308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[ どん、どん、と何かのぶつかる音がする。
音? いいえ、地響きのように、
わたしたちの体の奥へと響くようだった。
鳴りやむ気配などまるでなかった。
やめさせてくれ!≠ニご主人は叫んだ。
叫んだはずよ。わたしにはそう見えた。
けれどその声さえも飲み込むように、
周囲には犬たちの鳴き声がこだましていた。]
──裏戸が。
[ つぶやいたのはわたしだった。
門扉が破られることは早々ないとしても、
裏は鍵をかけているだけの木戸なの。
きっと聞き取れなかったんでしょう。
ご主人が怪訝そうにこちらを見たわ。]
[ ああ、どうしましょう。
そう思ったときにはわたし、動き出していた。
たったひとり、ジャーディンの腕だけを取って。]
[ あっけにとられているあの子の手を引いて、
犬の声のこだまする廊下を進んだわ。
一生懸命走っているつもりだったけど、
ジャーディンは速足ですいすいとついてきた。
階段を降り切ったあたりで、
弟さんのお嫁さんが血相を変えて駆けてきた。
上階から響く犬の声と、
家を取り囲むような鈍い音、
それから誰かの悲鳴と銃声。
ありとあらゆる音が重なって、
彼女の声はとぎれとぎれに聞こえたわ。]
[ きっとわたし、立ち止まるべきだった。
立ち止まって彼女の声を聴くべきだったわ。
でもね、わたしはそうはしなかった。
立ち止まろうとするあの子の腕をぐいと引いた。
足早に廊下を進んで、ひとつの扉を開けたわ。
そして、中にあるデスクの引き出しから、
迷いなくあるものを取り出したの。]
──行って、ジャーディン。
ここはもうだめ、持ちこたえられない。
[ さっきまで引いていた手の中に、
わたしが強引に握らせた小さなものを、
ジャーディンは一瞬不思議そうに見た。
そして次の瞬間、勢いよく顔をあげたわ。
泣きそうな顔をしていた。
何かに怯えているようにも見えたわ。
本当に利口な子。その意味をきっと分かってる。
それは車の鍵よ。おじいさんの車の。
古臭くてぴかぴかの車を動かすための鍵。]
[ ジャーディン、あなたを生かすためなら、
ほかの何を犠牲にしたって構わないわ。]
[ わたしはジャーディンを急かすように、
入ってきたばかりの扉をまたくぐった。]
早く逃げて。とにかく一度車の中へ。
身を隠せるわ。音のほうに来るはずだから。
[ そう告げながら、廊下へ出たのね。
ガレージのほうへと導くつもりだった。
そのとき、おかしな音がしたわ。
音っていうのかしら、声? 低い声よ。
そう、家を取り囲むあいつらが出すような。
そして、ふとおかしなことに気付いたの。
どうしてさっき、銃声がしたの?
木戸が壊されて窓やドアを破られて、
家の中まで入ってこられるには早すぎる。]
― 隔絶された広い世界で ―
[割れた窓から入った風が頬を擽った。
その心地よさに、乾いた目を細めた。]
……。
[元より賑わいと無縁だった店内には、沈黙だけが満ちる。
コートのポケットに手を入れた。
ドアの側に落ちていたスマートフォンは縁が欠け、
表面にも亀裂が走っている。
指で画面をなぞってみても反応は何もない。]
[スコップ片手に裏口を出た。
どんよりと曇った空の下、所々荒れた畑が広がる。
収穫を待つばかりのそれらを靴底で踏み潰して、
既に道のように平らになった区画へ出る。]
[轍の傍ら、土の山の前に膝をついた。
取り出したスマートフォンをその上に置く。
薄汚れた手を胸の前で組み、首を垂れて目を閉じた。]
[周囲には、他にも似たような土の山がある。]
[大柄な男が、土を掘っていた。]
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[町はといえば、 町長から毎朝安否確認の電話が かかってくるから、その時間だけは家にいた。 連絡が取れなくなった家があれば、 その時に一緒に教えてくれる手はずだが、 今のところ他に感染者はでていないらしい。 日にちがたってくると、 〇〇の家に野菜をわけてやってくれないか、 なんて頼みごとをされることもあったから、 それも快く引き受けた。 代わりに、卵をもらったりすることもあった。 数種類の野菜ならある。 だが、もう野菜しかない、という状態に なりつつあったこっちとしても、 願ったりかなったりだ。 そうして、配達にいって、]
(18) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[店の裏にある小さな家へと入った。
動線を大きく取った室内には、元々物は多くなかった。
ハウスキーパーのドロシーが来たばかりだったのだろう。
床にも机にも書物が出しっぱなしだった形跡はない。
その中で唯一物が積まれているベッドへと向かった。
一人目の上着を取り、
二人目のマフラーを巻いた。
三人目のリュックには、
四人目の水筒と六人目の懐中電灯を入れた。
五人目は何も持っていなかった。
出て行く前に、使い込まれた様子の机の前に立った。
椅子はない。写真立ても、レターケースもなかった。
掌で木の質感を確かめると、手の形に埃が退き、
代わりに泥まじりの土と濁った色が線を引いた。]
あいしていたよ。
[返事をする者は、どこを探しても見つからない。]
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ん? なんだありゃ。 [普段、車で走っている時には、 あぜ道には人っ子一人いない。 たまに誰かがいても、トラックやバイク等、 何かの乗り物に乗っていることが多かったのだが、 その日は遠めに雷門さんが歩いているのが見えた。] おいおい、1人で出歩いてて大丈夫なのか?
