人狼議事


240 なんかさ、全員が左を目指す村

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視点:


[オレが苛立ちを増すほどに相手が余裕の大人面をしてくるのは気に食わなかったが、
他者にわかりえぬ人格を持ち合わせていある故に、
彼奴のこちらへ目線を合わせようとする努力はみとめてやろうとは此方も一応思う。

それがオレを良いように扱うための手筈なのだとしても。]

 悦くしてやりたいとは思っているが、それは貴様が男相手に欲情出来ない身の上でこの様な状況下にいることに多少は同情するからであって。

 少なくともそのハードルはクリアしてやったことに感謝してもらいたいくらいだ。

[特にオレと繋がる因子を持ち合わせたことの幸運に気付けないことにも同情しているのだが、古来よりの神を信心する輩に言っても無駄だろうと敢えて繰り返しはしない。]


[咥内に侵入した指に立てた牙を気にも止めない様に其方にまで塗りたくって来る不躾さに、この男は人を怒らせる天才なのではと逆に感心し始めた。

汚れたから舐めろとはまた無礼極まりないと、犬歯を更に食い込ませてやろうかと思い、しかしまた続く挑発に乗せられるのだから気に食わないが、
煽る様にその指先に舌を絡めて、態とらしく音を立てて吸うと、残滓を唾液と共に胃に流し込んだ。

味は決してよくないそれが、胃で毒と混ざると何故か燻る熱が増した気がする。]

 選挙には行ったことがなくてな。
 気紛れに行く機会があれば入れてやっても良い、が、それは貴様の態度次第だ。

[突き上げられた腰にまた呻き声を出しそうになるのを堪えて、
長いフルネームは頭には刻んでやった。
精霊の召喚呪文よりは短い、覚えてやらないこともない。]


[首筋に落ちた唇に吐息が漏れ、身体に甘い痺れが走る。
同時に熱源を弄ぶ手に声が出そうになるのを堪えながら、笑気混じりの言葉を聞いて。]

 ん…っ、ぅ、別に貴様の神になりたいのではなく、神になる男だと言っている。
 貴様が改宗を望むならオレは受け入れるぞ?

[不躾に刻まれる歯型が誓いの証とも思えなかったが、神としてという言葉と良い子にするという子供扱いする言葉の矛盾に指摘はしないでおいてやる。
信心深いというこの男が本気でそれを言っているかは計り兼ねるものがあるけれど、少なくとも気分は悪くなかった。]

 …最初から迷いはないと、言ったはず、だ。

[乗り気だと揶揄る言葉に今更取り繕うつもりはない。
身体の反応が正直なのは明白であることも仕方なかろう。
しかし視覚からの刺激に弱いのもあり、それから目を逸らす様に拙い愛撫を彼の耳に施して]


[引き寄せられた腰と不意に強く擦れた熱がシャツの上で弄る指先を止めて、ぎゅう、とその布地を掴む。]

 んっ…ぅ、はっ……、ぁ、

[漏れ出す声を治めようと、彼の肩口に犬歯を刺して声を殺す。
音にならぬよう、フーフーと歯間から漏れ出る息に留めながら落ち着きを取り戻そうと試みて。

こういう時は授業中に居眠りをして目が覚めたら勃起していた際に利用していた手段を使うべきだろうか。
素数を数えるという奥義を。]

 に…、さん…っ、ご、……ぅっ、あ、っ……くっ、そ、ダメだ。

[逸らそうとした意識に集中出来ないならばもう、と、頼むから先に果ててくれと思いながら腰を揺らした。]*


[身体は随分と物覚えがいいらしい。
悲鳴じみた声と共に、絡まり溶けた熱が離れていく。]

 ………は、
 お願いすれば触らせてくれるのかい。
 じゃあ、挿れさせてくださいって言ったら……?

[下腹を重く煽る、彼の口付けと舌遣いに翻弄されていたのを誤魔化すように。
どちらのものかわからない唾液で濡れた唇を舐めながら、浮かべるのは確信的な笑み。
肌を弄る指先の動きを止めることなく。振りほどこうともがき、罵る声ごと。赤く熟れた唇を今度はこちらから塞ぎにいく。

一度外気に触れて冷えた唇は、一瞬にしてまた溶ける温度まで熱が上がる。
閉じ込める檻から抱きつく形に変化していく彼の腕の中で、再び響かせる音は今度は室内を満たしていく。
抗いながら息苦しさだけでなく目元を朱に染めた彼を、逸らさず見つめたまま。


[跳ねる背へ与えていくのは、痛みだけでなくもどかしい快楽。
組み敷かれ、受け入れ、抱き締められる身体だということを思い出させるように。
それが己以外の誰かの記憶と重なるのは、正直業腹だが。]

 ……理津。
 腰が、揺れてるよ。

[自らの反応に戸惑う彼の唇を解放して、くつりと笑う。
肩を叩き身を捩る彼の媚態に、己の下肢も窮屈なほど布地を押し上げて。
動きの止まったままの彼の膝先に、自ら主張するように押し付け示した。]



 ほう、君の慈悲とは憐憫か。
 ―――だが、ミスタ。

[彼に濡らされた指先が背に回る。
政務机に齧りついても、痩せこけることを知らぬ逞しい腕。
彼の体躯を支えるように、また、抱きこむように。]

 君のような若人が居るから、投票率が低迷する。
 しかし、大丈夫だ。君はきっと、私の名を綴るようになる。

 ―――……君は、私の名を、忘れない。

[言い聞かせるに近い声が首筋で暴露し、
彼を己の上へと招く引力で、背をシーツの海に投げた。
掌で作った隘路を穿つ熱を、腰で絞りながら。]



 その門を叩くのは私しか居まい。
 君に下ろうと云うのだ、―――…魅力を感じないかい?

[見上げる眼差しは熱に焦げた色。
鋭い眼差しも、不遜な物言いも、愛らしく映るようになった眼は、
聞き流してきたはずの彼の発露に伝染してしまったらしい。

自身の中で育ちゆく見知らぬ感情を自覚しないまま、
頬に寄せた唇がリップノイズを交えてキスを打つ。
子供を慰めるような接吻など、初めてかもしれない。]


[女以外を相手にしたこともないのに、彼と云う人間は、
性差の垣根を容易く超えて、己の神経を爪弾いていく。
シャツに皺が刻まれることすら、もう叱りはしなかった。

削げていく余裕と、己しか知らぬだろう本性に燃えて忙しない。]

 ―――…ミスタ、もう、遊びは終わりだ。
 君は私に脚を開き、胤を腹に抱える。

[切れがちの息は断続的。
けれど、決して彼から視線を外そうとはしなかった。
寧ろ、この瞬間を焼き付けるように、瞬きすら惜しみ、
素数を捻り出す唇に笑って、擽るように口角に口唇が触れた。]

 キリー、君を抱きたい。
 ―――……クリスと、私を呼んでくれ。

[淡い口付けの合間に舵を取る指が緩慢に伸び、
限界近い彼の切っ先に爪を立て、鈴口を掻き乱すと同時、
彼の腹筋まで熱く求める慾を突き上げた。*]


[自分の慈悲が憐憫かと聞かれれば、否。いや、実際のところは虚言である。

実際は彼奴に同情したわけでも、慈悲をかけたわけでもない。
有り体に言うならば、さも義務然とし此処に居る相手が、自分に興味を示さなかったことが気に入らなかったというだけの話。

勃たないのであればそのままにしておけば此方が子種を供給する良い理由になった。

それでも屈辱だと思う行為までして欲情を煽ったのは結局のところ、自分本位な理由である。
自分に劣情を向けて欲しかったという、それだけの。

彼のためとはそれこそ詭弁だ。]

 は、名前を忘れなかったとて、貴様に投票してオレに得があるかは疑問だがな。

[汚い大人にはなるまいと思う癖、そんな子供じみた自分の本心は見ないふりをして、変わらず口は皮肉を紡ぐ。]


[確かに忘れはしないだろう、オレは。

しかしさっさと精子提供の義務を終わらせて帰りたいだろうこの男は、
それが終われば頭がおかしいガキと主義に反して不自然とされた性交をした、というくらいにしか記憶には残さないのだろう。
清廉潔白な政治屋にとってはむしろ汚点やもしれん。

いくらそれが幸運であるとオレが主張したとて、他人がオレの話に聞く耳を持たぬことなど痛いほどに知っている。

それでオレは構わない。
自分さえ、自分の世界を信じていれば他者の目など、どうでも良かった、はずなのに。

栄養失調気味の細い身体は易々と引き倒され、男の上に覆い被さる形になる。
望んでいたマウントポジションのはずだが、余裕のない下肢の熱に、その優位さすら暴発を誘う形に思えた。]


 …ふ、オレが神になった暁には門に下るものなど数多だろうがな。
 席取りを急く気持ちは汲んでやろう。

[この男の甘言は逐一人の弱味を刺してくる。

それが酷く気に入らないのは事実だが、その甘言を受け入れてやろうという気になりそうになるのだから、
やはり政治家というのは人を乗せるのが上手いのだろう。

相手は奸計に長けた汚い大人だ。
信用すまいと思うのに、見上げてくる眼差しを睨む目線を逸らしたくなる程に熱く。

頬に与えられるあやす様な口付けに意志が揺らぎそうになる。

単純な性的刺激以外の熱に絆されそうになるのを避けたいと思うのは、孤独に慣れ過ぎた故。]


 っ…だ、れが脚など、開くか。

 はっ、貴様も大分余裕が無い様に見えるが?

[とうに余裕など無い自分のことは棚上げして、頑なに子を孕む側に押しやろうとする大人げのない大人に言い返すも、頼みの素数すら数える余裕がない昂りに限界は近く。

堪える様に噛んだ奥歯は口角に触れた唇で、僅かに気が抜けた様に緩んだ。

少し前、告げた愛称を呼ばれ、呼んだからには希望を叶えるという気があるわけでもないことは、続いた言葉から伺える。

それは、充分に効果のあった餌。
その三文字の音を発することが特別であるというなら、紡ぎたいと思えた音だ。

だけれども、]


 っ、いや、だ…

[紡いだのは別の三音。
素直になどそう簡単になれない思考は駄々をこねる子供が如く首を振る。

心の何処かでそうなっても良いと思う考えを振り払うように。

隙を見せまいと誓ったはずだが、そんな心の惑いは大きな隙だ。]

  っあっ、ぐ….…っ…

[曲げるつもりも無かった意志に僅か空いた穴を抉る様に、
彼の爪が先端に喰い込み、掻き乱されて身体が跳ねる。]


 ッ…、 ――クリス……ッ…!

