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サミュエル! 今日がお前の命日だ!
[そのくせ、あたしは思っている。
そっけなく断られるかもしれなくても
お祭りに誘ってみればよかった。
なつやすみがおわるまえにと
おもってたのに……
まるで『秋山先輩が死んでいない』前提で。]
― 八月の回想(3) ―
[病院から帰ることになった。帰りは気持ちが悪くなっていて、後部座席で横になって頭を亀みたいにまるめて吐き気を我慢していた。車が揺れていた。頭がいたかった。
橋のはじまり、段差があって揺れたはず。だから、それかなとあたしはおもった。
頭が揺れている。痛かった。
『死んだらどうしよう』なんて思いは、死んでみれば間抜けなだけだった。
あたしの死に悪役なんかいない。病気ですら違う。
恥ずかしいあたしの、恥ずかしい死というだけだ。
願い川を車が横切った。]
[そっけなく断られるかもしれなくても
秋山先輩を誘ってみればよかった。
なつやすみがおわるまえにとおもってたのに……
あたしは友達と交わしたメッセージのことを考えていた。
夏休みが半分すぎていた。あとはどこか遊びにいくとして、たとえば映画、たとえば買い物でも、なんでもいい。
『――そういえば、今年の夏休みの最後は神社の祭がやってるよ』と教えてもらっていた。
いつまでたっても想いを伝えられないあたしは、みんなに「今年の夏休みはがんばろ」と応援してもらっていた。
こんなに突然だと、思わない。
あたしだって、みんなだって。**]
─ ループ2回目・夜 ─
嗚呼……あれを見ちゃったのは偶然だったんだよ
本当に、本当に、わざとじゃなかったの───
[赤く揺らめく炎が近付いて来る。
夜の闇の中でぐつぐつと煮えたぎるように泡立ち、弾けては溶け落ちる体液とも火炎とも付かないそれを滴らせながら、焼け爛れた貌を晒した女は根岸のほんの数歩前へと歩みを進めた。
帰途へと付いた彼が通りかかった、太い幹線道路から続く道の端。
チカチカと瞬く電灯のほんの手前。
黒く焼け爛れた肉の間から燻る炎を揺らめかせているのが辛うじて丸い灯りに照らされていたが、そんなものに頼らずとも絶え間なく灼かれ続ける女はその身に纏った焔で煌々と浮かび上がっている。]
[───もし彼が従兄に誘われるままに皆と興じたのであれば、色とりどりの火花を散らしていた手持ち花火を持つその指先が感じた幾倍もの熱が噴きつけて来るのを感じただろう。
例えその経験が無くとも、炙られる熱に肌がチリチリと灼ける痛みが徐々に全身を覆って行く事に違いはない]
君は、死んでいない、って
大切な人が、あの子にそれを教えてくれたんだ、って お話しているのを、
[ごぼりと女の唇から赤く溶け出した何かが零れた、かと思えば火花のように飛び散る。
身の内も外も、ただひたすらに焼かれ続けているのだ。
一度もこちらをまともに見た事がない彼が、もし、焼き付けて憶えてくれるとしたらこんな醜い姿なのだとこみあげる感情が笑みを浮かばせる
煮え立つような、沸き立つような酷く耳障りな笑みを漏らしながら、女はひたりともう一歩、踏み出した]
嗚呼……、───おやすみなさい、
[くつりくつりと溢れ出る笑みに混じって漏れた溜息は酷く哀し気だった。
女の爛れて崩れ落ちそうな眼窩からはぼとりとどす黒い何かが零れ落ちたが、それは血のようにも涙のようにも見えた。
女は燻るように笑って、女は両の腕を広げた。
『根岸くん』
彼の名は、会話の中から何とか把握した。
せめても最後に呼びたかった。はなむけになど、なりようもないのに。
ゴウ、と足元から沸き上がる焔が根岸の体を包んで行く。
ぐつぐつと煮え立つ音がする。 意識は光に焼けて、そして空白が残った **]
─ ??─
[ぐらりぐらりと揺れる足取りで町中を歩いている。
太い車道に背を向けてしまえば、所々に置かれた街灯の他に目立つ灯りもない。
盛んに鳴きかわす蛙達の合唱が響く星空に黒々とした夏呼山の稜線が斜めに遮っているのがくっきりと見える程だ。
炎に包まれた根岸がどんな存在になったのか。
自分や『あれ』と同じものになったのか、ただ意志を奪っただけなのか、
この町から排除したと言う事になるのか、正直な所自分にはわからなかった。
翌朝になれば秋山と同じように根岸はいつもと同じような顔で現れるのかもしれない。
繰り返しの記憶のない、9月1日をただ同じように生きる存在として。
