158 雪の夜に
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[肺が冷たい空気でいっぱいになり、痛んでいる。 雪で滑って転びそうになるが、壁に片手をついて、なんとか事無きを得た。 目的地である裏通りで死んでいた人間の顔には、覚えがあった。 昨日の晩、集会場で「逃げろ」といっていた男だ。 歯噛みして、苛立ちまぎれに壁を殴った。 一度だけ、時間をたっぷりかけて、長い呼吸をした。
ヒューは裏通りに入る前に、真っ赤な服をきて、魚の入ったカゴを担いでいる男を見つけた。 目立つ姿だ。成り行きで押し付けたにしては、良い人選をしたものである。 旅人の元へ、ヒューが戻ってくる頃には、落ち着きを取り戻していた。というよりは、元の沈んだような印象に、戻っていたと言ってもいい。]
……ありがとう。
[すぐに礼を言った。 魚を返してもらうため、片腕を差し出した]
(61) 2013/12/22(Sun) 18時頃
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……あんたがたの、メシだよ。
[つまり、目的地は朝凪亭だ。 魚を返して貰えず、手は宙に留まったままだ。 ヒューは首を傾げた。]
(63) 2013/12/22(Sun) 18時半頃
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……? だから……
[魚を返して貰わなくては。 そう続けようとしたが、旅人は坂の方へ向かっていってしまう。 どうやら持って行ってくれるようだ。ヤニクの背を追いながら、揺れるカゴの中身が減っていないかを、こっそりと確認した。 それからヤニクの横に並んで歩きながらも、怪訝そうに様子を窺っている。]
(65) 2013/12/22(Sun) 18時半頃
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……。
[誰が運んでも食べられるとは思うが、わざわざ取り返すという事は、今更しなかった。 旅人の質問に、ヒューは少しの考えるような間の後、気力に乏しい声で、短く答えた。]
……べつに。
(67) 2013/12/22(Sun) 19時頃
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ヒューは、ヤニクが、何故こんな質問をしたのかを考えている。
2013/12/22(Sun) 19時頃
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[死んだ男は、本当に、殆ど知らない人間だった。 実際に、彼の名前が、ヒューには分からない。 店の客ですらあるソフィアでも、名前を覚えようとはしなかった。]
あんたと、そう変わらないよ。
[静かな声で、そう付け足した。 この人好きのする感じなら、三日も町に留まっていれば、自分よりも余程良い人間関係を築くだろうとすら、ヒューには思えた。]
……。
[雪の反射で、眩しげに目を細くする。]
(69) 2013/12/22(Sun) 19時半頃
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そうだろうな。
[ヤニクの「他の住人とは違う」という評価を、ヒューはあっさりと認めた。 自分は、いわば、余所者であるとすら思っているのだから。]
……去年までは、船で働いていたんだ。
[仮に、根を下ろしたくないと本人が思っていたとしても、頃合という物があるのかもしれない。 考えている内、不意に無くした腕への苛立ちが込み上げるが、足元に視線を落とすのみに止めて、内に押し込めた。]
(71) 2013/12/22(Sun) 20時頃
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[問いかけに答えようとして、自嘲していた。]
友達に会いたいと思うくらい、いいだろ?
