254 東京村U
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― 朝:東中野駅 ―
[幾度か電話の向こうへ頷きを繰り返した後に、新宿不動産の主任へアパートへ向かう旨を伝える。]
ええ、はい。
はい、そうですね。"担当"ですから。 一番長く続いていますし、はい。
[悪いなあ。と言う声にふふっと笑う。幾ばくかの罪悪感めいた声につい笑みが深くなった。上野中下アパート「以外」の"担当"についてのことも含んでいるのだろう。怖い話が苦手な上司は、申し訳なさそうだった。]
(4) 2016/09/27(Tue) 01時頃
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[大丈夫かな。と心配めいた声に、ええ。と柔らかく返す。]
慣れもありますし、希望してやってもいますから お気になさらないでくださいね
[気にしないでという気づかいというより、それは事実に近かった。
「怖いモノ」が、彼女は好きだ。
創作上のホラーも、そうでないものも。 「そうかい?」と聞こえた声は、いくらか疑わしげだった。幽霊嫌いの上司からしてみると、理解が難しいのかもしれない。]
(5) 2016/09/27(Tue) 01時頃
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[その気質を知っているだけに、困り笑いが少しだけ混じる。]
もう主任、いつも言ってますよ
──私、怖いものが好きなんですよ
[だからお気になさらないでくださいね。と、そういった言葉をどうとったのか、いっそう申し訳なさそうな声で、じゃあ、よろしくな。と苦笑の気配を残して、通話はそこで切れた**。]
(6) 2016/09/27(Tue) 01時頃
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みょんこは、イルマから受け取ったアンケート入れた紙袋をオフィスのロッカーに入れた。
2016/09/27(Tue) 20時半頃
みょんこは、リー…ン、リリリリーン!と電話が鳴っているオフィスに顔を出した。
2016/09/27(Tue) 20時半頃
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─ 朝、新宿不動産株式会社オフィス ─ [呼び出されて向かった不動産のオフィスは、電話の音と書類のかさついた音と、PCのキーを打つ音と人の声が入り交ざっている。春あたりの繁忙期に比べればいくらかはマシだが閑古鳥が鳴くということもなくそれなりに忙しい。]
遅くなりまして。 上野中下マンションの担当の鈴里と申します。
[上野中下の契約書のファイルをもって顔を出す。]
──ああ、小津さんでしたか お疲れ様です
[と、パーテンションで仕切った一角にやってきていたのは警察の人間のうち、ひとりは知った顔だった。涼しい顔をした刑事とは対照的に、挨拶をする鈴里の顔は笑っている。]
(77) 2016/09/27(Tue) 20時半頃
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[警察の人間と顔を合わせる機会は、存外に多かった。新宿不動産が手広くやっているのもあるが、曰くつきの物件をすすんで扱っているからという面が影響しているのは否めない。]
身元の確認ですね? 調査書は。ああ、はい。ありがとうございます
こちらがお名前と、緊急時の連絡先で ──はい
[そうして、幾度か繰り返せば慣れも出てくる。やりとりは小一時間もかからず、来客は帰っていった。]
(78) 2016/09/27(Tue) 20時半頃
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[刑事たちをオフィスの入っているビルの玄関まで見送った後、書類と荷物を取りに戻る。と、待ち構えていたのか同僚の一人が顔を見せた。]
『みよ子さん、みよ子さんお話し終わった? これから出るのよね? ……どうだった?』
……そうですねえ
[噂好きの同僚のひとりが顔を見せるのに、困ったように眉を下げてみせた。頬に手を添える。同僚とはいえ、あまり話を広めていいものでもない。どうするかと黙っている間に、『自殺?それとも他殺かしら?やだ、怖いわねえ……夜のお仕事してたとかなんでしょ?やっぱりねえ』と、向こうから話が続いた。こちらの様子をちらちらと伺いつつも、よくないわよねえ。と仮定に顔をしかめる彼女の中には、彼女なりのストーリーがすでにあるように見える。 ただ、それならそれで、わざわざ夢を壊さなくていい気もした。笑みを浮かべたまま相槌をいくつか打つ間にも、話は勝手に転がっていく。]
(79) 2016/09/27(Tue) 20時半頃
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[痴情のもつれの怨恨殺害の話から、治安の話題になりかわったあたりで、そういえば。と思い出したように手が叩かれた。半年くらい前に家出した少女が訪ねてきたし、ああいうのもねえ。と大げさに同僚は表情を曇らせた。]
……ありましたねえ
[困ったような笑みは東蓮寺に呼ばれて、オフィスに来ていた雪野瀬という少女から話を聞いたときに浮かべたのと同じものだ。]
(80) 2016/09/27(Tue) 20時半頃
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─ 回想:半年よりも前・新宿不動産(>>31>>71) ─
[テーブルの上には物件のファイルがひらきっぱなしになっている。そのひとつに指をおいている少女の側へお茶がおかれる。鈴里は半ば縋りつかれるように食い下がられてる東蓮寺と彼女を見比べながら、頬に手を当てた。]
そうねえ……。連絡先もだけれど、 未成年となると保証人がいないとどうしてもねえ……
頼れるようなおじさんかおばさんかはいない?
