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[森に近い、村外れの粗末な小屋の中。月光を浴びながら、一人の女が糸を紡ぐ。
時に、銀色の光が注ぎ込む窓辺から――。
森から村へと続く小途を、慈しむように眺めながら]
あの人の生まれた村を静かに見守ってきたわ。
あの人の愛した村を、私も愛してきたわ。
でも――。
もし、村が悲しみのうちに滅びるようなら――。
どうすれば、いいと思う?
[誰ともなく問いかけて]
[そんな事は起きないで――
そう、願いながらも。]
.
愛する人の死を告げられるのは、辛い、わ。
自分の命が天に召す神様の御手により、刈られるよりも辛いこと、よ。
魂が千切られるような、痛みと悲しみに晒される、の。
埋めきれない空白を、疵を、魂に深く残すの。
それを埋めることなんてできるものでは無いわ。
あの人が愛したこの村が悲しみにくれるのなら――。
あの人の愛したこの村の人々が、身近な人を、村の人を失い。
魂に喪失という残酷な疵を受けるのなら。
私の手でできる事を――。
し て、あげる――。
[例え、自らの手を赤く染めたとしても――
丸い銀の円盤を、静かに眺めながら心の奥で思って。]
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― 回想 ―
[肩を抱かれ、軽く目を見開くも]
――だから、私は…大丈夫ですわ。
[そう、小さく苦笑し…執事とミッシェルのやり取りに小さく笑った。 ミッシェルも努力をしているということが伝わったのだろう。お茶の時間は執事が口を出すことは少なかったし、言うなれば他愛のない雑談をして居れば、すぐに時間は過ぎて行く]
あら、もう、こんな時間…?
[ミッシェルの言葉に、グロリアが視線を向けると、執事は無言で頷くのみ。その様子に、眉尻を下げ]
私は…構わないのだけれど。 やはり、爺は世間体とか。気になるみたい。 悪く、思わないで頂戴? 爺も…お父様の言いつけを守っているだけだから…
[其の言いつけが何なのかは…今は語ることはない]
(39) 2010/07/03(Sat) 03時頃
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― 回想 ―
――うーん。 でも。何時もよりも、爺は怒ってないわ? 努力は、認められてるんじゃないかしら…
[何時もの口調でこぼすミッシェルに困ったように笑んだ。 ま、良いや、と表情をころりと変えるのにも、今は慣れた物で…]
――。
[しかし。そのように呼んで良いか、と問われたのには目を丸くし]
私は…別に構いませんけれど… ふふ、その様におっしゃられたのは、ミッシェル様が初めてですわ?
[問いには小さく笑むばかり。 執事が戻ってくれば、代金と菓子、言葉のやり取りに口元を隠し、笑いをこらえていた]
― 回想終了 ―
(40) 2010/07/03(Sat) 03時頃
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― 屋敷 ―
[それから、どれくらいの時間がたったのだろうか。 カップのソーサーを膝の上に置き、暗くなった窓の外を見つめていた。 そんな中、自警団員は少々落ち着きのない様子で現れる]
そんな、病が…
[話を聞いたのは執事と屋敷を守る娘。 ただ静かに其の話を聞けば、自警団員に伝えてくれたことに礼を言い。自警団を見送った]
――爺。
[ぽつ、と。 グロリアは執事の方を見ずに告げる]
使用人達を連れて、街にお行きなさい。 お父様には…手紙を書きますわ。 貴方達は、優秀な人だから。お父様の許でお生きなさい?
(57) 2010/07/03(Sat) 03時半頃
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[執事の細い目が見開き、何時もは主に向けては見せることのない表情。 其の表情をグロリアは見ることはない。 もし、振り返って居たならば、グロリアの顔に張り付いて居たのは外行きの顔。 表情などない、ただただ無機質な顔]
分かっているでしょう? 私は、お父様にこの屋敷を任されている。 病が故に離れることは許されないわ。
[坦々と継げるは、上流階級の無慈悲さを帯びている。 ただ、無慈悲なのは誰に対してなのか]
――お父様も、戦争でもないのに私の顔など見たくないでしょう。
[何時もは主を呼ぶのにそんなに感情をにじませることはない執事の声。 長年付き添ってきた執事が呼びかけれど、主は応えることはなく、自室へと戻っていった]
(58) 2010/07/03(Sat) 04時頃
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[ばたん。 外界とのつながりが途切れれば、ゆっくりと無機質な表情は融解する]
は…ぁ…
[ゆっくりと崩れ落ちるようにベッドに倒れこんだ。 その蒼眼は鈍く光を返す*]
良いのよ。 私なんか、放っておいて…家族も、いるじゃないの。
(59) 2010/07/03(Sat) 04時頃
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初めて目を覚ましたときにあったのは、
幸せそうな笑顔と自分の泣き声でした。
子どもの頭を撫ぜる親はどうしてあんなにも幸せそうなんでしょう。
もうこれ以上は無い、と思える平凡。
当たり前のことが当たり前にある奇跡。
理解したらもう失っているもの。
病気になった、と聞きました。
詳しいことは分かりません。
誰が病気になったのでしょうか。
パパとママじゃありませんように。
せめて私でありますように。
パパもママも隠れて出てきません。
必死に探し回るかくれんぼ。
外は雨が降っていました。
雨はいつも通りに音を奏でていました。
何度も呼びました。
パパ。
ママ。
隠れてないで出てきてよ。
私は自分を偽って、平気な笑顔を作っていました。
その日初めて、私は本当に、
パパとママの為に泣きました。
自分を騙すのをやめた途端、涙が溢れて止まりませんでした。
パパとママはびょういんで
なんにちも、苦しんだ末に逝ったのだそうです。
そんなの聞きたくなかった。
墓前に立つと涙が溢れます。
どうして苦しんで逝ってしまったんだろう。
どうして楽に逝けなかったんだろう。
何を責めたらいいかわからない。
パパとママがいない毎日が目まぐるしく過ぎていきます。
私はいつしかパパとママがいないことが当たり前になりました。
私は私だ。
いつしか、私は、この記憶を封じて生きてきました。
だけど今、鮮明に思い出せます。
ソフィア、と呼んで呉れた優しい声。
パパとママを蝕んだ病気。
最後に頭を撫でて貰った刻。
すべてはしあわせで
すべてはふしあわせな
おもいでです。
わたしに できることは
くるしまずに いかせてあげること。
こんなときなのに、不謹慎だけど
どうか、わらってください。**
ねえ、あなたは何を望む?
あなたの大切な人が――。
死から逃れる事のできない、その日に遭遇したら。
共に行く事を望む、かしら?
それとも、その人を看取って――。
短くとも、その死を悼んであげたい?
[共に生きる選択は、病の蔓延を告げられたこの村では、ほぼ難しいけれど。
自らに出来る、ことを。死の馨を纏わせた女は、そっとソフィアに告げて――**]
生まれてから、23年。
私は初めて自分の足で立っている感覚に気づきました。
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