[朝凪亭の傍までやってきて、足をとめて、手をもう一度差し出した。]
助かった。 悪かったな。あんた、関係ないのに。
[裏通りで魚を持っていて貰った事。ここまで運んでもらった事。それだけでなく、身の上話など、相手の酔狂で聞かせたとしても、それも含めてだ。]
(73) 2013/12/22(Sun) 20時半頃
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― 朝凪亭裏口 ―
[ヤニクから魚を受け取って、肩に担ぎ、朝凪亭の裏口の扉を叩いて、到着を知らせた。 大抵、従業員や手伝いの子供なんかが顔を覗かせるが、今日はどうだったろうか。 靴に雪をつけながら、じっと待つ。 その間、ずっと考えていたのは、片腕を失うこととなった理由に関してだ。]
(76) 2013/12/22(Sun) 21時頃
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ヒューは、音のしたほうへ、首をむけた。
2013/12/22(Sun) 21時半頃
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― 朝凪亭 ―
……。
[子供が水を撒いている。 意図があってそうしたのではなく、零したのだという事は、一目瞭然である。 その様を、心配する言葉ひとつかけず、見守っていた。 笑顔の一つなく、無気力にぼうっと裏口前に佇む姿は、子供からすればお化けの一種にすら思えても、おかしくはない。]
魚。
[子供が、桶を手にとったところへ、声をかけた。]
中にいれた方がいいなら、開けてくれ。
(85) 2013/12/22(Sun) 22時頃
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ヒューは、ハナをうつろに見据えたまま、一歩だけ後ろに下がり、扉の前に空間を作った。
2013/12/22(Sun) 22時頃
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[子供が扉を開けるまでの一部始終へ、大きく迂回する様子までも含め、視線を送り続けた。 子供が蹴開けた扉に、ヒューは使えない腕のついている方の肩を引っ掛けた。 後ずさりの後、転んだらしい子供をまたぐようにして、幽鬼が如く朝凪亭の裏口から進入したヒューは、魚の入ったカゴを、いつも指定されている場所へと、ゆっくりと、置いた。]
(87) 2013/12/22(Sun) 22時頃
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[ダーラに声をかけられ、ゆっくりと顔を上げたヒューは、はい、と陰気な声で返事をした。 床に尻もちをついているハナへ、一度目を向けてから、カゴから棒だけ引き抜いた。]
ご存知でしたか。
[無論、それは外の騒ぎの事についてだ。 けれど、ダーラならば当然だろうと思った。]
はい。 多分……ある事ない事、皆噂してる頃だとおもいますよ。
……あねさんも、どうぞ注意なさってください。
(96) 2013/12/22(Sun) 22時半頃
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はい。用心してください。
[痛むのか寒いのか、無い方の腕を、無意識に何度かさすった。 ヒューは、裏口の傍に置かれていた、空になった持ち帰るべきカゴを手にとり、棒に引っ掛けた。]
あの……。
[遠慮がちに、ヒューは、ダーラに対して続けた。]
仲間には、美味いものを振舞ってやってくれたら、嬉しいです。
[昨日の今日で、と言ったのは、エレクトラ号の船員のことを指すのだと、ヒューは思った。 彼らを迷惑がって追い出すような事はしないで欲しい、という願いでもある。]
(99) 2013/12/22(Sun) 23時頃
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[ヒューは、言葉だけでも自身の心配をされると、意外そうに目を瞬いていた。 微かに笑って、「はい」と答えた。 それから、ハナの事へ話しが移ると、自然、視線は桶を抱えている子供へ向いていた。]
ああ。
……。やってるんじゃないですか。 俺が来たから、仕事を中断させたかも。
(100) 2013/12/22(Sun) 23時頃
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[怪訝そうな顔をしているダーラに反して、ヒューはほっとしたような顔をしていた。]
……そうですか。
はい。 噂は噂ですから。
(107) 2013/12/22(Sun) 23時頃
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[ハナの話題と共に、彼女がついたため息には、何も言わずにおいた。 ダーラの居る位置からは、セレストが見えているらしく、挨拶をしているのを聞く。セレストにダーラが向けた言葉で、死んでいた男が「サイモン」という名前だったと知った。]