そしてそれを確認するのは、きっと彼と親しい者達なのだろう。]
[そんな資格はない筈なのに込み上げる嗚咽を堪えられなかった。
灼かれ続ける痛みに酔うたかのように、燻り続ける熱に煽られるように喜悦と嘲笑に淀んでいた意識は、胸に芽生えた望みを自覚してからこっち、本来の気弱で拠り所を求めるそれに立ち戻りつつある。
どうしようもなく歪み切っている癖に、正気でしかいられないのだ。
我欲を燃やすばかりの化物でしかないのに。重い足を引きずるようにして、歩く。
ぽたり。ぽたり。
炎の雫がその歩みに沿って零れて行く。
───げこ、げこと町の名を呼ぶような鳴き声達に見送られながら *]
【人】 甲板員 デリクソン野球な。多分高校で終わりだわ。 (12) 2019/09/06(Fri) 13時半頃 |
【人】 甲板員 デリクソンま、実業団から誘いがあれば、話は別だけどな。 (13) 2019/09/06(Fri) 13時半頃 |
【人】 甲板員 デリクソン― 9月1日・4回目 ― (16) 2019/09/06(Fri) 14時頃 |
― ?? ―
[蛙が鳴いている。
姿は見えないが、鳴き声が鳴き声を呼ぶようにしている。
一瞬、昼の暑さを忘れた涼しい9月の風が道端の雑草を撫でていった。
あたしは、公園にもいない。家にもいない。
学校にもいない。神社にもいない。
あたしは、むこうの道に点々とこぼれている
橙色のひかりのつぶをながめていた。
本物の火ではないそれは、
地面を焦がすこともなければ燃え広がることもない。
暗い夜にてんてんと続く火の先で
燻って揺れている泣き声をきいていた。]
蠕梧t縺励※繧九?
[黒いぶよぶよの影のあたしは上手く喋れずにいた。*]
[秋山の死を防ごうとする試みには特に異を唱える必要も無い。
彼が死のうと生きようと、町は二十四時と共に時を遡らせるのだ。
秋山翔と言う一つの個は既に町と言う全に絡め取られており、分離は不可能のように思えた。
少なくともあの濁った水音を立てる何かの領分だと思えば不都合にはアレが対処するのではとの酷く醒めた思いでいる。否、意識してそうであろうとした。
昨夜己の腕の中で燃やし尽くし、奪ったもの以上を抱え込むのはまだ難しい。
できない。
炎に炙られる青年の拒絶に満ちたまなざしの奥にいっぱいに映った醜く焼け爛れた己の顔が────]
[ぷつん、と切断するようにして思考を閉じた。
瞬きと共に我に返る。
こんな風に思い出して続けていれば飲まれるのは私の方だ。
いっそ飲まれてしまった方が何も思い悩まずにいられるのだろうけれど]
[水着や所持品、それとメモの為に筆記用具…と机を探せば、
良くわからないキャラクターの絵が描かれたノートやメモ帳などが未使用のままたくさんある。
使いきれずに無駄にしてしまっていたそれらを鼻を鳴らして笑った。自嘲しながら会堂が送って来る連絡の続きを流し読み、あの9月1日を破綻させるための同盟に集った学生たちの顔を思い浮かべる。
『根岸』
会堂のIDが言葉を吐き出す中にその文字列を見付けてしまった。
ぞわりと背筋を掛けるおぞ気と共に思い浮かぶ熱と、そして肉の焼ける感触と、それから、
嗚呼……もう、あれから何度反芻したら気が済むのかと執拗に繰り返される暴虐の光景を振り払うように頭を振った。]
少し落とした視線の先、鞄に先程詰め込んだ小さなノートの一つに目が留まる。
ピンク色の少し丸っこいクマのキャラクターは、鹿崎に送り続けているスタンプのそれと同じで。
その愛らしいもこもこにほんの僅か胸が和らいだ。
会堂もああ言っている事だから、彼にも連絡を取っておかなければ───少し震える指で鹿崎のIDを表示して]
『けんちゃんおはよう!』
『今日皆でプールで遊ぶ事になったの』
『けんちゃんも一緒にどう?』
[そしてクマのスタンプを一つ。
すぐには反応は無いだろうと閉じかけたスマホが震えて着信を告げる
が、そのIDから帰って来た答えは]
『 は 誰だよ 』
え、………っ、
[息を呑んで、これまで見た事もないそのそっけない返信を見つめた]
『けんちゃん?』
[もう一度呼びかける。
雛子だよ、ともつれる指で書き込もうとしたが、それを送信する前に悪戯かもしくは何らかのスパムだとでも思われたのか、既にIDはブロックされていた]
っ……──え、え、……え、どうして、けんちゃん、だって、
[私何もしていない。昨夜、あのもう一つの何かが動いた気配も感じられなかった。
感じ取れなかっただけ、だろうか?
