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[何か聞くならば、目蓋がとけるまで焼かれ続けたあの人のほうが、向いていたんだろう。正気(というものがどういうものか、どれほどもあたしには分かっていないのだろうけど)のままのあの人のほうが、きっと。ずっと。
……そういえば「死が二人を分かつまで」を乗り越える絆みたいなドラマチックな物語を羨ましがられたことを、あたしは理解ができなかった。いまもできていない。
あたしたち二人が「うらやましい」といわれたものこと。
こうして4回目が済んでみれば、あの人は手にいれたとも言えなくないじゃない?
(
繰り返してきたことを忘れてしまったあの男の子は、この繰り返しに馴染んでいって、イトコをどうにかしてしまったと聞いたとしても、死と生の垣根を越えて、忘れたくないような女の子とのステキな夜に、死をあじわったみたい。
溶けた金属みたいにわらってたあの人は、ステキな物語を手にいれた。
今日は、あの人の焦げたにおいを感じなかった。]
[あたしという存在のなかには、望んだ答えや聞き取りやすい言葉なんて、果たしてあるのかどうかもわからない。
あたしという存在は、もう誰かとわかりあい、分かち合い、これからを目指すものじゃない。だって死んでいる。
死んだ時点であたしの「生きる」とか「これから」とか「いつかまた」とか「来年」とか「あした」とか、すこし先の未来を行動するために作られてきた価値観は、幽霊のあたしにはちょっと大きすぎる情報だった。
だからきっと、颯成は、とても上手に聞いたんだ。]
[8月に死んだ未練のあたしは千早ちゃんをみていた。
8月に死んだ未練のあたしは、生きてる彼女たちに対して話すことなんてない。
ここで、8月のあたしが言葉を交わせるのは颯成だけ。]
[あたしがこの街を引き留めてたった1日を繰り返す間、千早ちゃんは何度も返事をもらい損ねている。
願い川も、未練そのもののあたしも、それを理解しようとはしない。]
[あたしという8月に死んだあたしは、願い川に願い、叶い橋が叶えようとした、ホントはいない宍井澪だ。
『願いを叶えようとする』宍井澪は、本当は夏休みにはいなかった。
たとえあたしが今日の今日まで生きていたとして、あたしは願いをかなえようとなんてしなかっただろう。
ずるずる夏が終わって秋になって冬がきて春がきて、先輩が卒業していくまでを、ただ足踏みして終えていたかもね。
千早ちゃんのいうとおり、高校生活なんてあっという間、なのだから。]
[あたしは願いをかなえようとする宍井澪だ。
あたしは夏休みまでに秋山先輩を誘おうとしようと出来るを叶えて願ってその通りにするだけの宍井澪。
あたしの意志はあたしの意志である前に死んだあたしを引換券にしたあたしの願いでありその願いはもとのあたしの意志であり意思とは『そうしようとする』とはなにが命令し何が発生させ何が行動にうつすのだろう。
セミが鳴いている。
セミは鳴くという意志をもって鳴く?
それとも、鳴く機能が備わっているから鳴く?
あたしはあたしの願いのためにあり、あたしはあたしに願われたからここにある。
8月に死んだ宍井澪が秋山先輩に送ったメッセージはすべて、未練というあたしなりに、秋山先輩をお祭に誘おうとしてのものだった。生憎と、幽霊からのメッセージはマトモに届かなかったので、『試みる』だけはしているものの、全て虚しい試みだったし、あたしは今もまさに、それがわからない。
あたしは秋山先輩を川に沈めたあの日、まだ『断られたから』悲しんでいない。『聞いてさえもらえない』と悲しんでいた。]
[あたしが妬んで昨夜おそくに頭を痛めておぼれ死んだあの男の子が街の一部になって繰り返すことに幸福を感じるのも、願いに一歩近づけたせいかもしれず、それは、世界を繰り返すという機能の完成に一歩近づいたという信号であるかもしれない。
なにを嬉しいと感じるか。どうして嬉しいと感じるか。
そこに心という名の機能が介在しているといえるのは、『そのようにみる』人がいる時だけ。]
[繰り返す街に配置された9月1日の宍井澪は、生まれて周囲の環境に左右されつつ育ったあたしの人生の通りの宍井澪だ。9月1日を継続するあたしは、臆病でなくなりたいと思い始めている。
もし、この繰り返す町に9月1日の宍井澪と一緒に繰り返すあの人たちがいなかったら?
