246 朱桜散華
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―― 馬小屋 ――
[ 水を飲む馬を労うようにぽん、と首筋に手を置く。 そうしているとひょいと顔を出す男が一人。]
……
[ 現れた男に、小さく会釈をする。 この家の親戚筋の男で、これまでにもよく こちらに顔を出していた。]
[ なんもなかったかぁと言われれば こくん、と首を縦に振る。 今日は誰かに石もぶつけられたり “ばけもの”と罵られたりしなかったし、 激昂したその子の親に殴られることもなかったから 特に怪我らしい怪我もしていない。]
(18) 2016/04/21(Thu) 09時半頃
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[ そうしていると、男が小さく息を吐いて。 ぽふ、と己の頭を撫でた。 そうしてそのまま、この場を立ち去る。]
……ぁ、 ……。
[ この男が己に声をかけるのを、 里長である宮司やこの男の両親がよく思っていないことは知っている。 なのに、どうしてこの男は己に声をかけてくるのだろう? いつも、それが不思議だった。]
(19) 2016/04/21(Thu) 09時半頃
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[ ――ただ、頭を撫でられるときのあの感覚は。 決して、嫌なものではなかった。*]
(20) 2016/04/21(Thu) 09時半頃
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肥代取り 置壱は、メモを貼った。
2016/04/21(Thu) 09時半頃
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[ 馬小屋の掃除が終わると、丁度よかったと遣いを頼まれる。
渡された文と風呂敷を手に万屋へ向かえば、その途中、 小川にかけられた橋の欄干に凭れ休息を取る青年の姿>>59]
[ 幼少の頃から身体が弱く、何度か命の危機に見舞われたこともあったと聞く。 近頃は新しく手に入るようになった薬で、かなり症状は良くなったと聞いたのだが。]
(21) 2016/04/21(Thu) 11時半頃
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…… 。
[ 最初は具合が悪いのか、と思ったが顔色は悪くない。 大丈夫だろうと見切りをつける。 そもそも、己はあの優しげな面をした青年が苦手だった。]
[ 苦手、というのは少し語弊があるかもしれない。 ただ、彼が両親に愛され、大事にされていることは 彼の日頃の穏やかな質からなんとなく察せられて。
これから彼が向かう先には 温かい家と飯があるのだろうということ。 帰りを待っていてくれる家族があるだろうということ。
それが、なんとも羨ましくもあり、哀しくもあった。*]
(22) 2016/04/21(Thu) 11時半頃
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―― 祭り前日/朝 ――
[ 祭りの前ということもあってか、今日の朝飯は常より良いものを貰えた。 麦の握り飯なんていつ以来だろうか。 大事に懐に握り飯を抱えながら、どこで食べようか思案していると]
「かあちゃああああ」
[ 聞こえてきた声に思わず振り向く。 振り向けば、少し離れたところを三歳くらいの男の子が 母親だろう女と連れ立って歩いていた。 握った母の手を、ぶんぶん振って元気よく畦道を歩く男の子。]
(29) 2016/04/21(Thu) 20時頃
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……、 ……。
[ 何故だろう。 二人を見ているとどうしようもなく何かこみ上げてくる。 いつもの感覚だ、と思ったものの。気づいたときには既に遅くて。]
[ ――気がついたときには、近くにあった木の幹をを思いきり殴りつけていた。]
(30) 2016/04/21(Thu) 20時頃
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[ ガンッともダンッとも聞こえる大きな音。 殴ったところがピシリとひび割れる感触。鈍い痛み。
思わずはっとなったときには、視線の先にいた母子の、 驚いたような怯えたような顔が視界に入ってきて。]
……っ
[ どうしたらいいのか、わからなかった。 ただ、どうしようもなく居た堪れなくなって、 母子に頭を下げると、そのまま逃げるようにその場を後にした。*]
(31) 2016/04/21(Thu) 20時頃
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肥代取り 置壱は、メモを貼った。
2016/04/21(Thu) 20時半頃
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―― 村外れの一軒家 ――
[気がつくと村の外れまで来ていた。 自然と足が向かっていたのは、桜の木がある丘からそれほど離れていない場所にある一軒家。 七年前に産婆だった家主が死んでからは、訪れるものもない小さな家。]
