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ヒュー! 今日がお前の命日だ!
[眷属の苦悩を甘露と味わって、低い笑いを漏らす。
どれだけ抗っても、いずれ渇きに流される時は来る。
その時の葛藤と罪悪感にうちひしがれるさまは
また格別な味わいだろうと、ほくそ笑んだ。
いずれにしても、近いうちに血の味を覚えさせる必要はある。
あの男を、永遠に下僕に留め置くためにも。]
……。
[どこからか聞こえる、低い笑み。
耳に纏いつく其れは嘲笑と揶揄を含んで、
ざらりと男の内側を舐め上げる]
……うる、せえよ。
[ぼんやりと血の抜けた思考の侭、囁きを返す。
酷く唇が乾く感覚には、経験があった]
(――脱水症状だな、コレ)
[補給の少ない荒地での戦い。
ぎりぎり足りぬ水を回し飲みした、あの時と似ている]
[もう己がヒトでないことは知っている。
……かつての同胞を殺めて、
それでも、ぎりぎりの正気を保っているのは
人を殺して、魔物を殺して。
そうやって今までも生きてきたからかもしれない。
殺すことを生業にして生きてきた。
殺せと、そう命じられて。
今も同じだ、と投げ遣りに思う。
だから己は共に旅をしてきた仲間も、
何の害さえもない魔物も、
……クレアさえも――殺せる]
(いやだ)
(なぜ、俺が)
(エリアスが何をした? なぜこの手に、)
(たす、けて )
[――悲鳴に蓋をする。
だいじょうぶだと、いいきかせる。
まだたべていないから。
その水をあじわってはいないから。
いつもどおり。
――まだ、そちらにはゆかなくていい。]
――?
[誰かに呼ばれた様な気がして、ぴくりと目線を上げた。]
……アンタか…?
何か…、…
なに。ちょっとな。
上手くやったら褒美をやると言っていただろう?
その褒美を準備中だ。
[楽しみに待っていろといわんばかりの口調。]
……。
[思い切り眉を寄せ、声の流れて来る方向を睨む。
この男の『褒美』など、
最初から嫌な予感しかない。]
[睨みつけてくる視線までうすうすと感じて、
押さえきれない笑い声を漏らす。]
心配すんな。
おまえもきっと気に入る。
泣くほど感謝してくれてもいいぜ?
……っかし、いてーな。
[うっかりと零れた声には、気付いていない**]
……っ、…。
………誰が泣くか。
[言い返しながらも、声音は僅かに揺らぐ。
不審と、不安。
――同時に、揶揄うような遣り取りが快くて]
……?
怪我でも、したのか…?
[零れた声に、瞬く。
……暫くの無言と、
どうして良いかと迷うような気配。]
………何処にいる?
俺、行こうか?
[自分が何を言っているか困惑するように
唇を引きしめる。
――行ってどうすればいいのかとも、
わからなかったが]
[深紅の波動が覚醒を促す。]
あ…?
[呼びかけられ(
ややあって、自分がうっかりと零したこと(
……ばかやろう。
おまえに心配されるほど、落ちちゃいねぇよ。
[投げ返す口調は、普段よりもなおぶっきらぼうなもの。]
それより、自分の心配でもしてろ。
怪我しただろ。血の臭いがするぞ。
[自分もまた血にまみれているにもかかわらず、
優秀な猟犬のように、眷属の血を嗅ぎ分けて指摘する。]
―――今のおまえじゃ、ほっといても治らねぇぜ。
ちゃんと喰いな。今、餌を連れていってやるから。
死にかけの獲物だ。一人でもちゃんと喰えるだろう?
[機嫌良く喉を鳴らす猫のような声音。
獲物を、いたぶるような。]
(姫は── 何処におられる──)
まだ寝ぼけているのか。
目を覚ませ。ヒュー・ガルデン
[名を呼び、覚醒を促す。]
おまえを担いでいると、重いんだよ。
[大した負担にも感じていないくせに、
文句を言って、笑った。]
[「目を覚ませ」と、軽佻な口調の命令にも血は沸き立つ。
血の盟約、永遠の君主の「声」。
世界は裏返り、逆しまになったことを知る。]
おまえが望むのは、なんだ?
["声"を通じて為された問いは、
もっと魂の深い場所を突くもの。]
我が望みは、クラリッサ姫を現世に甦らせ、平穏で幸せな日々に戻っていただくことに他ならず。
[目の前に立つヘクターが口にした言葉とは同時に別の「声」が響く。
それが空気ではなく闇を介して伝わるものであり、それに呼応した自らの「声」もまた、意識そのものの伝播だったと気づいてわずかに動揺した。]
(意識に直接、語りかけてくるのなら、心を読むのも容易いか…)
[逃れられぬ定めがもうひとつ増えたことを知る。
まだ闇の領域が「兄弟」ともつながっていることは把握していない。
そもそも、ドナルドが闇に堕ちたことも知らなかった。
向うから声をかけられるか、そうと教えられるまで、このまま意識を読まれ続けることになるだろう。]
[騎士が口にした望みには薄い笑みを浮かべたが
内心を露わにすることはせず]
ならば、連中を殺し尽くせ。
奴らの血を捧げてやれ。
―――おまえとあれは、いまや"血の兄弟"だからな。
これからもしっかり姉につくせよ。
[方法を示唆して、けしかけるに留め置いた。]
ですが、
姫を姉などは畏れ多い…
おれは一介の騎士のままで充分に──
そうか?