[強く突き上げられた摩擦の衝撃に慾を爆ぜさせると同時、
誰より高いプライドを全額betした“分の悪い賭け”に負けた男が叫んだ名は、

その要求への承諾の証。]*


[犯して養育費だけを渡し、捨ててしまえば良い。
そこには情もなく、熱もなく、あるのは人類の義務。

――― そう思っていた筈なのに、彼は自身に温度を分けた。

事務的に身体を繋ぐことを拒み、愉悦を求め献身を見せて。
同性に射精に至れぬかもしれない自身に漬け入るではなく、
初対面相手の快楽と云う、些細な事象に拘り続けた。

彼は、決して、独り善がりのセックスなどしない男だったのだ。]

 ―――…豊かな暮らしを約束しよう。

 私は公約を守る方だ。
 君が同性を愛するなら、もっと過ごしやすい世になる。

[誘い文句か甘言か、安堵させる為に吐いた言葉で、
自らの胸を浅く切られ、微かに眉間に皺が寄った。
感傷だと誤魔化しても、彼の瞳が他所を向く可能性は堪える。]


[茶番が終われば、彼はまた誰彼構わず神門を潜る資格を問い、
疼く煉獄の血に湧かされて奇行に走り、
カノッサ機関と水面下で死闘を繰り広げながら、
別れ際にラ・ヨダソウ・スティアーナなどと呟くのだろう。

そんな言動に制止を掛けるのも、半眼で苦笑してやるのも、
本当は自分の役目ではない。何せ因子が繋いだだけの誼だ。
抱きしめるよう回した腕に力が篭っても他意はない。]

 今まで神一人で回していた癖、大口を叩く。
 私は最初で最後の、君を信仰する敬虔な信者だ。
 ……大事にしなさい。

[自らの言葉には多分な願望が入り交じり、
下肢から胸板までを波打たせるように体温を交換する。
寝台の上で重なり合う肉体は、ひとつの影を作っていた。]


 ―――…ああ、分かるか。
 案外、気が乗った。君を妊孕させたい。

[義務的な終息に至る為ではなく、
手段はいつの間にか目的と摩り替わった。
此処から脱すると云う当初の目的は既に優先順位のランク外。

今は、この生意気で口の減らない末期患者を犯したい。
刺激に耐えて、熱い溜息を撒く彼に胤を刻みたい。
彼を孕ませ、血を分けた子と言う鎹で繋ぎたい。

自身の持つ、“特別”で、この子を騙してしまいたかった。]

 いいや、赦す気はない。逃す気もない。
 さっさと諦めていれば、手早く済ませてやったものをな。
 ―――…君は退き際を見誤った、キリー。

[挫いた指先を濡らす飛沫に、首筋が粟立ち、興奮が増す。
腹に飛び散った情欲は、勝敗を決する意味を持たず、
見出す価値は、彼が自身に欲情とした確かな証として。]


[放埓の収まらぬ間も、彼を戒める腕から力は抜けず、
寧ろ、擁したままで下衣を下着事引き抜いた。
赦された未開の庭への通行許可、呼び声に逆らう術はない。

ぬく、と身体を擦り合わせ、寝台の外へ彼の着衣を捨て、
僅かに体躯をずらしてやれば、腹筋同士に挟まれる彼の陰茎と、
双丘を割るように窄まりの襞を引っ掻いてスライドする自ら。

達したばかりの、否、達する最中の彼に容赦なく刺激が絡む。
疑似性交めいて臀部の薄肉に通す肉欲は、血管すらも浮いて、
彼を孕ませたがるに滾って肥える。]

 準備は出来たか? 胎を拓け、キリー。
 ――― 一番奥に出して、たっぷりと孕ませてやるから……、
 


 

 君によく似た、私の子を産んでくれ。


[響かせる水音で鼓膜を犯し、触覚を吟味して唆す。

意識して絞った飛び切り低い声色は、
彼の子が欲しいと、赤裸々な副音声が重なった。*]


[親の顔は今見させられないが、遠戚ならば可能だ。
尤も、吾郎が孕むまでお預けになるし、紹介するかは別として、
異性愛者である筈の遠戚も励んでいる事にも目を逸らそう。
かの上院議員と同じ少子化対策に属するなら、
普段の仕事ぶりやら何やらと話を聞く必要はあるのだが。]

 ああ、それもそうだな。飲ませるには勿体ないし、
 赤子に淫乱なママの味を教えるなんて、早すぎる性教育だ。

[突っ掛かる売り言葉には高値の購入意思を添えて返却し、
徐に見せつける舌は噛んで欲しいのか。
それとも、早く喉を犯されたがって挑発しているのか。

直接塗布すればいいものの、自らの口に含んでの奉仕は
照れ隠しと彼自身への言い訳に過ぎないと、笑みを深めた。]


[口を雄で塞がれても彼の双眸は雄弁で、
髪を梳いただけで喉を鳴らすネコの表情を浮かべている。
乱暴に喉を突いても、吐き出しも、間違えて噛みもせず、
奉仕という行為に拘っている彼を牝と呼ばずに、何と呼ぶのか。

後頭部を固定しながら口蓋に切っ先を擦り付けて、
精力剤で熱くなった粘膜を堪能し、味蕾に己の味を教え。
咥内に、そして胎内にも染み込ませ、脳に植え付けてやろう。
いずれは腹を空かせ、俺が欲しいと自ら股を開くように。

男でありながら雄に屈服する者を何人も見て来たが、
その中の誰よりも、吾郎は雄々しく啼いてくれるだろうと。]

 …………ッ、 吾郎、

[想像したひくつく彼の肉壁と現実の吸い付きがシンクロし、
上半身を折り曲げ、癖っ毛の頭頂部に唇が吸い寄せられた。
咽喉奥に叩き付ける精の奔流は無駄撃ちも甚だしいが、
粘り気にも怯まず、喉を鳴らして味わう姿を見られたのは僥倖。]



 そっちこそ、我を忘れるくらいに
 むしゃぶりつきたくなる味だったんだろう。

[舐めた唇を親指でなぞり、残滓をなすりつける。
一度達したにも関わらず硬度を保った剛直で頬を突き、
口だけでなく後ろを犯させろと悪戯っ子に訴えた。]

 断る。犯されたがっている顔では説得力に欠けるぞ、吾郎。

[無邪気な笑みに目を細め、伸びた手に頬を押し付けながら
腰を掴むと胡座を掻いた上に吾郎を乗らせて。
汗で張り付く互いのシャツを破かん勢いで剥ぎ取り、
双丘を左右に引っ張って割れ目の奥を外気に曝す。]



 ───…あまり駄々を捏ねるな。
 ろくに慣らしもせず、貫きたくなる。

[添えた脈打つ雄からは涙が流れ、不十分な潤いを襞に与え。
興奮で昂った吐息を捺した唇で、直接肌に擦り込む。
未だ、他人を許したことのない場所を指で、雄で拓き、
快楽に蕩け、だらしなく絶頂を味わう彼が見たい。

自分に犯されなければ達することが出来ぬよう、
身体だけでなく精神から全てを塗り替えてしまいたい。
生唾を飲み込んで欲求を抑えていられるのも、
バライラ因子という幸運で彼と引き合わされたからこそ。]

 俺に吾郎を愛させてくれ。
 そして、可愛い子を、孕んで欲しい。

[ぐっ、と熱に紛れて押し込めたのは、赤裸々な想い。
吾郎への冀求は留まることを知らず、語尾が震えた。*]


[神の子を孕めるという幸運を相手が受け入れない可能性など
今までの経験上此処に来る前から内心でわかっていたが、

子が欲しいというわけでもなく、
同性相手に欲情するわけでもないこの男が
事務的に勤めを果たすつもりであることがわかるほどに
躍起になっていくことを自覚するのは
20代半ばにして将来の見えぬフリーターというリアルよりも目を背けたくなる現実だった。]

 オレはソドムの民というわけではないのだがな。

 そのプロパガンダで喜ぶのは此処に集まった他の連中だと思うが。

[男の掲げた公約が自分に良いことなのかもわからない。

博愛主義を掲げて全人類老若男女を愛せると常から公言してはいるが
本当に他者へ向ける親愛に溢れているならここまで孤独を拗らせてはいない。

男であれ女であれ、両の腕を開いて受け入れ態勢を作っていても、
そこに収まる人間など実際のところいなかったのだから。]


[尊大な羞恥心と臆病な自尊心に苛まれ、
神になるどころか虎になりかねない孤独は
他者に認められたいという欲求の分だけ
他者の愛し方も覚えられないままに拗れていくばかりで成長した結果がこれだ。

男だろうが女だろうが関係なく、
自分を認めて愛してくれるような人間を求める本心に蓋をして
他者を自ら遠ざける言動でしか正気を保てない人間が、
―正気を保っているかどうかは客観的に見てどうなのかは別として―

初対面のいけ好かない、忌み嫌ってきた汚い大人の代表格のような男の
己が体に回した腕に安堵や喜びを感じてしまう気持ちを否定したくなるのは
結局のところ、自分が無為に傷つきたくないため。

最初で最後の信者などと言われれば反論したくもなるが
やはりこの男の甘言はひどく自分の心を揺さぶった。]


[欲しかったのは多勢の崇拝者よりも、特別と思える、思ってくれる他人。
新世界の神が聞いて呆れる、あまりにも世俗的で平凡で身勝手な願望。

それでもその甘言に、口を付けたくなってしまうのだ。
蛇が差し出す果実よりも唯のヒトに成り下がる危険な香りを感じるというのに。]
 
 ふ…、信者になると言った舌の根も乾かぬうちに、神を穢したいという言葉がでるとはな。
 気が乗ったならば、神の子を宿したいと請うべきで、あろ、…っ
 
[減らない口も息が切れてままならない。
拙い策略を巡らせた結果、計算外のことばかりだ。
相手の目を自分に向けたいという、その目的だけは果たされたことだけに充足するつもりはないのだけれど。

見下ろした先、不敬な信徒が己に向ける視線にゾクリと走る感覚は、寒気にも似ているのにひどく熱かった。]


[屈したくないという意志と、それに反する内心に首を振り髪を乱すのは
貴様に赦しを請うたわけではないと、彼奴の双眸を睨むのすら、そこに浮かんだ惑いが悟られそうで
反論を返そうとする口から洩れるのが嬌声じみた色を含むのも耐えがたく。
喋らなければ、自分の理想を垂れ流していなければ死んでしまうというのに。
結果迎えるのは小さな死という名の絶頂。

抗えない劣情に、もしくは認めたくないがそれ以外の感情に、
発した言葉は敗北を認める証だった。

重ねた身体、腹の間に感じる自分の吐き出している熱の熱さに戸惑いながら
力の抜ける身体を抱く腕に預けてしまう。
中途半端に前のみ寛げていた服が剥がれるのに抵抗できる状態ではなく。

晒された脚の間に彼の慾を伴った熱が滑り、
子種を植えつけようとする意志を現すような擬似的な性交を思わせる刺激に、
存在しないはずの臓器が喘ぐのを感じた。
勝手に準備を始める身体を恨めしく思う。
しかし問いかけに大して受精の準備はできているなどとは口にはすまい。]


 ―――丁重に扱えよ?

 貴様が借りるのは神の腹だ。
 その幸運をよく胸に刻んでおけ、クリス。

[想定とは違う形になってしまったが、寛大なオレはそれを赦そう。

その幸運をいい加減に悟るべきだと念を押して、
不敬な唯一の信徒に洗礼代わりの口付けを落とした。]*


[解かれた髪が背中を流れ落ちる。
切羽詰った声は快楽の色を押し殺しているのが、逆に劣情をそそることをきっとわかっていない。]

 り………っ、 ん、

[いつの間にか聴覚を塞ぐ檻は外されていて。
耳孔に吹き込まれる湿った吐息に、ぞわりと肩が跳ねる。
頭からずり落ちた掌が、縋るようにしがみ付いてきた気配と。傾いで腕の中に落ちてくる身体とに、肌に這わせた掌を一旦止め。
フードを掴んでいた手を緩めて腕の中へ。]

 そろそろ、観念するかい?

