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――秋月邸――
あゃ。
[その誘い道に気付いたのはいつだったか。
間抜けな声を出して、まじまじその先を見つめる。]
行きたいとは言ってはいないのだが…
[志乃の話を反芻して首を傾げ。]
進む以外の道は―――…なさげだな。
[小さく溜息を吐いた。]
うーむ。いきなりに居なくなっては皆が心配―――
[少し考えて。]
しないかもしれないが。
[おい。]
でも、せめて一平太君には何か残してあげたかったなぁ。
…仕方ないな。
とりあえずは、行くしか。
[歩みを進める。
戻る方法、それは今は解らないが。
向こうには父が居るはずだ。]
探して、相談してみるか。
[やたら呑気に構えて、辺りを物珍しく見回し始めた時。
箏の調べが耳に届いた。]
これは―――… 志乃君かな。
[その顔に浮かぶのは、眉根の下がった困ったような*笑み*]
何処かで小さな鈴の音が聞こえた気がして小首を*傾げる*
メモを貼った。
─ あやかしの里 ─
───……。
[こえが、聞こえる
静かに穏やかに問い掛ける声、聞こえる道理もないはずなのに]
…行きは良い良い、
かえりは… こわい。
[とん。と、赤い手毬が小さく跳ねた。
ちりりと小さな鈴の音が鳴る。
童女は跳ね返ってきた毬を手に受け止めて、歌をとめた。
何にか、ふるりと首を一度横に振る]
……?
[そのとき。ゆうらり揺れる道の向こうのほうから、
箏の琴の音が聞こえてきた。
たおやかな調べには、懐かしむような響きがある]
だれか、きた…?
[彼岸の花咲く隠世の道。
あやかしの里と人の世を繋ぐ、狭間の道。
その向こう側に、陽炎のように、ぼぅと見えてくる人影がある]
……あ。おじさん…?
[最初に分かったのは、あの眼鏡。
やがて見えてきた人影に、童女は以前と同じき声を上げた。
赤い着物に小さな赤い毬。黒髪には狐の面が括ってある。
遠く賑やかに響いて渡る、祭りの囃子。
あたかも人の子の里と、変わらぬとでもいうように。
ただ人の目に明らかにも違うのは、
童女の黒の双眸が、ひとつの大きな目に変わっている*こと*]
メモを貼った。
――――彼岸花ばっかだなぁ。
[きょろきょろしながら進む狭間の道。
その独特の、怪しくも幻想的な雰囲気が何故か台無しになるのは、この惚けた半妖眼鏡のせいに違いない。]
おぉ…金木犀発見!
ふむふむ。
一見彼岸花だけに見えるが別の花も生息しているのか。
[始終このような調子で。
何かを見つけては腰を下ろして観察し、だらだら進む隠世の道。
―――――そうして。
強制的目的地に辿り着けば一人の童女に声を掛けられた。]
おじ…
[がーん。]
な、何故だ?!
[こちらでも、己の認識は"おじさん"なのか。
童女の言葉に頭を抱えつつ、その姿を見つめる。
赤い着物に切り揃えられた黒髪。
記憶に残るそれよりも、やはり目を惹いたのはその大きなひとつ目。]
な、なんと君はかの有名な一つ目小ぞ―――
[言いかけて。]
女子だ、な。
[訂正した。]
一つ目は小僧だけなのじゃないのだなぁ。
[ひとりでうんうんと*感心している*]
メモを貼った。
[ゆらゆら揺れる彼岸花。
赤に彩られた向こうから、何やら惚けた人影が現れた。
童女は手毬を胸に抱き、じいとそちらを見つめている]
おじ… ……
[があん!と頭を抱える”おじさん”に声を掛けかけた。
その言葉が途切れたのは、おじさんの言葉の所為]
……、小僧じゃないもの。
[むうとむくれて、僅かに口を尖らせた。
むすりとしながら、男が怯えていないことにもふと気づく]
仁右衛門の表情をじい。と見つめて、
…ねえ、おじさん。怖くはないの?
ここはもう、ヒトの住む場所ではないのに。
[ことりと首を傾ける。
ざわりざわりとざわめく、妖の気配。
高く低く響く祭りの囃子は、人の子らのものと良く似ている。
なれど里に集うは、人ならざるモノ。妖の里]
───わたしも、ヒトじゃないのに。
[どこか堅い表情で問い掛けた。
大きな大きな黒い目が、探るように仁右衛門を見上げている]
メモを貼った。
あ、いや…だから、訂正したぞ?
[手鞠を抱いた一つ目童女がむくれる様に戸惑いつつも、真顔で反論する半妖眼鏡。
口を尖らせる仕草は人間の童女となんら変わらない。
大きな瞳が綺麗だなあ、とのんびり考えていれば問い掛けられて。]
ぬ?怖がったほうが良かったかい?
[問いに問いで返しつつも、堅い表情を見せる童女の様子に気付けば、眼鏡の奥の瞳を穏やかに笑わせた。]
いや…、怖くはないよ、私は。
確かにここはヒトの住む場所ではないし、君もヒトではないけれど。
私は君のことを知っているし。
[書物でだが。]
あやかしが全て、忌むべき存在だとは思っていないしな。
それに、私も…
[大きな瞳の中に映る己が悪戯っぽく微笑む。]
――――――ヒト、ではないしな。
……。
[じい。と慌てる様子を見上げる童女の口は、への字口。
小さな手毬をお守りのように抱いて、眼鏡の男を見つめた]
… 、だって。
[ほんの僅か、童女の表情が揺れる。
眼鏡の奥の、優しい瞳の色に気づけば尚のこと、
泣きだすを堪えるような顔になった]
お座敷、いても。姿を見れば、みんな嫌うの。
お友だちも、みんな、逃げるの。
みんな……、 …。
……。こわく…、ないの?