ああ、そうだな。
姉弟では添い遂げられんからなぁ。
[尊重する気もない人間の習俗を口にして、
騎士の忠道を笑い飛ばす。]
まあ好きにするがいいさ。
あれが何を望むかは、聞いてみないことにはな。
……ぁ、
[小さく意識が洩れたのは、ヘクターのからかうような言葉そのものにではなく。
とっさに「並び立つのは畏れ多い」という考えが先にたってしまったが、ヘクターの言葉を反芻すれば、わずかに不安が根ざす。]
(姫が「娘」だというのは──)
[妾腹にせよ実際の、と思っていた。
だが、「血の兄弟」という言葉には──]
[ヒューにはまだ自分が「吸血鬼」だという自覚はない。
ただ、ヘクターと「契約」したことにより、人ならざる力を得たことは承知していた。]
( 姫…は、 )
[何かが胸にひっかかる。
去ってゆくヘクターに問うこともできたろう。
だが、逡巡した。]
……心配なんざしてねえよ。
するような状態だったら、俺が何しても無駄だ。
[いつもよりぶっきらぼうになったその口調に
ふ、と息を吐く。
恐らくは彼のプライドを傷つけたのだろう。
余計な事をした、という後悔に唇を噛んだ。
気まずさを誤魔化すように、口早に囁く]
……アンタが斃って、俺が困るとでも思うのか?
──。
[右腕の怪我を言い当てられ、眉を顰めた。
男の能力では『我が子』の全てが筒抜けなのだろう。
だが己には、この距離では男の怪我はわからない。
…それが寂しいような気がして黙り込み、
次の言葉に、息を呑む]
──ふざけんじゃねえっ!
余計な世話だ…っ!
[──死に掛けの獲物。
階下からの人声の詳細はわからない。
ただ、恐らく己の知らぬ戦闘があり
怪我人が出たのだ、という事を理解する。]
………
アンタが殺せってのなら、殺す。
それで充分だろう…!?
[悲痛を含んだ掠れた囁き。
──飲むつもりはない。
誰かを自分と同じモノにするつもりもない。
わかって欲しいと訴えるような。
無駄だとは思いながら叩きつけ、
苛立たしげに袖のカフスに手をかけた]
オレがいなくなったら?
[どこか慌てたような口調の問いに、片眉を上げる]
そりゃ、困るだろうさ。
まだなンも知らないおまえが、ひとりで取り残されて、
どうにかなるとでも思ってんのか?
[当たり前だとばかりに切って捨てる。]
[ゆっくりと息を吸い、戦いに向かう神経を研ぎ澄まさせた。
刹那。
闇が揺蕩う気配を、ふと感じる。]
(──誰だ…?)
[見覚えのない気配。
獰猛な巨躯を横たえる獣に似た、あの男とは違う。
火球の様な熱さと、鋼の硬さ。
昏く燃える熾火に鍛えられた、鎧]
……。おい。
[声を掛けようか逡巡したあと、短く呼びかける*]
[獲物をくれてやると言ったのに、激しい口調で拒絶された。
そのこと自体に、喉の奥で笑う。
嘲笑うように。
可愛いものをみたとでもいうように。]
そうは言うがな、おまえ。
――― そのままだと、死ぬぞ?
飢えに狂ってのたうち回って
自分の身体を引き裂けるだけ引き裂いたあげく
野垂れ死ぬぞ?
[実際に吸血を拒み、静かに衰弱して死んだ眷属も知っている。
しかし、そこまで親切に教える気はなかった。]
衝動を殺すな。
身体の欲求に応えてやれ。
――― 喰らえ。奪え。飲み干せ。
…わかったな?
[手放すつもりはない。
死なせるつもりもない。
それは命令であり、宣言でもあった。]
持ち主が死んで、玩具が困るのか?
[なにかを嘲る様に、喉をならし]
ただ壊れるだけだ。
わかってんだろ?