[東蓮寺のどうします?という視線に規定上の話をしながら、少女の対面のソファに座って体を前に倒す。視線の高さを同じにして見やった少女の日本人離れした容貌が目につく。]
うーん、追い出されちゃったのが本当なら、 わたしも助けてあげたいけれど…… お仕事だと、難しい部分もあるのよねえ……
[のべられる手があるなら。とは思えど、仕事のきまりを一社員が飛び越えるわけにもいかない。上野の上野中下アパートが彼女の目に止まったらしいのに、ふーっと眉を寄せて息を吐いた。苦笑が浮かぶ。]
(81) 2016/09/27(Tue) 20時半頃
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ああ、ううん。そうねえ、そこは……
[示された格安物件に言葉を濁す。しばらく間取り図に視線を落とした後、必死さが勝ってみえる少女を、眼鏡の奥から少し間をおいて見つめた。 気づいたのか偶然か視線が合ったタイミングで、目じりの筋肉を下げて笑う。眉は少し寄せられたままだった。]
… 怖いのは、へいき?
[示唆と心配を半々に、呼ばれた不動産屋の女は、 少女にそんなことを尋ねた。]
(82) 2016/09/27(Tue) 20時半頃
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困ってるみたいだし、どうにかと思うけれど、 …… いろいろあったりしたところだから……
[眼鏡の奥で目が閉ざされる。困った顔には、あまり切迫した真実味がないまま、口元が四つ指で隠された。危惧を口にして戸を立てるようなしぐさと裏腹に、その隙間からこぼした言葉は奥の隠し事を匂わせるものだったけれど*。]
(83) 2016/09/27(Tue) 20時半頃
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─ 現在、午前:新宿不動産オフィス ─
[ひっぱりこまれた休憩室で、急須から湯呑みにお茶を注ぐ。机の上には言い訳のタネとしてこの前の社員旅行で、広告部の部長がとった写真が並べられていた。焼き増ししてほしいものがあれば選んでほしいとのことだった。 なおフィルムなのは部長の趣味が写真だからだ。広告用の写真などもときどき彼が自ら撮っていることもある。上手いといえるほど目が肥えているわけでもないが、ブレやピンボケは少ない。]
結局、上から許可が下りなかったんですけどねえ
[せめて紹介だけでもどうかという奏上は、残念ながら家出を疑った上司の手で却下された。上司の一言がなければ、あるいは──今日の刑事たちの調査はもっと難航していたかもしれない。]
一応、名刺と電話番号だけは、 お渡ししたんですけど
[結果として頼りにはならなかった大人の情報を、彼女がどうしているかはわからない。]
(84) 2016/09/27(Tue) 21時頃
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[『悪いことになってないといいわねぇー』と、その言葉に何度目か、「そうですねえ」と同調よりに繰り返した。『ほんとうもう治安が悪くって、ねえー』と、話が締めくくられる。どちらかといえばそれが彼女の言いたかった不満だったのか、満足したのか、話題がそこで切り替わった。]
『引き止めちゃってごめんなさいねえ。 私は、もうちょっとここで写真の整理してるから』
いえいえ。
『みよ子さんは26番と31番でいいのね?』
はい、それで。 じゃあ出てきますね
[じゃあまたねー。と見送られて、休憩室を出る。 『あら?』と疑問符のついた声が扉から聞こえた。] 『みよ子さんが写ってる写真──』
(85) 2016/09/27(Tue) 21時頃
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みょんこは、ぱたん。と出入り口の戸を閉めた*
2016/09/27(Tue) 21時頃
みょんこは、トレイルに話の続きを促した。
2016/09/27(Tue) 21時頃
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─ 新宿・天然石店内 ─
[淡い色の服を着た姿が書店の前を通りすぎ、天然石を商う店の入り口を迷いもない足取りで踏みこえた。
店内を見回す視線は、特定のものを探して左右にふられてから、やがて台の上に並べられた石を順々に眺めて歩きはじめた。]
──あ、すみません