[玄関の引き戸を開けて中に入る。 ひさしぶりに入ったものだから、少し埃っぽい。 とりあえず、ぽんぽんと埃を払ってから、上り框に腰を下ろした。]
(46) 2016/04/22(Fri) 00時頃
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[先ほど木を殴りつけた拳がひりひりと痛む。 口許に手を持ってきて擦り傷になったところに舌を這わせるとそのままぺろぺろと痛む右手を舐めた。]
……、……。
[殴る、というのはとてもいたいことで。 それが人であれ物であれ、何かを殴ったら痛いし、殴られたほうだって痛い。 殴るのも、殴られるのも、よくやってるからわかる。
だから、人を殴るのはよくないことだって、わかってる。 それでも、さっきみたいに時々無性に抑えられなくなる。
わからない。 石を投げられたわけでもないのに。 “おにご”とか“ばけもの”とか呼ばれたわけでもないのに。
あんなふうに、誰かが幸せそうなのを見ると……なんだか、頭の中がぐるぐるして、わけがわからなくなる。
そして同時に「だから己は鬼子なんだ」とも思う。]
(49) 2016/04/22(Fri) 00時頃
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───その声は確かに聞こえた。
───その声だけで魅入られるには充分だった。
───その声が余りにも美しかったから。
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―― 屋根の上 ――
[ 産婆の家の屋根に登って、丘の上で祭りの準備が整っていく様子を眺める。 毎年祭りのときはいつも、この家の屋根に上って桜を見ていた。
人が大勢いるところはどうしても苦手だった。 おとなたちの視線や、己の姿を認めたとたん、 それまで賑やかだった雰囲気がさっと引いていくあの空気が嫌だった。]
……、 ……。
[ 咲かずの桜の話は小さい頃に養い親だった産婆から聞かされた。
旅人に思い焦がれた巫女が禁忌を破り、それを緋色の龍に封じられたという話。 その巫女を鎮めるための御霊鎮めの儀式。]
(67) 2016/04/22(Fri) 11時半頃
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[ あの桜の木の下。 巫女は最期、どんな思いで死んでいったんだろう。 自分の行いを悔いたのか、それとも絶望したのか。
わからないが、ただ。待ち望んだ人にずっと置いていかれたのは きっと、とても苦しくて仕方がなかったんだろう。 禁忌を破らなければ、耐えられなかったくらいには]
……、 ……。
[ 懐から取り出したのは、一本の簪。 血のように紅い珊瑚が飾りについたそれは、 顔も知らない己の母が、自分に遺したもののひとつ。 もうひとつは―――……]
(68) 2016/04/22(Fri) 11時半頃
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[ 気がつくとずいぶんぼんやりしていたらしい。 ふと丘の上を見れば、亀吉と志乃が丘の下のほうで話をしているのが見えた。>>61>>62 距離があるので話の内容までは聞き取れないが。]
……、 ……。
[ 一度里を出てから戻ってきた三つ年上の少女は、 日頃出歩かないこともあってあまりその姿をみかけることはないが、それでもずいぶん綺麗になったと思う。
とはいえ、里を出る前の彼女のことをそれほど明瞭に覚えているわけじゃない。 幼い頃、己の周りには積極的に此方に構ってくる奴と、 遠巻きに眺めてくるだけの奴がいたが、彼女は後者のほうだった。 彼方もきっと、おにごの己にいい記憶なんてないだろう。
……ただ。 仕事の途中で彼女の家の近くを通ったときに聞こえてくる琴の音は、とても好きで。 正直、彼女の容姿よりもそちらのほうが強く印象に残っている。]
(69) 2016/04/22(Fri) 11時半頃
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肥代取り 置壱は、メモを貼った。
2016/04/22(Fri) 12時頃
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―― 追憶 ――
[ その人と、はじめて会ったのはいつだったか。
いつものように仕事の途中で子どもたちに絡まれてたときに「何やってんだ」と子どもたちを一喝して追い払ったのが、その人との最初の出会いだった。]
[ 最初は誰だろうと首を傾げたが、 すぐに綾崎の家の居候かと思い至った。 たしか、おもんという名前だったか。
余所者の話は、狭い里の中ではあっという間に広がる。 里長の家も自然、そういった話には敏感になっていた。]
(82) 2016/04/22(Fri) 17時頃
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「ああこら。そんなふうにしたらだめだ」
[ いつものように傷を舐めようとしたらとめられて、 そのまま近くの川に連れて行かれた。
持っていた手拭を川の水に浸して絞る。 その様子をぼんやり見つめていたら、 怪我をしたときはこうするんだよ、と傷口を拭われた。 冷たいやら痛いやら驚くやらで首を振って暴れたら 「動くな」とこれまた一喝。]
……、 ……っ!
