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船長……ネイサン。ギリ―……。
[持って逝くのは彼らの名前と掌の温もり。
置いて逝くのは、双子の呪詛。
赤子はもう泣いてはいなかった**]
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
[息苦しさから。
ふ、と解放された。
と同時に、息してないのに苦しいとは、などと思った]
は……。
[マストの上、小さく安堵の声を漏らすと。
張り詰めていた緊張と恐怖に完全に力が抜けて、ずるずると滑り落ちた。
甲板の床に座り込み、ひどい怪我のヘクターへ眉を寄せる]
船医に、
や、いま殺したのが、船医でしたね……。
[習慣的に口にした職業呼称。
なんだか間抜けだ。
命を繋いだとはいえ瀕死に見えるヘクターへ、床に座ったまま手を伸ばして。すり抜けて。
手を眺めてから、やれやれと息を吐く]
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……かっこいいなあ。
なんであんた、こんなにかっこいいんだ……ズルいなあ。
[ぼやり、ぼやいてから。
見慣れた門番へ、手当てを、と言っておく。
当然、聞こえちゃいないのは知ってるが。
気分の問題だ**]
[どうやら、海に引きずり込まれるのは避けられた、らしい。
止まった心臓がもう一回止まるような錯覚がしていた。]
……ヒヤヒヤさせやがって。
[ぼやく。
しかし、命の危険はまだ去っていないように感じられた。]
うおっ!?
[ずるりと落ちてきたニコラスに驚いたりしつつ。
ニコラスがヘクターを運ぼうとして、手がすり抜けるのを見れば、頬を掻いた。手伝い一つ出来ないのは、確かにもどかしい。]
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[甲板に倒れるヘクターを、腕を組んで見つめながらも。
視線は、双頭の狼が落ちた海へも、向けられていた。**]
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すっげー。すげーッスよ、副船長……っ。
[ぶるぶると拳を震わせて、成り行きを見守っていたグレッグは。
歓喜の色を満面に浮かべた。
思わず『よっしゃ!』とガッツポーズをしてから]
……あ、やべ。まさか“本人”見てないッスよね。
[きょろきょろ、と辺りを見回した。
さすがにミナカ本人に見られたらバツが悪い。
暗い海の底から“化けて”出てきても不思議ではない、と。
グレッグだってそうなのだから**]
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[ジェレミーの助太刀もあってか、冥い海に、ミナカだった化物だけが呑み込まれてゆく。
沈みゆくそれを一瞥し、船首楼から飛び降りると、甲板に残るジェレミーとヘクターの傍へ歩み寄る。
労いや、救いの手を差し伸べる意図などない。ましてやガッツポーズなど。
ただ獣のままで近付いて、おそらくは何も見えていない、聞こえていないであろうジェレミーをじっと見上げ。
それから、腹を喰らわれ血塗れで横たわるヘクターを見る。]
……生きているのか。
ならば、最期まで喰らってみせろ。
[獣でもない男に、喰らってみせろとだけ言い残し、その場を歩き去ってゆく。
もしも、ヴェラが獣ではなくヒトの姿をとっていたなら、何かに納得したかのように、薄い笑みを浮かべていたかもしれない。
己の魂が、何故、まだこの船にあるのか。
漸く、分かったような気がした**]
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[船内に降りた獣は、この船の”畏れ”の象徴である、道化の姿を探し歩く**]
[立ち去ろうとするとき、ちょうどセシルとすれ違った。
聞こえぬ聲をかけることもなく、そのまま階下へ向かおうとしたが、あれこれと声がしたので、一度だけ足を止め、振り返った。]
…………。
[セシルがヘクターに銃口を突きつけている。
だが、戻ることはしない。
もし仮に、止められる立場にあったとしても、そうはしなかったろう。
もしここで呆気なく終わるようなら、それまでの話。
そんな脆いものに興味はない**]
…………
[セシルがヘクターに銃口を向けるのは、ヘクターが招いた結果だ。だから、セシルを非難の目で見たりはしなかったけれど。
ヘクター。おい、ヘクター、起きろ。
寝たまま死ぬなんざ、不本意だろ。
ヘクター船長!
[セシルを止めることの出来ない身の男は、自分に出来ることとして、ヘクターへと焦った声をかけた**]
[青い眼のセシルがヘクターへ銃口を向けたとき。
猫の仔が驚かされた時のように、ぶわっと警戒が膨れ上がった。
半ば反射的に自分の腰の辺りに手をやって、斧がないことに気が付く。ファッキン!
どうも死んだ自覚が足りない]
ヘクター、起きてくださいこのクソッタレ!
