59 海の見える坂道2
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[なんとか遅刻は免れたものの、自分以外は全員既に作業を開始している中に顔を出すのはどうにも決まりが悪かった。それを隠すようにいつも以上に顔を上げて笑顔を浮かべて。今日は久々に、ドアベルの鳴る音が開店の合図となり、それを聞けば気持ちも上向く]
今日も暑いですね。沢山食べて体力つけてくださいね。
[なんて常連さんに声をかけて。お昼時もあっという間にすぎて世間一般ではカフェタイムになる頃にやっと休憩を取ることができた]
[休憩と言っても腹ごしらえの前に、朝テッドに聞いた好みのパンをプレゼントに作ることとする。ただのクリームパンでは面白くないし見栄えもよくないので
(なによりシンプルなクリームパンで満足のいくものを作れたことがない)アップルクリームパンにしよう。
生地を発酵させている間にアップルパイ用に常備されている林檎を煮詰めてもう一つの鍋ではクリームを作る。
林檎が少しずつ透き通っていくのを眺めながら、これを食べてくれるだろうアパートの面々を頭に思い浮かべた]
[まずは隣の部屋のパティ。
保育所で働いている彼女は、自分にはとても眩しくうつる。たまに街中で子供に声をかけられるパティを見ると…忘れられない二人を、もういないあいつとあの子が眼裏にだぶって見えて…
目の前にある鍋が揺らいだ所で、考えるのをやめた。このパンは楽しい気持ちで作るべきだ。今日はテッドの20歳の誕生日なのだから]
そういやテッドとホリー…なんかあったのか?あとノックスも…
[アパートで見たテッドとノックスはいつもと少しちがく見えた。そういえば今日は叫び声も何も聞こえなかったし、お化けは出なかったのだろうか。
今朝店にやってきたホリールードも随分顔色が悪そうに見えたし。今はちゃんと休んでいるといいが。より大きめのパンを取るくらいしかできなかったが、夏風邪は性質が悪いから気をつけて欲しいが。
この飴色に透き通った林檎で作ったクリームパンなら、皆を笑顔にできるだろうか]
[焼きあがったパンをオーブンから取り出して、甘い幸せの香りに満足気に笑った]
「お、いい出来だな?」
[なんて店主に声をかけられる。パンを見る前に顔を見ればわかるのだとか。まあ…それは否定できないが。
崩れないようにそっと箱に入れて隅に置いておいた。出来れば、これはキャサリンにもニールにも、ディーンにだって皆に美味しく食べてもらいたい。
だから、決めた]
やっぱり退去通告の手伝いなんて、出来ないってニールさんに言おう。
[数年前、家をなくしたも同然な自分に住居を与えてくれて、店主と出会うきっかけをくれたニールには、いくら感謝してもしきれないけれど]
だからって、やっぱ出来ないんだよな…
[出来れば考えを改めてもらいたい。失敗したらおそらく自分の方が追い出されることになり、ピッパにより負担を強いることにもなるだろうけれど]
始めてみなければわからない、だよな。
[昔良く言われた言葉を自らに*言い聞かせた*]
― 翌朝 ―
みなさん、おはようございます。
いかがお過ごしでしょうか、アイリス・ベルジェがお送りする朝のラジオ『favori temps』、いつものようにまずは今日の天気からお届けしましょう。
(#0) 2011/08/13(Sat) 00時半頃
今日は一日中晴れで最高気温30℃、最低気温17℃と昨日とあまり変わらない一日。
湿度は40%、降水確率は5%、昨日と同じくカラッとした天気の一日になるでしょう。
今日は街の生誕記念日、今年もメインストリートには色々なお店が並ぶようですね。
夜の花火も、この天気であればさぞかし綺麗に見える事でしょう。
みなさんはどこで花火をご覧になりますか?
高い建物の上からでも綺麗に見えるでしょうけれど、やっぱり時計台の広場前から見る花火は海の上に花火が浮かんで見えてとても綺麗ですよね。
皆さんに素敵な一日が訪れる事を祈って。
それでは、今日はこの曲からお届けしたいと思います―――…
(#1) 2011/08/13(Sat) 00時半頃
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