[奥へ向かう途中、ラピスラズリの欠片の前に立っているお客の肩にぶつかりかけて、小さく謝罪の言葉をこぼした>>101。]
(109) 2016/09/27(Tue) 22時半頃
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─ 新宿・天然石店内 ─
[お祓いのために水晶とかお持ちしましょうか。と上野中下アパートの大家さんにした提案は、鈴里の本気を図りかねたのか天然だとしても下手に刺激することを恐れたのか、またはあちらもオカルトに縋りたい気持ちだったのか受け入れられた。結果、こうして鈴里はここにいる。待ち合わせたわけでもなく、ここの常連というわけでもない。鈴里みよ子がここに来たのは偶然だ。 まったくの偶然だった。]
…あ、
[ただ、その偶々立ち寄った店で、顔を上げた先にいた相手の声に、眼鏡の女は小さく驚いて目を瞠った。 まるで、何か意外な相手をみつけでもしたように>>113。]
(116) 2016/09/27(Tue) 23時半頃
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[視線を据えられているのが、気配でわかった。同時に、こちらが相手を見返しているのも伝わっただろう。 前髪と眼鏡ごしに相手の顔を見た時間は数秒ではあったものの、通りすがり同士が顔を合わせる時間にしては長すぎた。]
…… あ……、ええと 、どうか?
[遅ればせに、手が口元を抑える。一度目の瞬きの後で視線が横へ逸れた。思い当たるものを拾うように瞳孔が斜め左下を丸くなぞってから目の前に戻される。 たっぷり二拍は遅れて、不思議がるように首が傾げられた。]
(117) 2016/09/27(Tue) 23時半頃
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[ふんわりと笑って見せる。体の前で重ねた手の指が細かく二度三度折り曲げられる。わからないはず。覚えてないはず。あるいは、こちらの考え違いかもしれない。とも思った。 けれど、よしんば、思い当たるその相手だったとして──
鈴里みよ子と彼とが、同級生だったのは小学生のころの話だ。
わかるわけがない。
過ぎったのはそんな思考だった。]
… 驚いちゃってごめんなさい、 男の人がいるのって少し珍しいから
[表情の理由を添えて小さく謝罪の言葉をのせる。なんでもなかった風に微笑んでから、視線を石の台に向けた。ただの通りすがりに戻るように。]
(119) 2016/09/28(Wed) 00時頃
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[磨かれたもの、切り出したままのもの、正面からの向かいあいを避けるように横を見ていた女の横顔が、青年の見目に似合わない低い声に釣られるように向きを変えた。どこかで、とぼやけた回答に、ほんの僅かに細く息を吐きだす>>121。]
ああ。 駅前で、声をかけさせてもらっていたりするから、それかしら うん、きっとそうね …
[うんうん。と頷いてから、むずむずと頬が細かく不規則に動いた。ぱっと手が口元を押さえる。]
(131) 2016/09/28(Wed) 01時頃
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[続けて、耐えられなかったようにくすくすと肩が揺れる。]
ああ、笑っちゃよくないわ。ごめんなさいね でも、わたしから声をかけることはあっても、 そんな風に、逆に声をかけられることってなくて [不意を突かれちゃったの。とそう言ってから、続く笑いを落ちつけるように長い息を吐いた。珍しい男性客は、声を聞かなければ一見女性のようにも見える。けれど、女の人になりたいわけではないらしい>>122。]
そうね。いろんな人とお話しする機会があるけれど、 爪を塗ってる男の人は、珍しいわ
[こんな風に、仕事でなく道で行き会った人と言葉を交わすのもだ。言わずに、黙って口で弧を描く。]
(132) 2016/09/28(Wed) 01時頃
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みょんこは、それから、小さく息をついて、
2016/09/28(Wed) 01時頃
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……
[とてもとても慣れているとはいえないナンパめいた言葉に、眉を下げた。首を横に傾げる。]
… ナンパ? されてるのかしら?
