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―…だから。
好きになったんでしょう?
[ヴェスの中の恐怖も見抜いた上で。
ヴェスに好かれていることを、結局は受け入れていた彼女を。
それは、単純にしかモノをみれない自分だからこそそう思ったのかもしれないけれど。]
ああ―― ああ。
[頷く]
――はじめは、確かに一目惚れだった。
あの子がくれた花。
あの子がくれた笑顔。
あの子の細い身体。
あの子の儚い笑み。
あの子の――
…うん。
[ヴェスの言葉に、頷きを返すだけで。
こちらからは、続きを促すことはせず。]
─…ヴェス…。
[頭に響くヴェスの声に、目を伏せた。
言いたくて言えない言葉は、自分の胸にもあるから。]
[ヴェスパタインに向けて。
謳うように儚い会話を続けるメアリー――]
メアリー、あなたは旅立つの?
この死病に冒された村から、ヴェスパタインを置いて。
[彼女から死の気配を僅かに感じ、始めていた。
この村には死が蔓延し始めていたけど、それよりも僅かに濃い死の気配。
女が幼い時に流行り病で逝った、母。そして、幼いまま同じように流行り病で逝ってしまった弟。
身近な人から感じた――死病による死の気配。
そして、街に住んでいれば、村と違う意味で、死は常に隣りあわせだった。
街特有の鼠などを媒介にした疫病、裏路地での金目当ての強盗による死、ただ享楽のためだけの殺害。死は至るところに溢れていて。
女は、そういう死を見つめ続けていた、だけに。]
[踵を返し、ヴェスパタインの元から去る少女の姿――。
そこに感じた悲しい気配に、眉を顰めた。]
別れは、……
辛い?
あなたは、慈悲を望む――?
[ヴェスパタインにも、傍のセシルにも届かぬ声で囁いた――**]
ねぇ、ヴェス。
私さ、やっぱり。
バカだから、こうするしか、出来ないや。
セシ兄に、甘えてきた分。
ちゃんと、一人で大丈夫だよって。
だから、セシ兄はセシ兄のしたいこと、してって。
そう言うことしか、出来ないんだ。
─…ヴェス、やっぱり私、バカなのかな。
でも。
セシ兄のこと、困らせたく、ないんだ。
――兄貴のしたいこと、ね。
兄貴は、何がしたいんだろうな。
村を出ていって
オルガンで地位を掴むのを諦めて
この村に篭って
時折お前の顔を見て
――それから?
─…わかんない。
わかんない、わかんない、わかんない。
でも、私が、セシ兄のしたいことの、邪魔になるのは、ヤなの。
私が心配かけてばっかりじゃ、きっとセシ兄は、我慢、しちゃうから。
最後だから、最期だから。
セシ兄が、傍にいたい人のところに、行かせてあげたい。
兄貴の行きたいところ。
兄貴の傍にいたい人。
――どこに?
誰と。
――聞くことも出来ない?
だから―― 送り出すフリをするのか?
───……っ
だ、って。
私は、ずっと。甘えてきたんだよ?
セシ兄が優しいから、それに胡坐かいて、ずっと、ずっと。
そんな私が、どうして、どうやって。
聞けるっていうの。
困らせるって解ってて、どうして、聞けるの。
ごめん。
─…ちがう。
私、きっと、まだ。
あのひとのこと、忘れてないって。
セシ兄から、聞くのが。
こわい。
それだけ、なんだ。
――。
二年。
長いようで、短い。
兄貴があのひとのことを忘れるってことは
ないだろうな。
忘れるなんて ありえない。
――そんなことは分かり切ってる。
でも――
だからといって 何を選ぶかは別の話だ。
─…うん。
私、それを聞いたら、きっと。
あのひとのこと、恨んじゃう、から。
ずるいって、思っちゃうから。
あのひとは、優しかったのに。
私にも、セシ兄にも。
それを、憎んでしまいそうで、こわい。
ヴェス、は。
私に、言わせたいの?
