23 きらきら夕日と、なかまたち
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[公民館から、学校の前を。
雷門が住む本家前を。
秘密基地の前を。
皆で通った道を。
自転車で走る。走る。走る――――]
やっぱ、まだ森に居るんだよなァ。
[勝丸にならって、皆で手を合わせた地蔵の前。
捨てるように自転車から降りる頃、源蔵に出会っただろうか]
[亀の甲羅を二つ背負ったかのように、
ふうふうと荒い呼吸を繰り返しながら、森を降りてくる。
その途中、蹲っているゆりの横を通ったかもしれないが、
少年は気付かずに、地蔵まで辿り着いた所で――]
あ、たっちゃん!
あの……ゆりちゃん、降りてきてませんか?
[彼の顔を見つければ、飛びつく様にそう尋ねた]
[慌てた様子の源蔵に、視線を合わせれば]
源蔵か。
……いや、会ってないっつーか。
やっぱ、ゆりは、皆と一緒じゃなかったんだな。
[困ったように、眉をさげてから。
2人分の荷物を持つ、源蔵の頭を撫でて]
あとは、俺が探すからよ。
お前は公民館行っててくれるか。勝丸が待ってる。
[いつもの様に、にかっと笑って、森の中へと]
[辰次に頭を撫でられると、
じわ…と目の端に涙が浮かぶ。
いつにないゆりの行動に、緊張していたらしい]
う、うん……。
僕、待ってるから。
絶対、ゆりちゃん見つけてきてね!
[にかっと笑う年上の少年を見上げて、
その背中に手を振った]
[木の根がそこかしこに伸びている森を歩く]
源蔵も頑張ったよな、二つも荷物持って。
勝丸も猫触れるようになったしよ、大人しくしてたな。
小鈴は、日向と夕顔が、ちゃんと連れてくんだろうしさ。
[遅刻しかけたり、子猫で悪戯したり。
そんな自分を少しだけ振り返って]
実は俺よりあいつらの方が、大人なんじゃねェの。
[一人一人の顔を思い出して、最後に浮かぶのは]
ゆり、何処に居んだろうなァ。
[分かれ道に差し掛かれば、一度足を止め。
ぐしゃぐしゃと、両手で頭をかく]
そもそも、ゆりのあんな声、あいつのばーちゃんが死んだ時にしか聞いてないしな。
何があったんだかしんねェけど、あんなん…。
あ。
えーっと、なんだっけな。
ゆりが、ばーちゃん死んだ時に、行ってた木がある、って。
確か、大きな……。
[森の中には百年杉ほどじゃないが、たくさんの大きな木がある。
その中でも、覚えやすいのは]
あのクスノキ。
[ぱん、と自分の頬を叩いて気合を入れて。
真っ直ぐ向かった先には、長い黒髪を揺らす女の子が―――**]
[あまりの痛みに意識は朦朧としていた。汗でTシャツは背中に貼りつき、応急措置はもう意味を成していなかった。
ここは、下級生も知らない場所。こんな所で死んじゃうのかしら、と、ぼうっと考えて。
死ぬ前にもう一度、みんなに会いたいという気持ちが込み上げた時、揺れた瞳が、幼なじみの姿を映した]
た、つ、じ…?
[生まれた時から傍にいた少年の姿を見て、どうしようもなく安心して、ぶわっと涙が溢れた]
辰次、辰次……っ!
[何度も名前を呼ぶ。それ以外の言葉が頭から消えてしまったように]
[駆け寄ってきた少年に、両腕を回してしがみつこうと]
辰次…辰次ぃ…っ
[荷物を前と後ろに背負って、とぼとぼと、公民館へと歩く]
ゆりちゃん……たっちゃん……。
大丈夫、だよね。
みんな、みんな。大丈夫だよね。
[じんわりと滲む涙を見られたくなくて、
ぐしっと。
乱暴に拭った]
うお。
[何時もよりは力弱い、その腕が自分に回されるのを、半ば驚きつつ]
……な、なんだよ、暑さでバテでもしたか?
もう、大丈夫だかんな。
[ぎゅっとしてくる少女の背中を、ぽんぽんと撫でる]
[幾許か――嗚咽が少し収まる頃。
タオルをゆりの首に、軽く巻き。
帽子を頭にぽすっと載せ、顔を覗き込む]
うごけるか?
地蔵さんまで、何とか頑張れば、後は自転車乗せてやっから。
[同い年の幼馴染。自分より少し背の高い少女を、おぶったり、抱き上げたり。
出来ればかっこいいのだろうけど、それは今の自分には出来なくて]
……ブルーみたいに、なんでも出来りゃァ、いいんだけどよ。
[ 絶対に背ェ追い抜かしてやるんだかんな。
なんて、今の状況にそぐわない事を思いながら、手を差し出した]
…ん。
[差し出された手を握ったら、そこから力が流れて来る気がした。痛みはまだ強かったけれど。何とか立ち上がる。
と。自分の状態に気づいて]
あんまり、こっち、見ないで、ね…?