……そうですね。 何事もなければいいなと、思います。
じゃあ、俺は、戻ります。
[忙しく働くダーラに、声をかけた。 来た時と同じく裏口から出ていこうとして、再びハナと対峙した。]
(110) 2013/12/22(Sun) 23時半頃
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ヒューは、ハナを凝視している。
2013/12/22(Sun) 23時半頃
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……。
[ハナが何かに謝って、走って行く背を見送り、ヒューは空のカゴをもって外に出た。 積もった雪に足跡をつけながら、朝凪亭の脇の通路から坂道へ出た。]
(114) 2013/12/22(Sun) 23時半頃
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ヒューは、ティモシーの店の前を通りがかった。
2013/12/23(Mon) 00時頃
負傷兵 ヒューは、メモを貼った。
2013/12/23(Mon) 02時半頃
負傷兵 ヒューは、メモを貼った。
2013/12/23(Mon) 11時半頃
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[雪が太陽の光をうけて、白々と輝いて、眠たくなりそうなほどに、眩しい。 考え事に沈みながら、慣れた道を歩いている。 半ば寝ながら歩いているような心地だった。
ヒューは、何度も何度も、なにかの目を思い浮かべていた。 それは網膜に焼き付いているかの如く、鮮明な像となり、頭の中に現れる。 次いで、「死ぬかもな」と悠長な事を思いながら意識を手放した事を曖昧に思い出す。
なんだか、夢の中にいるようだな、とヒューは思った。 あの時の事も含めて。]
(176) 2013/12/23(Mon) 14時半頃
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[ヒューは一年前、怪我をして診療所に担ぎ込まれた。 頭や首や足など、大なり小なり傷を負ったり痛めたり骨が折れたりしていたが、中でも一番酷かったのは、腕の怪我だった。
「人が死んだ」と「誰かが怪我をした」では、人に与える驚きに大差があるようで、今更その時の事をわざわざ思い出すとすれば、当事者か身内くらいのものだろう。
何日かは眠ったまま、目が覚めたとして身動きはとれないまま、エレクトラ号は出港してしまった。]
(177) 2013/12/23(Mon) 14時半頃
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[未だに、片腕での生活には慣れたとは言えない。
苛立とうが悲しかろうが、仕方ないと諦め続けることで、磨耗されていくようにして、少しづつ折り合いをつけた方が良いのだろうとヒューは考えていた。 利口な折り合いの着け方は分からなかった。 けれど、どうせ利口にもなり切れまい。 この一年間は、曖昧に、ごまかし続けるような、無駄にも思える日々を送ってきただけだ。
命があるだけマシともいえる。 身の危険を感じた際に、反射で恐怖を感じ、抵抗しようとしたのだから、きっとそういう事なのだろう。
運が悪ければ死んでいた以上、治療にあたってくれた町医者や、診療所へ運んでくれた者には、助けて貰ったという感謝の念や、義理のようなものを感じていないでもない。
多分見かねたのだろう。手を差し伸べてくれたワンダにも、また、そうだった。]
(178) 2013/12/23(Mon) 14時半頃
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[今更どうにもならない事を、ヒューはたまに思う。
「あの時こうしていれば」
今朝は、他人の死によって、殊更それを強く感じていた。]
(179) 2013/12/23(Mon) 14時半頃
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― 市場 ―
[ヒューは市場に帰った。ワンダが静かに立腹していた。 市場から裏通りまでを往復し、酔狂な旅人の歩調で朝凪亭に向かい、そこでもダーラと少し話してしまったのだから、遅れが出ていて当然だ。 ヒューは直ちに謝って、次の届け物の準備にかかった。]
(180) 2013/12/23(Mon) 15時半頃
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― 市場 ―
[ヒューが食堂に魚を届けて市場に戻ってきた時には、既に日は高くなっていた。冬の昼間は短いから、日暮れまでそう遠くはないだろう。 魚屋では、自警団員とワンダが話し合っているようだった。 既に市場で働いている者達を集め、軽く説明があった直後であるらしい。 曰く、この町は閉鎖された。人狼と疑わしき人間を探し、報告にくるように、という事だった。>>#3]