[笑いながらの問いへの返事は、耳朶に走る鈍痛。
諦め悪く、振りほどこうともがく右手首を捕らえて背中からベッドへと倒れ。
素早く身体を反転させれば、組み敷いてしまおう。

体重をかけて圧し掛かり、体勢を整えられる前に両脚の間を割り、身体を捻じ込む。
縛りを失った髪が、肩から彼の上へ滑り落ちた。]



 やっぱり僕は、理津を抱きたい。
 僕の子供を、産んで欲しい。

 抱き締めて貫いて、揺さぶって。
 声が枯れるまで僕を呼ばせたい。


[穏やかで優しいのは、取り繕った口調だけ。

耳朶に噛み付いた唇へ、叱るように噛み付き。
そのまま咥内の奥へ舌を捻じ込めば逃げる舌裏を刺激して、熱い吐息ごと奪うように蹂躙する。
このまま力づくで奪ってしまいたくなる切羽詰った獣のような衝動が内で渦巻く。

けれどそれで気に入った彼に、嫌われたくはない。
マウントポジションを取りながらも。
己の内の最大の弱味を、彼が握り始めていることを自覚しながら。]


[左手で、彼の右手首を縫いとめる。
右手でその太腿を撫ぜていき、辿り着いた下肢の中心へ指を這わせた。]

 ───……硬くなってるね。

[ベルトを外してファスナーを下げながら、小さく笑い。
寛げた着衣を、下着ごとずらして。
勃ちあがりかけた彼自身を右手の中に収めればやわやわと揉みしだきながら、縫いとめた手首を離した。]

 触ってあげるけど。
 暴れたら、噛んじゃうかもしれないよ。

[ください、とは言わずあくまで優位を主張し。
唇を解放して、パーカーから覗く彼の首筋に口付け。視線と唇の標的を下肢へと移していく。
捲れ上がったシャツの裾に見え隠れする窪みを吸い上げ、更にその下へ。]


[まだ湿り気が薄い先端を浅く口に含み。
彼と己と混ざり合った唾液を塗り付け、ぢゅう、と音を立てて吸い上げる。
抗う動きが見えれば、態と歯先を宛ててみせ。
舌先で震える鈴口をつつきながら繰り返し吸い上げていく。
重力に伴って垂れる唾液で滑りが良くなる幹を、掌全体で包んで扱き上げるけれど、決定的な刺激は与えはしない。

跪いているのは己だが、主導権は譲らない。
硬く反り返る彼を丹念に愛で。達することを許さない、苛むような快楽が毒のように彼を蝕めばいい。
次第に粘着質になっていく音を響かせながら、薄ら笑いを含んだ呼気を吹きつけて。]

 欲しい、って一言言うだけで許してあげる。
 ………どう?

[イきたいでしょ、と。
彼の口からねだる言葉を引き出そうと、上目遣いに問いかけた。]*


[何処までもガキ扱いをする四つ上の男。
そもそも何で俺が孕む前提の話になっているんだ訳が分からない。

口腔は彼の雄の味で充満し、全てが彼色に染まりつくしてしまいそうな感覚になってしまう。
これじゃあ俺がネコじゃないか。

それでも此方の愛撫で己の名を呼び、咽喉奥に植え付ける様に射精される。
むしゃぶりたくなる味かと言われれば否定できない自分を殴りたい。
残滓を擦り付けられるように親指が唇を這う。

一度達したと言うのに萎える事を知らぬその雄は頬を突き熱が伝わる。]

 誰が犯されたがってる顔だよ…!逆だよ逆!ダンを抱きてぇの!

[この体勢のせいかあまり警戒をしていなかった。
腰を掴まれれば胡座を掻く上に跨る様に乗せられる。
上半身に来ていた互いの汗まみれの服は乱暴に剥ぎ取られてお互いに全身の肌を露出させる。]


 ――――ッ 、 ダ ン  …、

[恥ずかしがる暇もなく、双丘が彼の手で左右に引っ張られ、
まだサレにも穢されぬ割れ目の奥が外気に曝される。
思わず肩を震わせ彼の名を呼ぶ。
あぁ、これでは如何見ても此方がネコではないか。]

 ば、 か言ってんじゃねぇ、よ 、其れじゃ俺が抱かれる前提じゃねぇか。

[まずいまずい、と脳内に危険信号が流れる。
相手のペースに、術中にハマってしまっている。
視線を下に落とせば互いの雄はカウパーを流している。

本当は分かっている。
この男に敵わないと言う事を、それでも彼を抱きたいと思った。
ゆっくりゆっくりと変わる心境。]


[抱きたいと思ってる俺がまさか抱かれたいとでも思っているのだろうか。
一息吐いた後、彼の肩にコン、と軽く頭を乗せる。
もう認めるべきだろう、俺はダンが好きだ、抱きたいとも思ってる。
でもそれ以上に――、抱かれたいと思ってしまった。]

 俺だって愛したい。
 ―――…でも、仕方ないからお前の子を孕んでやる。

[下を向いて告げたのは今の表情を、絶対に見られたくないから。
今でも抱きたいしダンが孕めばいいと思ってる。

負けを認めるのが悔しい。
だがそれ以上に彼に愛してほしいから。]


 愛させてくれ、なんて殺し文句すぎんだろ………。

[馬鹿野郎、と罵倒を吐くのはもう俺なりの好きだという言葉なのだろうか。
左右へだれていた手を彼の首筋にゆっくり回して口付けをする。

誓ってやるよ、そう言葉に出来ない代わりに口付けで伝えよう。*]


[拗らせてしまった彼に寄り添う者など居なかったのだろう。
天才は孤独だと言うが、天災だって孤独だ。
彼は余りに純粋過ぎて世界を逆走する。

その、奇行すら、彼の一部だと誰も受け入れられぬまま。

自然と喉が上下して、熱いものを飲み込んだ。
頭に襲来するのは、大人の悪い閃き。子供に仕掛ける謀。
彼の首に掛ける鎖が見つかり、ジャラと脳裏で音を跳ねさせる。

彼の神を独占する手練手管。
子を孕ませるよりも、余程強固な楔。
このユニークで歪な魂に釘を打ち、自らに留める方法。]

 ―――…キリー、

[きっと、この甘言にも彼は逆らえない。
殴りかかるには余りに強い拳だ。
彼を神々の楽園から追い出し、人の世に招くような。]


 私は君を求めている。
 君がどうしようもない程、呆れた子だと知って尚。

 定職にもつかず、ふらふらと生きていようと、
 尊大で傲慢な言葉ばかり吐こうと、
 知識量が一片に偏っていようと、

 ―――…キリー、私は君を崇拝しよう。

[彼を選ばない理由なんて数え上げたら枚挙に暇がない。
寧ろ、彼を選んだ先の苦労なんて目に見えるようだ。
だが、この青年が、こんな無防備な顔を晒すなら、
軽率に支払いを済ませても、構わなかった。

左右の指を掛けた臀部を拓き、外気が秘所へと滑り込む。
淡く押し当てた屹立の切っ先は、既に熱く濡れて、
ささやかな凹凸に噛み合い、悦を食む収縮を愉しむ。

降ってきたこの自重は、彼の魂の質量だ。
それに喜びを覚えるのは、熱に浮かされたからではない。]


[熱い肉体にも、喘ぐ呼吸にも、彼の質量にも、覚えるのは悦。
白皙の肌色に、すらりとした稜線は獣のしなやかさ。
そして、左胸の中に飼いならす、孤独な魂。]

 ―――…いいや、キリー。
 私が奪うのは、君の心だ。

[傲慢だと笑われる覚悟など、幾らでもあった。
事実に昇華出来るかは己次第彼次第だが、敗走する気はない。
グ、と押し当てた陰茎は痛い程に張り詰め、
見上げる顔が、言いようもない程に尊く瞳に映り込む。]

 ―― 全ては神の御心のままに。

[十字を切る代わりの口付けは、己の名を求めて。
焼けた杭が神を貫き、人の欲で穿ち貶める高潔。
未熟な隘路を暴き、交わした唇の熱に酔う。

与えられる幸福を彼の胎の中に返し、
何時か卵が孵る時、二人で育んだ幸いを噛みしめよう。]



[敬虔な一神教の下、膝を突こうと思った。

     津々と、深々と、彼を愛そうと思った。*]
 


[愛でれば口は反発し、しかし体の反応はどこまでも素直で。
抱かれる側ではない、と何度吾郎が否定しようと、
この通り噛み付いてこようと、ほら。甘いのだ。

その優しさに付け入る様は悪魔の名に相応しく、
淫蕩の宴に誘わんと太股を撫でる掌は、笑える程に熱い。]

 抱きたいと、何度も言っている。
 俺は、子供が欲しくてここに来た。

 吾郎に会った今、吾郎の子が欲しくて堪らない。

[警鐘を鳴らす脇で切なる響きを落とし、逃亡を許さない。
一度二度では終わらないし、終わらせたくないと食い下がり、
肩を震わせ、瞳をちらつかせて戸惑う吾郎に下肢を揺らし。]


[肩に頭を乗せ、肌に落ちるのは小さな溜め息。
ぐるぐると頭を悩ませているのが自分であることに、
罪悪感よりも嬉しさを感じているのだから、我ながら酷い。

喜怒哀楽の根源が自分であれ、だなんて。
あまりの強欲さに悪魔すら、逃げ出すんじゃなかろうか。]

 子が産まれても、一番に愛すのは吾郎だ。
 お前と俺との間で、子供を成せる体で良かった。

[見られたくないと陰った顔が語るから、
側頭部と外耳に唇を何度も寄せ、好きだ、と囁こう。

抱きたいと強請った相手に屈服し、悔しがる顔も愛しいが、
───真っ赤になった顔は、もっと愛しい。]


[力ない罵倒も、最初からただの睦言だ。
罵倒と同時に聞こえていた、愛して欲しいに塗り替えられて。]

 それだけ必死なんだ。
 愚か者だと、吾郎だけが嗤ってくれていい。

[首筋に腕が回ると腰を引き寄せ、密着を深めて口付けを受け。
恥ずかしがり屋の声なき声に、合わせた唇の端が持ち上がる。
唇が離れても鼻先を擦り付け、犬のように甘えながら。]

 吾郎……ディーと、呼んでくれ。

[乞うのは、一族の名。
生涯を共にしたいと願った相手にだけ、許す呼称。

至近距離で見つめ合い、唇を甘く啄み、唆して。
その音が紡がれた瞬間の顔は吾郎だけに見せる表情だ。*]


[─── が、悪魔の名を持つ男は、やはり悪魔。]


 吾郎、……吾郎。俺の可愛い、吾郎。


[硬く閉ざされた門が開いても尚、執拗なまでに愛撫を重ね、
早くしろ、と吾郎が泣き喚くまでそれは続き。

部屋の外まで響きそうな野太い嬌声で声帯に激務を課し、
関節に悲鳴を上げさせ、羞恥で精神までを侵していく。

重ねた掌は離れず、指をしっかりと組んだまま。
蟀谷から垂れた汗ですら、その敏感な体を苛んでやまず。

可愛いとだらしなく頬を緩ませて弾けさせた熱の数は、
これから産まれてくる子が物語っている。**]


[孤独と引き換えに手に入れた自由は、
云わばオレのアイデンティティーであり、
知らずのうちに構築されたジェリコの壁。

それを崩す者など現れたことはなかった。

それなのに、偶々因子が適合しただけの男が
七日間にも満たないこの短時間で角笛の代わりに吐いた甘言により
あっさりと崩れるような、そんな容易い壁であったかと内心で自問しながら
疑り深く根付いた孤独は、何かを告げるために紡がれた愛称に警戒の色を見せて眉を顰めた。]

 なっ…誰が呆れた子どもだと?

