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なっ……
[そしてその告白
そして兄が妖だったと聞いて動揺の様子も見せないことに納得がいく。]
……夜にお前は、祟り神に会いに行っていたのか
[頷くか否定してもそう変わらない答えが返ってくれば、目を伏せて
祟り神にも申したという言の葉を、噛み締めた
そして顔を上げて白い掌をじいと見つめ。]
……いいや
美しい、よ。
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―下界―
[たまこが去って行くのを見つめ、その姿が完全に見えなくなるのを待ってから。
とぼとぼと屋敷裏の泉へ向かう。
久方ぶりに会えた神。
嬉しかった。
懐かしかった。
でも――。
邪念を振り払うように、頭を振ると、高天原でそうしていたように清らかな水に身を浸す。
湧き水が、凝った穢れや邪な考えを流していってくれるように。]
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[それからその掌を、今度は自身が優しく握って]
今の志乃はまるで姉か母のようだけれど
僕はそんな君のほうが、好ましいかな。
[祟り神すら、妖すら受け入れ慈しむ妹
その凛とした姿は、恐ろしくなど無かった。]
……行こうか。
[それに気付けた闇神だったものは、陽光の下に出る覚悟を――決めた*]
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― 回想:祭壇→自邸 ―
[ウトと別れれば日向の手を引き、
痛む胸を片手で抑え、そのまま自邸へと戻る。
まだ日向が泣いているようなら、
その背を頭を優しく撫でた。
あやすよう 慈しむよう 労わるよう。
彼女の言の葉に耳を傾け
文句を言うなら、両手で耳を覆うことなく、
微笑んで聞いたろう。]
[――……その、夜半。
部屋の中、舞い散る札に、鬱陶しげに眉を顰め
顳かみを抑える手首には、鮮やかな紐が巻かれたまま。]
嗚呼、もう、またか。
――……邪心ないなんて、戯れ言やったか。
[実りの神は、返し矢には当たるもの。
そう、相場は決まっているのだろう昔から。
抗う力も残っておらず、どうにも自嘲を堪えきれない。
今度は苦痛を伴わなず、ただ力を奪われ堕ちていく。
瞼を閉じればするすると。
そうして最早余り残っていなかった、
最後の神力で、叶うならばと――……
男が居た処には、黄色い、花が二つ。
鬱金香と、向日葵と。
何処から現れたのか、ふわりと蝶が舞い、とまる。
陽の色をした花片が 仄かに風に揺れていた。*]
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[驚いた様子の、兄に。
夜の外出を気付かれていたのだと知れば、
少し気まずそうに曖昧な笑みを浮かべ、頷いて。
手を取られ、姉か母のようだと言われると。
……三桁も生きていれば、
どちらが姉でも兄でも変わりませんわ
わたしたち、もう、人なのよ?
ここにいる人たちから見れば、化石みたいなものじゃない
[笑いながら、繋いだ手を引いて]
――……ええ、参りましょう
[*光の下へ*]
―― 天界・昨日のこと ――
[華月たちと別れて、投票を終えて。
手ぶらで行くのも悪いからと一旦邸に戻って味噌とお酒を持たせてもらい、朧の邸を訪ねた。
邸の主は留守にしており、門は開け放ってあったので失礼しますと頭を下げてくぐった。
縁側に持ってきた手土産を置いて、池の淵に腰掛ける。
ちゃぽ、ちゃぽ、と音を立てて寄ってくる鯉にくすりと笑いかけて]
――――…ずっとずっと、好きでした。
[そう呟いた。零れおちた言葉は、静かに空気にとけていった]
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― 下界:何処か ―
[手に梳く髪の黒。傍らの花の朱。一片の蝶の、その白さ。
朧月のようにぼんやりとしたその面影は、徐々に薄れ。
瞼を上げれば只管に、空の蒼さが目に痛い。]
―― 何処やここ。
[陽の光を遮るよう、持ち上げた腕がずしりと重く、
手首に巻かれた紐の鮮やかさが目に留まる。
そうだ。堕ちたのだ。]
…………、泣いて、へんやろうか。
[最期に見た顔は、笑っていただろうか。
そんな事を考えるも、記憶はどこか朧気で、覚えていない。
針で刺したように、胸の奥の奥、
確かに脈打つ心の蔵が、痛む気がした。**]
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―― それから ――
[目を開いて、暗闇の外を知った。
初めて見る光の世界、幾度も傍らの妹にあれは何かと問い色々なことを知っていって、それはとても楽しかった。]
これから、どうしようか。
[幾つかの時を共に過ごした後、そう問えば志乃はなんと答えただろう。
己には目的など何も無い、しかし彼女は違うのならばついていくのも悪くない。
それと同時に、以前の自分は暗闇に妹を閉じ込めようとしていたと自覚した今は共に在ることが縛ることになるならばいっそ……とも思っていて]
―― ??? ――
[その男
二人あるいは一人での旅路の途中に。
二羽の烏の雛、巣から落ちたらしきそれをどうにか戻すことは出来ないかと、木を見上げていた時
ふと視線を下げ、何気なく辺りを見て
行き倒れか、最初はそう思ったが何処か痛ましさを含んだように見える表情と手首の鮮やかな紐が目に止まり。]
……
無様ですね、お互いに。
[自然とそんなことが零れ落ちて、唇を歪め笑んでいた**]
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[そのまま柔らかい草の上に寝そべっていれば、
腕を持ち上げ、顔を上げる。
聞き覚えはあったけれど、
予想していなかったその姿に、思わず目が丸くなる。]
あはははは、そうやな。
無様やなぁ、――……お互いに。
[すぐに、見知った顔に会えるとは思っていなかった。
妙な安堵感から、自然と頬は綻んで。
黒い雛をその手に持ち、此方をはっきりと捉える双眸は
どうやら光を宿しているようだ。]
――……ずっと、見えてたんか?
