82 謝肉祭の聖なる贄
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[――魂を捧げるほどの希求を。
逆にそれが充たされなければ「何でも良かった」。]
肉であれば。
さしたるものは求めぬ。
食いでがありさえすれば。
[まぐわいに充分であれば。]
[その時、あまりにもひどい取り押さえられ方をした若造は、
じたばたと暴れることもできずに、惨めさに居た堪れなくなりながら
きゃんきゃんと啼いていたものだった。]
……あー、やだやだ。
今思い出すことじゃない。
[ただでさえ格も低く器も小さい大神に、抗う術は無く。
死にも出来ず、一方的になぶられ喰らわれ続ける痛みを得るばかり。
あの時の銀灰の声色の、そのいろやまるで、
己が持つ毒たる病よりもさらに濃い、甘く鋭い毒]
[―――…おかげですっかり、あの花のようなかおりは
小さな白金にとってはつらいものとなってしまっていたのだった。
刻みつけられた屈辱と恐れは、今でも、こうして
銀灰に対する無言の形をとって、此処に在る。]
フフフフフ。
私は、人間を手懐ける気も、必要以上のものを要求する気も、起きぬからな。
だが、同胞のそのような姿を見るのは中々に愉しいものだ。
[茶と銀灰の同胞の反応に、実に愉快そうに笑いを零す。
遥か遠い昔。現在の縄張りへとやってくるより以前。
対である「風伯」を永久に喪う羽目になったのは人間が原因だったから。
「己」を維持する為に、こうして村へ足を運んでいても。人間への憎悪と蔑みの情が消える事はなく。
それが故に、贄を弄り辱める事はあっても。感情まで要求する事はしない]
(……そういえば、ぎんいろさま、今年、居ない)
[ブローリンの名に、ふと、四年に一度来る神を思い出し。
件の大神とすれ違う形でやってきた白金は、特に返事を求めるでもなく、呟いていた。]
ああ、ところで茶の。
そろそろ立っているのも飽きたのだが、その膝なり腹なりを借りても良いか?
[寝そべっている同胞と、贄と戯れている他の2人の同胞の様子をちらりと見て。
地に落ちれば汚れ泥水となる雨を司るが故に、地や木などに腰を下ろす事を嫌う性質の大神は、比較的暇そうにしているという理由でそう尋ねた]
無論、そこの贄や他の者と戯れるつもりであれば、無理にとは言わんが。
あれは、用事とやらで先に帰った。
[聞くともなく、白金の呟きが耳に入って反射的に応えていた。
死んでも口にせぬが、冷たくあしらっても懲りず構う、ぎんいろの輩には密かに好意を持っていた。
あれには、話しておきたい――相談したいこともあったのだが、と。
そんな思いが、ついうっかり白金への返事となった。]
おう、構わぬよ。
…戯れるのは、好きだ。
[単なるじゃれあいで終わらぬものも含めて。
常のごとく気安い態度で年かさの同胞を招いた。]
ふふっ。
――…あんな目をした元気ないいコの肝が、一番いい。
[この“いろ”が無くてはならない、という訳ではないものの。
贄にはそんな――「蹴落とす」ような激しい心を欲しがる節のある大神。
故に相手が此方を好いているか否かはあまり考えておらず。
そんな大神はどうも、贄から懐かれることは
これまで、あまり無かったのかもしれない。
アクアマリンの瞳を捉えながら、白金は微かに零して――]
…………………
…………… そ う です か 。
[まさか返ってくるとは思っていなかった返事。
しかもそれはよりにもよって、あの かおりの主。
相当の間をおいて、ようやく途切れ途切れに声を出せた白金には、
銀灰の言葉の裏にある思いは、覚れていなかった。]
では、遠慮なく。
[同胞の了承を得て、その腿辺りに腰を下ろす。
それ以上の戯れも、同胞とならば好むものなので、何らかのちょっかいを出そうとするだろうか]
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[変わりに、と立ち上がり瓶を抱えて灰青へ色を濃くした大神の前へ 酔ったように足取りは軽く、しかし少しだけ歩きにくそうに 理由はさておき差し出された杯を満たして また声をかけられるまで待機の姿勢で我慢]
(166) 2012/03/16(Fri) 00時半頃
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