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[ヘクターに小突かれて、ヒヒ、と嬉しげな笑いを溢し。
音程が狂った歌声は、緩やかな旋律に包まれて楽しげな和音を奏でる。
当然、階下の惨劇など知らず。
ただ、ふと。
見られてるような気がして、一瞬、ヴェラの方を向く。
紅い、と思った]
あか。
[指差す。
その時には、すでにヴェラは背を向けていて、ヴェラの瞳を知るもの以外にその意味は分からなかっただろう]
リーベる ファーテる ヴォーネン……
[気狂いの歌は続く。
旋律が終わるまで、一人だけの歌を奏でて。
うた、うまいー?うまー、い!!
キヒッ。
[
ふらり、立ち上がる。
気分がいいから、アルコールを足したくて。
足が向かうのは、厨房へと]
[─────完全に油断していた。
相手が、酒狂いの料理人でしかないという油断ではない。
騒音への苛立ちから、冷静さを欠いた。
その結果がこれだ。]
─ 階段 ─
[耳を澄ますまでもなく、あの耳障りな歌は続いていた。
ギリ……と牙を小さく鳴らす。
姿が見えなくとも、この距離であれば、声と足音から誰がどのあたりにいるのかを読み取ることは容易い。
とくに、あの酒狂いのそれらは特徴的だ。]
。o0(厨房……)
[彼が厨房に入ったことを知ると、テーブルや柱の陰を伝い、忍び込む。
幸い、セシルのオルガンが、皆を惹きつける役目を担ってくれている。
耳障りな声を早く消したい。
らしからぬ焦りが生まれていることに、気付けない。]
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─ 厨房 ─
[音もなく忍び込んだ先では、獲物が、酒を物色していた。
その、喧しい声を漏らす喉笛を喰いちぎってやろうと、静かに近付いたその時───]
[ガシャーーーーーーン!!!]
───!!
[まさかの失態。
床に積まれていた皿に、腰に提げていた鉤爪をぶつけ、倒してしまった。]
―厨房―
[酒樽に、僅かに残ったアルコール。
斜めにしてかき集め、赤色をスープ皿に貯めて飲み干す。
喉の焼ける感覚が些か薄い。
だから、もう一度、二度と口に運んで]
ヒヒッ、
[しゃくりあげるような声で笑ったとき]
ッ!!?
[
即座にその場から離れ、斧に手が行く、条件反射。
それが見知った相手だと気が付けば、僅かに力は緩んだが。
警戒は完全には解けず、酔いで瞳孔の開いた目で彼を見つめる]
……なんだよお。
……あ、え。
[眼下に自分の生首
生気のない瞳でこちらを見つめている。
自分の死体と目を合わせるという奇妙な光景に、混乱して]
どういう、こと。ッスか。
[ええと。自分は。ミナカを殺そうとして。
ギリアンに怪我をさせて。それで、それで――]
船長に殺されたんだ。俺は。
[ふわふわと自分の身体が浮かんでいることに、その時気付く。
たぶんこれが、幽霊というやつなのだろう]
……なんてこった。
[顔を手で覆った。最悪だった。
なんて自分は使えない“道具”なのだろうか]
[料理人が振り向いたなら、鉤爪をつけていない筈の男の両手が、鉤爪よりずっと鋭い爪を有していることに気付くだろうか。
感情薄い貌、しかし瞳は真紅に染まり、大きく裂けた口からは、牙が覗く。]
────……
[答える必要もない……とでも言うかのように、ひといきに距離を詰める。
今まで募らせてきた苛立ちと、夥しい血臭に酔ったが為か。
いつもの冷静さはそこにはなく。
ただ、目前の男の、煩い声を漏らす喉笛を喰いちぎってしまうために**]
[眼下にいるホレーショー
銅像のように。彼は、微動だにしなかった]
……兄貴。
[ふわりと、ホレーショーに近付く。
その肩に触れようとしたが、するりと身体を通り抜けた]