[敢えて他人が指摘しないリアルをつらつらと並べ立てる相手に
反論の屁理屈、明後日の方向と呼ばれる理論が口をついて出そうになる。

それでも尚、自分を求めるなどというのは甘言というよりは世迷いごとだろう。
ご立派な血筋で社会的地位もあるこの男が何故そのようなことを口にするのか。
そこまでして子を孕みたくないというのか、とも捻くれた性根は思うのに
彼の思惑通り、疑り深い癖、愚直な頭はその甘言を拒めない。]


[それを受け入れることが、
何より厭う自由の剥奪である見えない鎖が首にかかることになったとしても。]

 っ…あ、っぅ、おい、やめ…っ、

[無言の肯定にしかならない困惑交じりの顔で、
彼の吐く甘言に如何答えたら良いものかと思考する最中、
左右に開かれ他者の触れたことなどない場所に熱く濡れた慾が擦れ、
知らない刺激が身体を襲うのに熱い息を吐いて、思考が中断される。

この男はなぜこんなにも、不可侵としてきた領域に土足で入ってくるというのか。
しかしそれを、心身ともに嫌だとは思わないことは、悔しいことに紛れもない事実だった。

彼が望むのであれば、その希望を叶えてやりたいと、いや、この男の子を胎内に宿したいと、思った。

絶対にそれを口で言う気はないけれども。]



 ―――それなりの対価は払ってもらう。
 高くつくぞ。

[傲慢な台詞に、奪われるだけでは割に合わないと返す等価交換の要求。

傍から見たら世迷いごとにしか思えないだろう誓いの言葉を彼が紡ぐのを聞けば、
唇を交わす最中、おそらく初めてこの男の前で眉間の皺が消え、不審ではないといっていい微笑を浮かべた。

此処にきて漸く、ただ遺伝子を受け継ぐためでなく、
本当の意味で子を成すということの幸福さを理解する。]


[全人類に慈悲深く与えるとしていた愛情を、彼にだけ注いでやっても良い。

一人で幕を開けるわけではない、
この男と共に創る新世界は、
凡人と称してきた人々の望むそれと変わらない
思ったよりも平凡なものになりそうだが、

                  それでいいとオレは、思う。*]


― 天国門の先 ―

[するり、するりと肌を指先でなぞり、懐く仕草。

頻りに撫でる腰の下には、己の吐いた濁りが溜まっている。
口説き落として時間を掛けた一度目と、勢いに任せた二度目。
たった一度で孕むと知っているのに、
どんな文句を付けられようと退きはしなかった。

高値を付けられた値札に躊躇ないなく支払ったのは情。
腰が逃げれば偏執の腕が伸び、子供が喚けばキスを差す。
顔に撃った無駄玉以外は、一滴も外に零させず、
夥しい熱量を腹に呑ませて、飽かずに擁した。
彼の股関節だの尻だのは悲鳴を上げているかもしれないが、
御自慢を謳った体力を信頼した結果だ。]

 ―――…やはり、君が孕んで正解だったように思う。

[鬱血の残る肌に声を吹きかけながら、端的な感想を漏らす。
ベッドマナーを忘れ、放り出した二人の着衣は、寝台の外で折り重なり、裸身には情痕と滴りだけを纏うまま。]



 回数を重ねるほど若くはないが、ご覧の有様だ。
 今頃、君の中で骨肉の争いが起こっているだろうな。

[品のない冗句を飛ばし、腰を裏側からノック。
身体の相性は遺伝子単位で保障されている間柄。

その上、初夜の彼に挑みながら、意識を失わせることも許さず、
インターバルを何度も挟み、執拗に己の名を呼ばせた。
喉が幾ら枯れようと、その一点のみに置いては譲歩なく、
その証が、胎の中には刻まれた多量の粘性だ。

白濁を修めた孔の入り口を指であやす悪戯を挟みつつ、
指腹で伸ばす白い名残を弄び、尾骶骨にまで擦りつけ。]



 ―――…キルロイくん、着床とは分かるものか。
 君が受精したというなら、風呂に運ぼう。

 ……未だだと云うのなら、もう少しこのままだが。
 それとも、忠実な従僕に妊娠検査薬を所望するか?

[リセットした呼び名すら聊かの柔さを孕み、
厚みはないがフリーターの食事事情に作られた肉体よりも、
余程健康的な筋肉が乗る胸板を提供する様は甘いばかり。

年相応のセクシャルハラスメントめいた問いすら、
若干の親しみを込めた笑気交じり。
言葉を促す仕草で、下肢を重ねる行為に、他意など決して。*]


 挿れてください、のっ
 間違いだろ…

[まるで答えを分かっているかのように。
既に理津を手中に収めたような顔で自身の濡れた唇を舐めとるシュウロへ、言い返せたのはたったそれだけ。
背後を押さえる腕一本を振り払おうと身じろいでも、蜘蛛の糸に絡め取られるように徐々に身動きが取れなくなる。
逃げと抵抗を示すはずの動作で「腰が揺れている」などと指摘されれば、一重の瞳を静かに吊りあげて。
噛みつこうとした口は、劣情の熱を誇示するように膝へ押し付けられた昂ぶりで喉奥に引っかかる。]

 ――…はっ
 シュウロの方が、よっぽど我慢できないみたいだけど…?

[浮かべた嘲笑は、眼下の男を抱くことよりも、抱かれる想像に興奮を感じた己を嗤うようが。
歪に浮かべた笑みは、再びシュウロの唇に飲み込まれる。]


[余裕の笑みを浮かべて降参を促すシュウロに、反撃と叛意を込めて外耳へと鈍い牙を立てる。
怯み、背中を押さえる腕が緩んだ隙に距離を取ろうとしたその行動は。

――どうやら、虎の尾を踏んだらしい…。]

 ――ッ…!?

[身体が引き倒される瞬間に感じた一瞬の浮遊感と、白いシーツへ顔面から激突する錯覚に全身が竦む。
ただ予想していた衝撃や痛みは来ず、スプリングの利いたベッドが成人男性二人の身体を柔軟に受け止め。
ぐるりと反転した視界と、長い髪を僅かに乱したシュウロの顔と、その向こうにある天井に。
目を見開き、自分の置かれた状況を理解した頃にはもう、遅い。]


[愛を囁くロメオのような台詞は、穏やかな声音に反して即物的で酷く生々しい。

理不尽だ。
横暴だ。
誰かに――シュウロに――、抱かれるつもりなんて、これっぽっちも無かったのに。
覆いかぶさるシュウロは、既に自分が抱く側であることが決定事項であるかのように告げる。
それも、あくまで希望や懇願という形で。]

 それは、シュウロの願望だろ?
 俺はまだそれを受け入れたつもりはないし。
 抱く側だって譲った覚えはないよ。

[間近に迫るシュウロの眼差しに籠る熱を知覚して、下半身の熱がじわりと増した。

僅かに劣る体格の不利を補っていた体勢は今や逆転され。
ベッドの上に片手を縫いとめられた今、現状を打破する有利のひとつも見いだせないまま。]


[男にあるはずのない器官がじわりと水気を帯びたのは、XY同士の生殖を可能にする理津の因子が、黍炉の持つ因子に感応したせいか。
意思に反して受け入れる準備を始めた身体に、裏切られるのは何度目か。

激しい口付けは雄と雌、双方の性を刺激し。
ズボンの奥に収めた幹を急速に育てる。]

 うっさ……ッ
 アンタだって勃ってただろ…!
 ぃやだ…、はな…せ、よっ!

[中途半端に脱がされたズボンは逆に足枷となり、シュウロの身体を両足の間に挟んだまま身動きが取れなくなる。

 噛む………って………
 ッざけんな…ぁ、…っくぅ……!

[首へ落ちた口付けは、そこへ痕を残しただろうか。
自分では見えぬ場所故にその真偽は不明だが。
徐々に下半身へ降りてゆくシュウロの頭を追いかけて、自由になった上半身をベッドの上から引き離す。]


[だが、その光景を直接目視してしまう事を思えば。
慌てて上体を起こす必要はなかったのかもしれない。

挿入するには充分と言えないながらも、緩く芯を通して勃ち上がっていた先端にシュウロの唇が触れる。
ぢゅう、という濁った水音に背筋を震わせて。
咄嗟に噛んだ、中指の背。

声を殺し、視線をそらせ。
それでも与えられる刺激からは逃げられず、抵抗を示せば弱く敏感な肉茎に硬い歯の感触が当たる。]

 ふっ……く、ぅ………

[シュウロの手と口は的確に刺激を与え、熱を集めさせるのに。
達するには足りない刺激が多すぎて。
全身の肌を泡立たせる波から少しでも逃れようと、ベッドの端で幾度となく身を捩る。]


[そんな、イきたいのにイけない状況で与えられた言葉は。
荒れ野で四十日を過ごす神の子に、悪魔が持ち掛けた甘言に等しい。

どう?……と。
薄ら笑いを浮かべる口元が唾液以外の体液に濡れていて。
その体液がなんであるか、誰のものか。シュウロの唇を彩るまでの経緯を余さず見ているだけに、グロスを塗った女の唇よりも酷くそそる。]

 ………欲しいって言えば、抱かせてくれるわけ?

[与えられるものは彼の処女ではないと分かっていながら、弱火で燻られ続けた身体を沈め冷静を取り戻すための時間を欲して的外れな回答を選ぶ。

言えば、与えてくれるのか。
苦しいくらいに抱きしめて、硬い剛直で狭い肉筒を貫き、この身を散々に揺さぶり犯してくれるのか。
それは、本当に限りなく、甘い妄想と誘惑だ。

答えを求めるシュウロの視線に推されて、理津の唇が震えながらゆっくりと開く。]


 ――― い や だ

[答えは単刀直入に。
色を堪えるその顔に、意地とプライドを乗せた笑みを浮かべて。

自由な両手で赤いシャツの襟首を掴み、足の間に跪く男を強引に引き上げると。
蛍光灯の灯りを反射して光る卑猥な唇へと自分から噛みついた。

舌を捻じ込めば、感じるのは青臭く苦い自身の味ばかり。
それに嫌悪を示して眉根を顰めながらも、抵抗を拒絶して限界まで舌を送り込む。]

 シュウロだって。
 俺のを舐めながら感じてたんじゃないか。
 さっきより硬くなってるのに。

[振り払われる危険を承知で、シュウロの股間に手を伸ばす。
スラックスの生地の下で窮屈を訴える硬い熱源を、普段は絵筆を持つ指先できゅっと握り、生地越しに掌で扱きながら。]


 欲しいって、お願いするのはシュロウだろ?

