276 ─五月、薔薇の木の下で。
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―明けの手前―
[ 咄嗟に口から零したその三文字が(>>*61) 彼がずっと求めていたものとも知らず。 的外れ、場違いにも程があるけれど 呼び慣れない名前は少しばかり照れくさかったのと やっぱり、いっちゃんは《いっちゃん》だ。 ]
なー。 ありきたりかも知らんけど。 普通って、たぶんただの理想でさ。 ああなりたいとか、こうなりたいとか、 そーゆーぼやっとしたもんで ほんとはみんな、汚かったり苦しかったり。 辛かったり、悲しかったり。 いろんなもん抱えて生きてんじゃねーかなぁ。
(9) anbito 2018/05/24(Thu) 07時半頃
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みんな見られたくなくて、隠してるだけだと思う。
ほんで、隠してるってのは 良いことでも悪いことでもないと思う。
咲いた花しか見ないのは、違うんだよ。 花が咲くまで、種から芽吹いて。 花が咲いて、香って、枯れて、やがて散って。 種が出来るまで、全部。 根も葉も茎も、ぜーんぶ見てやんなきゃ。
隠してたり、作った表面上も 傷付いた内側も、ぜーーんぶ。
含めて、《いっちゃん》なんじゃないの?
(10) anbito 2018/05/24(Thu) 07時半頃
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[ 珍しく多く喋った気がする。 けれどそこに嘘があるわけじゃない。 ただ、どうにも、自分自身を否定したがる様子に
――少しばかり、眠り姫の顔も重なって――
出来れば、あんな笑顔(>>4:95)が見れないかと 思うままに、告げてみたのだけれど。 ]
(11) anbito 2018/05/24(Thu) 07時半頃
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[ 素直に――やっと――泣いてくれた(>>2>>3)その背を撫でる。 最初っからこうしていればよかったと、後悔したって遅い。 知っていて、わかっていて。 例えそれが自惚れだったとしても。 試すような(>>3:62)、図るような(>>3:*22) 諦めたような(>>3:-48)態度をとった。 月の動かない夜でも、その事実は消えない。
それでも、どうしても。
キラキラした、夏の木漏れ日(>>2:213)が 水底から見上げるような、光の揺れ(>>3:48)が 忘れられなくて、忘れたくなくて。 諦めることなんて出来やしなかった。 ]
(12) anbito 2018/05/24(Thu) 07時半頃
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[ 半分冗談――いや、ほぼ本気だ。 待ってる(>>5)なんて聞けば、卑しい欲も膨れ上がるというもの。
それにしても、だ。 そんな未来を得るためにも。 他の奴や、眠ってしまった者たちを起こすためにも この夜を払う方法を考えなければならない。
もうこれ以上、誰に辛い思いをさせたいわけじゃない(>>4:72)。 呟き落とされた悲しげな言葉も(>>4:*58) 冷めてしまった熱が移ってしまったのも知らず。
さて、本当にどうすれば良いのか。 ]
(13) anbito 2018/05/24(Thu) 08時頃
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月を動かすとか、どうすりゃ良いのかね。
[ 本当に、みんなでちゃんと目を閉じてしまえば 案外朝はやってくるんじゃないかって、思うんだけど。
ほら、こんな風にさ。 瞼を閉じてしまえば。 ]
(14) anbito 2018/05/24(Thu) 08時頃
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ごめんいっちゃん、安心…したら… ねむく…
ぜって、おきる、から
一人には、させね……か …―――
[ 起きていなきゃと思うのに。 突如、襲いくる眠気に抗うこともできず。
強く抱きしめていた腕の力は、淡くほどける。 ]
(15) anbito 2018/05/24(Thu) 08時頃
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[ たくさん、たくさん返したい言葉があった。
そうだよ。(>>47) ずっと花の世話をしてたんだぞ?(>>48) ばかだなぁ。(>>-410) ずっと知ってた。(>>49) だから覚悟しとけ?(>>*13)
でもきっと、言葉なんて今は必要なかったから。 ]
(62) anbito 2018/05/24(Thu) 23時半頃
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[ おやすみと、眠る子供に告げるような声(>>53)。 叩かれるリズムに微睡み、瞼は重く、おもく。
抗えぬ眠りにただ落ちていく。
誰かが見た(>>31>>46)、東雲の空の中へ。 茜さす、未来へ。 ]*
(71) anbito 2018/05/24(Thu) 23時半頃
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[ ゆらゆら、揺れる(>>73)。 見上げた木漏れ日はキラキラとしていて──気が付いた。 これは水の中から水面を見上げる、溺れた魚の夢。 輝ける、思いでの中の風景。 ]*
(83) anbito 2018/05/25(Fri) 07時頃
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─ DAWN ─
……───ん。
[ ぴくりと瞼が動き、世界を取り戻す。 掛けられた毛布(>>74)にくるまり縮こまっていた。 明け方は、まだすこし寒い。 部屋の前でモソモソと動き直す。 布団からする匂いを嗅いで、思い浮かべる一人と──それから ]
(84) anbito 2018/05/25(Fri) 07時頃
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よぉし、起こしに行ったるか。
[ ぐ、と体を伸ばして大欠伸。 必然的に浮かぶ涙と目を擦って、立ち上がった。
長い長い夜のことは、たぶん何一つ忘れていない。 都合の悪い《夢》を食べる獏でも、俺なんかの夢は不味かったんだろう。 穢いものを抱えたまま、何一つ隠しはしない俺は 傷付いた心を泥で汚し、隠していきる人に会うための一歩を踏み出す。
帽子の鍔を掴み。 ──俺から会いに行くのはきっと、初めてだ。 ]
(85) anbito 2018/05/25(Fri) 07時半頃
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[ 片手に毛布を抱え、一つの部屋に向かう。 疲れているだろう(>>79)。 俺が来たのがその時間から、少しでもたっている頃だといいが。 ]
……いっ …ちゃーん おきてる?
