82 謝肉祭の聖なる贄
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[白い貌に嵌った薄色の眸は、水銀のごと煌めいて蕩けている。]
では、私も一口頂こう。
[血の景色を見るのは十五年ぶりか。
芳しい香りに目を細め、同胞たちの傍らへ]
[る、と喉が鳴る。
生命の無い死肉なのが幸い、贄の脚の間に昂った熱を捻じ込みたいという欲は、強烈な自制心の堰に押し留められていた。**]
実に旨そうに喰うものだ。
[歓喜して貪る年若い同胞や、欲情しながらそれを抑えている同胞たちを、目を細めて眺めながら。
呟いた声は、人に向けるものとは違う響きを含む]
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――……は
[ようやく息をついたのは、 初老の大神の指を舐ったあと、彼が食されている贅の元へと立ち上がった時、
その長き角の獣神へと変化していく後ろで、小さなとさりという音をたてた。]
――……っ
[膝関節をたしかめ、肩の幾度か回し、痺れを逃そうとしている。 ただ、眸は、その大神たちが食事を行うさま映している。]
――……
[彼らが食事が終えるころには、また膝をついた姿勢に戻る。ただ、汗の滴ったあとを拭くことはできなかったが…。微かに濡れた髪の間からは、それでも変わらぬアクアマリンがじっと辺りを見据えている。]
(99) 2012/03/15(Thu) 19時半頃
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薬屋 サイラスは、メモを貼った。
2012/03/15(Thu) 20時頃
[両脚から食える肉を粗方剥ぎ終えたところで、身を引き動きを止める。
肩を上下させて、荒い息を整える、ふーっふーっという音が赤く濡れた唇から幾度か洩れ。
先端が血で染まった銀灰の髪を鬱陶しそうに振り払う頃には、元の通りの冷厳な貌を取り戻していた。
――ただし、発情の花香はその身に仄かに纏わりついて、消え去ってはいない。]
……もっと喰えば違うだろうか。
[灰白あらため灰青の大神は、己の前脚についた血を舐めとりながら小さく呟いた。
けれど、この贄をそれほど食べたいとは思わないので、次の贄まで待っても良いか――と。
ふるり、と耳を揺らして頭を振った]
[肉を喰む顔を僅かにあげて、宴に加わる同胞を見る。
怜悧で冷徹で普段は眉一つ動かさぬ奴が、獣らしい部分を垣間見せるこの瞬間が堪らなく好きだ。
剥き出しになる獣性を、もっと見たいと思う。
言葉にせずとも、尾は雄弁に高揚を語るか。]
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>>103 [先ほどまで背にあった、初老の大神が獣神となりて、 だが、またその毛並の色がやや濃くなったこと、
意識としては気づかず、ただ、アクアマリンは無意識に目を細める。
ただ、それからは、姿勢はやはり保ったまま、 大神たちの振る舞いを窺っているだろう。
口は一文字に引き結んだまま。]
(107) 2012/03/15(Thu) 20時半頃
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………………う、るる。
[銀灰から微か匂う花のようなかおり。
過去に顔を合わせていた祭りの際に覚えていたかおりではあった、が。
何だかんだで今でも、うら若い小さな神には少々刺激が強かった模様。
できるだけ、気にしないようにして、白金は淡い肉を食む。]
[食む最中に、老けた声がぼんやりと耳に触れれば。
その響きのいろに、白金の尾はまたふるりと揺れたもので]
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[人が大神たちの血を清めるためにと近づいていく。 大神を絶対とし、その姿を崇め奉る。
青年はやはりそれも無言のまま、見つめている。 獣の姿が人型へと変わり、その血を拭う白い布が紅色に染まっていく。
そのように育った。 その血肉になれるようにと。
]
(114) 2012/03/15(Thu) 21時半頃
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……選り好みせねば色艶などすぐに戻ろうよ。
[随分と経ってからぽつりと。
僅か皮肉ないろの戻った声音で呟く。]
[雨師という別名を持つその大神が獣の姿をとっている時に顕れる角。
その角はかの大神にとっては大切なものなので。
同胞たる大神が触れる事は厭わないが、人間が触れる事は赦さない。
戯れに獣神の姿で踏みにじるなどする際以外は、誤って触れられるかもしれない距離まで人間が近付く事もさせはしない。
百と幾年か過去に、それと知らず誤って触れた人間が雨師の怒りを買い。喰うためではなく見せしめの為だけにその爪にかかり。
その後の3年ほどの間、その地に一滴の雨も降らなかった事は、他の大神たちならば知っているだろうか]
サイラスは、黙って、その場で、佇んでいる。まるで、彫像のように。
2012/03/15(Thu) 21時半頃
その為だけに、好まぬものをわざわざ喰う気は起きんのでな。
[聞こえてきた銀灰色の同胞の言葉。
人間たちに手についた血を拭わせながら、そう応じた後。
フッ、と。先程まで幾分若返ったようにも見える顔に笑みを浮かべた]
贄ではなく、キミたちから精気を分けてもらうのであれば別だが。
相変わらずさなぁ、御大。
雨と風なら相性は悪かねぇが…
[ちろと指を舌先で舐めつつ一瞥。
若い贄喰らったせいか、生気に満ち溢れた身体。
毛の艶も一段と良い。]
サイラスは、呼ばれたようなので、顔をあげて、立ち上がり、他より幾分小柄な大神の元へ。
2012/03/15(Thu) 22時頃
うー………
僕からのでも、いいわけ?
