を救うことはしないかもしれないよ。
[後に続けた言の葉は、冷酷とさえ譬喩されるかもしれない。
余裕があれば、もしかしたら、若しかすると、援護に回った飾り言葉さえ、自信を無くしては地面へと落ちて逝く。
ただ、キミに何かあることで、淡藤の頭が垂れてしまうのなら。
その時はその時だと、温情は腹に沈めた。]
――だから、だけど。…共に月を、探して欲しい。
【人】 半の目 丁助[甘いものが、乾いた音を立てて砕ける音色。 (112) 2014/09/23(Tue) 01時半頃 |
わかりました、森ですね。
では最初にそちらに足をのばしましょう。
[震える声
万一言ない場合はという場合のことも静かに聞く]
金持ち……ああ、あの方か。
心当たりはあります。淡藤に執着している主のことでしょう。
先にそちらを探した方がいいかもしれませんね。情報感謝します。
[秘密と顔をそむける様子には苦笑一つ
今だけは信用するという言葉に何処か疲れた笑み浮かべ]
……ええ、今だけでいい、信用さえしてくれるなら。
別に救わずとも構いません。しいて言えば私は羨ましいのかもしれない。
私は、願えなかったから。
大切なものなどもう、なにもないのです。
[飾り言葉にも首を振り、必要ないと切り捨てた]
だから私を使い捨てなさい。
亀吉君が君の月なら、それを共に探しましょう。
僕とてあの人の幸せ願っているのですから。
[そう、鶴に告げれば踵を返して
空には朧月がかかっていたろうか]
[その疲れた表情
…探したりは、しないの。……大切なもの。
[羨ましいと、正直に伝えられる欲にはただ移った困惑を示し。
願えなかったと言を紡ぐその怖色は、どんな色に染まって居たのか皆目付けることさえせずに。ただ、はきりと言うならば。その色は「後悔」のようにも思えた。]
( なら、もうそれ以上は )
[「キミが苦しむようなことは、しない方がイイんじゃないのかな。」
慈悲とも、御節介とも、余計な言葉添えとも取れる其れは、彼の横を通り過ぎる際にちいさくこすりを上げては目前の花へと。
草臥れた花はまるで生気さえも無く、…次に摘ままれたのならば、直ぐに折れてしまいそうだとさえ、不謹慎な感想を持った。]
…キミ、ここから離れた方が、いいよ。
[そうしてその背を、そっと前へと押し出しては、欲の渦巻く娼館へと足を踏み入れた。*]
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