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[燃え尽きても、意識だけは
残ってしまうのだろうか。
ただ、その劫火によって、私は乖離し回帰した。]
はる
[此処はどこだろう。]
はーる
[呼びかける]
はぁるぅ……
[探しているのは]
どこにいるの。
もっといっしょにいたかったのに。
死んじゃうんだもの、ずるい。
[探して、いるのは]
春ってば!!
独りで死ぬくらいなら、
私が殺してあげたかったわ!
[終わりの世界で出会った、貴女です。]
[記憶が、ゆぅらりと頭の中で流れていく。
駅で出会って、コーヒーを飲んで、
もらった貴女の折り鶴は、
私と一緒に燃えちゃった。ごめんね。
一緒にシェルターにいって。
一夜を共に過ごした。
変な意味じゃあなく、ね。
私はずっと孤高を気取っていたから
貴女がいてくれて、嬉しかったのよ。
目を覚ました時、寂しいなんて
そんな思いをしたのは、随分と久しぶり。]
[それから、桜の下に、春はいたけれど
私は、ううん、メリーは
クリスマスの思い出に夢中だったの。
でも、そんな私に近づいて、
あのお星様、飾ってくれた。ありがとね。
木から落ちた時にはびっくりした、
打ちどころが悪くて死んじゃったかもしれないって
心臓が飛び出しそうだった。
相変わらずだった貴女に、
どれだけ安心したことか。
なのに、それなのに]
置いていかないでよぉ……。
[ぽつ、と零した愚痴っぽい声。
届くかしら? 届いたら、いいな。
メリーは、晴に会いに行っちゃったし、
私――虹野藍にはもう、春くらい気を許せる人が
いないんだからね。*]
……むにゃ。
[ざわめく波動が伝わってきて、わたしは目を覚ます。
感情の波。誰かの、生きてない誰かの感情の波。]
んー、と……誰、を……呼んでるの?
[ ぼやっとした焦点はわたしの目のせいじゃなくて意識のせい。
波の源を辿る。一人の女性の姿。]
藍さん。 ああ……
[死んじゃったんだ、と呟くのを呑み込んで。
にやり悪戯めいた笑みを作って向けた。]
春ちゃんだったら、わたしの隣で寝てるわよ。
[ それ以上でも以下でもない――眠りとは違うのかもしれないから論理的な正当性は於いておく――表現で、ちょいちょとさし招くようにした。]
ほら、ここ。
ただ、少し眠りが深くなるかもしれないって。
よかったら、となり、代わる?
アイリスに一枚のメモを見せた。「行きたいとこあったらついてくから」と、書かれているようだ。
メモを貼った。
メモを貼った。
あら……?
[返ってきたのは春の声ではなく]
あ、ええと恵都ちゃん?
[こんにちは、と言いかけて、それもどうなのかと首を傾ぐ。
そこで気づくけれど、首元の隆起もなくなっており
両目も見える。なんてすばらしい世界だ。]
─ 桜の木の下で ─
……おやすみなさい。
また、いつか。
[あたしの声は、きみに届いてはいないでしょう?
でも、いいんです。
あたしから、きみの姿は見えますから。
きみからあたしが見えてなくても、あたしがきみを見ていますから]
だから、ひとりぼっちじゃないよ。
[あたしの大切な大切な、妹*]
メモを貼った。
は!?
[思わずそういう考えをしてしまって
とはいえ、伝わる人は数少ないのだろうか。
恵都のたましいが昇っていくのもまた、
それとなくは感じていたから、ここは死者の、空間?]
あ……、春!
[恵都のそばに近づけば
春の姿が見え、ほっとする。
地獄と天国に分かれていたら、なんて杞憂だったようだ。
しかし、これは寝ている。ぐっすり寝ている。爆睡だ。]
……いいの?