[ すこし、遠慮がちに──同室もいるのかもしれないし── 扉をコンコンと、指がならす。 ]**
(86) anbito 2018/05/25(Fri) 07時半頃
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渡し船 ユージンは、メモを貼った。
anbito 2018/05/25(Fri) 08時頃
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ん。 いーよ、ゆっくりで。
[ たぶん、朝早い。 窓の外に広がる景色は、東雲の色をして 吸い込むみたいに瞳に映る。移る。 相手の支度が済む(>>88)まで、ぼんやりと外を眺めていた。
眼下には狂ったように咲く、赤い薔薇。 全てあれが見せた夢なんだとしたら、俺は─── ]
(96) anbito 2018/05/25(Fri) 17時半頃
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おお、うん、おはよ。 約束、…したしね。
[ 現れた姿にそういってみたはいいものの。 いっちゃんがあんまりいつもみたいに笑う(>>89)から。 全て全て俺が勝手に見た夢で、勝手に舞い上がって 勝手に両思いだなんて、思い込んでいるだけかもしれない。
逡巡するように、東雲の瞳が揺れる。 こんなにも俺は弱かったろうか──人の子は、弱い。
弱いからこそ抱えて生きていくことを知った、夜。 ]
(97) anbito 2018/05/25(Fri) 17時半頃
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[ それでも聞こえた声(>>*21)は、少し違う音で。 耳に届くそれは、懐かしささえ覚える色で。
ならばやっぱり、夢ではなかったのだと 安堵さえしてしまうのだけれど。 ]
(98) anbito 2018/05/25(Fri) 17時半頃
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ごめん、いっちゃん。 その声もう、でないや。
[ 少年が大人に変わる、変声期みたいに。 きっとこれも成長のひとつ。 生きることを、咲くことを、選んだから。 ]
(99) anbito 2018/05/25(Fri) 17時半頃
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そうね。 今日は生徒会室にしよかな。 誰に聞かれたい話でもないし。
[ それもまたきっと、珍しい。 傲れていた俺は、いつだって誰かの足音を──キミの足音を──待っているだけだった。 だから、今日は。
キミの領域に踏み込ませてよ。
同意を得て、生徒会室についたなら。 金属音が、カタンと鍵を掛ける。 ]**
(100) anbito 2018/05/25(Fri) 17時半頃
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─生徒会室─
[ 必要のなくなった声(>>*23)が、あの長い夜を ただの夢じゃなかったと教えてくれた。 眉の下がる表情にも、我慢して伸ばさなかった手。 今じゃない、もう少し、あと少し。
後ろ手に落とした鍵からその手を離し。 傷だらけの腕がするりと動く。 促すように引かれた椅子を通りすぎ。 立ったまま、その手をとった。 ]
(106) anbito 2018/05/25(Fri) 20時半頃
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おつかれさま。 途中任せちゃって、ごめんね。
[ さまよう視線を東雲が追いかける。 たくさん泣かせたその頬に、腕をとる逆の手を伸ばし、 腫れた瞼に親指をなぞらせた。 ]
キミは俺に、ずっと生きてろって謂った。 薔薇(おれ)には何が必要か、って。
[ もう、薔薇の悪魔ではなくなってしまったけれど。 俺に必要なのは、ここから溢れ落ちる雫。 薔薇は雫がなければ咲かない。 出来るなら、悲しみに喘ぐのではなく歓喜に震える涙で。 ]
(107) anbito 2018/05/25(Fri) 20時半頃
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[ 腕を引けば、その体を抱き寄せることはできるだろうか。 拒絶されたら、嫌がられたら、殴られたら。 人間の弱みてある不安がいちいち鼓動を早くする。 けれどそこにはそれ以外の、ドキドキとした音も混ざって。 ]
俺は、いっちゃんがいないと咲けない、らしい。 キミが必要なんだ。 だからさ、もう二度と。
[ 耳元に、そっと落とす。 ]
《さよなら》なんて、謂わないでよ。
(108) anbito 2018/05/25(Fri) 20時半頃
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───いや、謂わせない。