[せめて自宅まで乗せていってやった方が いいかもしれない。 窓を開けて、おーい! と呼びかけようとして すんでのところでやめた。 慌てて窓を閉め、車を停止させる。]
(19) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[トラックの運転席へ足をかけた。
取り替えたタイヤが凹んだ土をしゅわり、轢いていく。
ラジオのボタンを押すも、ノイズすら聞こえなかった。]
――♪
[だから歌を歌おう。
何もないこの場所で、歌詞も知らない誰かの歌を。
トラックは、先の見えない道を進んでいく。]**
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[雷門のじーさんは、 杖がなきゃ歩けなかったはずだ。
今朝は何の連絡もなかったのに。
俺の目が間違ってなけりゃ、 じーさんは何も持たぬ両の手を 前の方へだらりとたらし、 ふらふら歩いてる様子がみてとれる。 こっちにはまだ気づいていない。
――畑のある方へ向かっている。]
(20) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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……歩けるように、なったのか?
[もしかしたら万が一、いや、 億が一ぐらいの可能性で そういうこともあるかもしれない。 それならいい。 それならいいんだが。
確か、体液に触れるとだめ、だったか。 考えが及んでいなかったが、 例えば、野菜に付着した体液の経口摂取でも あるいは、感染してしまうのかもしれない。]
(21) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ゾンビを殺したら ひとごろし?]
(22) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[いつだったか、随分前に そんな投稿がされていたことを思い出した。]
くそっ、
[ハンドルに拳を叩きつける。 ふーっと息を深く吐き出してから、 首に巻いていたタオルを外し、 頭の後ろでしばるようにして、目から下を覆った。 軍手をして、助手席においていた鎌を手に握りしめる。]
(23) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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『目が悪い』『音に反応して攻撃してくる』 『頭部殴打で死ぬ』『足は速い』
[SNSに投稿されていた情報を一つずつ思い出しながら、 車のドアを開いた。
それほど大きな音を立てたつもりもなかったが、 バンとドアを閉める鈍い音が向こうまで届いたのか、 じーさんはびくりと肩を震わせ、一瞬動きを止めた。
ぬるぬると、滑りそうになる鎌の柄を両手で握りなおす。 目が合った、瞬間。 こっちに向かって走り出してきた。**]
(24) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ はじめに目に入ったのは、
ぼとりと無造作に取り落とされた、
赤と肌色の入り混じった物体だった。
よく見たらその先端は五つに枝分かれして、
つまり人の手と同じ形をしていた。
ほんの今まで齧りつかれて
ところどころ白い骨が見えていた。
ひいっとジャーディンが小さく叫んだわ。
すると、ゆらゆらと揺れていた細い影が、
首を無理やりに傾けるようにこちらを見た。
そして、わたしたちを見つけた。
ず、ずずと足を引きずって、
それはゆっくりとこちらに近づいてくる。
穴の開いた顔をこちらに向け、細い腕を伸ばして。]
[ 足がすくんでいる様子のジャーディンを、
わたしはぐいと逆方向へと押したわ。
ノーリーンがやってくるのとは逆へ。
奇しくもそれはリビングのほうだった。
キッチンの勝手口を抜けてガレージに行ける。]
いいわね、隙を見て車を出しなさい。
そして逃げるの。どこか遠くまで。
[ わたしがこれだけ言うのに、
ジャーディンはいやいやと首を横に振った。
わたしの腕を引くの。強い力で。
その間にもノーリーンは距離を詰めたわ。]
[ わたしは強い口調でそう言った。
ノーリーンははっきりとこちらを見ていた。
いっしょに行こう≠チて、
この期に及んであの子が駄々をこねるの。
でももう無理よ。見つかってしまったもの。
この廊下の先に続いているのはリビングで、
そこにはチビちゃんたちがいるはずなのよ。
そんなの、だめに決まってるじゃない。
ジャーディンときたら、
本当に一度言い出すと聞かなくてね、
きっとこれは娘に似たのね。だって……、
あら、この話って前にもしたかしら。]
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