254 東京村U
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PPP イルマは、メモを貼った。
gekonra 2016/10/07(Fri) 00時半頃
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[すっかり新宿駅ではなくなってしまっているようだった。>>5:182 意味がわからずに、女の目を見ていた。 その、なにを考えているのかわからない目は、本棚へとうつる。 視線の先には青色のファイルが並んでいた。 それがなんだかは分からない。]
……――
[ただ、ただ一つ分かることがあった。 この女は、心配なんかしていない。 かといってひたすらに無関心という感じもない。 なにかに似ている。 そう思って、脳裏に過ったのは、あの両親がいなくなる朝、女友達で集まって、アイドルの怨念がどうとかいうあの動画を見ていた時の自分たちの笑い声で――]
(18) gekonra 2016/10/07(Fri) 20時半頃
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[不快感がこみ上げて、何を言っていいか分からなくなった。 同時に、一二三に今度はちゃんと謝らなくちゃと思った。
キルロイ先生と出目が仕事の話をしているのが、まるで頭に入ってこない。 いや、それはあのアンケート女の受け答えの意味が、思想が、まるでわからないせいもあるのかもしれない。 アンケート女は、にこにこと笑ってさえいる。]
(19) gekonra 2016/10/07(Fri) 20時半頃
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(なんなのこの話)
(なんでもいいからみんな返して)
[そう思った時に、カサ、と紙の音がした。 顔をあげた。
『何者の干渉もない、本来あるべき未来を』
そう書かれたアンケートをキルロイ先生が掲げていた。 アンケート女の顔は――無表情になっていた。]
(20) gekonra 2016/10/07(Fri) 20時半頃
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[先ほどまで機嫌よさげに話していた女は、なぜかそのアンケートに落胆したかのようで、ぶつぶつと、独り言のように、キルロイ先生に話しかけ続けていた。
関わってはいけないものに関わってしまった。 その後悔が、女が口を開いて何事か喋るたびに降り積もる。]
(21) gekonra 2016/10/07(Fri) 20時半頃
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[から、と、音がした。
アンケート女はベランダへと続く出口を開いた。 緑のカーテンが揺れている。 閉じた空間に、出口と、風のとおりみちがうまれた。]
(22) gekonra 2016/10/07(Fri) 20時半頃
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[キルロイ先生の怒声と、机をたたく音でハッとする。 ベランダから風がふきこんだ。入間はすう、と息を吸った。]
(23) gekonra 2016/10/07(Fri) 20時半頃
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――あんなの……あんなの希望しているわけないでしょ!?
アタシは確かにアンケートに八つ当たりしたわよ、 でも別に! 知らない人に……まして、あなたみたいな人に 勝手に何かして欲しかったわけじゃないし!
第一ね、アタシの記憶が間違ってなければ! アタシは「マトモな」って書いたのよ!
人の家にことわりもなく勝手に入って、 見ず知らずの他人の娘に父だの母だの名乗る人間の どこがマトモだっていうの!? 普通の神経だったら他人の家に勝手に入り込んで 勝手に料理なんてつくんねーよ!ばっかじゃないの!?
……だからっ…… とにかく! アタシはこんな未来望んでない。 大きなお世話だから、アタシのパパとママを返して!
(24) gekonra 2016/10/07(Fri) 20時半頃
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[アンケート女は、悪びれもせずはっきりとあの他人を知っている調子で言った。 ごく当たり前のことで、まるで入間のほうがおかしいとでもいうように。僅かに心配を含んだ口ぶりが、入間の神経を逆なでする。 心のどこかで「アンケートに希望をかいたから」だなんて、そんなことはあり得ないと思っていた。 でも本当にあのアンケートのせいだった。 おかしなカルト集団のせいだった。 それが現実的になってきて、目の前の女とこの空間に対する嫌悪感が急激に高まる。]
……なんで……? あの人たちにだって本当は自分の名前、あるはずでしょ!? どうしてこんな事ができんのよ!
[頭がぐらぐら煮え立っている。]
(28) gekonra 2016/10/08(Sat) 01時半頃
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近所の人にも、あの知らない人達にも、 あなたがアタシのパパとママだって言わせてたのね!?
[あの「なりすまし」たちの言い様とおなじだ。 彼女はまるでこちらがおかしいとでも言うように、知らない当たり前を押し付けてくる。]
ていうか……るい君もあなたのせいなんじゃないの!? そもそも新宿のどこかで迷ってるなんて本当なわけ? どこかに閉じ込めてるんじゃないの? 全然連絡つかないし――ちゃんと家に帰してあげて!