[不敵な笑みを浮かべて挑発を繰り返すその下には。
指先が白くなるほど赤いシャツの襟を握りしめた指先の存在。

抱きたいと思う本能と。
抱かれたいと急かす因子の狭間。

どうとでも好きなように取れる言葉が、限界まで引き下げた理津の妥協点。*]


[開いたのは情人眠るダルヴァザではなく、
黄泉比良坂だったらしく。
咄嗟に逸らした視線の先の肌色は、ひとつは遠戚の物で。]


 …………よぅ、励んでるか。


               すまんな、部屋を間違えた。


[再び繰り返される、天丼行為。
親子丼を食わされないだけマシだと解釈してくれればいいが。*]


[バレリーナも裸足で逃げる華麗なバックステップをかまし、
閉めた扉に書かれている名前を凝視して。
何故、名前が書かれているのに間違えたのかと自問自答。

気が緩み過ぎだと眉間の皺を親指と人差し指で伸ばし、
溜め息を吐き、ぺたぺたとリビングを闊歩。改めて扉を開き。]


 ………………………。


[無言で閉じた。そう、また間違えたのである。
Danrick Duncan Dantalian.
悪魔の名を持つ男は齢34にして、方向音痴を自覚した。*]


[最終的に、自室であることを38回確認し、
吾郎の名前を同じ回数指でなぞってから部屋へと入った。

苦労の甲斐あって、ようやく戻れた楽園。]

 吾郎、飲み物を貰ってきた。
 存外旨いぞ、お前も呑むと良い。

[渇いた喉を潤そうとコップのドリンクを一口飲み、
口に含んだネクターXを甲斐甲斐しく吾郎に運ぶ。


結果、潤した筈の喉の渇きを更に加速させ、
引っ掻き傷やらを増やし、ベッドに沈む屍が一体追加。
――― 風呂場で体を清めてやるのはもう少し、先らしい。*]



 …ころ、す気か…っ

[この状況を、初夜と呼ぶなら浪漫のあるものかもしれないが
身体を投げ出した彼の胸板の上、ゼ、ハ、と吐く息に混じって吐いた言葉は浪漫の欠片もなかった。

確かに丁重には扱われたのだろう。
一度一度の行為に関しては。
事実、痛みや苦しみは最初だけであったと思う。
それでも相当に暴れたせいで、相手の身体には噛み痕やら爪痕を刻む結果になったが。

相手は9つも年上。
一度抜いてやれば大人しくなるに違いないなどと考えていたオレは相当に浅はかだったと身をもって知った。

腹に熱が吐き出され、自身も慾を吐き出す度、
もう無理だと、これ以上したら死ぬと訴えて、
結局それでもあやす様にその指や唇が落ちてくれば赦してしまうのだから
彼奴の言ったとおり、俺は他者に、

   いや、彼に甘いのだ。]


 …はっ、何が正解だったかは知らんが、孕みたいのなら叶えてやってもいいぞ?

[と、大口を叩いては見るが、さんざ組み敷かれた力の抜けた身体を彼の上に預けて退かない時点で、
その正解とやらを否定する説得力はなかったのだが。]

 いや、回数重ねすぎなくらいだぞ何を言っているんだ貴様、……ふっ、ぁ
 …っ、思っていたが貴様の冗句はいちいち品がないぞ。

[汚れた大人の社交界とやらはそういうものなのかと
悪態を吐くのは腹に溜め込まれた子種をノックする指に対する抗議だ。

甘い桃色の粘性のドリンクとは違い、苦いと思った胎内を満たしているそれは、
余程、あの毒よりも全身に、神経に回る毒。
 
悪戯にその毒が注がれた入り口を滑る指に小さく跳ねる身体が悔しいから、
その肩口に噛み痕を増やして抗議を重ねた。]


 だから、品のない冗句はやめろ。
 分かったとしても言わんからな、絶対。

[これだけ出されたのだからどれかは着床でもなんでもしてるのではないか、と
恨みがましく言って、重なる下肢にまた過敏に反応する自身を治めながら
その胸板の上、少し身を乗り出して]

 …検査薬はいらん、その代わり忠実な従僕に風呂を所望しよう。
 落としたりするなよ?クリス。

[何度も呼ばされたおかげで染み付いたその呼び名を呼び、
しかし滲む若干の照れを誤魔化すように高い鼻先に甘く噛む様な口付けを落とした。*]


[―――瞬間、扉の開く音がした。]

 ―――…コロス。

[あの男は確かいつぞやに世話になった喫茶店の店主だったが、そのような恩義は捨てる。

今度あの店に行くことがあれば
メニューの上から下まで全て献上させなければ割に合わない、と、
店の扉に赤ペンキで魔方陣を施すような仕返しをしようと考えない分、
オレも随分と丸くなったものである。*]



 ――――……、

[無茶をした心算はあるが、無理をさせた心算は無い。
目の前で息を切らす男の方が負荷が大きいとはいえ、
暴れる度に身体を止め、落ち着いて焦れるまで体温を分けた。
腕に刻まれた歯形も、背中の爪痕も、勲章の区分で良い。

だが、それでも彼は死にかけた。

奥ばかりを捏ねて慣らしたにも関わらず、
射精管理もせずに好きなだけ精を吐かせたにも関わらず。

嫌だ無理だと唱えられても、止めろとは聞かなかったのだから、
自身の選択は間違いでは無かった筈だ。

故に、今、彼がこうして憤っているのは―――…、]


 君、耳年増なだけで、性経験は少ないだろう。

[脳内で誰を何度犯したかしれないが
指摘は彼の幼気な心をばっさりと袈裟懸け一刀両断。
ただの2ラウンド付き合っただけで白旗降参とは。

存外体力を使う身である政治家は、品性を問う声聞き流し、
視線を天井に向けて思案を彷徨わせる。
体力枯渇の原因を考えれば、夜更かし偏食貧窮と即座に並ぶ。
実際どのような生活を送っているかは知れないが、
外れているなら、二十代の若きで音を上げはしないだろう。]

 足りない訳ではないが、過剰な負荷を掛けたい訳ではない。
 もう少し、体重を増やし、体力を付けたまえ。
 これから腹にもう一人抱えることになる。
 ……即ち、それも高貴なる義務だ。キルロイくん。

[上からの命令は、聞きようによっては伴侶面。
彼の好むだろう単語を用いても、
さらりと混ぜられた再戦の示唆は隠せていない。]



 今の仕事が合わないなら、アルバイトを半分に減らし、
 私の処で働きなさい。理解のある職場だ。

[実質、理解は過ぎるほどある。
何せ、彼の先輩にあたる男は二部屋隣で悪魔と懇ろだ。
己が改宗したように、部下も悪魔崇拝へと乗り換えているなら、
腹をさすり合う違和を、分かつ事も出来るだろう。

己が下す全ての結論が、手元に彼を置いておくと云う、
やや大人げない結果に至ったとしても、然したる問題はない。

多少の甘えを覚え始めた彼を撫でてから寝台を降り、
ローブに腕を通すと時を置かずに、両腕を彼へと差し出した。]

 では、実際に胎児卵が出来たか突いてみるか。
 ―――…そう、睥睨するな。冗句ではないから良いだろう?

[悪びれぬ態度と捻くれた口。
鼻先に落ちる口唇を下から掬い、奪う癖の悪さも折り紙付き。] 


[僅かに滲む彼の羞恥に、僅か口角を持ち上げ掛け、
――――― 鍵のない扉がオープン・セサミ。
努力だけではない方向音痴ぶりを見せつけて、
神判の門を易々開く悪魔の血族。

流石に喉奥に呼気を詰めるが、揶揄めく一言を聞き逃さない。]

 ――― ダンリック、
 ダンリック・ダンカン・ダンタリアン。

[途絶えてしまった血族の、顔は知らずとも名は知っている。
Cに並んだDの末裔、血に重きを置くなら該当を絞るのは易い。]

 ………子が出来たら、教えたまえ。
 只野くんは私の部下だ、出産祝いくらい贈ろう。

[即座に閉まる扉の隙間を縫って背に届く声。
呪詛を吐いた彼に反して己が示したのは寛容。
彼の体躯を事も無げに横抱きに抱えながら、
疑問の色が飛んで来れば、軽く首を振って他愛無く口を開く。]




 ―――…君と同じで、子供まで友人が少ないのは難がある。


[静かに告げる言葉は、彼に根差した発露。

或いは、曽祖父から繰り返し言い聞かされてきたDへの懐古。
彼とは友だったのだ、と懐かしんで漏らした語を覚えている。

そっと彼の体温抱き寄せるまま、熱を交わすままに。
神の門を抜け出し、サバトに背を向け、湯殿へと。**]


[尚も強情を張るのは予想の範囲内。
けれど、組み敷いた身体は着実に抱かれることで与えられる快楽を、思い出しつつあるのは明白だ。
悪態を途切れさせ形を成さなくなっていくその声は、己の雄を煽る意味しかないというのに。

吸い上げる先端から溢れた蜜を啜り、弾ける手前で根元を圧迫して荒れる快楽の出口を阻めば。
悶え仰け反る首筋に、薄ら残した痕が視界の端をちらついた。

口を塞ぐ、その手が邪魔だ。
先端から血管の筋を辿るように根元へと舌を這わせ、小刻みに震える内腿に歯を立てた。
普段露わになることのない柔肌へ首筋より濃い痕を残すことで、今は我慢する。]


[急所をおさえられ、苦しみ悶える彼へ甘く囁きながら。
強情な口から一言を得られるならば、今なら悪魔だろうとなんだろうと身を売ってもいいとさえ思う。
普段は放っておいても蜜に群がる蟻のようにあちらから寄ってくるのに。言葉一つままならず、執着して振り回される己は、酷く滑稽かもしれなくとも。

迷う彼の答えを促すように。
濡れ細った先端と同じもので湿った唇を歪め、ちゅ、と期待で雫を溢れさせる先端へリップ音を贈る。]

 ほんとうに、欲しいのはそれでいいのかい。
 身体の方はそう言ってないみたいだけど。

[苦みを含んだその味を舌先で塗り広げながら、太腿を撫ぜ。
つけた痕をなぞり、指先の向かう先は前からの滴りで湿る窄まりへと。
彼の脳裏に描かれているだろう、抱かれて達する甘い妄想を、刺激するように。くに、とまだ硬いそこを押し上げよう。]

 じゃあ、聞き方を変えようか。
 理津、ここに僕が欲しいって言って?

[もう一度。
戦慄くその唇から、答えをねだろうと。]


[それでも屈しない声と笑みには称賛を送ろう。
とはいえ、こちらも折れる気はなく。
更に言葉を連ねようとした矢先、シャツを掴み上げられ、噛み付くような口付けに目を大きく見開いた。]

 ───…ッ
 なにを……んぅ、 り、……つ  っは、

[捻じ込まれる舌に、間近に迫った彼の歪んだ顔。
反射的に頭を引こうとしても、シャツを掴む手がそれを許さず。強引に割り入ってきた軟体に絡めとられ、必死の口付けが胸を焦がし下腹を熱くする。
まるで見越したように、下肢へ伸ばされた手に腰がぴくりと跳ねた。]



 ……当然だよ。
 乱れる理津の姿を見て、勃たないはずがないじゃないか。

 言っただろう。
 今すぐにでも君を抱き締めて貫いて、滅茶苦茶にしたい。

[布地越しに猛る雄を握られ、小さく息を呑む。
懸命に平静を装いながらも扱く動きに合わせて、手に擦りつけるように腰が揺れるのは止められない。

シーツの上で乱れる彼の痴態に散々煽られ。限界が近いのは、己も同じこと。
彼の器用な指の動きだけで達するなんてことをしないように、眉根を寄せて堪えながら。]


[荒い呼吸を混ぜ合う口付けが途切れた瞬間。
聞こえてきた声に、瞬きを忘れた。

 ………り、つ?