[仕方ないので、ホレーショーと同じく焦った声で悪態混じりに呼びかけて。
ついでにヘクターの腹へ蹴りの一発でもしてみたが、当然触ることは出来ない。
無力さに地団駄でも踏みたい気分だった**]
[セシルの異様なほどの碧色に、多少疑問には思いながらも、彼が人か獣か、そんなことはどちらでも良かった。ヘクターを殺すか否か。気になるのはその一点だけで。
ボロボロになりながらも立ち上がるヘクターに、少しだけ安心する。
そうか。声もミナカっぽかったし……
やっぱ、ミナカだったか。
[色々なことが起こりまくったせいで、全部を理解するのに時間がかかったが。ヴェラもミナカが同族だという辺りに頷いていた気がするし、やはり最初の下手人はミナカで……
ん?
[そこで、ふと。引っ掛かりを覚えて、場違いな声を出す。
意識が朦朧としていて記憶は朧げだが、船長が、自分の死に際に何か、言っていたような。敵わない悔しさと、キティが気がかりで、あまり深くは考えていなかったが
……あ?仔?護りたかった?
[そうそう、そんなことを言っていた、ような……]
……ひょっとして、船長って、人狼……なのか?
[今頃になって、気づいた。]
あ、だから感づいたグレッグが殺された……?
[今頃になって、気づいた。]
メモを貼った。
― 回想 ―
[ホレーショーはよく変な拾い物をしてきた。
ガキを連れて来た時は、夜のお供用かと思ったが、どうやら違うらしい。]
おい、ホレーショー。
別にお前が拾ったのにとやかく言うつもりはねぇが一声掛けろ。
ガキ。名前と歳は?
[上から下まで眺めて、奴隷上がりの身体に溜息を着いた。]
グレッグ? 知るか。
チビガキで十分だ。
甲板に上がれ。
全部脱げ。
てめえが毛が生えてるかどうかとか興味ねえよ。
[威勢だけは良かった気がする。
全身を検分した後、粉薬を全身に振り掛けた。]
暴れんな。
虱とノミ予防だ。
後、皮膚病予防にこれ全身に塗っとけ。
息子があるならそこも塗っとけ。
使える時に恥掻きたくなけりゃな。
ホレーショー、もういいぞ。
[最初のコンタクトは大体最悪な形だ**]
[チビガキの処置が終われば、ホレーショーに引き渡し、それでおしまい。]
ホレーショー……今度は何を拾って来やがった……。
[キティを拾って来た時も、虱とノミ取りの為に水洗いして、キティに嫌われた記憶は新しい。
きっとずっと嫌われているだろう**]
―回想―
[グレッグを奴隷から解放した日。
仏頂面でグレッグを引き摺っていれば、船医に見つかって。
……拾ってきた。
[言われてから報告した。これでいいだろうと言わんばかりに。
ちなみに、夜のお供用などとからかわれでもしたら喧嘩になるのは目に見えていたので、特別扱いしない意味も込めて、最初はグレッグを下っ端部屋に放り込み、個室が空いてからも同室にはならなかった…という裏話。
検分されている最中、横向いておいてやったのは男の優しさである。
[灰色の仔猫を拾ってきた時は。]
かわい……いや、付いてきて離れねんだわ、こいつ。
そんで仕方なくな。
[可愛いなんて言ってない、かろうじて。]
船長の許可は取ったからな、ネズミ捕り要員だ。
疫病予防にいいだろ。船医サマの味方だ。
[可愛がれ、と遠回しに言ったわけだが、
生憎猫と船医の仲はそんなに良くはならなかったようだ。
何だかんだで、船医に世話になった回数は多かった。**]
メモを貼った。
メモを貼った。
─ 船内 ─
[紅い聲───獣の声が聞こえてくる。
それに導かれるように、第三甲板まで降りてゆく。
道化と、それに付き従うギリアンの姿は、すぐに見つけることができた。
ギリアンの匂いが、以前と些か違う気がして、確かめるよう数度鼻を鳴らしたが、やはり覚えのない匂いだった。
……あまりいいにおいではない。]
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─ 第三甲板 ─
[道化とモンドの戦いは、丁度決着がついた頃だったろうか。
血飛沫すら浴びぬさま
───まだ、この男に分があるか。
だが、聞こえぬものが聞こえるが為か、道化に、以前ほどの畏怖を抱かなくなっているのも事実。
威厳はまだ健在か。
恐るるに足る存在か。
それを知りたくて、彼のあとをついて歩く。]
― 回想 ―
[グレッグを拾った海賊は、ホレーショーと名乗った]
ホレーショー、さん。
[名を呼ぶと、渋い顔をされた]
じゃあ。ええと。
……ホレーショー、の兄貴。
