人狼議事


64 色取月の神隠し

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─ 狭間の月 ─

[狭間の月の光を浴びて、彼岸花が燃えていた。
幽玄の園を彩る灼熱の花弁が
一面を紅蓮の絨毯の如く染め上げながら、
時折ふわりふわりと行き交う妖しの偶像を微かに映す]

 奏でてますねぇ…常世の祭囃子
 聞こえますやろか?
 現とは、少し趣違いますけど……
 愉快に踊るんは、ヒトも妖しも同じなんですよ?

 妖しにも思いはあるんやから──


[遠くの方から絢爛情緒に響く囃子の音
一歩女が歩めば、彩花の煌めく狐火が
まるで祭の標の提灯のように
先へ先へと連なって、誘うように揺らめき出す。

しゃらり しゃらりと舞うように
女の足は軽快に跳ね
彼岸の色に一層朱く染まり征く葡萄の衣が
逢魔時の黄昏に溶け
妖艶にはためいた]


 慣れてきたら見てきたらええんよ?
 妖しの夢舞台。
 沙耶や、先に来た子に
 怖ぁ思いさせるような子はおらへんから

 今は朧気にしか見えんかもしれんけど
 ようけい集まって来てるから
 現では見えなかっただけで
 ヒトの側で一緒に暮らしてる子らも多いんよ。
 うちみたいにね。

[携えた手にもう片方の手を重ねる
箏は己 己は箏
この隠世へ赴けば、現のような差異はなく
女と箏は同化をすれば霧散して
そして再び顕れる──] **


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――あやかしの里・???――

 『これ は……』

[忘れる筈もない唯一の気配を感じて蛟竜が呟く。

もう二度と逢うことは叶わぬやもしれぬ己が最愛のヒト。
現世と隠世――その近くて遠い次元の距離に隔てられても。
互いの絆は固く結ばれている―――。
その想いを永久に信じることが出来る尊い存在。

病弱ながらも、凛とした佇まいの女性がはっきりと思い浮かべられる。
優しさの中にも、確固たる信念を持つ強くも澄んだ瞳。
絹のように滑らかで細い漆黒の髪。]

 『巴―――…いや…』


[彼女が今、此処に来ることはない。
それによく似てはいるが彼女とは違う気配だと気付く。

そうであるならば、考えられるのは―――。]


 『仁右衛 門――――…』


[逢ったことのない我が子の名を口にする。

それは、現世を去る数日前。
共に暮らしていた巴から、その身に己が子を宿したと聞き、二人で決めた名であった**]


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 ―回想・月見の磐座―

[志乃に導かれるまま、ゆっくりと弦を弾く。
 一つ、二つ音が重なる度、顕わになる真昼の月]

 あ……月が……
 近付いてる……あっちの、世界……。

[半身を彷徨わせている娘だから、その場所が夢の世界と同質であることに気付いた。
 その刻もあやかしの声に耳を傾けていた半身へ、現の身がゆっくりと合わさっていく]


 私の……思い。
 ――私には何があるんだろうって、ずっと思ってたの。
 何も出来なくて、からっぽのまま消えて行くのかなぁって。

[現世から身が遠ざかっても、志乃を奏でる己の手は確かにそこに在り。
 今はまだ拙くとも、その感触を確かめるよう丁寧に音を繋げて行く]

 でも、これからの私は、志乃と共に在れるんだね――

[いつしかその音色は、龍笛の音と重なっていた。
 夢の中でも響いていた、あやかしの力を秘めし調べ。
 その響きにそっと背を押されるように、一歩を踏み出せば――]


 ―隠世―

 う……わぁ……

[燃え立つような彼岸花の紅は、そこでは焔と化していた。
 思わず花園の袂へ駆け出して、狭間の一本道の手前で足を止める]

 ここが隠世……あやかしの、世界……。

[現世と異なる祭囃子が、遠くから響いていた。
 志乃が隣に居るからか、不思議と恐ろしさは感じず、幽玄なる光景を眺めていた]

 すごい……。
 こんな世界が……本当は、すぐ近くにあったんだね。
 ずっと気付かなかったのが……不思議なくらい。

[ヒトと共に在ったという九十九の箏。
 永き刻を経たそれが、今は女の形をして、己の手を覆っている。
 確かめるように、繋がれた片手を小さく揺らし。
 そして狐火に導かれるまま、里へ向けて歩み出した]


やがて二人は、あやかしの里に辿り着くか*


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 何もない存在なんてないんよ。
 何も出来ないことなんてないんよ?

 只の箏やって、こうやって沙耶と話できてるんよ?

