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─???・一人目─
────……。
[倒れ伏していた少女の瞼が、ゆっくりと持ち上がる。
両手で支えるように上体を持ち上げてみると、少し離れた床に叔父『だった』男が倒れていた。
その直ぐ前に、誰かの足。
辿るように視線を上げると、冴えた瞳で獲物を見下ろす獣と目が合う。その額に揺れる金の髪も。]
…………どうして………?
[濡れて震えた声が、言った。
菫色の瞳が、薄い涙の膜で揺れる。]
どうして、私なの。
……どうして、あなたなのよ。
ねえ。こんなのって、ない。
名前を呼んでしまったら、全てが現実になってしまいそうで。揺らぐ視界を堪えて立ち上がる。酷い、目眩。]
[彼の凍った指先が、柔らかな「なにか」を掴んでいる。
口元へ運んで食んでみせたそれが、獲物から取り出した獣の餌なのか。]
……だめよ。
あなたひとりで、…
[これ以上、遠いところへ行かないで。
今までみたいに、突き放されてしまうのは、いやだ。
ふらつく足で彼に近付く。その拍子に、薄い膜はぽろりと頬を伝った。少し背伸びをして、鼻先が触れるほど顔を近付ける。
その口に咥えられた餌──魂、の、反対側を唇で食む。恐怖と、おぞましさと、それを上回る、どうしようもない愉悦。
なんて味だろう。こんなにも怖いのに、恐ろしくて堪らないのに、なんて、甘い。
左胸を焦がすような衝動。
噛みちぎって、飲み込んだ。彼はどうしたろう。少女は、朧げな足取りで肉切り包丁を拾い上げる。
どうやらここは、厨房へ続く廊下らしい。
悪い夢だ。
こんなのは、全部。
でも、出来ることはやらないといけない。だって、『始まってしまった』のだ。]
[ふらふらと厨房へ入り込めば、使われなかった凶器を元どおりにしまう。
そうして、代わりに引き出しから取り出した大きめの鋏を握り締めた。厨房と、叔父夫婦の居住スペース。そこにあるのは、把握している。
邪魔はさせない。
彼の、邪魔は、だれにも。]
ひとりで、平気だから。
部屋に戻って。ここに居ては駄目。
目が覚めたら、知らないふりをして、いつも通りにして。…なんてこと、ないわ。
[青ざめ、引き攣った泣き笑いの顔は、彼に見られてしまっただろうか。
構わず、食堂と厨房の間に設置された電話まで覚束ない足取りで近付くと────]
ばつん。
[その線に、躊躇いなく鋏を入れた。]**
─???・一人目─
[ 甘い。
だが、何処かもの悲しい酸味を感じる。
きっと、姪を想う叔父の心が反映されているのだろう。
普段は人の成りをして騙す雪男が、その皮を破った時。
そして命を失ってしまうその瞬間が影響するのか、風味はその人間それぞれであった。
だが、今日のは当たりだ。
掴んだそれらは赤い果実のように仄かに熟れている。
そこから滴る蜜を掬いながら唇で食んだ。
ぐちゃり。柔らかい。ぼと。 ]
[ ぼた。 ぼた。 ぼたぼたぼたぼた。
──────どうして、あなたなのよ。
僕。僕。ぼ、く。
俺は、 何をしている? ]
…………ッ!?
[手の内側にある何か。
正体に気づく前に咄嗟に取り下げようとした。
自分より幾分も小さな身体から引き剥がすように。
でも、相手の方が早かった。]
────、
[ ケイト。
名前を呼ぼうとした。
でも、咀嚼するように動く身体は言うことを利かない。
自由気儘、歯を突き刺しては噛みちぎる。飲み込む。吐きそうになる。足裏が冷える。少しずつ、「思い出していく」。
自分が何をしたのか。
自分の正体が、 何なのか。]
[ 鼻頭に熱が溜まる。
ツンっとした刺激が肌を刺した。
涙腺が緩みそうになる。
だが、離れた先に垣間見た頬が一線残していたことに目敏く気付いた。
だから、離れて行ってしまって、ここが何処か気付いて、凶器を閉まって、道具を取り出しても、一言も口を挟むことは出来なかった。]
………嘘、だ。
[ こんなのってない。
先程彼女が呟いた言葉を繰り返す。
情けなくも震えた声と彷徨う視線の先、見つけた血の気の失せた顔。
ケイトが、雪男で。
俺も、────『そう、僕は───雪男だ。』]
違う。………違う。
[ 最早なにが違うのか。
無様に足掻けば足掻く程、意識とは裏腹に口角はさも愉快だとばかりに上がっていく。
『 知っている。自分が本当は何か。そのために何をせねばならないか。 』
でも、こんなのが『始まり』だなんて。
信じたくはないと、逃げる視線。
そんな中繰り返されるのは、何時間か前に耳にした声。]
「 護りたい人はいないの。 」
………犯人役は、狡猾に人を、周囲を、騙すんだ。
状況を味方につけて、出し抜く。
[結末については考えない。
無理やり捻り出した声は掠れていただろうが、]
死にたくは、ない。
何とか、生き残る方法を、考えよう。
もしかしたら、…みんなも分かってくれるかもしれないから。
だから、“いつも通り”に。
[一息に告げる。
彼女をここに一人残すことは躊躇われたが、今の状況を第三者が見たらどう思うだろう。
彼女の言葉通り離れるが吉だ。
自分は彼女程ここの構造について詳しくはないから。
だから、すっかりトゲを忘れた声色で告げるのだ。]
ふたりで、可能性をつくろう。
[ それが、到底不可能なことだと、何処か遠くで知っていても。
舌に残る甘美な味わいに酔い痴れていることを自覚しても、踵を返した足元は願う。]*
『 あの、雪の妖精みたいな、幼馴染? 』
【人】 教え子 シメオン ─昨晩のこと─ (75) 2015/05/27(Wed) 23時頃 |
【人】 教え子 シメオン ─???─ (77) 2015/05/27(Wed) 23時頃 |
【人】 教え子 シメオン
(90) 2015/05/27(Wed) 23時半頃 |
[ そうでもしないと、殺されてしまいそうだから。]
[ たかだか御伽噺に似たような死に方をしたからといって、犯人を炙り出そうとする状況に頭が追いついていなかった。
どうして。
────生まれてからほとんどの日々を共に過ごしていたのに。
どうして。
────そんなに簡単に探そうなんて。
どうして。
────それが、ここにいる誰かの可能性もあるのに。]
……簡単に、殺そうとする。
殺せるんだ、……な。
[ 落ちる言葉は呆気ない。
少し前までは、どうにか分かち合える手段を見つけようなんで、都合の良いことを考えていたけれど、今の状況で同じことを思える筈がなかった。]
………死にたく、ない。
[誰かのために疑われて手にかかって命を終えるなんて。
そんなスリルなんて、いらない。
それくらいなら、]
俺の知ってるままのみんなでいて。
『 さぁ、誰のケツを凍らせる? 』*
【人】 教え子 シメオン
(95) 2015/05/27(Wed) 23時半頃 |
──きっと、諦めてしまいたくなる。
[怖い。怖い。
目の前で行われている話し合いの意味よりも、知っている筈の人達が、まるで知らない人みたいで。
異分子を省く為の、算段。
疑わしきものは≠ネんて言葉に、自分が含まれることを想像した事はあるんだろうか。
雪鬼は、人に取り憑くという。
それを止める手段は、火掻き棒で────]
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