[疑問形なのは、そう見えないからだ。ううん、といくらかわざとらしくも悩んだような声を出した。]
さすがに、はじめてお話しした男の人に教えちゃうのは そう、そうねえ…… [初対面を強調しながら、頬に手を当てたまま苦笑する。それから、顔をあげて、あくまで困った風に笑って細めた目の奥から青年を見やった。]
(134) 2016/09/28(Wed) 01時頃
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─ 新宿・鉱石店 ─
そう、そうだと思うわ。……ああ、よかった さっき、すこしだけどきっとしちゃったのよ。 もしも、わたしだけ覚えていなかったんだったら、失礼してることになっちゃうものね
[胸をなでおろすようにふんわりと笑顔を浮かべてみせる。わからないなら、その方が安心だった。名乗って、もし相手が鈴里みよ子のことを覚えていたなら──きっと別人だと思われた可能性を思うと、特に。]
あら、答えてもらえるなら、 今からでも、ぜひ歓迎だわ
短いものだし
[ふと会話の中で出た言葉に、持ち歩いている鞄のホックへ手を伸べる。冗談めかせた言葉に返すには、ややも本気度が高いすぎる返答だった。声にあるのは、「それがいい・そうしたほうがいい」と、頭から信じ込んでいる人間が発する類の熱だ。または一般的にいえば忌避されるああした「活動」に踏み込んでしまう性質の一端ともいえる>>138。]
(143) 2016/09/28(Wed) 05時頃
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[お世辞交じりの言葉に、そうでもないの。と答えながら、A4サイズを収めるファイルが入る余裕のある鞄の口を開く。中には青いファイルが行儀よく並んでいた。]
親しんでもらえるならうれしいのだけど……だいたいは避けられちゃうの。ああして街に立ってるとね、逆に警戒されちゃうみたいで。警戒心をもつっていうか──怖がることって、とてもいいことだと思ってはいるんだけど、声をかけてくれるような人は本当にごく稀になっちゃうの、半分くらいはしかたないってわかってるんだけど、やっぱりちょっと残念な部分もあって。ああして意見を聞くことでわたし達にもできそうなことを探してるんだけれどなかなか…… ああ
[間をつなぐように喋る言葉の途中で、ファイルの中から一枚の紙を引っぱりだした。青年の手元に、薄っぺらい紙が差しだされる。]
ご協力お願いできるかしら?
[笑みを含んだ声とともに軽く首が傾げられた。紙の表面には、意図の読みにくい一項目だけの質問がたわんだ紙の曲面に印字されている。]
(144) 2016/09/28(Wed) 05時頃
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[それから、顔を上げた女は目の前で揺らされる男の人にしては珍しい、黒い爪先を目で追ってから、たてられる笑い声にほんのりと笑った。]
お話は、 …… 聞いてみたい気もするけれど。 ごめんなさい。このあと約束があるの。
[顎に悩むように曲げた指があてられる。気をひかれていると示す間のあとに申し訳なさそうに断りが続いた。]
(145) 2016/09/28(Wed) 05時半頃
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ここには魔除けになりそうな水晶をね、 探しに来たのだけれど……
[お茶への断りと視線を少し奥に流すと、透明な水晶の柱石を並べた棚があった。不揃いな大きさの石。そちらを眺めやって、ほうっと息を吐いた。]
…… どれがいいかしらねえ
[選べるだけの品ぞろえを前に、決めかねたように頬に手を当ててそのまま棚の方へ顔を向けたまま、台の間の通路を一歩二歩奥へと足を進めた*。]
(146) 2016/09/28(Wed) 05時半頃
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─ 回想:新宿不動産株式会社、休憩室 ─
やっぱりほかの人のお手伝いをさせてもらうにも、私の希望を叶えるにもひとりだと難しいこともあるから、仲間になってくれる人がほしくてでもだからって無理にお願いするわけにもいかないでしょう? 無理強いはよくないし、強引に意思をねじまげても意味のあることだとは思っていなくて。でしょう? ──だからああして考えることが似ている人とか、お話を聞いてくれそうな人を探しているの
でも、ただお願いしますっていってもなかなかでしょう? それはわかっているから、お互いに協力ってかたちをとるためにも、その人が何を望んでいるのか知りたいしできることがあるならしてあげたいって思ってるの。みてみぬふりも心が痛むじゃない?
