202 月刊少女忍崎くん
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― 去年、文化祭前in忍崎宅 ―
そうだ、忍崎、一つ頼まれてくれね?
[アシ作業中、ふと思い出したことを声にする。]
文芸部が文化祭に部誌を発行するんだけどさ、
出来上がってる作品が少ないらしんだよ。
で、どうにかならないかって話が舞い込んできたんだが、
ひとつ、どうにかならないかね…?
[手を合わせてお願いすると、小考の末にOKを貰った。
形は問わないと言われていたため、台本形式も全然OKと。
ちなみにP.Nから誰かバレたらしく傘原はまず俺に星野しのぶかとド直球をぶちかましてきたが、なんとか誤魔化したものの、次は二年へ行くと聞かない。こんな経緯で、傘原は忍崎が少女漫画家だと知っている。
その後ひみこって何よってかれこれ一年近く弄られてるので女性名にした忍崎はゆるさん(ふんぬ]
― 今年、少し経って ―
[ちなみに俺が毎号手に取る事ができる『珠玉』。どこから手に入れているかというと、実は普通の生徒と同じ。部長から何処此処に置いたから、と教えてもらって、そこから取るようにしている。
なにしろ、隠されているものだから、場合によっては一冊も手にとってもらえないこともあるらしく。ある意味宣伝なわけだ。俺が図書室かどこかで何気なく『珠玉』を手に取れば、それを見られるが他の生徒の興味を惹く切っ掛けになる、と。
そんな一冊を、忍崎に横流ししているというわけで。]
そそ。丁度今号に乗ってるから、見てみなよ。
部長が嬉しがってたぜ、華が出来た、って。
[彼も気に入って。
どんな子か、と尋ねられれば、
あー、うん。オフレコでな。と堅く約束をした。]
[真弓ちゃんが熱心な子だとは知っていた。
駿くんが気苦労の多い子だとも知っていた。
二人の追っ掛け追っ掛けられも大変そうだけど面白そう、
くらいに見ていたのだが。
忍崎が作家心理を説いた時には俺はそういうものかと納得し、駿くんも合点がいったのか"誰々"が誰なのか知りたい、と口にしなかった。そのようなニアミスが、俺がススム→早乙女スピカを知らなかった理由。
そう、駿くんから伝言頼まれてんだけどさ。
真実を知っちゃった俺は真弓ちゃんに正しく伝えるべき?
こういう時どうする、どうする、どうすんのよ ――俺!!*]
──おばけ屋敷──
[──井戸幽霊の手を掴んだそのとき、
丁度、忍崎の脳内ではきっと来る〜という音楽に乗って]
(とある壊れた井戸で、
夜に恋人と待ち合わせをしていたが
指定の井戸以外にも
壊れた井戸があることに気づかず、
きっと来る、と冷えた夜の間も
長く待ち続ける間に、
足を滑らせて水の中に落ちてしまい、
水死してしまったが、
それでも尚、いまでもきっと、と
恋人を待ち続ける哀れながらも
一途な幽霊なんだな──)
[泣ける。という思考が走っていたが、
当然、内心の全てが伝わるわけもない。]
[── 追いかけられる前に機先を制し、
語り始められた身の上話に、
コク……と、謎の頷きを見せて、
そっと手を離し、励ますように肩を叩いた。]
そうか……
書生は娘衆の中では人気があったが
しかし清貧のさなかに暮らしていた。
彼此の富裕の差を気にはしていたが、
あなたの真っ直ぐな想いは、
肌寒くなってきた秋風の中でも
温かく胸に灯る陽のようだと
ずっとともにいることを望んでいた。
花に玉となった水の雫に映る
あなたの顔をみたいと、
文をおくったはよかったが、
井戸に寄ってた書生がみたのは、
ぐらりと落ちる娘の袖の花と
暗い井戸のそこから響く水の音だった…
書生はこれはもしや
ついには引き離されたかと
ひどく胸が苦しくなった。
あなたは知らないことだが、
或る雨の日に、父君の使いが、
もう娘には近づくなと、
書生に言っていたんだ……
あなたを待つあいだ、
井戸に腰をかけるのが好きだったのは
男のほうだった。
書生は涙を零した。
水の底へと
暖かな雫をぱたぱたと。
その心は涙の雫に溶け、
一筋に井戸の底へとはしる。
彼のこころは今でも
あなたと一緒だ──
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