[何故、見たことがない筈の己がわかったのだろう。
ふと、思ってそんな、問いかけを。**]
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いいえ、光を得たのは堕ちてからのことです華月様。
[その口調、無様だと肯定し笑う声、やはり男は華月であったようで
なんででしょうね、僕もよく分からないんです
もう一度会いたかった、そう思ってたからかな……
[華月の隣、草地へ座りながら
また咳き込むだろうか、反応を見てから続ける]
そして、化けの皮を剥がしてみたかったな、と。
[にっこりと笑いかける。
抱えた雛達は何故かしきりにそのまだ柔らかな嘴で華月を突こうとしていた]
[それから少しばかり言葉を交わしてから]
それで……
貴方様は行く宛ては、あるのですか?
[と問い掛けた**]
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[禊を終えて屋敷に戻れば、どうやらたまこの忘れ物らしい包み
中を改めれば、彼女の作ったらしき団子が詰められている。
どうしたものかと思ったが、次はいつ来られるのか分からない相手だ。
食べ物をこのまま置いても勿体無い。]
皆でいただきましょうか。
お礼とお詫びは次にいらした時に言うとして。
[一応だが、神の食物なので人間が食べることの影響を考えたが、たまこは美味しいものを作りたいだけのようでもあったし、さすがに不老不死などにはなるまい。]
後で道の神の祠にも何か供え物を考えましょう。
[米と小豆がいいだろうか、と団子を口にしながら思った。]
団子はちゃんと普通ので美味しかった
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― 昨日:→華月邸 ―
[帰り際、昔のように手を繋ぎ、
此方の存在を確認するかのように
その小さな手に力が込められる。
どうやら、己が追放されたと思ったらしい。
その度に、ほろ苦く笑いながら、
日向の頭を撫でてやる。
何度も何度も繰り返し。
離れたくないと言われれば、
困ったような笑みを向け]
ええよ。
今日は一緒に寝ようか。
[名前を呼び、
彼女の濡れる小さな頬を両手で包み込む。
どうか、これ以上涙で頬を濡らす事がないように。
なかなか寝付けない様子だけれど、
眠るまでは、傍らに。]
[今にして思えば、
彼女の処にも報せの虫が来ていたのかもしれない。
穏やかに、隣で眠るその柔らかく黒い髪を梳き、
部屋に舞い、己の廻る白を見ながら、
そんな事を思い、只、嗤う。**]
― 下界 ―
[懐から手に馴染んだ煙管を出せば、
火を付けゆるりと燻らせる。
その煙が蝶になることなく天に昇るのを眺めれば
詰まらなさそうに眉を下げ。
隣に座り込むのを胡乱気に見詰め、]
――神に化けてたのはそっちやろう?
