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─ 第三甲板 ─
[道化とモンドの戦いは、丁度決着がついた頃だったろうか。
血飛沫すら浴びぬさま
───まだ、この男に分があるか。
だが、聞こえぬものが聞こえるが為か、道化に、以前ほどの畏怖を抱かなくなっているのも事実。
威厳はまだ健在か。
恐るるに足る存在か。
それを知りたくて、彼のあとをついて歩く。]
― 回想 ―
[グレッグを拾った海賊は、ホレーショーと名乗った]
ホレーショー、さん。
[名を呼ぶと、渋い顔をされた]
じゃあ。ええと。
……ホレーショー、の兄貴。
[さすがに呼び捨てで呼ぶのは、躊躇われた。
海賊は相変わらず仏頂面だったが、嫌ではないらしい。
その時から、ホレーショーはグレッグの“兄貴”になった]
ぼくを、どこに連れてくの。
[海賊は答えずに、グレッグを引き摺っていった]
[やがて船医に引き渡されれば
……グレッグ。
[名乗れと言われたから名乗ったのに、チビガキで十分だと返された。あんまりな対応だった。
ふつふつ、と怒りが込み上げてきて。
すべてに無気力だった奴隷が、初めて感じた生の感情だった]
……“俺”は。チビでもなければ。ガキでもない。っす。
[小刻みに肩を震わせながら答えた。
裸にひんむかれて、検分される。羞恥心、とても嫌な気分。
次々に感情が生まれ、一気に渦巻いて。グレッグは戸惑った。
こんなことは初めての経験だった。
最後に粉薬を全身に乱暴に振りかけられて。ゴホゴホと咳込む]
もう少し優しく。できないん。すか。
[恨みがましく船医を睨んだ。
こんな行動を取るなど、今までのグレッグには考えられないことだった。自分にもプライドがあったのか、と。少し驚いた]
[ある日。戦闘で大怪我を負った。
医務室でミナカに手当てされながら、グレッグは泣いた。
この頃からグレッグは泣き虫であった]
なんで。俺は兄貴の役に立てないんスかねえ。
[奴隷上がりで体格に恵まれないグレッグは。戦闘ではいつもお荷物だった。
兄貴の役に立てない自分が、ひどく悔しくて。唇を噛んで泣いた]
……兄貴には、泣いてた事。内緒ッスよ。
[治療を終えると、ミナカに念を押した。
ふと。医務室の薬瓶が目に付いた]
なあ、ミナカ。薬も過ぎれば、毒になるんスよねえ。
[何かを閃いたように、グレッグは呟いた。
学のないグレッグが今の戦闘スタイルを築き上げるには、ミナカの助けがなければ不可能だっただろう**]
メモを貼った。
メモを貼った。
―甲板―
[まだ予断は許さないが、ジェレミーが仲介に入ってくれたのに、心の内で感謝した。]
ジェレミー……
お前の事はもともと嫌いじゃなかったが、
こっそりキザな野郎だと思ってて悪かった……
[感謝ついでに、謝罪もしておいた。しかし。]
げ。
[そこに現れる、道化の姿。
先程、もしかして人狼なのでは、と思ったばかりの、
ミナカを「仔」と評していた道化の姿に、嫌な声しか出ない。
次から次に……
[頭をがりがり掻いた。]
【人】 奏者 セシル[やがて、ジェレミーとヘクターの間で、話をついて、 (55) 2014/12/15(Mon) 21時半頃 |
― 現在・甲板 ―
ひとまず。休戦ッスね。
[結ばれた休戦協定
ジェレミーの仲裁に心中で喝采を送った。その刹那]
……っ!
[ゆらりと甲板に躍り出る影
グレッグは息を止め、道化の登場を呪った。
思わず死因となった首元を押さえて。大丈夫、繋がってる]
あ、兄貴……。
[不安げな顔で、そっとホレーショーの背
− 回想 −
[奴隷上がりの癖に、チビガキは一丁前の口だけは聞いた
それに答える程暇ではない。]
知るか。チビでガキだからチビガキだ。
[それこそ名を呼ぶ等有り得ない、そんな勢いで。]
……役に立たないかって?
