25 花祭 ― 夢と現の狭間で ―
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初物は傷みやすい。
喰らうなら早めが好かろうね。
[くつ、と小さく喉を鳴らすのは愉快さか。
それとも、憶える餓えによる期待か]
皿を持ち歩くも構わんが、食後の甘味ぐらいはゆっくりと味わいたいもの。
…そういうものは、取っておくが良いと思う。
皿を持って歩きまわってばかりでは、忙しなかろう。
喰らうて良いなら、今すぐにでも
[腹の底から込み上げる本能が
急かすように焦らすように蠢いている]
嗚呼……腹が空いた
糧として、喰らうのならば…
[そっと腹を撫でるのは、一夜の夢を見せた法師のことか。]
食べ頃ならば、若い桜の猫が盛りか。
だが、ようやく開く花のお目見えならば、先ずはどなたかに、一夜の夢でも魅せてごらんよ。
いくら美しくとも、徒花は要らぬ。
|
―→ 庭 ― [先ずたどり着いたのは、ヨアヒムの私室。 出迎えたのは使用人]
シュレーゲルさまは……そう、お食事中ですか。
[青褪めた貌に憂いを乗せて俯く。 用件をと問う使用人に、楽器を一つ貸して欲しいとせがんだ。 許可は直ぐに下りる。 もとより花の為に集められたものだと。 場所を問うて、庭へ下りた。 幾つもの道具を揃えた離れは、裏庭の先]
……
[ふ、と 人影を見つける。 セシルの微笑みと、視線の先にある花主たちの棟。 足を止めてその光景に目を留める]
(534) 2010/08/04(Wed) 14時頃
|
腹が空いて堪らんならば、一番食いでが有るのは小山のような肉饅頭では無いかえ?
[くく、と落とす揶揄。]
ああ、雛鳥は食後の水菓子に…
桜の猫は、其処に見えるが
嗚呼でもこれは……若しかしたら
これから、化けるやも。
[冬色の瞳が春を見る]
……私が、徒花と?
面白い
[薄く、哂った]
噂の花を咲かせてみせよう
一夜でなく、この日の下で
脂身が不味そうで食う気にもならん。
悪食のお前と一緒にされては困る。
[そも、元々の基準が違う立場。
好みの肉に困ったことがなければ
不味い肉を放り出すなど日常茶飯事]
…なるほど。
随分と面白い趣向だ。
[低く、喉が哂う。見せてみろ、とばかり。
丁度視認できる位置から鉄色は咲き始めの花を見下ろす]
|
[胸を押さえる。 僅かに眉を下げて、もう片方の手が 知らず、新しい眼鏡の蔓を摘む]
些か……眩しい
[朝の日が、庭の草花にも降り注いでいる。 目を伏せた]
(537) 2010/08/04(Wed) 14時頃
|
肉饅頭は肉饅頭を喰らうているよ。
[今しがた伝えられたそれを聞かせ]
余程、執心の様子。
他所に懐いた雛鳥など、もう要らぬ
喰らうにしろ、あれは
人数分も無いようだ
[胸を押さえながら呟く。
テラスからの視線に気付き、つと目を伏せた]
此処ならば、置いてある筈
暫し間を。
流石に私は、ナイフ刺さる痛みに耐えて舞う気は無い故に
|
[振り切るように顔を上げる。 桜いろの唇が形作る名 眩しそうに瞳を細めたまま、口元に笑みをしいた]
……見ているといい
[囁いたのはセシルへか その先、花主の棟に見える男にか 緩やかな足取りで、離れに向かう 気温も湿度も調節されているらしいその場所に 望みの楽器は在った。
ケースをあけて 木製の楽器と、付属する弓を取り出した。 きぃと鳴らして糸巻きを調節し、庭へと戻る]
(540) 2010/08/04(Wed) 14時頃
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では…愉しませて貰おうか。
[微かに口元を歪めて、嗤う]
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[ゆっくりと向かうのは、風そよぐ庭にまどろむ桜のもと 友人の姿を見遣り、小首を傾いで その鎖骨の上にその弦楽器を乗せ、顎で挟むようにして高く持ち上げる。 弓を手に、すぅとひいた]
――――…
[流れ出る 柔らかくそれでいて繊細な音色は、異国の楽器ならではの音色。 頑なに閉ざしていた冬ではなく 春の到来を告げる曲。
楽器に添えられた指は正確に音を紡ぎだす。 足りなかったはずの色をそこに添えて]
(543) 2010/08/04(Wed) 14時半頃
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― 庭 ―
[足元に伸ばされた人間の、セシルの手を もう避ける必要は無い。 嬉しそうな微笑すら浮かべ、流し見遣る
そこに怯えていた子供の姿は無く ほころんだ蕾は噂どおり見事な花を咲かせてみせた**]
(545) 2010/08/04(Wed) 14時半頃
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噂の主を、その目で見るといい
[艶を抑え、爽やかな春の音色を自在に操る。
小鳥の挨拶も木々の葉が甘く囁くさまも
確かに其処に映し出されていた**]
…存外、普通だな。
[周りの噂如何ではなく。
随分な口を叩いて見せたように聞こえたので]
てっきり、猫を食らうつもりなのかと思っていたのだが。
おや、普通と謂うか
[苦笑を零す]
……朝日の下に相応しい音色を選んだ心算だったが
ひとつ、惑わしの歌でも奏でようか
猫を喰らうて欲しいなら
何、直前で喰う喰らう如何の話をしていただろう。
それゆえ。
[確か、あの花は種を植える云々とも言っていた気がするが
さてどうするつもりなのかとは思う]
私を惑わしたところで仕方なかろうに。
技巧だけは、かなりのものか。
[窓から漏れ聞こえるを耳にして。
ひと味足らぬは焦がれる思いか。
雛鳥の歌に加わった艶や、あの狂い咲きの笛の音のような。
何かするつもりなら、そっと窓から見守る所存。]
植えたいのなら、誘うて蒔いて構わぬのに。
その為の、祭りであろう?