[羞恥に顔が染まった]
助けにきて、くれたじゃない。ヒーローみたいに。
わたしは、イエローだから、助ける側なのに、ね。
情けないなぁ…。
[弱々しく笑って、前を行く少し下にある頭に、こてん、と額つけ]
ありがとう…。
[とぼとぼと公民館まで来れば、
そこにはまだ勝丸の姿があるだろうか。
二人分の荷物を玄関脇に置いて、ぐしっと涙を拭いながら中へと入る]
たっちゃん……無事にゆりちゃん見つけられたかな?
何もなければいいけど。
[森へ入っていく辰次の背中を思い出しながら、
ぽつりとそう呟いて。
ふと、外を見れば。
いつしか、お日様は。西へと傾きかけていた]
小鈴ちゃんたち、ちゃんと”たからもの”見れると良いな。
[幾分赤みを帯びてきたお日様に眸を細めて呟いた後、
ふと気付いた様に]
あ、みんなを迎えに行くのに、
雷門おじさんに車を出して貰わなきゃ!
[子供の足で歩いて行けば夕暮れまでかかる百年杉も、
雷門おじさんの車で上がればほんの数十分で登れるから]
かっちゃん、僕、雷門おじさんの所に行って来るよ!
[勝丸が公民館にいるならそう告げて、
まるで放たれた矢のように飛び出していった。**]
[途中何度も休憩を繰り返し、いつもの倍以上をかけて森を抜ける。遅いペースに、苛立っているかもしれないのに、辰次には文句一つ言われなかった。
漸く辿り着いた地蔵の前、自転車の後ろに座って背中にしがみ付く。ちょっと逞しく思えるのは、いつもわたしが的にしているせいかしら、と若干おかしな事を考えながら、落ちないようにぎゅうっとした]
先に…わたしの家まで、送ってもらえる?
着替えたいの…。
[波のように訪れる痛みは少し軽くなっていたけれど、このままの恰好で公民館へは行けない]
おう、ゆりン家な。
じゃあ冷えた麦茶くれ!氷入ってるヤツ。
[なるだけデコボコしてない道を選びつつ、カーブを遅めに曲がって、ゆりの家の方向へ走る。
ツクツクボーシの鳴き声が、そろそろ日が落ちるのを知らせる]
そろそろ夕日だな。百年杉までの道を間違える……って事ァないか。
[細い声のゆりとは反対に、なるだけ何時ものように明るい声で話しかけながら。
しゃこしゃこと自転車を漕ぐ。
村の住宅街が近くなってくれば、源蔵の乗った車とすれ違うだろう]
分かったわ。
…ごめんなさいね、お腹すいてるでしょう?
公民館に行けばお弁当の残りがあるから、わたしを送ったら、行ってもいいのよ?
[少し温度の下がった風が肌を撫ぜる。置いてきた子たちを思いながら、せめて辰次はみんなと一緒にいてほしい、と]
[麦茶のお茶請けは、牛乳寒天にしよう。傷むかもしれない、と、お弁当には入れられなかったから]
小鈴、きっとあの景色、喜んでくれるわよね…。
[自分は見られなかったけれど。
きっと残った子たちが立派に案内をしてくれるだろう。
帰ってきたら、謝らなくちゃ。
そして、良くやったと、いっぱい頭を撫でてあげようと思った]
あの夕日を嫌いなやつァ居ないだろ。
小鈴だって気にいるに決まってんじゃん!?
[初めて見た夕日を思いだしながら、自信を持って、言う。
そして、軽く音を立てて自転車が止まる]
着いたぞ。むーぎちゃ!むーぎちゃ!
あっちいから、何杯でも貰って待ってるからな。
[ゆりが降りるのを確認してから、無駄に胸を張った]
[くすりと笑みを溢して家に招き入れる。グラスにたっぷり氷を入れ、冷蔵庫から取り出した麦茶を注ぐ。
お盆にグラスとポット、牛乳寒天を置いて運ぶと、奧に引っ込んだ]
…待ってて、くれるのね…。
[奧の部屋では、弟たちがテイコクジャーを見ていた。やはりイエローは男で、更に言えば、少々太めであった]
………。
[何も言わずに母の仕事部屋へ。事情を告げると、驚く程優しい対応をしてくれる。お赤飯炊けなくてごめんね、と言う母に]
別にいいわ。
夕飯は、昨日のカレーがあるもの。
あ、シャワー浴びたら、また出かけてくるから。
[青白い顔で微笑んだ]
[腰を温めなさい、と言われてお風呂に入る事にした。
湯船に浸かってぼうっとしながら]
どうして辰次はあそこに来てくれたのかしら…?
[自分が無意識に助けを求めたのには気づいていない]
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