きっと9月1日のあたしは、諦めることしかしなかったでしょうね。*]
[あたしはあたしが願いに近づいているのを拒絶もせず、なに思うところもなく傍観している。この9月1日が終わり、宍井澪が終わったとして、あたしの願いは困らない。或いは、この9月1日が終わらず、誰もかれもがただ9月1日をなぞる機能になったとして、あたしの願いは困らない。]
[まだ、空き地につく前のこと。
水を飲む間にレイ姉から返ってきた答え
誰かの「明日」を引き換えにまた9月1日が来るんじゃないの?
だけど、みんなが忘れても9月2日は来ないらしい。
逆に言えば、
いよいよ不思議になってきた。]
えーっと……
[水のボトルのキャップを閉めて、少し考える。
聞きたいこと
ひとつ、明日が来たらレイ姉はどうなるのか。
来ないから、関係ない。
ひとつ、人選の話。
これは順番じゃなくて、理由探しになる。
次は誰、じゃなくて、みんな忘れても来ないままならどうして奪うの、だ。
けど、原因探しより、意味よりも大事な確認があった。]
じゃあ、もう二度と2日は来ないの?
[これにYesが返ったら、何をしてもしょうがない。
ゆっくり歩き出しながら、話を続けようとした。]
[未練。
考えても考えても、思いつかない。
明日を迎えたくない理由はあっても、それは別に今日を続けたい理由じゃなかった。
やり残したことなんてない。
いや、毎日が新鮮で楽しいと思ってる時点で遊びたりてはいないのかもしれないけど、だからってBBQしなくちゃ2日は絶対迎えられない、とは思っていなかった。]
[――そういえば、幽霊はこの世に未練があって、成仏できないとかいう。
やっぱり、そういうことなんだろうか。]
レイ姉は、なにかやり残し、あるの。
[聞いてみるけど、それは確信に近かった。
レイ姉には、夏休み中にどうしてもやらなきゃいけないことがあったんじゃないかって。]
[そして、勇気を出して、自分からそれを壊しに行こうとしてるんじゃないかって。]
【人】 双生児 オスカー俺は、ないなぁ、やり残し。 (125) 2019/09/09(Mon) 21時頃 |
[すでにどこへ行ったかもわからなくなった、あの溶けるほど焼け続けていた人が残り、あたしが幽霊をやめていたら、そうだったのかもしれない。彼女がいた時のIFはなんて、それこそあたしの理解の外だ。
だから「じゃあ、二度と2日は来ないの?」ときかれて
あたしは首をかしげていた。]
?
[あたしにとっては『ループ』はおまけ、或いは手段だった。
同じ日を繰り返せばいつか目的は達成できる。
邪魔なものことを排除して進めている。
そして、あたしには自信など元からないだけでなく、『叶うまで続ける』ことを体現し、続けることだけしかなかったから、それがいつ終わるのか、いつか終わるのか、はたまた終わらないのか、知ったことではなかったのである。
この街がずっとループし続けることと、宍井澪の願いが叶うことは、共存する。
8月に死んだ宍井澪が願いを叶えて、それを叶えることに用いられた街がそのままだったとして、別段、あたしはそれを問題視しなかった。]
[かわりに、
なにかやり遺したことがあるのかと聞かれた時に、
あたしは、随分優しい顔をして頷いていたことだろう。]
[あたしが誰かを溺死させるたび、あるいは毎日誰か一人、願い川のループにのまれていくたび、このループは強固になっていっている。
そのほうがあたしの目的は達成しやすい。
あたしにとっては、ただそれだけのことだったけれど。
みんなの書いた紙を願い川がたべて、聞き入れてくれるかどうかは、また0時を待つことにしよう。]
[ああ、9月1日の宍井澪はまだ気づいていないらしい。
こんな、たったこれっぽっちのことで、
この街は今日もループしていたことに。]
[だから、8月のあたしはこれでおしまい。
黒い靄のようなあたしは、ただ、スマホを眺めていて。
達成した途端、薄くなっていった。]
[じゃあ、きっとこれでおしまいになるんだ。]
[恋をしている顔、なんてロマンチックなもの、まだ本格的には知らないけれど。
ふんわりと心の底から湧き上がるようにやわらかく笑ったレイ姉の笑顔は、きっとそういうやつなんだと思う。
2日が来るか来ないかは、レイ姉にはわからない、って感じだったけど、レイ姉の"未練"が果たされたなら、来るような気がしている。
というより、来てほしいのかもしれない。
だって、心残りすら果たされて、何も未練がなくなったのに、ずっとずっと囚われてばかりだなんて、そんなの悲しすぎるじゃないか、と思うのだ。]
俺も、覚悟決めなきゃなんだなぁ。
[願い川には、持ってきた紙を流そうと思った。
入院するのが怖いから明日が来てほしくないなんて子供じみたわがままで、幼馴染の恋が叶って満たされるのを願わないほど、野暮じゃないんだ。]
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