人狼議事


65 In Vitro Veritas

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 へ、イタコじゃねェの?
 だって生きてんのに、俺の声……、

[ヤニクの言葉を聞いて、目をぱちぱちと。]

 おゥ、見えてンぜェ。
 何、アンタも――ヤニクも、殺されたってのか……。

 殺ったヤツ、見たか?
 俺は咄嗟のコトだったんで、顔までは。

[参るよなァ、と溜息をつきながら、首を振る。眉根はきゅっと寄った。]


 あぁ! やっぱりそうだ、岩瀬さんだ!

 よかった!
 ……って、全然良かねーっすけど、よかった……!

[嬉しそうに、伸ばされた手を掴む。]

 俺はその……ニックに……俺のクローンに、階段から突き落とされちまって。
 あいつクローンなのに、自分達も人間だとか、何か、よくワカンネーこと言いだして……。

[何故殺されるほどの怒りを買ったのか、分からない。
 傍から見れば、その言動はクローンに殺意を抱かせるには十分だったかもしれないけれど。
 他者の痛みを深く理解するには、まだ未熟すぎて。
 だから、悪いのはニックだと。]


 そッかァ……アンタも死んじまったかァ……。
 全然良かねェけど、一人で誰とも喋れねェよりゃマシで……。
 んー、複雑なキブン?

[掴まれた手には少々驚いて。]

 ありゃ、ユーレイ同士なら触れンのな。
 さっき試してみたら、扉も生きてるヤツの体もすり抜けちまうみてェだったが。
 あーあ、モノに触れねェんじゃ、野球も出来ねェ。

[ヤニクのクローンを軽視するような言動には、特に口を挟まなかった。分からないではない。クローンには電子戸籍もないし、自分だって、クローンを目の前にしてなお、移植手術の続行を考えていたのだから。]


 オイオイ、俺とアンタが殺されたってコトは、犯人は野球嫌いかァ?

[とは、ただの軽口だったが。
純粋に連続殺人事件に対する疑問は深まるばかり。]

 俺を殺したのもニックってアンタのクローンなのか?
 ソレにしちゃァちィと妙っつゥか、俺の殺されたのと時間が近すぎるっつゥか。
 んー……コレ、やっぱ、クローンたちがやってンのかね。

[ニックに対して食料を我慢しろと言った蛯江。雪織もやはり、クローンに対して罵声を浴びせていた。
自分が殺されたのは、オリジナル全てに殺意が向いているのか、或いは移植手術を控えていたために……?

去年の駄作映画が再び思い浮かび、背筋がぞくりとする。]


 ホント、俺……何で殺されちまったんだろ……。
 岩瀬さんも……岩瀬さんこそ、何で……。

[もう片手も伸ばし、掴む。
 微かな震えは伝わるだろうか。]

 そう、っすよね……。
 野球、もう、できない、とか……そんなの。

 も……スタジアムで、岩瀬さん見れねー……って、思うと……。
 なんで、誰、が……アンタの事……っ!

[悔しくて仕方ない。
 三遊間での華麗な守備を、もう二度と見る事ができない。
 それ以前に、岩瀬はもう野球ができない。

 それがとても辛くて悔しい。]


[十字を切る黒田に気づくと、暫し悩んで。]

 ……お、おゥ。俺ンために、どォもご丁寧に。

[ぎこちなく頭を下げた。
あの黒田フランシスカに十字切ってもらったんだぜ、と自慢をしながら彼女のファンであるチームメイトの夢枕にでも立ってやろうか。

そんなことを思ったところで、はたと気づく。]

 そォいや、俺らってこっから出らんねェのかね。
 まだ試しちゃねェけども。
 所謂、ジバクレイってヤツ?


 クローンが、俺らを……?
 そしたらやっぱ、岩瀬さんは、目の事があったから、っすか?

[ならば何故、彼のクローンは、自らの目を抉って岩瀬に与えようとしたのか。
 少なくとも岩瀬のクローンは殺人は犯していない。
 だとすると、益々分からない。

 自分が殺されたのは、まあ100歩譲って、言動をニックが何かしら誤解したか、偶々何かの逆鱗に触れての、衝動的なものだったのだろうと。
 尤も、許す気になどはなれないけれど。]


[出られないのかと問われ、はたと顔を上げる。]

 え、どうなんすかね……。
 壁やなんかは、とりあえず擦り抜けちまうってか、何も触れねーっすけど。
 どこまで動けんのかは、まだ。

 とりあえず……。

[非常階段の方を指差して]

 俺の身体は、あっちの階段のトコにあるんすけどね。


[惜しんでくれる蛯江の言葉には、深く息を吐いた。]

 サンキュな。
 そんだけ言ってもらえりゃァ、選手冥利に尽きる、っての?