(29) gekonra 2016/10/08(Sat) 01時半頃
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[自分の言葉には責任をもたないと、なんて、どうしてこんなやつから窘められなければならないんだと歯噛みする。]
……どんなにあなたが、 あの人たちをアタシの親に仕立て上げようとしても。 「そうだ」なんて言わないから。
[アンケート女を睨み付けて言った。 小首を傾げたその女は、さらに首を傾げる。 胸の奥がざわざわした。 人形のようだった。 不気味な人形と話しているようだった。 この女を人間として話していてはいけない気がした。 入間は――自分がこの女を怖れていることを自覚した。]
(30) gekonra 2016/10/08(Sat) 01時半頃
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あなたほんとに人間なの?
[非難をするつもりで言ったそれには、自分でも困惑が混じってしまったのが分かった。 こんなに言ってもこの女は、未だ、作り物の常識をこちらに押し付けたり、あくまで人の「希望」をきくことを、まるで意に介さずに続けている。]
(31) gekonra 2016/10/08(Sat) 01時半頃
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返して。
[怖れていることを、アンケート女に悟られたくなくて、声に「震えるな」と言い聞かせようとするのだが、うまくはいかなかった。]
元の――あなたにアンケートを渡す前の、 入間祥子と入間祐輔を返して!
希望?希望っていわなきゃ何にもする気がないわけ!? じゃあ希望よ!
あなたにアンケートをあげたあの朝より前に、 アタシがパパとママと呼んでた入間祥子と入間祐輔を ちゃんと返して。
ついでにいえばアタシの家に寄越した他人は 今後一切アタシに関わらせないでっていうか ちゃんと警察に捕まって。 責任とか言ったよね?悪いことした責任をとって。
(32) gekonra 2016/10/08(Sat) 01時半頃
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― 四ッ谷マンション ―
[電子機器があげるひび割れたノイズは、次々部屋中に散らかって、すぐに部屋をいっぱいに満たしてしまった。
耳の奥と頭が痛み、拍子に目が回るほどの異音だったのに。 アンケート女は異音の真ん中で、部屋を満たす音にこれっぽっちも気づいていない様子で言った。
奇妙にゆがんだ音のなかではっきりと
「これで、希望通りのはずよ」と。]
(110) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時頃
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[キルロイ先生と出目、そしてあのアンケート女のやり取りは、結局、入間には殆ど意味が分からなかった。 異音の最中で、二人の意見がぶつかって、恐らく思想の話をして、恐らく矜持のようなものの話もして、きっとアンケート女とキルロイ先生の考えは食い違った。 その程度の了解だけが漠然と頭に残って、あとはもう、殆ど何を言わんとしているのか、頭に残っていなかった。
キルロイ先生に促されて、看板のかかった部屋を出てすぐ。 入間は腰を抜かして立てなくなった。 緊張の糸がぷっつり切れた。 周囲の言葉の意味が掴めなかった理由に、外の空気を吸って漸く追いついた。あの異音の後、常識では括れぬ出来事の連続に、頭が恐怖のみに塗りつぶされ、不安で不安で、他人が話す言葉の意味を噛み砕く余裕が一切なかったのだ。
人間なのかと問われて、心地よさそうに目を弧のかたちにしていたあの女の顔が目に焼き付いて離れなかった。 今出できたこの扉の向こうには、二度と足を踏み入れてはならない。未だ思考が濁り、目が回りそうな中、そう強く思った。
まるで、ちいさな地獄にいたようだ。]
(111) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時頃
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[入間がそのように扉の前で呆けていて、すぐのことだった。 入間のスマホに電話がかかってきて、入間は言葉にならない悲鳴をあげ、スマホをコンクリート床に落とした。
床に落ちたスマホの画面には、「パパ」と表示されていた。]
(112) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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― 東中野のとあるマンション前 ―
[入間は父と母からの電話を受けて、東中野へと帰ってきた。 自宅マンション前には、警察車両が入間の居る位置から見える限りで二台ほど停まっていた。
入間はエントランス前に立ち尽くし、呆然とそれを見ていた。 希望が、叶っていた。
入間はたしかに「ちゃんと警察に捕まって」と希望した。>>32 不法侵入だったのだから、そうなるべきであると考えていたはずなのに、どこか狐につままれたような心地のまま、白色のタイルを敷き詰めた新しいにおいのするエントランスの奥へ、よろけた足取りで入っていった。]
(113) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[父と母曰く]
(114) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[父と母は朝の夫婦喧嘩の後、マンション近くで起きたある事故が原因で病院にずっと居たのだそうだ。(>>58)