 ヒトや妖し
 うんん、草木や動物、家の棟棟全て
 思いは持っていますんよ。

 美しいものを感じれば嬉しく思い
 別離があれば悲しく思う

 人ならざる者が言の葉を持てないか
 人に紡ぐ言の葉が届かないだけ 

 せやから、言葉亡き言葉を音にしますんよ。


 沙耶はこんなにも輝いて
 こんなにも真っ直ぐで
 たくさんの思いを伝えてくれたやん。

 妖しを感極まらせるなんて
 普通のお人ではでけへんよ。

[頬に残る僅かな跡を恥ずかしげに拭う
無論先程まで泣いていた証だ。簡単には拭い去ることはできないだろう]

 ここに居て沙耶が望んでくれるのならいつまでも
 永久に、うちは側にあって沙耶と語れますよぅ。
 万物の思いを繋ぎ
 全なる思いを奏で
 壱の想いを全てに届けられますよ。
 秋風が世に豊穣を運ぶように

 もし……


[次の言葉を思わず飲み込む。
……彼女と妖しの園で暮らせること。
それが自身にとって最良の望み。
何時次の逢魔時が訪れるのかはわからない。
永い永い人にとって気の遠くなるような年月を重ねることになるだろう]

『かつて亀を依代にした妖しを助けた者がいた。
妖しに見初められ隠世を訪れた彼は
最期には現へ戻ることを願ったのだった。
その顛末…それは彼にとって良きことではなかっただろう』


[なれば、永きを共にするのなら、女は彼女を染めねばならぬことを悟ってもいた。
いや、純粋で義に篤い彼女なら、そんなことをしなくとも
やがて染まってくれるのだろう。異の理に……

けれど人として、彼女が苦しむことなく帰すというのなら
染めるわけにもいかない。
次の逢魔時を待つわけにはいかない

帰りたいと願うのなら。
人として生を全うしたいと願うなら。
隠世でもこうして語らえる刻はそう長くないのだろう]


[けれど女は約束を交わした。
もし戻りたいと願うなら、全てを賭して彼女を現へと還すことを
滅することになろうとも、もう二度と語らう事ができなくとも
やり遂げるつもりだった。

沙耶が望み、己がそれを遂げられるのなら
それはそれで幸のある結末なのだろうと]


 あ……ううん
 ささ、あんまり遅うなって、皆が退屈しても悪いやろうし
 お祭りいこか?
 隠世のお祭りに

[いつかは聞かなくてはならないのだろう
けれど今は……

初めて友と欲したヒトと楽しみたい。
そんな我が儘が、言葉の続きを押しとどめた]

 いこ?

[彼女の手をしっかり握り、祭囃子の焔の中へ]


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─ あやかしの祭囃子 ─

[彼岸花を風車に妖しの風が喝采を上げ
狐火の提灯を掲げ鼓動が鳴る
事をひとつ爪弾けば
廻り舞いしは妖達の舞踊

道亡き道を征き、蜃なる妖しが現に見せし楼閣を過ぎれば
そこは妖しの園
現世に隔絶と言う名の襖を隔て表裏を重ねる
常の世界 夢幻の都]

 はて、皆はどこにおるんやろうね?

[虚空をひらりと妖しの舞いに目を細め
辺りをぐるりと見渡せば
どこかに知った顔でも見つけただろうか?]


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─ あやかしの里 ─

……うん。

[こくりと、仁右衛門の言葉に頷いた
その胸中を知らず、ただ、大きな瞳が見つめ返す。
罪悪感を何も持たぬ、幼いあやかしの一つの瞳が]

なあに?

[ことりと首を傾ける。
切り揃えた黒髪、朝顔に良く似た髪がさらりと揺れた]


──…、……どうして?

どうして?どうして!???
連れて来なかったら、また忘れちゃうかも知れないもん。
あやかしだって知ったら、

また逃げちゃうかも… ……っ!

[諭すような声
それへと、咄嗟に反論の口を開いた。
一つ目には必死な表情と、涙の粒が浮かんでいる。

その勢いのままに口を開き──、
仁右衛門の穏やかな瞳に、きゅっと口を閉ざした。
そのまま、押し黙るようにして静かな声を聞く]



〜〜〜〜……

[やがて黒髪に、暖かな手が置かれた。
ぽふりと撫でる優しい手に、幼い感情があふれ出す
ぽろぽろと零れだすのは、涙ともうひとつ。
今までは知らなかった──知らないことにしていたこと]

わたし、駄目だった?
お祭り、だめにしちゃった?
ひとを、怖がらせちゃった?


 ……朝を、かなしませちゃった……?


[後悔。そして、たぶんもう一つ。
自分以外の誰かの心を、思うこと。
本当に心から、誰かのことを思うこと。
未だ整理の付かない感情が、涙となって零れ出す]


……………、


        …  ……うん。


うん。


[謝っても、許してくれないかも知れない。
そんな恐怖はやっぱり消えることはないけれど。
涙と共に、こく。こくと、小さく頷く


   ─────やがて、]


〜〜〜〜…!


[目の前の仁右衛門に、しがみ付くように抱きついた。
腕にぎゅうっと力を入れて、着物に顔を押し付ける。

も一度小さく、顔を見せないままで頷いた。
ごめんなさい。と、呟く声は涙に紛れて届かないほど。
仁右衛門にしがみつき、そうして暫く泣いていた。



お団子を大切に抱いたままだったから、
せっかくの草団子が少し潰れてしまったのは、また別のお話**]


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