……あ。
[寂しげに、自分の手の平を見つめる。
自分は死人なのだ。改めて自覚する]
あ、兄貴。いいって。俺の死体なんて。別にいいんスよ。
[死体を引きずる
こんなホレーショーの姿を、グレッグは初めて見た。
兄貴にこんな顔をさせてしまったのは、自分なんだと。
心がちくちくと痛んで]
俺のことで、そんな顔をしないでください。
お願いッスから。
[使えない道具が壊れたとでも、思ってくれればいい。
だから。そんなに悲しまないで]
兄貴ぃ……。
[幽霊だというのに、涙がぽろぽろ流れた]
[
しかし、酔いで侵された頭は、なんだか面白いことになってる、程度にしかその姿を認識しない。
恐怖から逃れるために酒を飲み、酔いの膜に閉じ籠った気狂いの頭は、正常とは言い難く。
だからこそ、今まで戦場で生きてこれた。
今も、恐怖で足が竦み上がることはなく。
ひりつく殺気に、ふうっと動物のように唸って、警戒を解かない]
ッ、わ
[だがその警戒も、もし相手が対応できるレベルのものであれば、の話。
元々の地力が違いすぎるうえに、獣の速さに対応できるはずもなく。
食いちぎる牙の軌道から、体を逸らしただけでも大健闘だった]
ぐえええっ!!!
[わざとらしい悲鳴をあげて、浅く食われた首を押さえる。
床にのたうち、ぎゃあぎゃあと騒ぐ声は、さぞや彼には耳障りに聞こえただろう。
一撃で息の根を止めるに到らなかったとはいえ、常人ならば痛みと恐怖に行動を麻痺させるのに十分な傷。
床に倒れる気狂いはそれの手本のようだ。
もっとも、それだけのたうってるのに斧は手離してはいないところは、手本とは少し外れているし。
酔いにまみれた五感が、恐怖や痛みを感じるわけもないのだが。
手斧を手離さないまま、座った目でヴェラの動向を見つめる。
ヴェラほどの優秀な戦士ならば、冷静な本来ならば、その浅い企みにも気がつけただろう**]
― 9号室 ―
[にゃあ、にゃあ。
灰色猫が自分の死体の頬を舐めている
……キティ。ありがと。
もう兄貴を守れるのはお前しかいないんスよ。
[にゃーお。
灰色猫がこちらを向いて鳴いた、気がした。
視線が交差する]
まさか。見えてたり、するんスか……?
[グレッグの問いに灰色猫は答えず。
ホレーショーに黙って頭を撫でられていた。
自分はもう、触れることすらかなわない兄貴に]
……やっぱり、ライバルッスね。
『ごめんなあ、グレッグ……』
[らしくない言葉に、グレッグは目を丸くして]
どうしたんスか、兄貴。なにか悪いもんでも食ったんスか。
『謝るなんて、俺らしくもねえか』
そうそう。謝るなんて兄貴のキャラじゃないッス。
『……アレくらいちょいっと避けろよ、ばぁか』
いやいや。無理ですって。あの船長の一撃ッスよ?
兄貴だって俺の立場じゃあ、避けれないクセにぃ。きしし。
[勝手に独り言をいって。勝手に会話が成立した気になって。
悲しい遊びだな、と自分でも思う]
……あ。
[机の中の遺言を見て、ついに泣き出したホレーショーに
グレッグは声をかけることができなくて。
なんとなく、自分は見ちゃいけない光景な気がして。
そっと目を逸らした]
兄貴でも。泣くこと、あるんスね。
[いつも頼りになって。格好良くて。豪快で。優しくて。
そんな自分の、自慢の兄貴。
弱みを見せる事なんて、絶対にないと勝手に思ってた。
その兄貴が、自分のせいで、泣いている]
ごめん、兄貴。
[何度目か分からない言葉を呟いた]
……パン、食べたかったッスねえ。
取っといてくれたんスか。
[死体の横に置かれたパン
グレッグは泣き笑いのような表情を浮かべた。
お供えのつもりなのだろう]
申し訳ないッス。食べれなくって。
[――事情はわかった。
そう呟くホレーショーは、何かを決意したように見えて]
兄貴……?
