164 天つ星舞え緋を纏い
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殺しちまったんだから。
[少し離れてそう呟いたのは、笛が薙ぎ払われるより少し前か。
人形は崩れただの泥へ。
昔にどう思われていたなんて知らないまま、ただ通じないなら失敗だからと、作ったものはこうやってすぐに潰してしまっていた]
よ、と。
[そうしてできた隙を狙って、手元に作っていたすこし大きめの泥団子を、光に向かってひょいと投げる。
一見ただの歪な土の塊、投げるのもあまり上手くはない。
かろうじて方角は合っていたが、相手まで届かないかと思われた瞬間、――音を立てて弾ける]
[笑い声をあげる華月斎が痛みを堪えている事は坊主にも見て取れた。さりとて、彼が優位と思わぬように、坊主の方にも余裕は無い。
ただ揶揄う声に、瞳だけは、すう、と細めて]
怒ったか、だと?
[ゆらゆらと燃える鬼火を従えて、ゆっくりと立ち上がる]
怒ってなぞおらんとも…
[にい、と、坊主の唇が弧を描く、溢れた朱を、親指で、ぐい、と拭い、唇に残った血は、ぺろりと舐めとる。その間も視線は真っすぐに華月斎を射抜いたままで]
むしろ感心しておるさ、琥珀。
[低き声音は、熱を帯びる]
よもや、それほど馬鹿者だったとは、わしも想像しておらなんだ。
[光と闇と、異能の力のぶつかり合うその最中、どこまでも「人」で有り続ける男に、「馬鹿者」と揶揄するように言いながら、坊主は燃える鬼火を両手の周りに纏わせる]
だが、そろそろ、引導を渡してしんぜようか。
[ごうごうと、坊主の両手が燃え上がる、それは坊主自身の膚をも灼いている筈だったが、笑み佩いた顔は、その痛みを覆い隠して]
お返しじゃ!
[どん、と足を踏み込んで、華月斎の前へと、身を運ぶ、たとえ、その身に燃える拳が届かずとも]
燃えろや、琥珀ぅっ!
[突き出された腕からは、集められた焔が火の玉となって、華月斎の顔を狙って飛んでいく*]
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― 温泉 ―
[湯浴みの最中、妖魔の襲来はあったものの。 温度に難はあるものの、氷の材料に困らないこの場所、さしたる苦労もなく退け。
女はぼんやり、空を見上げる。 刻もわからぬ真っ暗な空。鬼火だけが、この世界の唯一の色彩に思えた。]
どう……したいんだろね?
[里長の館の前で隠れ見ていたあのときには、わからなかったけども。 日向を喰らった今ではわかる。 沼太郎と華月斎も喰らうべき存在なんだと。]
(104) 2014/02/20(Thu) 23時頃
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……。
[子供の頃、読み書きを教えてくれた人と。 鮮やかな手妻を見せてくれた人。
師でもある存在が、夕顔に倒された事などまだ女は気付いていないけども。
どちらも傷つけたくなどない。
日向にだって、そうだったのに。 そもそも、誰かを傷つけるなんて思考はなかった筈。
なのに。 喰らおうとした衝動は、抗えない本能の様で。]
(105) 2014/02/20(Thu) 23時頃
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[また。 人と関わるのを避けていたはずが。 今は、誰かと関わる事によって感情の揺れが起きる、この現状を楽しんでもいる。 そして。 終わった後も怖いのに。 その反面、終わりをみたい気もするのも確かで。]
……、面倒くさいな。
[まとまらない、ぐちゃぐちゃの思考。 女は、自分自身へと呟いた。]
(106) 2014/02/20(Thu) 23時頃
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しっかし…… 他にも、まだ生きてる人、いるのかな……。
[ふ、と目を閉じれば、蘇るのは薄い銀の光>>2:19。 それは、風を操っていた日向の力とは異質に思えた。]
あれ……誰の、かな……?
[女は、その力の主に未だ気付けない。 そして、その主と対峙している、己と同じ星を宿した存在の事も。]
(107) 2014/02/20(Thu) 23時頃
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……っ!?