ただただ静かな夜だった。
ただただ静かに、一人の男の子の明日を奪った。
自分だけが、あんな残忍な行為に及んだ夜だった。]
やだ、やだよ、やだ……
[かたかたと震える手で縋るようにもう一度アプリを開く]
『雛子先輩怖くないっスよ!』
『めっちゃカワイイ』
[ブロックされた所為だろうか、確かに受け取った筈の言葉はどこにも無かった。
迸った悲鳴を噛み殺す。両掌の下で喉が焼き切れるようだ。]
[狼狽しきって意味の繋がらない言葉を打ち込んで、送ってしまった。
溢れ出る嗚咽に目が眩む。立っていられない。
怖い、哀しい、いやだ、ごめんなさい、
込み上げて来る言語化できない感情が吹き荒れるのをただただやり過ごすしかなかった **]
[部屋でしゃくり上げているときっと母親に気付かれてしまうだろう、と気付いたのはいくばくか時間が経った後だった。
息を殺して嗚咽を噛み殺す。
嗚呼、こんな化物になった癖に、こんな感情一つをどうにもできないなんて、何て間抜けなんだろう。
情けないんだろう。
呼び止められない内にリビングをすり抜けて、外へ出た。
大好きな母の顔が、その目尻に寄った小さな皺が見られない。
何度も言おうとしたのに、その小じわを指摘したら烈火のごとく怒るから───
お母さんかわいいよ、私もお母さんみたいになりたい。
そんなかわいい皺のあるおばちゃんに私もなりたい。]
[何度も言おうと思ったのに]
[そればっかりだ、そればっかりだ、私は]
[9月1日のあたしはせわしく指を動かしている。
そのくせあたしは無関心だ。
9月1日を繰り返すことを止めたい人にも、
反対に、続けたい人にも。
この街の仕組みが仕組みとして機能して、人を平らげ、9月1日を無限に繰り返すことを完璧なものにしたとしたら?
それでも、あたしは『無限』に興味をもたないだろう。
あたしの気持ちが秋山先輩に向いていて、秋山先輩がたとえこころよい返事をくれたとして。
この街がずっと9月1日を繰り返して、嬉しい返事をもらったとして、なにせ元にもどるのだから、先にはなんにも――なんにもない。
それでもあたしは『無限』に興味はなく、でも嫌がらない。
『達成できるまで何度でも試す』ことにあたしのすべては向っているのだ。]
[きっとあたしは
・・・・
生きたいというシンプルなことすらわからない。
最早、そういうものではなくなっていた。]
[夕方に秋山先輩が死のうが生きようが、
何億回ためしたってかまわないなら
『夏休みまでに気持ちを伝えること』はできるかもしれないでしょう。]
【人】 甲板員 デリクソン― 神社・屋台 ― (81) 2019/09/06(Fri) 22時頃 |
[なんで。
なんで。
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで]
なんでだよ、なんで、せっかくさ、仲間だったのに、なんで、そうやって、俺は、ひとりはやだ、ひとりはやだ、いなくなったら減るんだ、減らない方がいい、なんでそうやって、みんな、忘れて
[そうやって、みんな、忘れてく]
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