17 吸血鬼の城
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――ああ、つまらない。
最初から、近くにいるのがわかってらしたのでしょうに……。
[少しだけ拗ねたような声音が呟く]
――…そんな聲を出さないの。
あの娘以外にも“獲物”はたくさん居るでしょう?
[拗ねた白薔薇の聲に宥めるような聲が重ねられた]
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>>264 不思議も何も――気紛れなだけだぜ? [そう言って、いつもの人の悪い笑みを浮かべる。 手の内で震えたその手に、真意を測るかのように表情をじっとみて それでも手は離さない。]
なんか。人でないとばれる事が嫌、な言い方だな。 [それだけ告げて、それ以上に言う言葉が見つからず口を噤んだ。 それ以上言ってしまったら傷付けるような気がして ああ、それとももう傷を抉っているのかもしれない。
曖昧な答えがもどかしくて、じっと見つめてれば 彼女の目を直視してしまった。 その緑の目は真意を汲ませず、煽情的な香りを秘めて。 そしてその目は、男に気付かせる。 男の望みの、吸血鬼という絶対的な対象に 対峙して気付くその望みの 正体に。
息をのんで立ち上がる。未だ手は繋いだまま]
(275) 2010/06/23(Wed) 22時頃
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ふふ……
私はお前の拗ねた貌が見たかっただけかもしれぬ。
[白薔薇の声音に、くすくすと笑み混じる囁きが返る]
そう、私のローズが言う通り
獲物はまだ幾人も残っている。
宴はまだ続いているだろう?
――……ここは、下がってもらおう。
[白薔薇が拗ねた声を出すのとは対照的に、
暗い声を出して……。
そう、彼らにとっては、なんでもない、余興の一つ、きっと自分のことも滑稽にみえているのだと、わかっていても。]
―――お嬢様、
この狩りのこの“獲物”はそれのみ、ではありませんか。
[宥める声に答えるは、まるで道理を諭すように]
ああ、旦那様まで、
意地の悪いことを仰られて……
ですが、我らが同属は“獲物”に逃げろなどと。
[声音には冷笑の混じる]
喰らわぬのですか?
―――毒花を。
いらぬのならば、もらいますよ?
[恐らくその毒は、己が身にも効くだろう。
予感していながら、囁きは流れて]
まさに
度を越えた執着、だな。
[なるほど。
薬師の様子が
丁度部屋で話すイアンの喩えに当てはまる気がして
呟きを洩らす]
白薔薇
今宵の狩りは、薬師が勝ったのだから
あれの好きにさせて遣れば良い
……しかし、其の娘がひとり逃げるかどうか
いや、
彼女を、
いや、獲物を、
捕らえれば、いいの だろう?
[白薔薇の言葉にそう返しながら…。]
――…お兄様もそう仰っているのだから、
別の“獲物”になさい、セシル。
……逃げろ?
この宴から本当に逃げられるとでも思っているの?
逃げられなどしないわ。
そうでしょう……? お兄様。
嗚呼、けれど……
お兄様への捧げものに逃げろ、だなんて……
いけないこ、ね。
[絶望など消えたはずなのに――]
あれが良かったのです。
あの、毒が。
っふふ……宴から逃れる方法は幾つかあるぞ?
[ローズマリーに]
ひとつは、魂だけで逃げる方法
ひとつは、身代わりを置いて逃げる方法
[前者は死を意味し
後者は犠牲を意味する。
魔物狩人と名乗った男が選んだ道を思い出し、
薄く笑いながら告げた]
後は……我が眷族となる道もひとつの逃げではある、か?
二度とひとには戻れなくなるがな。
[隻眼の男のぬくもりが
失ったぬくもりを思い起こさせた。
同じようでいて違う。
違うようなのに似ている。
白薔薇の呟きにふ、と息を吐く]
それでも……
あの娘はサイラスの獲物なのよ。
――…そう、なの…?
[兄の囁きに不思議そうな聲。
けれどそうだとしたらサイモンの魂は逃げられただろうか。
それともまだ城の何処かに囚われたままなのだろうか。
あの優しい男のこと。
魂だけの存在となっても妹の事が心配で逃げずにいそう。
そんなことを思いながらも緩く首を傾げ]
如何してそんな話をするの、お兄様。
私は、逃げる為にお兄様と同じになったのでは、
ない……、でしょう……?
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>>284 [風の吹かぬ水面を思い起こさせる、 静かな色を湛えた緑目はまだこちらを見ていて。
回り込む動作が煩わしく、手を離し そのままテーブルを踏み超える。 そうして近寄れれば、拒まれなければ女の腰へと手を回し 熱を帯びた、けれど声音で言葉を絞り出す]
…ぁ、ようやく、判ったんだ。 あんたら吸血鬼の側にいると、刺青が、左目が疼く。 何か 判らない感情がそこから出てくるんだ、でも 今判った。 [男自身が今何を言っているのか理解していない。 だが自身を突き動かす衝動も、近寄るほどに大きくなる疼きも息苦しさも、男は理解していた]
ローズマリー。どうか。
(294) 2010/06/23(Wed) 22時半頃
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……そうだな
お前は望んで、私の妹となったのだから。
[無理矢理与えた真実を隠し
城主は彼女の聲に同意を向ける]
中には、そのような者もいた、と言うだけの事。
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俺を、殺してくれないか。
[突然の申し出は、しかし、 いつも飄々としている男の表情が真面目なものになっていることで真剣な願いだと分かる。
どこか切羽詰まったような色をのぞかせ、 息苦しそうに眉をしかめ それでも男はローズマリーの目から片目をそらそうとはせず]
(295) 2010/06/23(Wed) 22時半頃
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私が望んだから……
お兄様が与えてくれた。
[疑う事なく記憶のない女は兄の言葉を受け入れる]
……そう。
愛しいお兄様……
如何か私を遠ざけないで……
[切なる聲が微かに紡がれる]
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>>304>>305 [グラスの破片は煌めいていたのだろうか、 片目の男にはその存在は確認できない。 冷たい体温をもつローズマリーの体が密接すれば香るは甘い誘惑。 男の鼓動は静かに、だが力強く暖かい血液を送り出している。
視線がそらされれば、見捨てられたような表情で 男は女の首元に顔をうずめる]
……俺にもわかんねー。 ただ死にたい。そんだけだ。
[本当はもうちょい生きて人生楽しんでから死ぬつもりだったんだけど。そう男は続ける]
この城にきて吸血鬼に会っちまったら 今死にたい、って思った。
(319) 2010/06/23(Wed) 23時頃
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――………あ
[最後は、本当に呆気ない、呻きが一つ……。]
――……、
[眷属たる男の呻きに女の翡翠が微かに揺れた]
―――……、
[無言の気配はミセリコルディアを握る]
白薔薇に求めたのは、何だったのか。
白薔薇をそれでも、護ったのはきっと…
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