[玩具が壊れても持ち主は困らない。
またつくれば良いだけだから。
持ち主がいなくなっても、玩具は困らない。
打ち捨てられて壊れるだけ。
──クレアのように]
…ッ、……。
[自分を抱くように腕を回し、歯噛みする。
──異端狩りとして、
飢えた吸血鬼を見た事がないわけではない。
男が口にしたような、青黒く干乾び
灰にすらならずに消えた魔物の末路も。
本能的な恐怖に喉が震え、
引き攣る様に息を呑み込む音が響いた]
……俺はもう、死んでるようなモンだろうが…ッ
[其れでも震えを押し殺し、声を絞り出して]
…ぁ、……
[何かを反駁しようと口を開きかけ。
男の声音に、それが千切られる。]
……。っ………。
[肯うこともしない。
否むこともしない。
じくじくとした痛みに耐え、
ただ黙って唇を噛み締める。
それだけが今の唯一の抵抗だった*]
死んでるようなモン、か。
[平坦な声で呟き、思案の間を挟む。]
―――だが、生きているだろうに。
[嘲笑。]
玩具なら玩具らしく、
最後まであがいて、オレを楽しませろよ。
オレは死んでも消えねぇ。
見ていてやるから。
[仮定を口にして、
その仮定がナンセンスだとばかりに鼻を鳴らす。]
おまえより先に死ぬなんてことはねぇか。
当分、死ぬ予定もねぇしな。
しかしまぁ。
人間っつーのは、面倒な生き物だよな。
[誰に聞かせるでもなく、言葉を零す。
既に人間とは違う生き物になったというのに、
人間を殺すことを拒み、殺してしまったと嘆く。
全く、面倒な生き物だと思う。
その苦悩を眺める楽しみもまた、
眷属を増やす理由のひとつではあったが。]
呪われた? 忌まわしき?
ハッ。
だれに呪われたっていうんだ。
[背中に聞こえてきた修道士の言葉を笑い飛ばす。]
兎が狼を恐れるのと変わりゃしねぇ。
妙な理屈こねまわさねぇで、素直に怖いって言えばいい。
そっちのほうがまだ可愛げがあるってもんだ。
―――ま、人間共には理解できないんだから、
しゃーねぇか。
[呟きに滲むのは、超越者の自負。]
――――……。
[あいつが生き残って帰ってきたら、
もう一度血をやってもいい。
まともな闇の狩人に仕立てるために。
そんなことを、ふと思った。]
[対峙するその間隙に、闇の領域から、手探りするような揺らぎが伝わる。
それは、言葉を伴って触れてきた。
主とは明らかに違う声。]
── 何奴っ !!
[閨に踏み込まれたかのごとく驚き、その衝撃を叩き返す。]
[響く嘲笑に目を伏せる。
そうだ。生きている。それがヒトならぬ生であっても。
――だから、こんなにも苦しい]
……思い通りになる玩具なんて、
つまんねえだろ…?
[そう、小さく肩を竦める。
見ていてやるという言葉に
よわよわしく笑んだ。
――クレアを見ていたようにか? と
そう口にのぼせかけ、止めた]
うわっ
な、…何奴、って…なんだこいつ
[叩き付けるような衝撃に驚いて仰け反る。
――目の前の大階段を上がる姿を目に留め、
早口に囁いた]
悪い、取り込みの用が出来た。
アンタが誰かは知らねーが
アイツの眷属か何かなんだろ?
……またな。
[柔らかく笑うような気配を届け、声を切る。
それが騎士ヒュー・ガルデンである事には
いまだ気づいていない*]
(どうかあれも姫のために──)
(……、こんな心の声まで、筒抜けなのだろうか…)
( 主のみならず、さきほど、耳もとを掠めて消えた正体不明の気配にまでもとなると、問題だ。)
( あれはいったい誰だ? 予想外に柔らかな感触だったが──)
( いかん、筒抜けなんだぞ。)
[しばしは目の前の闘いに集中することにした。]
[くつろぎながら、触れてくる眷属たちの気配と声にも耳を傾ける。
"子供ら"同士のやりとりには、微笑さえ誘われた。
思い悩むさまの騎士には声を掛けてやろうかとも思ったが、
いまは止めておく。
それよりも、戦いの行方を追う方が面白い。]
[二階での戦いは、おおよそ互角。
か弱いと見えた錬金術師の身体能力と、
多彩な薬品を使った攻撃に、感心した声をだす。]
ハッ。なかなかやる。
問題は、それがどこまで続くか、だが。
[持ち運べる薬品の数など、たかが知れているだろう、と
冷ややかに観察する。
身体能力の上昇も薬の効果のようだし、
切れるまでにどこまでやれるかが、見物だと唇を歪める。]
[対して、一階の戦いは、眷属の不利に進んでいるようだった。]
しっかりやれよ、おら。
[発破を掛けるが、騎士の実力では厳しいだろうことは
最初から承知していた。
神聖魔法の使い手と、手練れの剣士の組み合わせは、
自分ですら、時に手を焼く。
どうするか。
思案の顔で、しばし湯船に沈んだ。]
我が君──
[騎士の戦きが伝わってきて、薄く、唇を引いた。]
どうした?
[伝わってくる声に、微かな笑みの気配を乗せて応える。]
いささか手に余るやも。
そうか?
だらしがねぇなぁ。
[笑う声に、非難の色はない]
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