[となり。と恵都の申し出に、少し照れくさそうにして
こくり。と頷いた。*]
メモを貼った。
─ 独白めいた何か ─
[小さい頃、あたしはシンデレラが大好きでした。
シンデレラは、勿論あたし。
あたしは、いつか王子様が来るものだと思っていたのです。
優秀で親からもあいされる姉ではなく、あたしを選んでくれる人が現れるのだと、そう思っていました。
何にもしなくたって、無条件でしあわせが訪れるんだって、思ってたんです。馬鹿ですね?
別に虐待されたりとかは、ありませんでしたよ。
むしろ、大切に育てられたんじゃないかしら。
あたしの劣等感の源である姉も、あたしにはとっても優しかったです。
だからあたしは、確かにお姉ちゃんが大好きでした。
……両親がお姉ちゃんばかり見るのは、やっぱり、悲しかったですけどね]
[────いっそ、虐げてくれればよかった]
[そうすれば、あたしはあの人たちを恨めたのにね。
お姉ちゃんが死んだときにも、両親がその後を追ったときにも、責めて責めて、泣くこともできたろうに。
仕方ないなって、赦したりもしなかったろうに。
あたしは、泣けませんでした。
どんな別れも、心をすり減らすばかり。悲しいとか恨めしいとか、そういうことを考えるのも、止めてしまいました。
考えるのを止めて、もう、何もかも捨てたと思ってました。
でも、ねえ。捨てられなかったんですね。
誰かを大切に思う心って、どうやっても捨てられないんですね]
[める。あたしの、たったひとりの妹。
最初はただ、自己投影していただけだったんでしょう。
可哀想なきみに自分を重ねて、それを救って、満足したかっただけなんでしょう。
でも最期の時、穏やかに逝けたのは確かにきみのお陰です。
きみが居なかったら、あたしはきっと、みっともなく泣きわめいていました。
死にたくないって、泣いて、醜く死んでいったんでしょう。
きみには、何度ありがとうと言ってもたりません。
大切な人に最期を看取ってもらえて、あたしはとってもしあわせでしたよ]
[……でもほんとうは、
もうすこしだけでも、一緒に*生きたかったな*]
[恵都にとなりの場所を譲ってもらえれば
座り込んで、眠りに落ちている春の頭をそうっと撫でよう。]
こうして見ると、子どもみたい。
[くす、と悪戯っぽく笑う。
春の年齢もちゃんと聞いていないけれど、
水を弾きそうな綺麗な肌も、やんちゃなところも含め
若いのだろうな、とは思う。]
メリーメリー。
[貴女は晴のところに行けたかしら?
クリスマスに、渡すことが叶わなかったプレゼント。
私だと思ってね。可愛がってね。
未練がないといえば嘘になるけれど、
私の時間はね、やっと動き出したのだから。]
[過去をトレースするように
眠る春の頬に口接けを落とす。
だけれど、私はあの時とは、違う。
終わりだから、終わったからこそ
もう後悔をしたくないの。
しあわせです。
だから、あなたにもしあわせになってほしいです。
死んだあとにこんなことを言うのは
きっとずるいけれど]
幸せにするね。
[やわく笑んで、眠った春の髪を撫で続けよう**]
メモを貼った。
あ、 れいくんだ
[此方に向かってくる人影
ツリーの話、覚えててくれたんだなあって、頬がゆるみます。
ね、季節はずれのクリスマスツリー。変でしょ?
……ああ、そういえば、あいちゃんにこれの意味を聞きそびれていましたね。
彼女の声もこちらがわで聞こえた気がしますし、後で聞いてみるのもいいかもしれません。今はなんだか、お忙しそうですからね]
おはなみの約束はむりだったけど
これはもう、あれだね。……うん。
もう、お花見みたいなもんってことで。
[もし次会っても、ごめんなさいはしなくってもいいですね。
ほらこうやって、あたしも彼も桜の下に居ることですしね。
彼からあたしは見えていないんでしょうが、お花見って桜を見ることですから、間違ってないです。……だめですか?*]
メモを貼った。
ふーん
[恵都の応え
―――わたしの名前は見えてなかったの?