っふ……
[微かな吐息を洩らす]
否
惑わしは、これへ。
流石に……聞かせる相手が夢の中では届かぬやも
[謡う相手が違うと、微かに視線を向け]
元より貴方がこの血に惑うとは思わぬけれど
戯れくらいは、如何?
[唇が笑みを浮かべる]
嗚呼、技巧は
物心付いたときより学んだ数だけ、この身にあるが
舞もうたも武芸も――
どれをとっても、風情が無いと師が。
[それ故少年は才が無いと塞ぎ
けれど技巧はあったものだから
やがて其れは形を変えながら人々の噂に上る。
いま奏でるその曲には情景を浮かべる色がつく。
それでも
誰を想った一芸には有らず]
眠る桜を誘うなら……急く事もあるまい
どの道これは、冬を恋うていたのだから
技巧だけは。
流石、花の言うことは違うな。
[く、と低く喉が鳴った。
思うことは他にもあれど]
何だ。
あれだけの大口を叩いておきながら、
夢の中まで惑わせて見せるとは言わなんだか。
まあいい。
[浮かんだ笑みを見たのは、テラスを下がるその少し前のこと。
向けた鉄色は冷ややかな温度のまま]
戯れ?
…気が向けば、付き合ってやっても構わんよ。
何時気が向くかは、知らんがね。
[唇歪めて、微かに嗤った]
花であれば――…技巧はあって当然のもの
凡才と思う定義は其々に
[視線が一度交わる。
温度はどちらも同じ]
嗚呼
意地の悪い
[歪む口元から視線を下げて、頬を染めた。
拗ねた口調で囁いて
やがて春のうたは終わりを告げる]
|
― 庭 ― [まどろむセシルの笑みを見下ろし、薄い唇を開く]
……目覚めの歌を子守唄にか 夜があけては仕方の無い事とはいえ
[弦はその間も音を紡ぎ続けていた。 小鳥の囀り 木々の葉が揺れるさま 和楽器には無い音色がひととき庭に華やかないろを添える]
――…
[視線を上げる。 テラスにあった人影が丁度席を立つようだった。 僅かに視線を下げる]
(554) 2010/08/04(Wed) 17時頃
|
意地が悪い?今更だな。
[見えなくなった姿を気になど止めない。
止めるはずがない。
強い興味を持てぬのであれば
総ては興味の蚊帳の外]
悔しければ、その気にさせて見せれば好かろう。
魅了し、手玉に乗せてこその───悪の華よ。
[低く喉が嘲る様に震えて、嗤った]
それでは同じ言葉を。
「その気になれば」魅了に向かおう
[溜息ひとつ。
姿を追う事はしない]
鍵爪で引き裂くなら
背が良いか
腹が良いか
私がこの手にしたいのは
|
― 庭 ―
[テラスの人影が消えて暫くして 弓を下ろした。 音は夏へ向かわず止まる]
……
[浮かべるのは、苦笑い]
良く、寝てる
[隣に座り、楽器を抱えたまま セシルの柔かな髪に手を伸ばした]
(558) 2010/08/04(Wed) 17時半頃
|
つまらん事を言う。
[それは幾らか低い声]
引き裂いてまで、何がしたいイビセラ。
腹を裂いて背に傷をつけて。
それで何とする。
[嘲り交じりの言葉は続き、ゆっくりと冷えた音になる]
悪いが、この身はそう簡単にお前にくれてやるほど
安いものではないのだよ。
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