[笛を一閃する直前、捉えた呟きに息を飲む。
直後に伝わったのは、泥が崩れる気配。
勢い良く踏み込んでいた事もあり、勢い余ってたたらを踏むが、舞の足捌きで強引に持ち直す。
そこに生じるのは、明らかな隙]
……くっ!
[投げられた土の塊は未だ遠い、と。
改めて力込めようとするものの、それは予想外の動きを見せた。
弾け飛んだ土の塊──それは避けるも打ち落とすも往なすも、どれも容易くないと思えたから]
……避けてる暇がないのなら、
進めばいいだけのことっ!
[なればと選ぶは、一気に駆けて距離を詰める事。
弾けた土が身を穿つならばそれはそれ、笛と右腕さえ無事ならば、とそこ以外の防御は捨てる。
庇う右腕以外には相応衝撃も走るが、足は止めぬ。
幼い頃から舞の基礎を叩き込まれ、その技を一通り引き継いだ身は軽い。
その軽さを、秋風の軽やかさに乗せて。
一平太に向けて、真っ直ぐ、駆ける]
……この、馬鹿、がっ!
[少なからぬ苛立ちこめて怒鳴りつつ、右腕を大きく外へと向けて振った後、下から、掬い上げるように跳ね上げる。
それにあわせて大きく孤を描いた笛は、下から上へ跳ね上げる動きの一撃を放つ形となった。*]
[こちらを射抜く視線から目が離せない。
少しでも意識を逸らしてしまえば燃やし尽くされてしまいそうな感覚に陥る。
故に息を飲み、相手の挙動をつぶさに見詰め。
動く機会を見定めようと]
だぁれが馬鹿や。
引導も遠慮しとくでぇ。
[揶揄や宣告に対しても態度は崩さなかったが、隙を見出せずジリジリ後退るだけとなる。
燃え盛る焔が法泉をも苛んでいると見えれば、嫌悪するように眉根を寄せ]
阿呆がっ!!
[声を上げ、相手の踏み込みと同時に後ろへと飛んだ。
そして腰に結わえて撓ませていた絹糸を右腕で巻き取るように手繰り寄せ、右手に握ったままであった千切った半紙を投げつける要領で絹糸を後方から引き寄せた。
その反動で川縁に居た人型人形と、それにしがみ付いて居る狐狸が宙を舞う]
[後方へ飛んだとは言え、避けることが出来たのは法泉の拳の直撃のみ。
放たれた焔は距離をものともせず華月斎へと迫り────]
あ゛あ゛あああああぁあぁ!!
[やむを得ず盾にした左腕を盛大に燃え上がらせた。
投げつけた半紙は蝶に変わることなく地面へと舞い落ちる。
いくらかは燃え盛る左腕の焔に触れ、火の粉と化した]
っ、 あ が、 ぐぅうう……!!
[飛び退る間に焔を受けたために着地に失敗し、踵を地面に引っ掛け背から倒れ込む。
爛れ、肉の焼ける異臭が漂い、左腕を抱えるように身体を縮こまらせた]
っ、ぐ、 …っは、 ぁ
……ぁ、 …ふ、ぐ
[荒い呼吸を繰り返し、扇は握ったままに地面に手を突き、俯き加減になりながら身を起こす]
…ん、にゃろ……
手妻、出来んく なった ら、どないして くれる…
[この状態ではもはや左腕は使い物にならない。
狐狸達は近くへと戻ってきたが、どこまで返し切ることが出来るやら。
左腕を垂れさせ、右膝を地面へと突いて法泉を睨み上げた*]
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[考えたところで、それが誰のかなどとわかる訳はなく。 思考を放り出して、ぼんやりと鬼火を見つめてた。 懐かしい色にも思えるソレは、黙して語らず、ただゆらり。 女が湯浴みを終えたのは、もうしばらく後のこと。]
(116) 2014/02/21(Fri) 00時頃
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[ぱちんと弾けた土の塊。
だけれども、その向こう側から光は駆けてくる。
驚いたように瞬きして]
……無茶しぃだな。
[眼を細くする。
あのまぶしいものを早く喰うてしまえと、身の内宿す闇が囁いた]
[そうしなければ。
ずっとかくしてきたものが、あの光に暴かれてしまうぞ、と]
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