セシ兄のこと、好きだって。
ずっと一緒に、傍に居て欲しいって。
そんな我が儘を、セシ兄に。
言った方がいいって、思ってる…?
別にそれ自体には興味がないんだ。
お前が、兄貴とどうしたって。
でも―― 兄貴は
願わなきゃ 動かなきゃ――叶わない
そう言ってたぜ?
背中…?
─…わかんないや。
押して欲しい気もするし、押さないで欲しい気もする。
だって、結局。
決めるのは、私だもん。
願うのも、動くのも…決めるのは、私。
…セシ兄、も?
─…ううん。
わかると、思う。
ごめんね、ヴェス。
愚痴っちゃって。
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―火事の後・>>123―― [部屋でゆったりと過ごしているところに、唐突に響く乱暴なノックの音。 続いて聞こえる馴染み深い怒声。 不意に、少し安心したような表情になると、ドアを開けに玄関へと赴く。]
おいおい、ドアを壊すのは勘弁な。
[ドアを開けたときにはいつもどおりの表情。いつもどおりの声色。 玄関先にいるアイリスに肩をすくめてみせた。]
(220) 2010/07/05(Mon) 21時頃
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>>127 っとと。
[こちらに何か言う前に、強引に屋内へと飛び込んできたアイリスを、半身を引いて躱す。 アイリスの訝しげな問に、少し寂しそうな顔をすると、]
『……その話は、無くなったんだ。』
[別に無くなってなどいない。 だが、いまさら行く気も無かった。 この村が失くなるのなら、行ったところで意味は、無い。]
はは、わざわざそんなこと言いに来たのかよ。
[笑い飛ばすように言う。 続けて何か言おうと口を開くが、少し迷ってから、何も言わずに口を閉じる。]
(227) 2010/07/05(Mon) 22時頃
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[ふと見上げると、普段見たことの無いような笑顔のアイリスが視界に入る。 何も言えずに見惚れていると、自分の体が包まれる感触。 驚いたように目を見開くが、やがてゆっくりと閉じる。]
なんだよ……それ。 んなこと言われたら、俺の決心が揺らいじまうだろ……。
[声が湿り気を帯びる。]
やめろよ。なんで急にそんなに優しくするんだよ……。 いつもみたいに、俺を叱り飛ばせよ。 俺のこと、クソガキって怒鳴れよ……。 そんなこと言われたら……、迷惑だったなんて、嘘でも言えなくなっちまうじゃねえか……!
[顔を見られないように、ぎゅっと顔を押し付ける。 やがて、しばらくの間、背中を撫でる感触に身を任せていたが、やがてポツリと呟く。]
『ま、一応街に行けるよう努力はする。』
(228) 2010/07/05(Mon) 22時頃
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―広場―
[やや定位置となり始めたベンチに腰を下ろす。 もはや村に人の姿はほとんどなく、そのことに大きな違和感を感じる。]
まあ、当然、いまさら街に行く手段なんて無いんだよなあー。
[空を見上げながら呟く。 そもそも、既にこの村を出ようなんて気は無かったが。]
アイリスのやつに見つかったら、やっぱ殴られんのかね。
[ま、それもそれでアリか。と言いながら伸びを一つ。]
(240) 2010/07/05(Mon) 22時半頃
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―広場―
んー……?
[背後から声をかけられ、そのまま体を倒して声の主を見る。]
ああ、いや、まあ色々と。
[適当にごまかしながら、改めてサイラスに向き直る。]
こんな所で何を?
[と、話を逸らすように訊ねる。]
(259) 2010/07/05(Mon) 23時頃
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[探るような目を受け流し、すこしベンチを詰めてスペースを空ける。]
ボーっと、ね。
[含んだ様に繰り返すと、同じように空を見上げる。]
俺? 俺はまあ……、
[少し考え、何かを言いかけたが、結局やめて、]
『ボーっとしたいだけさ。』
[とだけ答えた。]
(269) 2010/07/05(Mon) 23時半頃
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