そんなの決まってるだろ。怪我するからだ。
[チビガキは一応船の仲間になったようだが、
略奪や戦闘の度に何かしら怪我をしていた。
今回も結構な傷を付けてきて、
おまけにぴーぴー泣いている
ただ一応答えていたのは、痛みでは無く、不甲斐無さからだと
判っていたからだが。]
すぐ怪我する様な奴、足手まといも良いとこだ。
ホレーショーの為を思うんだったらまず怪我すんな。
怪我しなくなったら、どう動こうか考えろ。
[お前のせいで、包帯や薬が減るんだよ、と口を尖らせ、
泣き虫はあいつが一番知ってるだろうから、
いちいち知らせるかと、文句と共に治療を終える。]
……何、思い付いた。クソガキ?
[何かを閃いた様な顔付きは、今までとは違うもので。
そこから薬や調合の仕方をしつこく聞きに来るまで
時間は掛からなかった**]
今日のヘクターは不運に好かれてるとしか思えねえな……
悪運の強さを祈るしか、ねえ。
[振り向いて、グレッグの頭をがしがし撫でてやる。
不安がるなと言いたげな動作だが、自分の顔もきっと、不安を隠しきれていなかっただろう。]
……生き残ろうと思ったら、船長との対決は避けられんからな。
[ミナカに重傷を負わされる前に遭遇していればよかったのか、
これ以上怪我を負う前に遭遇したのはまだマシだったか。
不運か幸運か、わからない。]
− 更に回想 −
[その日、チビガキの治療を終えた後で、襲撃したのは
ホレーショーの部屋。
扉を叩くと同時に入り込む。]
おい、ホレーショー。
今日の戦利品、治療費で寄越せ。
[憮然とした表情のまま、つかつかと部屋に入り込むと
今日のお宝を探し出す。
見つからなければ、彼の服を強奪する勢いで。
何事かと喧嘩を売られれば売り返す。]
あん?
てめえの拾い者のせいで包帯や薬の減りが早すぎんだよ。
お前の拾いもんだろうが?
払うのが嫌なら、あのガキが怪我しない様に
まともな立ち回り教えとけ。
[泣いていたとは言っていない。]
クソガキに死なれたら、今までの治療費無駄になるんだよ。
それとも身ぐるみ剥がして欲しいか?
[軽く喧嘩になった気はするが、それでも金貨数枚は奪い取った
記憶がある。
その後、馬鹿兄弟がどうなったかは知らないが。
生き残っているのだから別にどうでも良かった。]
グレッグ……おねしょは直ったか?
[それからまだ生きているクソガキの時々毒の調合を手伝う際、
からかう様に名を呼ぶ様にはなっていた**]
− また別の回想 −
[アル中の頭を叩くのはいつもの事だ。
飲酒用には出来ていない消毒用のアルコールにまで
手を付けたニコラスの後頭部を叩くと、
喉の奥に指を突っ込んで吐き出させる。]
酒で死ぬのは勝手だけどな。
治療で使う物に手を出すんじゃねえよ!
[多分胃や食道は荒れるだろうが、
飲まれたままの方が危なくて仕方ない。
胃液しか吐き出せなくなった後、漸く解放する。]
油断も隙もあったもんじゃねえな。
言っとくけど酒でも死ぬからな。
楽な死に方になると思うなよ。
かなり苦しむからな。
[死にたいなら船の縁から飛び込めと言い捨てる。
もう中毒になった者に、酒や阿片を何故求めるのかなんて
聞いても仕方ない。
仕方が無くても説教は続ける。医務室の物資の保護の為だ。]
酒飲み過ぎて死ぬのは惨めだぞ。
腹がぱんぱんに腫れ上がってな。
血を吐いて転がり回って死ぬ。
多分ジェレミーやリーにその前に殺されるだろうがな。
[そんな脅しが何処まで効くか判らないが、
少しでも、この船で繋いだ命なら。
そんな風に思ったかどうか、もう忘れた**]
―回想―
はぁ?おい、お前何しに――…
[丁度、その日の戦利品をまとめて、仕舞いこんだ時だった。
意味のないノックをして、目つきの悪い船医が乗り込んできたのは。いきなり人の部屋に入ってきて、いきなり家探しされ。]
一体何だってんだ!?!?
[しかし、見つけられなかったので、危うく服剥ぎ取られそうになった。
このあとめちゃくちゃ抵抗した。]
あぁ……?
