246 朱桜散華
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[置壱へと向けて歩み進めるマガツヒの動きが止まる。>>81 見やれば絡む、桜の根]
……桜……が?
[何故、桜がマガツヒの動きを止めるのか。 その意味は、わからない──けれど]
これ以上、なぁ。 ……血ぃ、流したく、ねぇんだよっ!
[そのためには、血を流さなくてはならないのだろうけれど。 それを厭う事はなく。 置壱とマガツヒの間に割り込むように飛びこんで、躊躇う事無く、握り直した匕首をつき出した。*]
(82) 2016/04/28(Thu) 22時半頃
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― 刹那 ―
[雨と雷鳴を背に立つ男の影は、どこか危うい。
よもや、との疑念が心の隅に泡のように浮かび上がるが、
助けを乞う声を聞けばすぐさまそれも沈むんだ。]
[そう、確か、家中に迎え招き入れたはずだ。
傍に立ち、二言三言言葉を向けもした。
だが己の問いも、返ったか分からぬ返答も、
現在は記憶の中からすっぽりと抜け落ち。
覚えているのは刃が身体に食い込む衝撃ひとつ。]
(――― … )
[致命傷であることは判り切っていた。
丁助は何か言っていたろうか、音は届けど認識には至らずに。
声ならぬ声を絞り出すが、身体は鉛のように重く。
やがて、意識も視界も漆黒に塗り潰されて]
― 狭間 ―
………
[気づけば、己の躯の傍に立っていた。
絶命の淵において靄がかっていた意識は、
現在は不思議な程澄み切っている。]
これは、死に切れていないって奴…かな。
ま、無理もねぇ。
[血の海に眉を潜め、手を伸ばしてみるが、
触れようとしたものは悉くすり抜けてしまう。]
おう、辰っつぁん。
済まないな、先にこんな風だ。
…お前さんには何から何まで、手間ー掛けさせるようで悪いな。
[辰次がやってきたのには、
届かぬと知りながら、生前と同じ声を向ける。
辰次の様子から、桜に魅入られし者の気配は受け取れぬ。
己の魂に僅かに残った感知能力も、警鐘を鳴らしてはいない。
だから恐らく、ひと一倍正義感と責任感の強い彼には
二重の意味で世話になることになろう。
事が終わった後の埋葬然り、
―――弟分のこと、然り。]
[暫しの間其処に佇んだ後で、
何が起きているのかを把握するのが先決と、
往けぬ魂魄はふらりと村を抜け、丘を目指したのだった。**]
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[突き出した刃は、違う事なくマガツヒを捉える。 確り、と返る手応え。 それにぎり、と歯を食いしばりつつ、それでも、力は抜かなかった。
飛び散る紅が、己が身を染める。
先に自身からも滲んだいろは、刃が捉えたのが何か、をはきと伝えるよう]
……って。 丁助?
[桜の花弁が雪さながらに舞い散る中、聞こえたのは耳に馴染んだ、声]
(91) 2016/04/28(Thu) 23時頃
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……んだよ、それ。
[見知った表情とよく知る声。 それが告げる言葉に、最初に出てきたのはそれだった]
……『依り代』になったから、じゃなくて。 お前が、自分で……やった、っての?
[力に溺れて。力が愉しくて。 自分の意思で、血を流したのだと。 その言葉に、ぎ、と唇を一度噛んだ後]
……おま………………この。 …………ばか、やろ、が。
[零れ落ちたのは、幾度となく口にした、悪態。 他の言葉は、すぐには出てこなかった。*]
(92) 2016/04/28(Thu) 23時頃
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ぎ……ぐがぁ……
[鉈が胸より粉のようになって外れ、徐々に薄い身体ははっきりとした形になってどさりと志乃の前に崩れ落ちる]
……し………の…?
[接した感触がしだいに暖かな慈愛のような、人の気持ちに触れだすと正気に戻って記憶を辿らす。]
…ぼく…は…
…僕はとんでもないことを…
[悔いても戻らない深い罪の意識が自分を襲う。自我が消えそうになってその場に泣き蹲った]
[鉈の柄を引き抜くと共に、それは粉のようになり掻き消えていく。
柄を握った志乃の両手には何も残らず、目の前に整然と同じ姿の亀吉が現れた]
かめにぃ…!
よかった……
[救うことが出来た、と。
志乃は安堵の表情を浮かべる。
己のしたことを理解し、泣き崩れる亀吉の傍へと寄ると、そっとその肩に右手を添えた。
落ち着かせるように緩やかに撫でてやる]
…かめにぃ、
桜、咲かせようとしたのは、どうして?
[今際の刻の記憶は薄い、けれど。
亀吉が桜を咲かせようとしていたのは薄らと聞こえていた。
志乃は自分を手に掛けたことは問わず、その原因となったことを問いかける]
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[丁助が置壱を呼び、置壱がそれに応じる。 目を逸らす事はしなかった。
見届けるのは、語り部の一族の務め、と。
そんな意識もどこかにあって]
……ああ。そーだな。
[求められた同意には、ひとつ、頷いて]
…………お前と意見があうとか。 何年ぶりだよ……ったく。
[ぼやくような口調で、そう言って。 は、と大きく息を吐いた。*]
(103) 2016/04/29(Fri) 00時頃
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う…うう…
[泣き崩れた自分に差し延べられた手、志乃とはっきり認識するものの顔はあげらずにその撫でてくれる手にただただ泣くばかり。しかし理由を聞かれて記憶を辿り。
少しずつ彼女にその始まりを話していく]
声が…
血を…血が…必要だって…
美しい…女性の声が僕を誘うんだ……
父が…母が……あっ…ああ…あ…
[再び錯乱し、頭を抱えるとぶんぶんと振り乱す。]
声……女性の、声…。
[血が必要と求める声。
伝承の通りならば、それは桜、ひいては巫女の声だと言うことになろうか。
丁助は異形となっていた。
ならば亀吉は。
刀を使っていたことから人の身のままだったのだろうと推測する]
… うん … そ っか
[父も母も手にかけたと思しき言葉にしばし返答に窮した。
頭を抱え振り乱す亀吉を、尚も撫でてやり]
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