[所詮は小さなおおかみにして、かつ、当り散らせば病撒き散らす力の大神。
微妙に漏れた声は、ほとんど独り言に近いものだった。]
当然だろう。永い年月をずっとこの性質で存在していたのだ。
たかだか10年や20年程度でそう変わるはずもあるまい。
[相変わらず、と評する茶の同胞に。
人間に向けるとは違う種類の愉悦を浮かべた顔を向ける]
まあ、無理強いはせぬがな。
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>>119
――……お呼びになりましたか?
[血の色を映したアクアマリンは、白金の元に歩み寄ると、また片膝をついた。 そして、その姿をしっかと見上げる。]
(123) 2012/03/15(Thu) 22時頃
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[ハッと嘲るように鼻を鳴らす。
少なくとも、今は微塵もそんな気にならないらしい。]
[しかし――堰き止められたものは、底に沈殿はしても消え去りはしない。]
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>>126
[やや小柄な大神は、清めの布をこちらに差し出してきた。 役目を失ったものは、やや手持無沙汰に消えていくが、気にすることはない。]
――……承知いたしました。
[白い布、手に転がし、二つ折りにする。 それから、大神の背に回ると、失礼します、とその耳元で囁くように。 やや掠れた声はもともとの特質であった。]
――……
[それから、長い指を人化した大神へ。最初触った時は、少し痺れたような感じもしたが、そのなだらかなラインをなぞり、紅を拭きとっていくだろう。]
(130) 2012/03/15(Thu) 22時半頃
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ふむ?
私としては構わないが――精気を吸い尽くしてしまったりしないだろうか。
[年若い白金の同胞が漏らした声が聞こえれば。
角と同じ色をした目を細め、首を微かに傾げた。
人間相手と違い、同胞が相手であれば、受け入れる側でも押し倒す側でもどちらでも構わない性質ではあるので。
相手が茶でも白金でも、人間相手とは違う方向性で愉しむだろうが]
[自制の箍が外れ、血に狂乱する銀灰は淫らに咲くが、それを味わった輩は少ない。
その相手が人ならぬ同胞であろうと何であろうと、引き裂き喰らうからだ。
そうでなく――常態の銀灰を口説き落とし、尚且つ血の滾りを抑えた交わりを持てた輩は……果たして存在するのかどうか。]
[銀灰の同胞は美しいが高嶺の花。
流石に死なぬまでも、手を出した代償の高価さは身をもって知っている。
あの時は傷が癒えるまでどのくらい掛かったのだったか…]
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>>134
――…失礼しました。
[睦言のよう、と返されれば、やはり掠れた声で謝罪する。 されど、手は休めず。強くもなく、弱くもなく、その身体を丹念に撫でた。
やがて、肌に朱いしみは限りなく薄くなったとき、やっと、その小さな笑みに気が付く。]
――……ありがとうございます。
[拭き方を褒められた礼に頭は垂れるが、次の質問には、面をあげて…その大神を見つめる。]
(137) 2012/03/15(Thu) 23時頃
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>>135
――……嫉妬ですか。
[唐突な質問に、手は止まる。 それからやや考えるとき、首は傾いた。 その際に金糸は流れ、顔の中央に幾本かが落ちる。
されど、整った顔と、アクアマリンの眸の強さは薄まらない。 端正な唇はもともとおしゃべりではないが…。]
きっと、大神様に食んでもらえる者には嫉妬するでしょう。 されど、そうでない者。
そう、あの亡骸の血肉を持ち帰る輩に嫉妬はしません。
(140) 2012/03/15(Thu) 23時頃
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え、あ、
……まぁ、そういうことー。
だからー、僕は、……あーいうのはもう、懲り懲り。
[いろを微かに取り戻していた灰白の主に向ける声は
それはそれは弱々しい声、で]
あー……うー………うるるるるるるぅ……
[自分で口にした独り言が切欠で、ひとりで唸っていた。
こんな無様な声、背後に在る贄ごときには聞かせられるものではない。]
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