276 ─五月、薔薇の木の下で。
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― 明るい医務室で ―
[いつもより明るい医務室は、あんまり言葉を交わしたことのない先輩たちが沢山いて、それだけで名残惜しかった。 夢の中だってわかっているから、言いたいことは全部言える気がした。 夢の中だけど、自由な右手が少し煩わしかった]
目覚めても、 ……忘れたくないな
[夢は、起きたら忘れるもの。 それでも「宝物」だって言えたこととか、 怪我のことを心配してくれたことだとか、 パン先輩の視線から、一応覚えててもらってたみたいだ、ってことまで。全部、]
(55) 茄子 2018/05/24(Thu) 21時半頃
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[起きて、また話せたら「おはよう」って言おう。 忘れられてても構わない。 また最初に戻るだけだし、また、何度だって名乗ればいい。
怪我が治ったら、まだあまり知らない場所にもいってみよう。怪我が治ったら――――やりたいことが、沢山ある]
(56) 茄子 2018/05/24(Thu) 21時半頃
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― 夜明けが近い医務室で ―
[綺麗に整えられた包帯が微かに動いた。 薔薇によってではない眠りの主は、 いまだ目覚めることはない。
明るくない夢の中で、 甘い香りのしない夢の中で、
ひとつひとつ、数えている。 やりたいこと。言いたいこと。言えなかったこと。 そして、会いたい人を数えている]
(57) 茄子 2018/05/24(Thu) 22時頃
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[キスをしたことは、まだない。 少なくとも、そう考えている。 あれは夢の中の出来事だ。 夢に見るのはそう願っているからだ、なんて そう、きっと。目覚めて顔を見たら思い出してしまうだろうけれど]
………う、
[常より温度の高い身体は、外気に触れてざわめいた。 辿る指に答えるのは、小さな身動ぎ。 臍を舐められれば、笑いのような呼気が混じる]
(61) 茄子 2018/05/24(Thu) 23時頃
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[柔らかな眠りから浮上する。 肩を叩く優しい手。 安心する声の響き。 薄っすらと開いた目に、ピスティオが映る]
………おはよ
[ここは真昼の医務室じゃない。 夜中でもない。 夕暮とは違う明るさを見渡してから、 再びピスティオを見た。 ぼんやりとした視線が彼の唇で留まる。 左手で自分の下唇をつまんだ]
(117) 茄子 2018/05/25(Fri) 22時頃
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――…どこまでが、夢だっけ?
[ゆっくり考える。 ピスティオの声を思い出す。 生徒会長の秘密だとか、スケッチブック、]
そうだ、スケッチブック!
[それは手元にあっただろうか。 大事なものだから。持ち出してしまったことを謝らなければ、そんな気持ちでピスティオを見た]
えっと、 ……俺、なんか変なこと、した?
[なんて、もしかしたら彼にしてみれば的外れなことを尋ねたりもして。日常に戻ろうと寝ぼけた頭が動き出す]
(120) 茄子 2018/05/25(Fri) 22時頃
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うーん、 ……うん いい夢だった
[どれをとってもそれは間違いないから頷いた。 ふと見下ろした包帯は整えられて、少なくとも一つは夢でなかったことの証明のように感じられた]
これ、置いてったから ……そういや色鉛筆はそのまんまだけど
襲う……ってどういう意味だよ ただ、なんか変な夢見たっていうか
[なんと表現すればいいのかわからない。 キス、……というのは少し変な気がした。 ただ唇が触れたような気がしただけ、だけど。 それに熱を感じたのは、今は薄れた薔薇の香りのせいかもしれない]
(129) 茄子 2018/05/25(Fri) 22時半頃
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……ま、いっか
[熱っぽいかといえば、やはりそうで 今は深く考えても仕方がない気がする]
言いたくなったら言う。 で、どっか行きたいんだっけ?
[スケッチブックを渡しながら尋ねて、 そういえば、とさっき通り過ぎた問いを重ねることにした]
あとなんであんな鉛筆そのまんまだったのさ 取りにくる?
[窓を開けて、眠くなって、どうしたかはやっぱり夢の中の出来事。夢じゃない、と誰かが否定してくれれば、それは現実になり替わるかもしれない]
(130) 茄子 2018/05/25(Fri) 23時頃
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うん ………うん?
[ピスティオの片言が、上手く頭に入ってこずに首を傾げた]
………やっぱ、ピスティオ
[なんかしただろ? ……そう聞くのは、後にしよう。 どうやら誤魔化したかったようだけれど、誤魔化しきれていないのは、きっと本人もわかっているはずだから。 だから、歩ける、と頷いてベッドから降りることにした]
(135) 茄子 2018/05/25(Fri) 23時半頃
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いいや、 色鉛筆とってきたら、 話はゆっくり聞かせてもらう
[少しふらついたが、特に問題はない]
俺も、聞きたいこと沢山あるし
まあ、時間はたっぷりあるしな?
[マークに紅茶を、というところももっと聞きたい。 一瞬しか顔を合せなかった彼のことを、そんな顔で話せるならば。 知らぬ間に色々あったのだろう。 きっと、良い色々が]
(136) 茄子 2018/05/25(Fri) 23時半頃
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……ふは、 お前、嘘つくの下手な?
[何をされたのか、 (何もしてない、が嘘ならそうなる) それは、部屋に戻ってからにしよう。 床についた足の強度を確かめていると、 夢ではない世界、モリスの目覚めに安堵を覚える]
モリス先輩、 ……おはよ
[名前、忘れられてるかもしれないけれど。 今度はおやすみじゃなくて、ちゃんとした「おはよう」を向けた]
(149) 茄子 2018/05/26(Sat) 00時頃
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― 朝焼けの医務室 ―
[おはようを返してくれたモリスは、どこからどう見ても寝起きだったけれど、それは夢を追っているようにも見えて、少しだけ期待した。 せっかく話せたんだから。 せっかく、伝えられたんだから。 なかったことにはしたくなくて]
………っ、 うん
[そのことばかり考えて、起き上がる先輩を見ていたから、 短い「ありがとう」は、その意も想いも、きっと間違えることなく受け取れたと思う]
(242) 茄子 2018/05/26(Sat) 23時頃
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― それから ―
[自室に戻って、拾い上げた色鉛筆は、 薔薇のように赤かった。 今度は、前より少し器用に回して、 はい、とピスティオに差し出す。
足元にも、ベッドにも、枕の下にも。 色んな場所に散らばった色鉛筆を一本ずつ拾って、渡して、そうすればきっと、ピスティオだって魔法使いになる。
パンを作るのとは違うけれど、白の上に色を生み出す魔法使い。神様、だっけか。けれど神様だと少し、遠い気もするから。魔法使いくらいがちょうどいい]
(243) 茄子 2018/05/27(Sun) 00時頃
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