[ たぶん、そのときの己は訳が分からなくて、 目を白黒させていたんだろう。 傷の手当をしながら、その女はその様子を心底愉快そうに笑っていた。]
(83) 2016/04/22(Fri) 17時頃
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[ それから、そのおもんという女とは何度か会った。
怪我をしているときに手当てしてもらったり、 飯を分けてもらったり、同居人の話を聞かされたり。 綾崎の家のご飯は、美味しかった。]
……。
[ ぎゅ、と無意識に左肩に置いた手を握りしめる。 そう言えば、これを見られたのも怪我の手当をされていたときだったっけ。]
[ 己と話しているところを見られたら、 余所者の彼女が他の大人たちから白い目で見られるんじゃないか。 内心心配だったけど、そういうことを気にする様子は、少なくとも本人を見ている限りは全く感じられなかった。]
(84) 2016/04/22(Fri) 17時頃
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[ おもんがいなくなってから、 傷を舐めて治す癖がすっかり戻ってしまったけれど。
時折、彼女は今、どうしているのだろうと思う。 おもんにも、きっと帰りを待ってる人はいる。 脳裏に浮かぶのは、年中風鈴がかかったあの家と、 そこでひとり暮らす彼女のこと。>>7
己のことは、別にいいから。 ……彼女のところに、帰ってあげてほしいと思う。**]
(85) 2016/04/22(Fri) 17時頃
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肥代取り 置壱は、メモを貼った。
2016/04/22(Fri) 17時半頃
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[朝食べ損ねた握り飯を、屋根の上でもぐもぐと口に運ぶ。 ――そうして、丘の上に人が集まるのをぼんやり眺めていたとき。>>93]
……?
[ 左肩に違和感を感じる。 同時に、ぞわ、と肌が粟立つような感触。]
…… ……。
[――何か、嫌な感じがする。*]
(95) 2016/04/22(Fri) 23時頃
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肥代取り 置壱は、メモを貼った。
2016/04/22(Fri) 23時頃
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[ 屋根から降りて、里長の屋敷のほうへと戻ろうとする。 途中、なんとなく心もとなくて、 懐から取り出した簪をぎゅと握りしめる。 まだ幼かった頃、お前の母が遺したものだよ、と 婆様に渡されたもの。
お前の左肩に或るものとそれと、お前の命とが、 お前が母から受け取ったものだと、婆様に言われた。
お前の母が、この世に一つだけ置いていった命。 それがお前なのだ、と婆様は言っていた。
でも、ときおり思う。 ――己が生まれてさえこなければ、 かかさまはもっと生きられたかもしれない、と。]
(111) 2016/04/23(Sat) 00時半頃
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[ “おにごに命をとられた” 何かの拍子に巽の家の主から言われた言葉を思い出す。>>38]
……、 ……。
[自分には、そんなことをした覚えはまるでないのけど。 もしかしたら、己自身も気づかぬあいだに、誰かの命を奪ってしまったのだろうか。 かかさまも、そうして己が殺してしまったんだろうか?
そんなことを考えながら、屋敷までの道を歩いていたときだったか。]
……ぁ。
[ あてどなく、といった体で村を歩く綾崎の娘の姿を見たのは。>>109]
(112) 2016/04/23(Sat) 00時半頃
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[――おもん姉さま、と そのとき吹いた風に乗って彼女の掠れた声が>>109 だけど確かに聞こえてきた。
探して、いるのだろうか? 二年前から、姿の見えない彼女を。]
……、 ……。
[ どんな顔をすればいいのか、 そもそも声をかけることなど己にはできないから、 ……ただ、ただ俯いた。
きっと、彼女もおなじ、なのだと思う。 彼女は己よりもずっと年上のおとなだけれど。 ――…彼女もきっと、ひとりは寂しい。 大切なひとに、会いたい人に、ひとりこの世に置いていかれるのは*]
(113) 2016/04/23(Sat) 00時半頃
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肥代取り 置壱は、メモを貼った。
2016/04/23(Sat) 00時半頃
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