[笑む顔と裏腹に、シャツを握り締める指先が震えているのがわかる。
お願いするなら、あげてもいい。
そう聞こえるのは都合のいい耳の、幻聴だろうか。

違う、と言われても。もう遅い。

白くなるほど握りこまれた手を包み込むように、掌を重ねる。
きっと今。己は他の誰にも見せたことのない、だらしなく緩んだ顔をしているに違いない。]


 ────理津が、欲しい。


[シャツに絡まる指を解かせ、顔の前へと持ってくる。
中指についた痛々しい歯型に目を細め。紫に変色したそこへ、唇を押しあてて。
瞼を伏せれば、誓うように言葉を重ねた。]

 理津の全部を、抱き締めたい。愛したい。
 ……だから理津を、僕にちょうだい。

[そうして、ゆっくりと上げた瞼。
彼を射抜くように見つめるのは欲情した雄の目。

ムードも何もない、即物的な懇願。
触れたい、抱きたい、愛したい。
彼の中に今まで刻まれた、他の誰かの気配なんて思い出せないくらい。彼の全てを、己だけものに。

一回り細いその身体に腕を回せば、愛おしさが募るまま。
背が撓むほど強く抱き締めた。]**


[全く同じことを思っていると言うのに、俺と彼とじゃ説得力が違うと言うのだろうか。
俺だってダンとの子供が欲しい、ダンを孕ませたいと思っていたのに。

そして、さらりとまた嬉しい事を告げるダンはやはりズルい。
もう何でもよくなってしまう様に肩の上で項垂れる。]

 ……当たり前だろ、じゃなきゃ抱かせてやらねぇよ。

[耳許に聞こえる‘‘好きだ’’と言う台詞。
今きっと茹蛸みたいに耳まで真っ赤なのだろう。

此方の様子を愉しむように見つめてくる視線が、
また憎たらしくて、でも嫌いじゃないから困ったものだ。
最後の最後まで餓鬼扱いをする男を何故か憎めない。]


 必死になってるダンが是非見たいものだがな。
 …別に愚か者なんて思わけないさ、ズルい奴には違いないけど。

[引き寄せられる腰に今度は逆らうことなく。
唇が離されたあとでも鼻先の柔らかい感触に擽ったさで目を細めて。
若干自分が高い身長差にも拘わらず、彼の方が大きい気がしたのは何故だっただろう。]

 ――…ディー?

[彼の口から告げられる名は、ダンではなくディー。
愛称なのか、それを教えられたことが何故か擽ったく嬉しい。

潤う唇は何故か甘い気がした。]


[つい数時間前は抱くつもりで此処へやってきて、
自分の相手がまさかのおっさんに驚愕して、
何故か抱く抱く合戦を勃発させ、
数分前までは意地でも譲らなかったのに。

その言葉に惑わされ、その身体に魅了され、
その囁きに毒され、その声に酔いしれた。

誰にも抱かれたことない身体を、彼にならと思ってしまった。
少し困ったように眉を下げながら微笑した。*]


[そんな甘い甘い雰囲気の中。
彼の声は俺の名を呼ぶ、何度も何度も。]

 ッ――…、 まぁディーに言われるならいいか 、

[その言葉の先はもう喋る事を許されず、
口から出るのは彼を求める言葉。
拓かれたことの無い身体を無造作に暴く男は、何処までも貪欲でズルい男。

此方が啼き喚くまで止まる事もなく、彼の名を何度も呼ぶ。
決して女みたいな嬌声は吐き捨てられない。

既に遠慮なんて言葉と、初めてだから優しくなんて言葉はいったい何処に行ったのだろう。
その身体は羞恥に侵食され、強く求められる。

離さないで、と絡む指を確りと握り。
欲塗れの身体はそれでもお互い様だっただろう。

俺の身体はいったい大丈夫なのだろうか。
快感の狭間で、そんな事を考えるぐらいには愛に溺れている。**]


[此処に集まった連中の中で回数は一番張れる自信はある。
そう思っていた時期がオレにもありました。
しかしそれは単純な吐精の回数であり
初めての且つ予定外の経験で死にそうになるのは仕方のないことではなかろうか。

確かに止めろとは言わなかった
最中に何度ももう無理だ死ぬと思ったのは事実だが、
口で言うほど嫌がってもいなかったということは絶対に言わないでおこう。]

 経験人数を貴様に明かすつもりもないが
 抱かれるのはシミュレーションすらしたことがない。
 
 …少ないも何もないであろ。

[相手の物言いに一瞬青筋が立つのを抑えて
自分の内では真っ当で論理的な答えを返す。

口淫をした際に彼奴のせいでイメージ的なものは
不覚にもしてしまったわけだが
あれはシミュレーションしたわけではない、ノーカンだ。]


 貴様はオレの母ちゃんか。
 まあ、これからは多少健康的な生活というのも気にはするが。

[夫面するなと思ったものの若干気恥ずかしいので
母親気取りかと言ってみたが実際母親になるのはオレである。
それを結果意識することになるはめになったと内心で歯噛みする。

腹にある違和が初めての経験のせいであるのか
それこそ着床とやらをしているのかはわからず。
まだあまり実感もないのだが。]


 今の仕事が合わないわけではないが
 健康的な生活には遠いかもしれんな。

 オレの崇高な思想を理解する職場など
 地の果てまで探してもないとは思うが、まあいい。
 腐敗した大人の裏社会の現場を見に行ってやらんこともない。

[この男が普段何をしているのか知らんが
おそらく爛れた生活を送っているに違いないからな。
見張っておいて損はないかもしれない。

というこの発想が非常に女々しいのでそれも口にはすまい。]


[体力に自信があるならば酷使してやっても問題なかろうと
浴場に運ぶという大義を与えてやったわけだが
忠実な従僕らしく本当に実行するらしい。

差し出された両腕に一瞬惑う。
浴場へ向かう際、その状態を此処にいる連中、特に隣人、
に見られたら死ねる、と暫し逡巡しながらローブを羽織り、
しかし彼奴から仕事を取り上げるのも悪い品とその腕を取り
悪びれもなく告げられた言葉に]

 っ、冗句でなければ良いとは言ってない。

[変態め、とボソリと言って怒りのためでなく染まった頬を隠すように顔を背けた。

その羞恥が顔に出ることも素直に甘えたような素振りを見せるのも葛藤の末である。
その現場を目撃しようが何も思わないかもしれないが
個人的に非常に恥ずかしいのは事実であり
突然の乱入者に呪詛を吐こうがオレは悪くない。]


[しかしこの男は乱入者に対して随分と寛容なようだ。
そういえば此処に来たばかりの時もあいつとは会話していたな。
知り合いなのかだろうか。]

 どういう意味だ。
 オレとて友人の一人や二人…
 まあ、子に関しては多少選ばれし者のハードルを下げても良いかもしれないな。

[首に腕を回して、近づいた顔の何か物思うような表情の意はオレにはわからない。

ご立派な血統とやらにいろいろと複雑な事情があるらしいことも
よくはわかっていないが、そのうちわかるだろう。
そんな風に考えてしまう時点で思考が嫁入りのそれであることには目を逸らしつつ、風呂場へ向かう際に誰にも鉢合わせないことを祈った。*]


[正面からぶつけられる「滅茶苦茶にしたい」という言葉に、心臓の辺りがぎゅっと収縮する。
ときめいた、とか。
そんな乙女チックな感情じゃないと自分自身に言い訳をしながら。
劣情の灯る瞳に、心臓へ杭を打ち込まれたのは確かで…。

布越しに触れる手へ熱い昂ぶりを擦りつけるシュウロの仕草が、否応なく注挿の動きをイメージさせる。

反射的に引きそうになる手をぐっとこらえて。
シュウロの咥内から奪い取った唾液を苦い味ごとごくりと飲みこんだ。

今、ここで…
目を反らせば、手を引けば。
完全に、負ける気がした。]


[それでも濃厚な負けの色に、素直に敗北を認めるのは悔しくて。
荒っぽい口付けの最中に導き出した妥協点は、あくまでシュウロの懇願を強請るもの。

抱く立場は譲っても、精神的な優位は譲らないと。]

 ほら。
 お願い…、してみてよ。

[男としての意地を込めた挑発は、シュウロの顔に蕩ける様な笑みを浮かべさせた。

それが、最大値まで引き下げた妥協点で得た戦利品だ。
女にも男にも、引く手数多そうな外見のシュウロが浮かべた、このだらしなく緩んだ笑みが。

これがせめて、自分だけのものであればという欲は脇にどけて。

試合には負けたが、勝負に勝ったのだから。
それでいいだろうと自分を納得させる。]


[欲しいと、ストレートで言わせた渇望の言葉。
解かれた指が王子様然とした外見に似合う動作でシュウロの口元へ運ばれ、噛み過ぎて紫色に変色した中指の背に触れる。

見た目のいい奴っていうのは、どうしてこういう気障ったらしい仕草まで絵になるんだと。

スクリーンに映しても遜色のない流れる様な仕草と。
伏せた瞼の下からゆっくりと現れ、自分を射抜く雄の視線に。
刺さる杭が心臓を貫いたのを知覚して、僅かに残っていた逆転への野望を完全に諦めた。

目的意識のはっきりしたこの部屋と同じ。
色気もムードも何もない。欲望に忠実で、シンプルな懇願。
それに全身の皮膚が泡立って、むき出しの欲望が想像と期待にふるりと震えてしまった。]

 全部とか、我が儘だなぁ…
 そーいうこと言うんなら、シュウロだってくれるんでしょ?
 シュウロの全部、俺に。

[シュウロの言う全部がどこからどこまでを示すのかを曖昧にしたまま。]


[背に回る腕に抵抗を示さず大人しくしていれば、抱きしめる力は背が反るほど強いくせに。
乱れた衣服を重ねあう腕の中は、存外居心地がよくて困る。]

 ………言っとくけど、今回だけだから。

[負けを認めて、抱かれてやるのは今回だけだ。
なおも引かない負けん気を発揮して、シュウロの背に腕を回す。]

 2人目が欲しいんだったら、諦めて自分で産んで。
 その時は俺が、シュウロのこと抱いてあげる。

[背に回していた手をそっと下へさげて、生地の奥にある、未開の地への入り口を指先で押す。
BL計画における最低ノルマは一組一人だったはずだ。
だからこれからの交わりで自分が孕み、一人目を生んでしまえば義務は無くなる。

それでももう一人、あるいはもう一度とシュウロが望めば。
その時は、抱かれるのは俺じゃなくシュウロの方だと。
抱きしめあったまま。
顔も見せずに言い放つそれは、それは負け惜しみとも取れる宣戦布告。*]


[右手だけで済ませるから体力が続かない、とは視線での指摘。
性交と自慰を同列に語る時点で懸念はあったが、
良くこれで他者の中に逐情叶ったものである。]

 ――――…、……今後もしなくて良い。

[だが、あの余裕が削り取られた敗北宣言が、
誰かの鼓膜を震わせた可能性は苦味を伴い、咄嗟に声が出た。
喉に絡まる味わいは大人の矜持で呑み込み直し、
数秒のラグは御愛嬌の範疇。嫉妬の味なんて随分と久しい。]

 ……認知しないまま、私のゴシップになりたくはないだろう。
 パパラッチに追われるよりは、余程マシな筈だ。

 クリムゾンの名だけは、残してやろう。

[母体を気遣うのは腕と体温ばかり。
言葉は常のように彼を揶揄り、イニシアチブを取りたがる。
腹に残した子種に慰められて、硬い床を確かな歩みで踏む。]