見えるって何だ、テレパシーでじゃあるまいし。
―――じゃあ、現世は見えてる?
一応な。
―――現世の人たちの名前は?
だーかーら、そんなもん見える訳――
―――その頭上に数字があることとカウントダウンされてること、その意味は?
カウントダウン? 一体お前は…?
―――春ちゃんがさっき見てた人、彼女もうすぐ、こっちに来ることは?
…は?
[てめえ、何言ってんだ!
と胸ぐらを掴みかかろうとした。
が、唐突に死後の世界の事について尋ねられる。
私の頭では一度に二つの事を考えるのは不可能だ。
其方の方へ思考をシフトする。]
そんなもん存在しないって思ってたわなぁ…
[色々考えている内に自分も眠くなってきた。
一欠伸しながら、ここは一体何なのだろう、俺は一体誰なのだろう、とふと思う。
彼女が語るもの
[はーる
夢か?
いや、違う。
藍も死んだのだろう。
―――昨日恵都が言っていた様に。
[アイツも此方へ来ちまったのかと思う半面、少し嬉しいという気持ちもある。
また逢えたのだ。
こうやって甘える
意外と悪くない。
目を合わせると恥ずかしさの方が爆発しそうなので、このまま寝たフリを続けることにしようか。**]
メモを貼った。
メモを貼った。
─ 閑話休題 ─
[……そういえば、と。あたしはある人のことを思い出しました。
ある人っていうか、えふくん
あの人はまだ、こっちにきていないみたいですね。
何となく、こっちがわの人とあっちがわの人、わかる気がするんです。
向こうがわだってちゃんと見えるのに、全然ちがう場所にいるみたい。やろうと思えば、瞬間移動とかもできそうな勢いですよ。わかんないですけど。
でも、彼がいないのって意外でした。
もう、結構な人がこっちがわに来てるみたいなのに。
こう言っちゃなんですが、あまり長生きするひとには見えませんよね、あの人。
それに、あたしにくれたあの煙草みたいなの。あれ、どう考えても手を出しちゃいけない系のやつでしたしね。
ああいうのやってると、長生きできないんじゃありません?しらないけどね]
[意外だったけど、残念だとは思いませんでした。
生きてる方がいいって言いきれませんが、そう簡単にしぬもんじゃないですよ。
生きれる間は、生きているほうがずっといいんじゃないかしら。
……ああでも、彼はまだ、ひとりぼっちの王様をしているんでしょうか。
砦のようなシェルターに引きこもって、夢見るおくすりにすがっているんでしょうか。
そうだったら、なんだか、かわいそうだなって思います。
あの人にとって、生きてるのとしんでるの……どっちのほうが、*しあわせなんでしょうね?*]
メモを貼った。
める、あたし さむくないよ。
きみが着てけばいいのに。
[お父さんの上着
上着としても死んだあたしを隠すより、生きてるめるをあたためる方が、ほんもうだと思うんですけどね。
めるの気持ちは嬉しいけど、すこし、心配です。
きみにはまだ、先があるんですよ]
……れいくん
やっぱりきみは、たにんごとだねえ。
[お兄さんが死んでも揺れない心ですもの、あたしなんかじゃ悲しませてあげるのは、無理なんでしょうね。
そういうドライ
死んでしまった方からすると、ひどく悲しまれるより、救いになるのかも。
……でも、きみはほんとうにそれでいいのかな]
[口うるさいこと言うつもりも、言える口もないので、あたしはただ二人を見守るだけでした。
二人が別れるときは、一緒にいればいいのにって思っちゃいましたね。
二人とも、心配なんですもの。
めるのひとりぼっちの境遇が、れいくんの壊れかけのこころが、ちょっとだけあたしに似ていて。見なかったことにするの、むずかしいんです。
あたしは少し迷って、その場に立ちすくみました。
二人の行く先は、なんとなく予想できます。
後から追いかけることも出来るだろうって、自分の死体に近づきました]
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