本当にいるんですか。
[ぽつりと言う。 懐疑的を通り越し、探す気もない、といった様子だった。 熱心に犯人探しをする気のない人間の証言が、自警団員にどういう心証を与え、どう解釈されるのかは分からない。]
(186) 2013/12/23(Mon) 21時半頃
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― 市場 ―
[いつもに増して身の入っていない働きぶりである。 時刻が気になるのか、難しい顔をして、空を見ることが多かった。 おつかいに来た子供が、ヒューから釣銭を受け取って、慌てて通りを走り去っていった。]
(199) 2013/12/23(Mon) 23時頃
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― 市場 ―
[ワンダが客とお喋りしている声が聞こえてくる。 聞いた声だなと思ったヒューは、怪訝そうに一、二歩進み出でて、声の主を確認する。ぽかんと口を半開きにした。]
セレスト? ……何うろうろしてるんだ。
[呆れと戸惑いを滲ませて、客の名前を呼んだ。 ワンダはリンゴを手に持って、ひらひらと振り、肩をすくめていた。 ぼんやりと店番をしている内に、話はいっぺんに進められていたようだ。]
あねさん……すみません。
[既に店を外す許可を出していたらしいワンダへ、遠慮がちに目礼をして、前掛けを外して、店の外へ出た。]
(210) 2013/12/23(Mon) 23時半頃
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一人で来たのか?
[他の船乗りが一緒というわけでもないようだ。 心配から、つい厳しい口調になりかける。]
(214) 2013/12/23(Mon) 23時半頃
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……店をしめたら、こっちが朝凪亭に行く予定だったんだ。 ちょっと遅かったな。
[セレストと並び立つ。快活そうな笑顔や、肩を竦める様を見下ろしながら、小さくため息のようなものを漏らした。]
あぁ、あの人か……いや。誰かと一緒だったならいい。 この辺は人通りもあるしな。
……容疑って、自警団がいってたやつか? ……。
[ヒューは、俯いて、難しい顔をしていた。>>216]
帰りは送る。何があるかわからないから。
(223) 2013/12/24(Tue) 00時頃
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……居もしないかもしれないものを、探せっていうのは、馬鹿げてる。
[容疑者の名前が話にあがり、聞き終えると、ヒューは首を横に振っていた。>>217 ワンダの容疑は晴れたという報告は朗報だったのだろう。 そちらに関しては、ほっとした顔を隠そうとはしない。]
俺のことは、別に……
[自分が疑われるのは良い。 けれど、船乗り仲間のセレストから怪我人だと呼ばれるのには、堪えた。 セレストは、目を細めている。労わるような口ぶりに、微かに笑う。]
(235) 2013/12/24(Tue) 00時半頃
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……大体は、よくなったんだ。 けど、腕はもう、どうしようもない、らしい。
だから、どうだろうな。
[セレストの顔が見ていられなくて俯いた。>>218 ここで返答してしまったら「そういう事」になると思った。 先延ばしには、もう出来なくなる。]
……。 船長に無理を言うわけには……いかないよな?
[目の前の相手に尋ねても仕方がないとは、分かっていた。 苦笑して、頭を振る。]
(238) 2013/12/24(Tue) 00時半頃
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いや……悪い。 いいんだ。
[相手にしてしまった質問を撤回するように、言葉を続けた。]
難しい。 ってことなんだろう。
[言ってしまって、自嘲する。]
(240) 2013/12/24(Tue) 00時半頃
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[ヒューの肩に、セレストの頭がぶつかる。 顔をあげたセレストは、眉を下げて笑っていた。]
――、
[セレストの言葉をきいているうち、堪らなくなって、片腕を伸ばして、セレストの頭をもう一度肩口に押し付けた。 俯いて、セレストの髪に、頬をくっつけた。 セレストの髪は濡らしてしまうだろう。見っとも無いと思ったが、堪えられずに泣いていた。]
そうかな。
[本当に、乗せて貰えるだろうか。 もう一度、仲間と呼んで貰えるだろうか。]
(252) 2013/12/24(Tue) 01時頃
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