[途端に不安にかられる]
お願いッスから。危ない事、しないでほしいッスよ。
[兄貴まで危ない目に遭ったら。俺は。俺は**]
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[もしいつものように、鉤爪で急所を狙っていたのなら。
もしあと少しでも冷静さが残っていたのなら。
こんな事態には、ならなかったのかもしれない。
けれど、少しずつ積み重なってきていたこの酒臭い料理人への苛立ちは、よりによって今日、限界を超えてしまった。
くわえて、あの朱い月が。
船内に立ち込めている芳醇な血の薫り、絶望の叫喚が、感覚を狂わせていた。
それに自身で気付けなかった、完全な手落ち。]
─────!
[咆哮すら上げぬまま、振り向いた料理人の首元に牙をたてる。
だが、若干浅かった。
喰いちぎった肉は、即座に絶命させるには至らぬ程度。
グル、ヴ……!
[耳障り極まりない悲鳴が、厨房に響く。
この男らしからず、全身に返り血を浴び、不快感露わな唸りを漏らし、今度こそ……今度は、喉笛食い破る程度ではなく、その首を食いちぎり頭と胴を別れさせてやろうかと。
ざわざわと毛を逆立てて、明らかに獣じみた両手……前脚を料理人の肩に掛け、人外な膂力を以って押し倒す。
───永遠に黙れ、酒狂い。
大きく開けた紅い口で、血に染まった喉笛に迫る。
ニコラスの手が、まだ手斧を握ったままであることにすら、気付けぬままに**]
[ヴェラーヴァルと同じ毛色を持つ、半人半獣の化け物は、血に塗れ、息絶える時まで、咆哮のひとつもあげぬまま。
見開かれたままの瞳は紅く。
それでもやはり凡そ表情らしいもののない貌は、逆に、絶望を体現しているかのようでもあり。
───絶望を喰らおうとしていた獣は、はからずも、畏れを欠く者に牙を剥いてしまったが為に。
逆に、絶望の餌食となった**]
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【人】 墓荒らし ヘクターニコラスッ、!!!!! (49) 2014/12/13(Sat) 12時頃 |
【人】 墓荒らし ヘクター――ヴェラぁ、テメェかぁっ!!!!! (50) 2014/12/13(Sat) 12時頃 |
【人】 墓荒らし ヘクター― ― (51) 2014/12/13(Sat) 12時頃 |
【人】 墓荒らし ヘクター[自分に続いて厨房に入って来たリーは、 (66) 2014/12/13(Sat) 15時頃 |
【人】 墓荒らし ヘクター[実感がなかったのだということ。 (68) 2014/12/13(Sat) 15時頃 |
[血を流しながら喚く料理人を、獣の力が床に縫い付ける
大きく開いた口と、光る牙は血に染まっていて。
濁った目がそれを捉えた途端、まるで観念したように、ふっと暴れるのをやめた。
一瞬、体から力が抜けた後。
キヒッ。
[倒され、肩を押さえられた体勢から、無理矢理腕を動かす。
バネ仕掛けのような腕は、ほぼ予備動作なしで斧を振り。
盲滅法な動きは、しかし至近距離の相手から大きく外れることはなかった。
遠心力が足りなかったせいか、斧から伝わる感触は浅い。
それでも、首から上を狙った斧は、ヴェラへ致命傷を与えただろうと思いつつ。
ヘクター。
[なついてる相手の姿へ手を伸ばして。
立ち上がろうとして、べしょりと崩れ落ちる]
……うぁ?
[少し飲みすぎただろうか。
うまく力が入らなくて、不思議を表して瞬きする。
その間にも、どす黒い血が厨房の床を汚して。
酔眼で、それをとろんと眺めていた]
ヒヒッ、ヒ、
[笑いながら、ヘクターの足に少々じゃれつき。
蒼白な顔で、ひとつ、欠伸をする。
なんだか眠たくて、起き上がるのを諦めて
ぺたりと床に寝そべった]
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