会社には緊急の用で休む連絡をいれていたそうなのだが、入間が母の携帯電話から会社へ電話をかけた際、電話に出た男からは、何故だか、一切そのような話は聞かされなかった。
ある事故とは、父や母の身におこったことではない。]
(115) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[入間澪音が事故にあった、のだという。(>>1:*2)]
(116) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[いや。事故と言い切ってしまうには些か事情は複雑であった。 なぜなら、それは「恐らく自殺だ」と思われていたから。
道路に飛び出した清瀬市立高校の制服を着た髪の長い女子高生。事故直前、彼女の様子を見た通行人によれば、ずいぶん思い詰めた様子だったという。 そして車に轢かれたその女の子は病院に搬送された。
事故の知らせを同マンションの隣人から聞かされた父と母は慌てて病院に向かったのだそうだ。]
(117) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[なりふり構わず、入間の父と母は家を出た。 それから、ずっと病院に居続けたのだという。
言われてみれば、父も母も、希望調査アンケートに希望を記入した朝と同じ服を着ていて、それはよれよれになっていた。 父も母も、随分憔悴しているようだった。
事故にあった『入間澪音』は、結局、死んでしまったそうだ。 あちこち損傷が激しく、対面した時、顔もわからなかったらしい。
なりふり構わなかったため、二人とも携帯電話はどこかへ落としてしまっていた、と彼らは語った。 職場などへの連絡は院内から行っていたらしい。 なんとも、嘘のような話である。]
(118) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[入間は、両親の話をききながら、あの四ッ谷のマンションの一室を思い浮かべた。 小さな地獄のようなあの部屋の、偏執的な本棚にびっしりと並んでいた青いファイルを頭に思い描く。
そのファイルを、頭のなかで開いてみる想像をした。
なかには、幾人もの人の希望が書かれた紙があり、 めくっていくと、しらない誰かの様々な希望が書かれていて ある用紙には、そう、たとえば
「死にたい」と、書かれていたとして――……]
(119) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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― ある未来の話:入間家の朝 ―
[あの奇妙な、二、三日が終わってから少し経った。 後日知ったことだが、入間澪音が人捜しの依頼していた探偵は、依頼をした翌日の朝、奇しくも、その人もまた事故に巻き込まれていたのだという。 依頼は完遂されなかったが、父も母も、無事にとは言わないものの従兄も見つかった。]
(120) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[入間は学校へ行く準備を整え、リビングへ続く格子ガラス入りのドアをひらいた。
リビングの大きな窓からは朗らかな朝日が入り込み、エアコンは室温を適温に保っている。
リビングには父と母。 穏やかで、しずかな朝だった。
そこには、喧嘩をする声はない。 彼らの娘である『入間澪音』が車道に飛び出し自殺を図って、病院に運ばれたあの日から。]
(121) gekonra 2016/10/09(Sun) 18時半頃
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[あの日、娘が車に轢かれたという報せをうけ、病院に向かい、事故に関する事情をきいた両親は「娘を自殺においやった」と疑いもなく考えた。 以来、入間祥子と入間祐輔は、夫婦喧嘩をしていない。
娘の澪音は「行ってきます」と両親に声をかけた。 彼女の両親は「いってらっしゃい」と笑顔を拵えこたえた。]
(122) gekonra 2016/10/09(Sun) 19時頃
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[入間は家を出て、いつもと変わらぬ灰色の駅前の道を歩き、東中野駅へと向かった。 あれから駅前でアンケート配りの女はみていない。
入間澪音は思う。]
(123) gekonra 2016/10/09(Sun) 19時頃
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[あそこに居るのは果たして本当に、 自分の両親なんだろうか?]
(124) gekonra 2016/10/09(Sun) 19時頃
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[東中野駅に着くと、大江戸線に乗るため、入間は黒い帯のようなエスカレーターを、ゆっくり、ゆっくりと、深くおりていった。
ごったがえす人波のなかの一人となり、電車に乗りこみ、入間はスマホへ視線をおとした。 今朝もある元クラスメイトへ届かぬメッセージを送る。]
(125) gekonra 2016/10/09(Sun) 19時頃
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『なんか、知らない街みたい』
(126) gekonra 2016/10/09(Sun) 19時頃
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[背乗り(はいのり)。
工作員が他国人の身分や戸籍を乗っ取る行為を指す警察用語、であるらしい。**]
(127) gekonra 2016/10/09(Sun) 19時頃
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