 社会的メスを入れる心算なら、私の事務所はクリーンだ。
 君が考えるような、百人切りなどしていない。

[言葉を選んだあとですぐさま後悔した。
回りくどい上に分り難いが確かな悋気の発露だと自覚が刺さる。
――― こんな子供相手に、である。

彼の過去に妬く己に、己を見張っておきたい彼。

言葉にすればホームコメディのそれだが、お互いに本気の内。
遺伝子の適合性と云うアドバンテージはあるが、
彼が突如突拍子もなく踏み出すのは嫌と云う程知っている。]


[流石に子を腹に抱いている間に不貞を働く男ではあるまいが、
その先など誰にも約束出来はしない。]

 ―――…兄弟を揃えるのも、悪く無いかもしれないな。

[独り言は多分な私情に塗れ、反論を聞く前に湯殿の扉を潜る。
大理石を惜しげもなく使った内装に、足元に敷かれたマット。
何処でも子作りを推奨する仕様に、
軽く頭を振ると互いのローブを剥いで湯煙に身を投じた。*]


[うっかりと黄泉の門を開いた結果、
聞こえてくるのは亡者染みた低音の呪詛。
どちらが抱かれた側かは見なくとも分かるというか、
想像と逆だったら当惑の末、現実を受け入れられなさそうで。

視線を外したまま、空を切る鮮やかさで掌を見せ、
悪意も害意も敵意もないことを示してやろう。
一方で雄の余裕を見せる遠戚は、
いつの間にこちらの名を知ったのだろう。]

 ……クリストファー・クリステル・クリストフ。

[口にした名は、約束された血族に羨望の色を滲ませる。
兄に勝てる弟はいないという格言が蔓延る通り、
Cに連なるDは別たれた今も、社会的にも圧倒的な差を生んだ。]


[隙間から滑り込んで来た寛容的な声に、
再び扉を数センチだけ開いて言い残すのは贅沢な欲求。]

 育児休暇と育児手当金も割増しで頼む。
 上司部下の好で弾んでくれるなら、
 うちのカフェを託児所風に改装してやっても良い。

[お高く留まりやがって、と恨み節を口にした父も、
無理に子孫繁栄をして何になる、と嘆いた祖父も。
いつだって、液晶画面や情報誌に載るCの遠戚に向ける目は
手から離れてしまった眩い物を見る色をしていた。

あの男が吾郎の上司だったというのは、因果律の捩じれに
リビングを歩きながら苦笑が零れてやまない。*]


[右手だけで済ませずに済むならば
それに越したことはないのかもしれないが
それをするには口を閉ざしていなければならないわけで。
その苦労を考えたら自己発散した方が余程楽だったというだけの話。]

 …言っておくが今後するつもりがあるという意味じゃないからな。

[それは抱かれるというシミュレーションを今回のことで
日常的に行うとでも思われたらかなわないという意味で、
相手の考えていることとはずれた回答だったかもしれない。

あのような痴態を晒すのは後にも先にもこの男の前だけだと思うのだが、
日常的に行ってきた脳内で経験を重ねるという精神修行も
今後する気には不思議とならなかった。

彼奴が言葉を発するまでの数秒のラグと声音に何かしら感じるものがあったが
空気の読めない思考故、訝しげに首を傾げるにとどめ。]


 世を忍んで生きる身だからな。
 そのような面倒ごとは御免だ。
 
 …別段生まれに拘りはない。

[オレ単体が特別な人間というだけで家名に誇りも拘りも特になく。
しかし好奇の目に晒されるのは御免であったが、
それより義務とはいえ男に子を産ませたという事実を
公にして彼奴の世間体的なものは問題ないのだろうか等
大人げのない大人相手に考えてやるオレはとても寛大だと思う。]

 どうだかな。
 まあ、貴様がどれほど爛れた生活をしていようがオレには関係ない話だが。

[そう言ったものの顔にはそうではないと出ていただろうが
相手が自分の少ないと見透かしている経験値にすら嫉妬を覚えているとは気づかず。
ましてこの先の己の行動にまで懸念を抱かれているとは思わない。

ただ、呟かれた独り言の単純な意味だけは理解すると
無意識に首に回した腕に力をかけた。]


[抱かせてやらねぇよ、と恥じらうように許諾した彼を、
散々抱き潰してしまったことに後悔がない訳ではない。

ディー、と紡がれた名は極上の甘さを鼓膜に届け。
ブラックコーヒー色の彼は、チャイよりも甘く舌に落ちる。
自分だけに用意された一杯にお代わりを何度も強請りながら、
注いだミルクで波紋を作り、加えた甘言で甘さを満たし。
毒されて赤く染まる器から雫が零れぬよう、丹念に愛撫して。

焦らすなんて、出来るはずもなかった。
壊さない様に性急に這い回る掌も、最後は彼の掌に落ち着く。
名を呼び過ぎて掠れそうな喉は、己の唾液で潤そう。
ずるいとむずがるなら、喉仏に口付けてあやそう。

抱き壊されたら、と瞳を明滅させて怖がる節が見えれば、
頬を掌で包み、優しく額を擦り合わせてやろう。
大丈夫。優秀なサーヴァントが、身を張ってくれるはずだ。*]*


[震える身体を包み込む両腕に力が籠る。
背を反らせながらも今度は逃げずに収まってくれるそれだけのことに、顔が緩んだまま戻りそうにない。]

 そう、僕は我が儘なんだ。
 だから、全部欲しい。身体も────心も。

[くれるんでしょ、と問い返す声に喉を震わせ。
短い黒髪の間に覗く、薄ら染まった耳朶へ口付ける。]

 勿論。
 理津が僕のものである限り、僕も全部は理津のものだ。

[欲に掠れた声で、誓いの続きを紡ぎながら。
応えるように背中に回される腕に僅かに腕を緩め、彼の顔を覗きこもうとして。

下がる指先に布地の上から誰にも触れさせたことのない場所を押し上げられ、動きを止めた。
告げられる宣戦布告。

つまり、それは。]



 ───……ねえ、理津。

 それって、もし2人目も欲しいって言ったら
 また僕としてくれるってことだよね。
 


[次への約束ということでいいのだろうか。
義務として、遺伝子の相性だけで引き合わされた。
名前以外全く知らない彼を己は気に入っているし、この施設を出ても離すつもりなんてまったく考えてもいないのだけど。

彼の口から、この先の関係が続く言葉が得られると思わずに。
実に都合のいい耳は、それだけで舞い上がる気分でまた一層頬が緩む。]


 ……前言撤回はなしだよ。


[己にとって重要な箇所だけ言質はとったとばかりに、意気揚々と。
反論する声があっても、唇で塞ぎ。
足に絡む布地を、乱暴に取り払ってしまおう。

その時抱くのは彼だという言い分も、勿論聞こえているけれど。
態とそこははぐらかし、口付けを繰り返しながら互いに身体に纏う乱れた衣服を性急に剥ぎ取り、肌を重ねた。]


[彼の身体中余すところなどなく触れ、唇を這わせた場所へ痕をつけて。身体の境界線がわからなくなるほど、昂る熱を交らせながら。
楽しげに、彼の耳元で低く囁く。]

 次も、その次も。
 また抱かれたいって思わせてあげるよ。

[その胎へ子種を植え付けるのは己であることを、疑いもしない態度を崩さずに。

その裏で。
意地だけでなく彼が己を抱きたいと強く望むなら、次は拒みきれないかもしれない。そんな想いは今はまだ黙っておく。

惚れた方が負け。
それは31世紀の今も変わることのない、恋愛論。]*


[我が儘なんだと、自らを暴露して。
ベッドの上の主導権や身体だけでなく、心まで欲しがる強欲さ。
その男の正体が劉コンツェルンの若社長だと知れば、多少強引なその手腕にも納得がいっただろう。

そんな正体を隠し持つシュウロから、自分を対価にシュウロの全てを――身体だけでなく、心まで――得られるのなら、悪い取引ではないと笑っただろうか。

唇を奪い合っても、今はまだ、互いに名前しか知らない間柄ゆえ。
勿論と答える、慾に掠れたシュウロの声に、今はただ当然だと縋る手に力を込めて。]

 ――……ね?
       シュウロ。

[された事はやり返す主義と。
口付けられた耳朶をより桃色に近づけながら。
告げる宣戦布告と共に、慣らせば男でも咥え込める場所を指先で押し上げる。]


[交渉のための手段とはいえ、俺が産んだら自分で育てると啖呵を切ってしまった手前。
シュウロがどうしても、曽祖父にひ孫の顔を見せたいのなら自分で産む必要があるから、その時は手伝ってやろう…。
という理津の思考は微塵も伝わらず。

可愛げどころか、懐かない猫のように毛を逆立てた自分を。
この施設を出た後も手離すつもりがないシュウロの思惑を知らない理津は。
ただ、より一層だらしなく頬を緩めて機嫌をよくするシュウロに、よからぬ気配だけを感じ取る。]

 撤回も何も、抱くのは俺の方……っんぅ

[反論する言葉は重なるシュウロの唇に塞き止められ。
幾度言葉を繰り返そうとも、聞く気のない男は意気揚々と互いに待とう赤と青の衣服をはぎ取ってゆく。]


[空調が快適を維持するはずの部屋で、目が回りそうなほどの熱に苛まれながら。
一向に引く気配のない波に、ただひたすら上へ、上へと押し上げられてゆく。]

 その次もって…
 何人、生ませる気だよ…

[耳元で囁く楽しげな声に、くらりとした目眩を覚えて、片腕で目を覆う。

保有するバライラ因子の相性によって引き合わされた二人。
一回の性行で確実に受精し、子を孕むというのなら。
この男は、一体何度自分を孕ませる気だろうと。

ここへ来てようやく。
シュウロの言う次が施設を出た後を指すことに気づいて、ぐっと息を飲む。

喜んではいない。
決して…。
この先も、シュウロを独占できる可能性になど、けっして…。]



 ………へたくそだったら、すぐにでもひっくり返してやる…。

[産ませるのは自分だと、もはや疑いもしないシュウロの首へ縋る様に腕を回す。

最初の交わりがどうなったかは…。
最後までシュウロを拒まなかった理津が、その胎へ生まれて初めて受精可能な精を受け入れたという結果が物語る。*]


[遺伝子の相性というのは身体の相性までいいものらしい。

情事の名残で皺だらけになったシーツの上。
横たわりながら抱き寄せた腕の中で、荒い息を繰り返す彼の顔を覗きこみ。
汗で張り付いた髪を指先で避け、その眉間にあやすように唇を押し当てた。

睫毛が震えるその目元へ。上気して染まる頬へ。
そして赤く濡れたその唇へ。
緩やかな口付けを繰り返し、目を細める。]

 ……まだ抱き足りないって言ったら、怒るかい。

[大分収まったとはいえ、足を絡め。太腿へ擦りつける下肢はまだ完全に萎えてはいない。
縋るように首に絡まった腕を引き金に。
拒むことをやめた肢体を与える刺激に身悶えさせ、快楽に乱れる彼の媚態に溺れるまま、その胎へ注ぎ込んだ回数は途中から数えるのをやめた。

額を合わせた距離で見つめて、喉を震わせ。
下敷きになった腕で、抱き寄せた背中を撫ぜる。
そうして少しだけ身体を離せば、彼の下腹へと視線を落とした。]



 生まれてくるのは、男の子かな。女の子かな。
 僕と理津どっちに似るんだろう。
 楽しみだな。

[招集を受けた時は、祖父を喜ばせられればと思っていただけだったのが。
今はそこに息づいたばかりの彼の子供が、どうしようもなく愛おしい。
とはいえ、彼が産むことになった時のことを忘れたわけではない。

 ……ねえ。やっぱり、子供は君が育てるのかい?