[笑ってみせようと思ったはずの口元が、歪む。

蛯江の前では、努めて気にしていないフリをして振舞ってはいたものの。
矢張り、もう二度と野球が出来ない――その事実は重くのしかかる。

仮に移植手術を諦めたとて、野球そのものが出来なくなった訳ではなかったろう。けれども、死んでしまえば、全てを奪われたのと同じで。]

 ……もう一回、試合、したかったなァ。
 せめて、もういっぺんボール触るだけでも。

[ぽつり。呟く。
おまけに、最後の試合が負け試合だったことが、今となってはひどく悔やまれた。]


伸ばされた蛯江の震える手に、空いた手をそっと重ねた。


 手、やっぱでけーっすね……。

[重ねられた手が温かい。
 ずっと荒んでいた、張り詰めていたものが、少しだけ和らいだ気がした。]

 でも、その……。
 俺にとっちゃ、野球、なくなっちまっても、岩瀬さんは岩瀬さんっすから……。
 それに、こんなコト言ったら、アレっすけど。

 ……岩瀬さんで良かったな、って、ちっとだけ、思っちまって。

[多分、他の人間の霊と出会う事があったとしても、こうはいかなかったろうと。
 おそらく、殺伐とした気持ちばかりが膨らんで、怒りと憎しみばかり成長し続けたろうと。]



 だからその、なんつか……ごめんなさい。
 
 


[謝る蛯江の手を、軽く叩いた。]

 ヤニクが謝るコトじゃねェよ、お門違いってヤツだ。
 アンタがどう思ったって、俺が死んだのとアンタとは関係がねェこった。

 俺ばっかじゃねェ、アンタだってやりてェコト、色々あったろ。
 けど、ま、うじうじしたって生き返るワケじゃ、ねェし。

[多分に空元気ではあっても、ほんの少し、笑ってみせる。]

 ふゥん……じゃ、この病院から出られるかどうかは、分かんねェってこったな。
 あとで確かめてみっか……俺、どォせ幽霊やんなら、こんな廃病院よかスタジアムのが良かった、つゥか。

[や、スタジアムだったら却って歯がゆくなっちまうかな、と呟いて、首を回す。
それでも、自分を殺した者に対する恨みが心の底に確かにあるのは否定できなくて。どうしてか、ここから出られないという予感だけはあった。]


[岩瀬の言葉に、自嘲し、頷いて]

 そっすね……。
 死んじまったら、もう、どうやったって生き返れやしないんすから。

 へへ……やっぱ、ここ居ンのが岩瀬さんで、ホント良かった。

[つられるように笑みを浮かべる。
 選手としては、勿論大好きだったけれど。
 度量の広さを直に感じて、今まで以上に、今更のように。
 野球選手としてだけではなく。]

 ……っへへ、たしかに、こんな病院で地縛霊なんてイヤっすよね。
 どうせなら俺も、どっかウルブスの試合見られっトコ……あ、でもそれよか……。

[どこがいいだろう、などと。そんな事を考える余裕もできてきた。
 尤も、自分を殺したニック、そして岩瀬を殺した誰かへの恨みや怒りが消え去ったわけではないので、まだ此処には留まり続ける事になるだろうけれど。]


[笑みを浮かべた蛯江に目を細め。]

 そォそ、笑ってた方がずっとイイだろ。
 怖ェ顔してっと、まるっきりユーレイみてェに辛気臭くなっちまうかンなァ!
 俺もヤニクが居てくれンのは、有難エね。

 ……他に居ねェってのもフシギなモンだけどよ。
 病院ってェのはユーレイとかつきモンだろうに。
 マジで昔の野球選手のユーレイとか、居ねェのかなァ。

[そういえば、雪織もどこかにいるんだろうか、などと思いながら。]

 ん? それよかどっか行きてェトコ…とかあんの?
 ま、外へは出られっか分かんねェけど、病院内をちィと回ってみっか。

[こうして話している分には、気も紛れて悪くない。掴まれたままの手をふりほどきかずに、くい、と軽く引いた。]


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