[さすがに呼び捨てで呼ぶのは、躊躇われた。
海賊は相変わらず仏頂面だったが、嫌ではないらしい。
その時から、ホレーショーはグレッグの“兄貴”になった]
ぼくを、どこに連れてくの。
[海賊は答えずに、グレッグを引き摺っていった]
[やがて船医に引き渡されれば
……グレッグ。
[名乗れと言われたから名乗ったのに、チビガキで十分だと返された。あんまりな対応だった。
ふつふつ、と怒りが込み上げてきて。
すべてに無気力だった奴隷が、初めて感じた生の感情だった]
……“俺”は。チビでもなければ。ガキでもない。っす。
[小刻みに肩を震わせながら答えた。
裸にひんむかれて、検分される。羞恥心、とても嫌な気分。
次々に感情が生まれ、一気に渦巻いて。グレッグは戸惑った。
こんなことは初めての経験だった。
最後に粉薬を全身に乱暴に振りかけられて。ゴホゴホと咳込む]
もう少し優しく。できないん。すか。
[恨みがましく船医を睨んだ。
こんな行動を取るなど、今までのグレッグには考えられないことだった。自分にもプライドがあったのか、と。少し驚いた]
[ある日。戦闘で大怪我を負った。
医務室でミナカに手当てされながら、グレッグは泣いた。
この頃からグレッグは泣き虫であった]
なんで。俺は兄貴の役に立てないんスかねえ。
[奴隷上がりで体格に恵まれないグレッグは。戦闘ではいつもお荷物だった。
兄貴の役に立てない自分が、ひどく悔しくて。唇を噛んで泣いた]
……兄貴には、泣いてた事。内緒ッスよ。
[治療を終えると、ミナカに念を押した。
ふと。医務室の薬瓶が目に付いた]
なあ、ミナカ。薬も過ぎれば、毒になるんスよねえ。
[何かを閃いたように、グレッグは呟いた。
学のないグレッグが今の戦闘スタイルを築き上げるには、ミナカの助けがなければ不可能だっただろう**]
メモを貼った。
メモを貼った。
―甲板―
[まだ予断は許さないが、ジェレミーが仲介に入ってくれたのに、心の内で感謝した。]
ジェレミー……
お前の事はもともと嫌いじゃなかったが、
こっそりキザな野郎だと思ってて悪かった……
[感謝ついでに、謝罪もしておいた。しかし。]
げ。
[そこに現れる、道化の姿。
先程、もしかして人狼なのでは、と思ったばかりの、
ミナカを「仔」と評していた道化の姿に、嫌な声しか出ない。
次から次に……
[頭をがりがり掻いた。]
― 現在・甲板 ―
ひとまず。休戦ッスね。
[結ばれた休戦協定
ジェレミーの仲裁に心中で喝采を送った。その刹那]
……っ!
[ゆらりと甲板に躍り出る影
グレッグは息を止め、道化の登場を呪った。
思わず死因となった首元を押さえて。大丈夫、繋がってる]
あ、兄貴……。
[不安げな顔で、そっとホレーショーの背
− 回想 −
[奴隷上がりの癖に、チビガキは一丁前の口だけは聞いた
それに答える程暇ではない。]
知るか。チビでガキだからチビガキだ。
[それこそ名を呼ぶ等有り得ない、そんな勢いで。]
……役に立たないかって?
そんなの決まってるだろ。怪我するからだ。
[チビガキは一応船の仲間になったようだが、
略奪や戦闘の度に何かしら怪我をしていた。
今回も結構な傷を付けてきて、
おまけにぴーぴー泣いている
ただ一応答えていたのは、痛みでは無く、不甲斐無さからだと
判っていたからだが。]
すぐ怪我する様な奴、足手まといも良いとこだ。
ホレーショーの為を思うんだったらまず怪我すんな。
怪我しなくなったら、どう動こうか考えろ。
[お前のせいで、包帯や薬が減るんだよ、と口を尖らせ、
泣き虫はあいつが一番知ってるだろうから、
いちいち知らせるかと、文句と共に治療を終える。]
……何、思い付いた。クソガキ?
[何かを閃いた様な顔付きは、今までとは違うもので。
そこから薬や調合の仕方をしつこく聞きに来るまで
時間は掛からなかった**]
今日のヘクターは不運に好かれてるとしか思えねえな……
悪運の強さを祈るしか、ねえ。
[振り向いて、グレッグの頭をがしがし撫でてやる。
不安がるなと言いたげな動作だが、自分の顔もきっと、不安を隠しきれていなかっただろう。]
……生き残ろうと思ったら、船長との対決は避けられんからな。
[ミナカに重傷を負わされる前に遭遇していればよかったのか、
これ以上怪我を負う前に遭遇したのはまだマシだったか。
不運か幸運か、わからない。]
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