あ、でも不純な動機だけじゃないのよ? ちゃんと必要だと思ってああしているの。よりよい社会をつくるためにまず必要なのは個々が目指すものの自覚だと思うの。もちろん未来に望むってことは、今はできてないってことだから難しいとは思うけれど、明かしてくれれば、ちゃんとわたし達でできる範囲で、お手伝いもするつもりで──
(234) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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─ 回想:某日・新宿不動産休憩室>>200>>201 ─
[オフィスの休憩室に立て板に水を流したように言葉が満ちていく。最初は戸惑いながらも挟まっていた相槌も、途中からはほぼ息を吐くだけのものになり、最後には一方的な──ともすれば相手を見ているのか、本当に必要としているのかも怪しいある意味では独り言めいたものになっていた。]
どうしても個々人で必要なものって違うでしょう? わたしと同じ考えの人だってほんとうに──ああ
[はた、とそこで思い当たったように眼鏡の奥の目が、改めて──もしくは思い出したように、東蓮寺を見た。]
東蓮寺くんも、協力してくれる?
[思いついたように、ちょっと待っていてね。と年下の後輩へ言いおきこれまた一方的に会話を打ち切って、鈴里は背中を向けた。青いファイルからアンケート用紙を一枚取り出して、バインダーに挟むと、「はい」と差し出した。 書いてくれる。と疑いもしていないように見える、にこにことした笑顔とともに。]
(236) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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あら、ほんとうにお寺だったのねえ。 やっぱり苗字に入ってるのも?
[アンケート用紙が渡される。それに視線を落としてから、顔をあげて鈴里は笑った。スイッチが切れたか、または語りつくしたか、アンケートを受けとったからか。東蓮寺の愚痴めいた話に、そうなの。大変ねえ。と、親身半分に頷いた。 相手の話を聞いている間は、圧縮した言葉を降らせるような風情はなりを潜める。]
長男さんだと、やっぱり声かかるでしょうけど 強制はいやよねえ そんなに大変なのだとねえ
今でもなの? あらあら… なかなか血縁って、断るのも難儀だものねえ お疲れさまねえ
(237) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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[ここにいたい。東京がいい。という声に、ふと駅前でよく叫んでいる男の言葉が重なった。出られない街の話。地方から人を吸いこんでは、膨らんでいく都市、東京。]
出たかったり、出たくなかったり、 人って、いろいろねえ
出口も入口も、名前が違うだけかもしれないのに
[ふと、そう独り言のように、声が零される。一瞬だけ、ふっと目が遠くを見た。どこか無個性で、淡い印象がさらに掴みづらいものになる。]
(238) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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そうねえ。
[ただ、それも一瞬のことだった。困ったように息が吐き出されるころには、そこに座っているのは確かに不動産屋の女だった。]
ここにいたいってお伝えしてもだめなら、 何か、あちらが納得するような理由でもあれば いいのかもしれないけれど──
ああ。そうそう飴。 答えてもらった人にお礼としてって思ってたの
[そう言って、仕事用とは別の紙袋から飴玉を出した鈴里は、東蓮寺に食べるかしら?と、フルーツ味のキャンディを差しだした。ぶどう、レモン、いちごとベタに各々の味を示すらしい安っぽい単色小包装には、「硯友社」と団体の名前が印字されていた。]
(239) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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◆ 希望調査アンケートに ご協力 ください
(240) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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─ 回想:某日・新宿駅前 ─
[アンケートにご協力いただけませんか。お時間はいただきません。簡単なものですので。]
あら、いいの? ありがとう
[そんな勧誘がすっと通るようなことは珍しく、駅前でアンケートを配っていた女は申し出に嬉しそうに顔をほころばせた>>141。]
(241) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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