[ やっぱり俺は悪魔だ。 この唇が紡ぐのはきっと、呪い。 甘く、苦く、いっちゃんを縛り付ける。
抱き寄せて囁いた耳許に、唇で触れる。 柔らかな刺をさすように。 やがて鼻先を擦り合わせて、吐息の絡む位置で。 ]
好きだ。
[ 見詰めて。 ]*
(109) anbito 2018/05/25(Fri) 20時半頃
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[ ほろほろと落ちていく声は 魚の鱗の様にキラキラと乱反射して見えた。 小さく漏れた声(>>151)も。 確かめるように繰り返す声(>>152)も。 交じり合う息の中、緩められる口元(>>153)も。 過去に重い荷物を背負ったこと(>>155)を語る言葉でさえ。
狡いのは俺の方だよ、いっちゃん。 美しいキミの外面を手折れたら――めちゃくちゃにできたら――なんて 悪魔のようなことをずっと思ってた。
いっちゃんだけじゃない。 他の誰にだって、そうだ。 ]
(172) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ 俺を綺麗だと思うのなら、きっとその目は澄んでいる。 疑うことをしらない、いたいけな瞳。
俺のことを汚いと謂うならば、きっとその目は研ぎ澄まされている。 本懐を見定められる、強い瞳。
俺に向けられるそれらを いつか、いつか――いつでも―― 元通りにならないくらい、壊してみたいと思っていた。
背徳という、業。 ]
(173) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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謂ったろ、みんななんか抱えて生きてんだって。
俺だって穢いさ。 ま、お揃いでお似合いじゃん?
(174) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ その背に背負わされた過去の荷物を、いつか二人で解けたらと思う。 今すぐでも良い、もっとゆっくり時間をかけてもいい。 捨てられないなら半分は背負ってあげるから――なんてのは 在り来たりなフレーズなのかもしれないけど。
唇が触れ合うだけの口付け(>>156)と、あいの言葉。
落ちる雫は、舐めたら甘いんじゃないだろうか。 吸い取るように目尻に、頬に、口付けを落とす。
彼をずっと見てきたようで、知らなかった。 キミはこんなにも―― ]
(175) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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――いっちゃん。
『Please marry me.』には 『Yes, I do.』でいいんだよ。
(176) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ Marryなんて、例え話ではあるけれど。 お喋りな唇は少しばかり強引に塞いでしまおう。
子供がするようなものじゃない。 だからって大人がする誓いのキスなんて綺麗なものじゃない。
呼吸を奪うような、情欲に塗れた 神に背を向けるような冒涜的なキスを ]**
(177) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ 言葉を落とさないのは、言葉では語りつくせないから。 縫いとめられた夜も――遠く輝いたあの時も――動き出したのなら 過ぎた時を埋めるように、 溢れる想いを伝えるように、 本当はもっとゆっくり優しく、なんて紳士ぶる気持ちはあれど 駆り立てられるように早急になるのは 若さってことで、まあ、許してほしい。
好きだと気付いた相手から あいしてると謂われて。 身体を預けるように、もしくは強請るように 舌まで絡む口付けに欲が膨れ上がらないわけがない。
例えここが、相手にとって神聖であろう場所でも、だ。 ]
(205) anbito 2018/05/26(Sat) 14時半頃
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いっちゃん、ちゅー上手いんだ?
[ 呼吸の合間に告げながら、唇を啄ばむ。 若さの猛りを密着させればこれが薔薇の呪いでもなんでもなく 同性という常識的ではない相手にあるがままの本能を、ありのままの欲望を 孕んでいるのだということが知れよう。
まだ残る、首筋の花弁にキスを落とし。 けれどそれを上書きしてしまわないのは、俺の歪んだ傲慢さだ。
他の誰かとの情事を忘れることなどない、と。 それは赦しでも、憐憫でも、侮蔑でも、ない。
キミが生きた時を、選択したことを 否定したくないなんていう傲慢。 ]
(206) anbito 2018/05/26(Sat) 15時頃
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