25 花祭 ― 夢と現の狭間で ―
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天満月の御子息さまとやら
……何処に居るのか
とんと顔を見ぬが……。
やれ、どちらも私では不足と謂うか。
流石に
傷の付く事よ
お前を抱いて…食いたくなってしまうのはまずかろう?
喰われるのもごめんこうむりたい。
……抱く?
私を幾ら抱いても孕まぬよ
受け継いだのは、種付ける術
喰らいたくなっては――確かに困る。
何だ、まだ言うのか。
[からかうような響きを残して幾らか低い声は嗤う]
危ないと言うなら其の身を矛に身を立てれば好い。
丁度いい手本が傍にある。
[なあ、と話の矛先は霞へと向かう。
傷が付こうが付くまいが、己には関係ないとは口にはせねど]
…いいだろう。
ならばしばらくそのままで待つがいい。
本当の事。
[嗤う音に、拗ねたこえ。
暫し間が空いた]
簡単に謂う。
私の居た場所は、貴方達の想像のはるか底辺
誰にも見捨てられた裏路地に子捨てが何故この世に起きるのか
財持つ家に生まれたものには遠い話。
だから、今更だと言っている。
少しは学べ。
[間が開いたことに疑問など持たない。
こちらもまた、幾らか喋っていた故
一つに意識を集中させるほどのことはしない]
その無理難題を越えたくて花になったのではないのか?
己が選んだ道に、後悔するのであれば去れば好いだけのこと。
…では、お前が稲羽の松になる前には、迎えに行こう。
[それは古いうたの話]
花になったのは……嗚呼、解らない
親は何故
同じ道を歩ませてくれなかったのか
世を狂わせる
其の為に危険の中へ留まり続けたのでは、無かったのか
[思い馳せるも、答えは出無い]
――直ぐに帰るといいながら
待てども待てども、置き去りのまま
[詠うこえが聴こえた気がした。
古い古い、知っているのは、冬の知識]
それは、失せもの戻るまじない歌……?
知りたければ、調べればいい。
[書庫にいけば答えは見つかる。
敢えて答えるつもりもない。]
別れを詠む
去なばの山の
……知りたいのは、うたの意味ではなく
[記憶の引き出しにあったのは
もう千年もそれ以上も、古い古い書物のうた]
私が知るは
失せ者かえるよう、願うものでもあった故
其れを知る貴方は……失せものでもあったかと
詠み違えたか?
読み違えも甚だしいな。
[それは結構な切り返しであったように思う]
言ったはずだ。
遠回しな言い回しは好かんと、ついぞさっき。
大体、失せものなど
[少しだけ、間が開いて息を吐き出した]
私には、ない。
そう――…か?
[僅かな間は微かな疑問を浮かばせたが]
なら、良い
[短く零す]
何だ。この返答では不満か。
[どう聞いてもその言葉尻は上がっていて、
息を一つ吐き出す]
…それで。
何処に迎えに来いと言うんだ。
否、詮索はせんよ
立ち入るなと謂うならば。
[冬色が翳る
眉を下げて]
先刻の、庭に
そのまま居る
足の怪我を失念していて
……立ち上がれなくなった
ひとつ花が其処にあるけれど
[無言の答え。
それが意味するものは推して知れとばかり
男は答える言葉を作らない]
…立ち上がれない?
お前は子供か。
[呆れたように呟いて、息を吐き出した。
花と聞けば目を細め、もうすぐその花の後姿も見えるだろう頃]
……姿は見ての通り
私も、昨夜生まれたばかり
子供には違いない
[くすくすと、わらう。
花開く
柔かな花びらの其の通り
徐々に変化しているのは
トゲ混じる冬の名残が消えていく証拠]
成程、まあ、それは確かに道理やも知れん。
随分老成した子供もいたものだ。
[納得はすれどそれよりも先にまず呆れが生まれる。
軽い笑い声に肩を竦めれば溜息は重く一つ吐き出される]
……私は何を言った?
私に何をした……?
[酷く寝惚けて醜態をさらした夢と
眠りながらも、巻物を口にくわえ
少し苦しげに微か喘いだ夢をみたから。
恐る恐るどこまで現実か確めた]
…イビセラと呼ばねば、自分だと解らないか。
[微かに空いた言葉の間に首を傾げる。
目の前にいるからには、流石にそれぐらいには気付くというもの]
……ロビンでも、名も無き花でも、徒花でも
何とでも呼ばれれば気付く。
少し意識が飛んだ。
日に当たりすぎたか……何かしたのやも。
[空いた間は名の通り空白の一瞬。
咲いた花にその間の感情が無い]
ん?
あ、そりゃもう、なかなかに大胆なことを…。
さすがに長く躾けられた花だと感心した。
[なんだか焦った声がしたので、
悪乗りしてそんなことを言ってみた。]
[米粒の存在と、自分の記憶のあやふやさもあり
夢の様子ならそこまでのことはしていないはずと
否定することは出来ず、頭を抱えた]
……忘れてくだされ。
[かろうじてそれだけを零して]
だったら、すぐに反応するんだな。
狼憑き以外のいる場所で、少しでも余計な疑いを
持たれるような事はするな。
[見下ろす視線は幾らか冷たく。
それは己にとって不利不必要となればいつでも切り捨てると言わんばかりに]
ならば余り動揺させぬよう願う
まだ……抑えられぬ
どちらもなど、貴方が謂うから。
ん?忘れるにもなかなかに…。
寝ぼけてるとぬしは中々に楽しい。
童心の心と大人の身体と…。
いや、チャールズもたいしたものだな。
[本当に何も覚えてない風味な感じに、やはり楽しげに悪乗り追加。]
まぁ、また拝ませてもらおう。
[気にするな、とまで言い残して…それから少し真剣な声に戻る。]
さて、さっきも言ったが、花買いもはじまっている。早々に決まれば祭途中でも辞すものも出るかもしれん。
ここで逃げられては……な。
そろそろ、動くか。
は、はぁ……
[主を褒めてもらえてることもあり
強く何か言うこともできず
かと言ってその礼を述べることも出来ず
零したのは間の抜けた返事。
ただ、続いた言葉には嘆息一つ]
……御容赦願いたい……刷衛殿は意地が悪いですね……
[かろうじて、少しばかり言い返したが
話が真面目な話題に及べば、コクリと頷いた]
……夢うつつの記憶が確かならば
高嶺が二つ花を摘んだと
……そうですね。封鎖の手配は今宵の宴までには整います
宴開始一番に舞台上で
現状の説明と封鎖の報告を済ませましょうか。
動揺?何のことだ。
[動揺させることなんて何一つした覚えはない。
当然、何か動揺させるような事を云った覚えもない]
ふむ、そうだな。よかろう。
では俺は知らぬ素振りでその様子を眺めておく。
クロならば、焦りの行動も出るかもしれんしな。
[そして、また考え込み]
まんまるは、すぐに逃げるかもしれん。
先に確保しておくべきか?
[あまりに酷い扱いだったが
同じ担がれ方で無いのは、救いだった。
自覚こそ無いけれど]
……剪定の、くだり
どうにも冬の名残が、抜けぬ
どちらも叶えれば良いなどと
欲を張る事を覚えてしまったら、如何する。
[足りぬ言葉を注ぎ足して
花は大人しく担がれている]
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