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[森に近い、村外れの粗末な小屋の中。月光を浴びながら、一人の女が糸を紡ぐ。
時に、銀色の光が注ぎ込む窓辺から――。
森から村へと続く小途を、慈しむように眺めながら]
あの人の生まれた村を静かに見守ってきたわ。
あの人の愛した村を、私も愛してきたわ。
でも――。
もし、村が悲しみのうちに滅びるようなら――。
どうすれば、いいと思う?
[誰ともなく問いかけて]
[そんな事は起きないで――
そう、願いながらも。]
.
愛する人の死を告げられるのは、辛い、わ。
自分の命が天に召す神様の御手により、刈られるよりも辛いこと、よ。
魂が千切られるような、痛みと悲しみに晒される、の。
埋めきれない空白を、疵を、魂に深く残すの。
それを埋めることなんてできるものでは無いわ。
あの人が愛したこの村が悲しみにくれるのなら――。
あの人の愛したこの村の人々が、身近な人を、村の人を失い。
魂に喪失という残酷な疵を受けるのなら。
私の手でできる事を――。
し て、あげる――。
[例え、自らの手を赤く染めたとしても――
丸い銀の円盤を、静かに眺めながら心の奥で思って。]
初めて目を覚ましたときにあったのは、
幸せそうな笑顔と自分の泣き声でした。
子どもの頭を撫ぜる親はどうしてあんなにも幸せそうなんでしょう。
もうこれ以上は無い、と思える平凡。
当たり前のことが当たり前にある奇跡。
理解したらもう失っているもの。
病気になった、と聞きました。
詳しいことは分かりません。
誰が病気になったのでしょうか。
パパとママじゃありませんように。
せめて私でありますように。
パパもママも隠れて出てきません。
必死に探し回るかくれんぼ。
外は雨が降っていました。
雨はいつも通りに音を奏でていました。
何度も呼びました。
パパ。
ママ。
隠れてないで出てきてよ。
私は自分を偽って、平気な笑顔を作っていました。
その日初めて、私は本当に、
パパとママの為に泣きました。
自分を騙すのをやめた途端、涙が溢れて止まりませんでした。
パパとママはびょういんで
なんにちも、苦しんだ末に逝ったのだそうです。
そんなの聞きたくなかった。
墓前に立つと涙が溢れます。
どうして苦しんで逝ってしまったんだろう。
どうして楽に逝けなかったんだろう。
何を責めたらいいかわからない。
パパとママがいない毎日が目まぐるしく過ぎていきます。
私はいつしかパパとママがいないことが当たり前になりました。
私は私だ。
いつしか、私は、この記憶を封じて生きてきました。
だけど今、鮮明に思い出せます。
ソフィア、と呼んで呉れた優しい声。
パパとママを蝕んだ病気。
最後に頭を撫でて貰った刻。
すべてはしあわせで
すべてはふしあわせな
おもいでです。
わたしに できることは
くるしまずに いかせてあげること。
こんなときなのに、不謹慎だけど
どうか、わらってください。**
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―少し前・ワイナリ前―
お、おおぅ?
[ふと、視界に影が差し、顔をあげると、アイリスが無言で仁王立ちしていた。]
な、なんだよ? 『俺はずっとここにいたぜ?』
[無言で佇む彼女から、不思議な威圧感を感じ、目を逸らしながら言う。 少しの間が開き、暴力か罵声が飛んでくることを覚悟していたのに、何も来ないことに拍子抜けする。 常に無くしおらしい態度で、必要最低限なことだけ告げ、その場をあとにするアイリスの背を見送る。]
わかってるよ。
……ちっ、なーんか調子狂うな……。
[ぶつぶつと呟き、自分も自宅へと足を向けた。]
(128) 2010/07/03(Sat) 10時半頃
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―少し前・自宅―
[自宅へ戻ると、一人暮らしのはずの家の中に、人の気配。]
父さんっ!?
[慌てたように中に駆け込むが、そこに望んだ姿はなく、居たのは自警団の人間で。]
なんだよ……。で、何のよう?
[不機嫌を顕にして尋ねる。]
……そう。
[自警団の話を聞き、最初の言葉は、感情の色を含まずに。]
俺は、出ていかないよ。 理由? 『そんなもん無いよ。』
[それだけ告げると、自警団の人間を追い払うように家から出した。]
(131) 2010/07/03(Sat) 10時半頃
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―広場―
[自宅を出ると、村の中央の広場へ。 既に馬車で街へ向かった人達がいるせいか、いつもよりも人が少なく、また、活気もない。]
まあ、そりゃそうだよなあ。
[適当なベンチに腰掛け、空を見上げながらポツリと呟く。 自分自身、あまりの唐突な話に、感情が追いついていない。]
死ぬって、なんだろーな……。
[誰にも届かない問いかけは、虚空の中に溶けて消えた。 そのまま、しばらくの間、時たま広場を通る人々をただじっと眺めていた。]
(133) 2010/07/03(Sat) 11時頃
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双生児 オスカーは、広場でただぼうっと空を眺めている。
2010/07/03(Sat) 12時頃
ねえ、あなたは何を望む?
あなたの大切な人が――。
死から逃れる事のできない、その日に遭遇したら。
共に行く事を望む、かしら?
それとも、その人を看取って――。
短くとも、その死を悼んであげたい?
[共に生きる選択は、病の蔓延を告げられたこの村では、ほぼ難しいけれど。
自らに出来る、ことを。死の馨を纏わせた女は、そっとソフィアに告げて――**]
生まれてから、23年。
私は初めて自分の足で立っている感覚に気づきました。
一人で息をするのがつらいから、
あの人と一緒に呼吸をしたいと思う。
手が生えました。
人に触れたいと思う手です。
すっと伸ばすと、あの人に触れられそうだった。
なのに何故だろう。
この手はあの人を包みたいのに、
傷つけるナイフに変わってしまうんです。
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