[知っていると、男はいう。
書物でなどと思いもしないから、
どこかで似たようなあやかしを男も見たのかも知れない。
彼がまだ、ずうっと子どもの頃に。忘れた昔に。
正体を見せれば厭われる。
正体見せねば忘れられる。
いつもいつも。
子どもたちには、そうして忘れられてきたのだから]
…えっ?
[きょとんと、ひとつの瞳が大きく見開く。
悪戯めいた眼鏡の向こうに、
ぽかんと目と口を開いた、赤い童女の顔がふたつ映った]
…… …???
[むつかしい顔で、考え込む]
ヒトじゃない…? ??
でも、あやかし でもない…??
…??
─────おじさん、だあれ?
[ごく素朴な疑問に、おかっぱの頭が傾ぐ。
黒髪に括った狐のお面が、おかしそうに笑っていた]
だって?
[言葉をなぞって、への字口のひとつ目童女を見つめる。
今にも泣きそうな、けれどそれを必死に我慢している顔。
屈んで、童女が己を見上げなくてもいいように視線を合わせて、ぽそぽそと話される内容に静かに耳を傾けた。]
―――…そう、か。
寂しかったな。
[そっと、頭を撫でる。]
でも……
私は皆ではないと思うなあ。
[穏やかな優しい声で童女に告げる。]
正体……そりゃあ、急に見せられたら驚くヒトが多いだろうが。
本当に仲良くなって、その絆が本物ならば…
―――逃げないよ。
[断言する。]
そも、見た目や姿形で逃げるような相手なぞ、此方から三行半突き付けてやればいい。な?
[だから、傷つく必要はない。
そして、どうか全てのヒトに絶望しないようにと心の中で願う。]
[己の言葉に大きな瞳が更に大きく見開かれれば。]
はっはっはっ。
[無意味に胸を張ってみせる半妖眼鏡。
一つ目童女の考え込む姿を楽しげに見守る。
やがて、口にされる問い。]
私は、秋月仁右衛門。
それ以上でも以下でもないが。
まぁ 少なくとも"おじさん"ではない。
[ここぞ、とばかりに訂正を試みた。]
メモを貼った。
――回想:隠世への路――
[歩き始めて
解るも何も、これ一本道じゃないか?
[半分は妖怪―――その為か、誘い道ははっきり見えていて。
掛けられた志乃の言葉
送って差し上げ…あの、だな。志乃君。
[彼女は己が意志を誤解している。けれど。]
――――…はぁ。
[こうなってしまっては訂正するのも憚られて、一方的に話される内容に耳を傾けつつも小さく溜息を零した。]
……そうだなぁ。
向こうは私の知らないことの方が多いのだろうなあ。
ああ、勿論父は捜すつもりだよ。
その時に、色々相談してみようと思っている。
[馴れ初め話が聞きたいと言われれば。]
はは。やはり興味を持っていたのか。
ああ、構わんよ。
私のは――――…参ったな。
[舌を出して無邪気に微笑む志乃に照れたように頭を掻いた。]
――――いや、よく来てくれたも何もだな。
[芙蓉に会えば
驚いたかと問われて、初めて芙蓉が妖なのだという思考に思い至った。
半妖眼鏡にとって、誰が妖であるか等はそれ程重要ではないらしい。]
ああ、そういえば。そうなるのだよなぁ。
[呑気に応えつつ、世間知らずな様子だった屋台での芙蓉を思い出して、心の中でひとり納得する。]
ほうほう、いいところ、なのか。
[一方的に連れて行かれる身としては、そのように言われても複雑なのだが、全く自覚がないらしい志乃と芙蓉を責める気持ちにはなれない。
女子だし。
おそらく、辰次だったりしたら散々だったろう。
後で此方に来るというし、その時に話をしようと今は言葉を呑み込む。]
生きるということは、人、妖関係なく大変なことだと私は思うな。
だから、半妖である、ということは関係ない。
まぁ、私はそれなりに楽しく*生きていたよ*
――回想:了――
─ あやかしの里 ─
────……〜〜〜〜
[ぽんと頭に置かれた手が、暖かい
視線を合わせて話しかけてくれる声が、暖かい。
暖かくて、暖かくて、じんわりとした塊が、
喉をせり上がって目からぽろりと零れて落ちる。
ぽろ、ぽろ、ぽろ。
大きな黒い一つ目から、ぽろぽろと雫が零れて落ちた]
……じゃ、ないかなあ。
あさも、逃げないでくれるかなあ。
おだんご…っ、いっしょに食べなさいねって…
[たまこにおまけをしてもらった、お月見団子。
未だ大事に大事に、手の中に抱えてある。
ぎゅうと目をつぶると、一層ぽろぽろ涙が零れた。
朝に貰った大切な狐のお面は、今も黒髪に括っているけれど]
[お里について、はぐれた鏡写しのもうひとり。
鏡写しではなくなってから、恐れて探しに行けずある。
朝顔が心細い思いをしていないかと気がかりだけれど、
───この姿を嫌われるのは、一層怖い]
…っ、えぐ…っ…
おじさん、じゃ、ないの?
あきづきじんえもんは、おじさんじゃ、ないの?
[鼻をすすり上げて、ぐちゃぐちゃになった顔で、
目の前の眼鏡の”あきづきじんえもん”を見た。
真剣な顔に、ほんの少し、小さな笑みが浮かぶ]
……へんなの。
[おじさんに、以上も以下もないのに。
そんな言葉は、盛大にすすり上げた鼻に紛れて*消えた*]
メモを貼った。
メモを貼った。
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