僕に化ける力なんてあらへんよ。
[へらりと笑い、黒い雛に、そっと指をつつかせる。]
[
行く宛てなあ……。
行ってみたいところはあるなぁ。
下に来るのは、百年振りやし。
[以前の騒動の時、月詠が堕ちた村。
一度、尋ねて見た事があるけれど、今はどうなっているだろう。
そうしてもう一つ、行きたい場所がある。
拾い物をしてからは、暫く来てはいなかった。
豊穣の祭りには、まだ早いけれど。
立ち上がり、草を払えば頬にはたと何かが当たる。]
――……嗚呼、雨降ってきたなぁ。
どっかで、雨宿りせんと。
[手の甲で拭ったその雫は
何故かほんのりと、温かい気がして。
もう痛まない筈の胸の奥が、また、微かに痛んだ。**]
[天に昇る煙
……ふふ。華月様は僕になど会いたくは無かったのですね、哀しいなぁ。
[古き神だった華月が己の言葉に咳き込む様を見れるとは、視力を得てからは楽しいことばかりだ。
嘯いて笑う己の表情は、まだ妖のようであっただろうか]
――おやおや、実りの神が月詠だったのですか。
通りで惑わせられなかったわけだ。
[大袈裟に肩を竦め、戯言と共に化けていたことを肯定する。]
さて、どうだか……僕には実りの君はお優しいだけではないように、思えましたけれど。
[雛の嘴は指先を傷つけることも酷く痛ませることも無いだろう、しかし何がそんなに気に食わないのか一心不乱につついている。
苦笑して二羽を華月から離し、へらりと笑う顔を見つめて]
こちらばかり見通して、貴方自身のことは何も見せてはくれないのですね。
[緩く首を傾げた**]
ああ、下界に来たことがあったのですか。
[確かに華月
立ち上がる彼を見上げれば、何かが額を濡らしたのを感じる。
そしてはたと何かに気付いたように視線を逸らす。]
……近くに村があるそうです。
貴方と共に、行っても?
[ふざけた色も妖しげなものもない、常の亀吉の表情で問う
嫌だと言うのならば、仕方ないが。
日向を置いて人と成ってしまったのであろうこの男を、少しばかり心配もしていて**]
―屋敷―
[驚いた。
流石の己も。
あの男がこの辺りでも有名な医者だとは。
あの時もそうだが、普段から余裕で帯刀しているし。
その腕前も相当なものだ。
山もいくつか所有しているらしい。
ある意味、生活に困ることはないこの男に拾われたのは白蛇の加護かもしれない。]
…そうでしょうね。
[数少ない使用人の話に頷く。
変わり者故、敬遠されているらしい。
それを本人が全く意に介してないのが、とぼやく。
そこへ。]
『あさたんあさたん、たすけて。』
[そんな声が聞こえて。
何だろ、と男の元へと足を運べば、多くの書物やら薬草やらで埋め尽くされた足場のないような部屋の机にぐてんと突っ伏している。]
何、してるの?
[己の呼び名に関しては最早何も言うまい。
無表情でそう尋ねれば、腹が減って力が出ないという。
そこで何故、己を呼ぶ。という突っ込みを心に仕舞いつつ。]
わかった、伝えとく。
[そう告げて、踵を返せば。]
『僕様、あさたんの手作りがいいなァ。』
[背中に届く甘えた声。]
……薬草、取ってくる。
[無視して、外出する。
薬草摘みはここに来てからの日課に*なったいた*]
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あはは、虚言を、よう言うわ。
[
哀しむどころか愉しんでいるように思える。
ふっと神妙な面持ちになり、]
亀吉、知ってるか?
人間はな、虚言ばかり言うてたら、
死んだ後閻魔さんに舌抜かれるらしいで?
[昔、人から聞いた事のある、そんな迷信を一つ。
己は信じてはいないが、諫言とばかりに言い含め。
煙を肺腑の奥へ吸い込む。]
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――……そんな力なんて無くとも
その妖しさで、充分わかるやろう。
[此方に見せる亀吉の微笑は、
瞼の裏に鮮やかに、焼きついているのと大差ない。
肩を竦める亀吉に肩眉を上げて見せ、]
へえ。
僕はこんなに優しいのに?
[此方をつつく烏の雛に、気を悪くする事もなく
離れていけば、もの寂しそうにそちらを見やり。]
その眸で見透かしてみたら?
せっかく、見えるようになったのやしな。
[首を傾げる亀吉に、ふっと殊勝な笑みを向けた。]
[その雫の根源を、探すかのように空を見上げ
次いで、共に向かうという亀吉へ
ゆるりと視線を巡らせ首を傾ぐ。]
――……別に、ええけど。
僕ご老体やから、ゆっくりな。
[特に拒む理由もない。
されど一つばかり、注文をつけたのは
何となく、少しでも長くこの雨に
触れていたいと思ったからで。**]
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―下界―
[井戸水を桶に汲み、柄杓をからからと鳴らしながら小道を行く。
村の中に数多ある祠を祀る日々。
一日ですべてはまわれないから、数日に分けて。それを繰り返せば、毎日何かの神と向き合うことにはなるのか。
晴れた空を見上げる。]
――はしけやし、
わぎへのかたよ
くもゐたちくも
[こうして仰ぎみていれば、たまこに、高天原の神たちにいずれ見えることもあるだろうか、と。
戯れに古歌を口ずさむ。]
[道の神の祠には米と小豆を供え、機織りの神の祠には水と花を置く。
花は、いずれこのように、美しい布を織れますように、と里の子供たちが摘んできたものだった。]
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