82 謝肉祭の聖なる贄
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そもそも主らはあれらのどちらが欲しいのだ。
それも決めておらぬのか?
俺は今のところ黒いのだが、奴ら次第さ。
崖っぷちの白いのが、どこまでやれるか興味があってな。
[悪く言えば、吾関せずな状態で
ある意味暢気に囁きに耳を立てながら寛いでいた、のだったが]
私は、どちらかというと白い方だな。
褐色のも中々に旨そうだが、白いのは痛め付け甲斐がある。
[同胞相手と違い、人間や贄相手に愛でるという発想はない]
[陶然と呟く。]
あれはうつくしいからな…
[それより何より、美しいのは、あの焦げ色の瞳の奥から覗く魂のいろなのだが。]
あのコのコワい目は………良いなって、思ってた。
[黒壇については、そんな感想を、
そのまなざしの先に居た娘の膝の感触を今思いながら、呟く。
少し間をおいて、白き長髪には、]
…………ああまでずっと、此処に居るの。
嫌いじゃない、けれど。
[「あの時は」そのまなざしの先に居た、ということ]
ああ、なるほど。
主はそういうのが好きだったな。
我は却って、今年もまた残されると知った時のあれの顔が見たいが……
[くく、と喉奥で嗤った。
今年残されればもう人の手で殺されて肥料とされると知っての上。]
あの黒いのは、来年まで放っておけばその方が今より熟して旨くなりそう、というのもある。
まあ、生きているか否かは、あの黒いのと他の贄次第だが。
[生きている可能性は低いかもしれないが、白い贄のような例もある]
…………だよねぇ、おじーさまは。
[痛め付け甲斐があるなどと聞こえて、ついこぼしていた。]
[輩の血の匂い――その芳香にぞくりと身震いしそうになって]
[これほど酷く餓えに苛まれておらぬなら――あれが他の輩なら。
こんなことは無いのだが。]
[すっかり薬酒に呑まれていることを自覚しても、祭りの最中だと言うのに後の祭り。]
くっ、そ…
[滴り落ちる血の香は、妙なる薬草の風味を帯びて。
いつかの味を知るものならば、その甘い香を思い出すかもしれぬ。]
やれやれ……大丈夫かね?
[角は東風の肩に刺さったままで取り外したか。それとも、己の額についたままで抜き取ったか。
もし東風の肩に刺さったままなら、その角が栓となって必要以上の血が流れるのを抑えただろうが。
額についたままで抜き取っていれば、穿たれた傷からは風の精気に満ちた血がとくとくと流れ出しているだろう。
どちらにせよ、東風や他の同胞に妨げられなければ、その傷を癒すべく唇を寄せて舐めるだろうか]
[ここまでは大して、鼻をつくものに対して
いちいち具合を悪くしたりなどすることはなかったのだが。
思わぬところで、娘の答えに平常を崩されたおおかみは
血香に交じる芳しさに、追い打ちのようにまた、気を揺さぶられていた。]
[角抜かれた傷からは、だらだらと赤が零れ落ちる。
舐められれば屈辱と気恥ずかしさと、クスリで鋭敏になった感覚のせいで、
思わず呻き声が色めいて聞こえるのもきっと不可抗力。]
[駆け出さないのは、芳しさに近づかぬように意思したため。
そして、]
人間が、護ることなんてないくらい
僕らは ……弱くないのにね。
[贄たちには届かぬ呟きを、ひとり、零す。]
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