んなもん、節約しろよ節約。
少ない薬で広範囲治せばいいだけじゃねえか。
[自己中心的理屈を捏ねたが、船医の前には霞んだ。
大体、ひょろっこいんだから、しっかり食って、後はバーンとぶつかって、何度でも打たれてりゃ自然と強くなるだろ。
[さらに適当すぎる持論をぶつけ、軽い喧嘩になった。
しかし、これを切っ掛けに、適当すぎる持論を考えなおし、多少ましに動けるように指導するようにはなった。
奪われた金貨数枚は高い授業料でもあったが。**]
[ジェレミーが剣を抜いたときは、なんとも無駄な威嚇を。
敵うわけがないし、そもそも声さえ届けられないのだから何重にも無駄な威嚇をしたが、ヘクターとの間に休戦が決まると安堵の声を漏らした。
――しかし]
……船長?
[現れた道化の姿に、ホレーショーとグレッグへ緊張が走る。
どうした、と尋ねる前に。
不穏な気配なんてものには、歴戦の戦士とチキン野郎は敏感だ。
嫌な予感がして、それでも情けなくヘクターの傍にいるしかできないわけで。
せめて、逃げ出す真似はしないでおいた]
− 海に啼く −
[副船長を道連れにするつもりだった。
出来る筈だった。
だが突然の横やりに、それは叶わなかった。
狼として、まだ未熟だった。
未熟な狼は自分の命だけを抱えて海に落ちた。
凪いだ海面に空に浮かぶ朱の月の様に、
紅が拡がり、溶ける様に消えた*]
[紅い聲に、時折、怪訝に耳を揺らしながら、道化の後をついて行く。
整然と変わることなく、音も無く。
キイチや、ギリアンの腕を落としたらしいリーの前では、やはり変わらず、恐怖の象徴であるように思えるのだが。]
[向かう先は、また甲板らしい。
経過は知らないが、結果、ヘクターは撃たれることなく生き延びていた。]
…………。
[彼の周辺の賑やかな一団も、やはりいた。
ので、船底でホレーショーに言われたことを思い出し、彼らの前まで来た時には、またヒトの姿になっておいた。
それから、これでいいかと問うように、ちらりと、グレッグを見た。]
[この船は、呪詛は、死者にも絶望を与えようとしているのか。
ちらりと見えた、どう見てもヤバイ存在は、死神が、どちらの魂を奪っていこうか――ヘクターのが死に近い位置にいる気がした――と見定めているようで。
………、死ぬなよ。
[船長の宣言に、絞りだすような声で願う。
先に死んでおいて、勝手な言い分だと、わかっているが。]
メモを貼った。
―回想:消毒用アルコールのこと―
ぇ゛……ぅえッ、げほっ、げ、
[チカチカして暗い視界、胸の辺りが酷く気分が悪いと思ったのが記憶の始まり。
口の中になにか固くて柔らかいものが押し込まれて、血とアルコールを吐き戻した。
鼻にまで流れ込んで痛くって、わけもわからず口の中のものに噛みついて。
やがて、喉が焼ける質が変わったころ、ようやっと解放された。
焦点の合わない目で、茫然と壁のシミを眺める。
やがて、徐々に意識と記憶が戻ってきた]
[朝、身体中を黒い虫が這い回り、皮膚を食い破る幻覚を見ていたのだ。
幻覚と分かっていても、到底耐えられるものではなく。
それなのに部屋に酒がなくて、階段を上る時間も待てなくて、それで――]
っ、い゛
[そうだ、ここ医務室だ。
話してるのはミナカだ。よおし、思い出した!
説教を始めたミナカへ、いまその話ししなきゃダメ?とたずねかけて
胃酸で焼けた喉が酷く痛んで咳き込んだ。
嫌な酩酊をした脳みそは、それでも幾つかの単語を拾い上げ]
リー、に…殺されるのは、やだなあ……ゲホッ、
……キヒヒッ、
[喋ろうとした声が酷くしゃがれてて、可笑しくて、いつもの酒狂いの声で、笑った*]
【人】 奏者 セシル 船長……。 (68) 2014/12/15(Mon) 22時半頃 |
ん?
[ホレーショーの背に隠れている
にょき、と現れる紅い影
……ヴェラ。
[今はヒトの形態を取っている彼は。
これで怖くないだろう、と言いたげにこちらを見た。
まるでこちらを気遣うように。
ちょっと恥ずかしくなって、兄貴の背から身体を出す]
(なんだよ……ヴェラにまでガキ扱いされるんスか俺は)
[ぷんすこ、と頬を膨らませて]
(死んでもガキ扱いって、もう挽回の機会がないッス……)
[とりあえずヴェラには、怨みのこもった視線を返しておいた。
とんだとばっちりだ*]
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