[一度言ったた引かなさそうなのは、わかっている。
確認してから、うーん、と数秒唸って。]



 あのさ、一つ提案があるんだけど。
 理津が子供を引き取るっていうなら
 僕が、子供ごと理津をもらうってのは、どう?

 僕も仕事があるから子育て出来る時間は限られるけど
 幸い、お金だけはあるからね。
 ベビーシッターを雇えばいいし、
 それなら理津も学校に通えるよ。

[最終手段で弁護士を立てて親権争いなんてのはできればしたくない。
睦言にしては現実的で甘さが足りず、やっぱりムードの欠片もないのは諦めるとして。

今、己が本当に言いたいことはこれではない。]


[彼の空いた手を取り、指を絡めて。
顔の前まで引き上げれば、瞼を伏せ。
もう一度その指先に唇を落とした。]


 言っただろう。僕は理津の全部が欲しいんだ。
 これから先も含めて、全部。

 僕に、理津と。
 生まれてくる子の責任を取らせて欲しい。*

 


[指輪が用意できるならすぐにでも贈るのに。
順序もへったくれもありはしない必死のプロポーズは彼に届いた否か。

そんな事後の部屋の空気を破るように、徐に部屋の扉が開かれた。


 ………………………。


[あれは隣の部屋のガチムチ系男。それも半裸。
無言で何事もなかったように再び閉じた扉を見つめて。
一言ぽつりと。]


 ……ああいうのが好みなんだよね。


[彼の言葉を真に受け。
扉の向こうに消えた筋肉隆々の身体と己とを見比べ、ジム通いを検討すべきか真顔で呟いたのだった。]*


[シュウロの腕を枕に、汚れたシーツの上へ横たわりながら。
荒い呼吸を繰り返すのは、全てを欲しがる我が儘な男が。
本当に貪欲なまでに、理津の全てを根こそぎ喰らい尽くしていったからだ。

汗ばむ額に触れる指先を知覚して。
閉じていた瞼を開ければ、満足という一言に尽きる表情を浮かべたシュウロの顔が間近に迫り。
開いたばかりの瞼を再び閉じて、やわらかく眉間へ触れた唇を受け入れる。

眉間から始まった優しすぎる口付けの雨は幾度も降り注ぎ。
微かな笑みを浮かべる唇を終着点にした。]

 ………足りないって…
 何回したと、思って…

[絡め取られた足。
太腿に擦りつけられる熱源に、くらり…として目元を覆う。
スプリングのよく利いたベッドの上で目眩を起こすのはこれで何度目だろうか。]


[シュウロの視線が下を向くのに気づいて、後を追うように理津の視線も下を向く。
そこにあるのは、薄く平らな自分の腹。
本当に、そこに自分以外の命があるのか疑問に思う。

男として生きて来て23年。
バライラ因子が発見され、Birth Liberty計画が実施されて早十年
まさか自分がその計画に巻き込まれて、子を産むことになるとは思わなかったけど…。]

 さぁ…
 どっちでもいいんじゃない?

[若干無気力気味な声は、幾度も重ねた疲労故に。
ただ、自分の腹を見下ろす目だけを微かに細めて。
向かい合う男が父性を自覚し始める傍ら、母となる理津に、母性の目覚めはまだ遠い。]


 ………ん?
 …うん、まぁ……。

[尋ねられて、曖昧に返事を濁す。
あの時は啖呵を切ったものの、実際に大学生である自分が一人で赤ん坊を育てられるかと言われれば、非常に謎だし不安の方が大きい。

今更、やっぱり無理だとシュウロに丸投げしてしまっては呆れられ…、いや、嫌われるだろうか…。

唸るシュウロを前に、不安に目を伏せ。
卵とやらが有るか無いかも分からない腹をそっと撫でる。]


 ………え?

 あ、………は……?


[そんな状況で提示されたのは、あまりにも理津にとって都合がよすぎる提案
これが部屋へ入ったばかりの頃であれば「馬鹿にするな」と一蹴して終わりだっただろうが。
困ったことに今の理津には、断る理由がひとつもない。]


[腹を撫でていた手を取られ。
瞼を伏せたシュウロが、誓いを奉げる騎士のように指先へ唇を落とす。


 ―――………っは…


[言葉や感情よりも先に、ただひとつ零れた吐息。
本当に、見た目のいい男は狡い。
なにをしてもさまになるんだから。]

 責任とか、世間体とか。
 そーいうのを気にして言ってるんだったら、俺はいらない。

 どうしても、子供だけ欲しいって言うんだったら…
 考える……けど…、

[絡めた指先に、少しだけ力を込めて。
真剣な眼差しを向けるシュウロから視線を逸らしたのは、ほんの少し、続きを言う事に勇気と決意が必要だったから。]



 浮気と二股。
 絶対しないって約束してくれるなら…

 もらわれても、いい…よ…?


[順序もへったくれも無い、シュウロの必死のプロポーズに。
もうふたつ、条件を付け足した。*]


[ピロートークと言うには色気もムードもない会話の切れ目に、音もなく扉を開いて現れた闖入者

目が合って数秒の沈黙の後に、お隣さんとは違う部屋へ入って行ったガチムチ系おっさんの片割れは静かに部屋を出て行った。

一体なんだったんだろうと冷静に思う理津に、羞恥や憤怒の色はない。
なにせ普段からモデルのアルバイトでヌードやセミヌードを披露しているのだ。
真っ最中でもあるまいし、男同士で裸を見られたからといって何がある。

ただシュウロの方はそうでもないらしく…

 ん……?
 あぁ、うん…。結構好み。

[好きか嫌いかで言えば好きだと、若干間の抜けた調子で答える。石膏像の肉体美など何時間眺めていても飽きが来ない。

出産(?)までの一月をここで過ごすのだという事を注いでのように思い出し。
もしおっさんさえよければ、その見事に鍛えられた男性的な肉体をデッサンさせてもらえないだろうかと。
トランクの中にあるスケッチブックを思いだして悩む理津が、シュウロがジム通いを検討し始めたことなど知る由もない。*]


[せいやっ、と勢いを付けて吾郎をベッドの上に転がした。
その横に倒れ込むと、まだ湿り気の残る髪を掻き上げる。]

 ………………、

[なんと言って良いか分からずに、口を開けてから閉じ。
吾郎の腹に手を伸ばし、膨らんでないそこを優しく撫でる。]

 あー、妊娠してるだろう、から、
 あまり無茶とかは、するなよ。

 ───…もう、吾郎一人の体じゃないんだから。

[言ってから、実感と羞恥が交互に襲ってきて、
みるみる赤くなった頬は目の錯覚ということにしてくれ。*]


 ―――へッ !?

[ベッドの軋む音が一際大きく鳴り響く。
仮にも身籠る身体がディーによってベッドへと勢いよく転がされる。
その横へまるで悪びれもなく身体を沈めるディー。

髪を掻き上げる仕草は可愛いと言うよりは格好良いと言うべきなのだろうか。]

 人をベッドに転がしといてその台詞を言うのか……、まぁディーらしいけど。
 んじゃ無茶しねぇように上に乗ってもらおうかね?

 ――――わかってるよディー、俺とディーの子だからな。

[ディーの方を見れば目の前で顔を真っ赤にしているではないか。
此れは此れでもの凄く可愛いものを見れたな、と口許を緩ませて。
ゆっくり身体を起こしながら彼の上へと覆いかぶさる。]


 俺、優しくは出来ないかもよ?
 ヤられたことは倍返ししないと気が済まないタチでね。

[フン、と愉快に鼻を鳴らして顔を近づけ鼻を甘噛みする。
容赦なく何度も己の身体を貪ったからには、倍ぐらいヤり返さなければいけないなと。

俺の欲が早く突っ込みたいからと言う我儘を彼のせいにして優しくしないと言うのは致し方なし。
ちゅ、と頬へリップ音を立てながら数度口付けを落として、
己の両方の五指を彼の五指へと絡ませて、暫し彼を見つめながら。]

 ディー、愛してる。
 お互いの子を一緒に産んで、一緒に育てようぜ?

[耳許へ唇を寄せて甘く囁いて。
彼の希望も俺の希望も両方叶えばもう言う事はないだろう。

後は愛に溺れるだけの事だから。**]


[まだ触れ足りない。
けれど、同じくらい彼も大事にしたい。
理性はシーツに沈む身体を労ろうとするけれど、まだ収まらない煩悩は足を絡ませて触れる肌の範囲を少しずつ増やしていく。

年上の自分がこんなじゃだめだろう。
疲労が滲む掠れた声一つでまた貪りたくなるのを耐えて。

煮えきらない返事に、やっぱりそうかと早合点を。
畳みかけた提案に返ってきたのは、拒絶ではなく。戸惑い。
期待しても、いいだろうか。
この先を告げても、この手が振りほどかれないことを。
僅かな緊張で、鼓動が早くなるのを感じながら。

微かな吐息に、指を絡めたまま息を詰める。
握り返される指先に、祈るような想いで瞼を上げれば。視線が逸らされ落胆した。

けれど。]




 ………え。


[了承の言葉と共に付け足されたのは、条件。
それの両方とも己にとっては、考えつきもしなかったもの。
必死だった分だけ気が抜けたせいで。思わず聞き返すような声を漏らしてしまい、慌てて釈明する。]

 違う違う。
 どっちも考えてもいなかったから驚いただけで…っ。

[本当にそれだけでいいのか。
彼の目を覗きこむように見つめて。ふ、と頬が緩んだ。

絡んだ指を押しこみ、硬く握るように繋ぎ直し。
背に回した腕に力を込めて、もう一度強く抱き締める。

その約束が、彼にとって言葉にするほど大事なものなら。
己も同じように、大事にしよう。]




 約束する。
 浮気も二股も、絶対しない。

 だから理津を全部、僕にちょうだい。
 僕も全部、理津にあげる。


[曖昧さを取り払った『全部』が、彼に伝わればいい。]*


[色気もムードもないとしても。
実質新婚ほやほやの雰囲気に割り込む闖入者。
元より人の視線には慣れている。
腕の中の彼と同じく、真っ最中でもなければ。向けられる視線に邪なものが混ざりらない限り、平然としたものだが。

ただ彼の口から聞こえた答えだけは。
わかっていても、面白くなかった。]

 ……ふぅん。
 そうなんだ。

[思いの外拗ねた声が零れてしまったことに、ハッと気づいて。
なんでもない、と鬱血が散る彼の首筋に顔を埋めて誤魔化そうとした。

好みの対象が石膏像であることも。ヌードモデルのアルバイトのことを知るのも。
アルバイトを断らせるために彼の身体に定期的に痕をつけたがるようになるのも。

全ての真相とその顛末は、もう少しあとの話。]*


[涙ぐむ姿が嘘泣きだってことくらい、分かっている。
それでも甘やかしてやりたくて、静かに唇を寄せた。

その一方で身重だと気遣う体を放り投げるのだから、
呆れられても、見捨てられても、文句も言えない。]

 いや、その。
 ……乗れって言って、その行動はなんだ。

[照れ隠しだ、分かれ馬鹿と緩み切った口を睨み付け。
覆い被さって来た体に心臓が跳ね、肩を震わせた。

もっと屈辱的な想いをすると思っていた。
だが、実際、こうして押し倒されてみると照れ臭さや
むず痒さはあっても、嫌な気がするどころか、むしろ。]


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