235 夏の終わりのプロローグ
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―祭りのあと―
[ ほたり、 と。
黒い地面に落ちて、一瞬だけ火花と共に、最後にはじけて。
そうして消えてしまった線香花火の光に、細めていた瞳を、まあるく開いた。
さながら裏庭で見かけた薄汚れた子猫の、勿忘草色の瞳めいて。]
[燃え残った花火からゆっくりと顔を上げて、輪になった面々を伺ったなら、そこには幾つの光の球が残っていたか。
ぱちぱちとはじける閃光は、それぞれが控えめな火花へと変わりつつある。
ぽとり、
ぽとり、 と。
次々に落ちてゆく火種は、ゆっくりと迫るカウントダウンにも思えた。]
[夏休みなんてすぐ終わるんだから。
そんな自分の言葉は記憶に新しいけれど。
取り壊されてしまうらしい貯水槽の下に住み着いた、裏庭の子猫の居場所が無くなってしまうのも。
賑やかな時間が終わってしまうのも。
それがしばらく、訪れなくなるのも。
打って変わったように、ひとりの時間が始まるのも。
マドカの言葉を借りるなら。
寂しかった、のだと思う。]
……そろそろ終わりかな、
[少なくなってしまった線香花火の光を見つめながら呟いた言葉は、結局口にも出せないまま蟠った感情を、そのまま加速させるようで。]
[それはそれは、ひどく子供じみた願い。
誰でも一度は願ったことのあるような、ありきたりで些細な願い。
小さく呟いた言葉は、誰に拾われる事もないはずだった。
遠く聞こえる虫の音と混じり合いながら、湿った夏の夜の空気に溶けて、
――聞き届けてしまったのは、果たして"誰"だったのか。*]
―祭りのあと?―
[まるでデジャヴ。
メロンパンのおねだり、ではなくて。
バーベキュー、なんて言葉だって、意識するより先に、自然と口から零れた。]
…………、?
[マイペースな、言ってしまえば鈍感な思考を回して、ほんの少しだけ首を傾げたのは――誰にも見咎められないはず。]
[1年以上も同じ時間を共にすれば、それなりに馴染んでもくるもので。
意識せずとも流れるように出てくる言葉を、どこか一枚隔てたような、曖昧な意識で聞く。
じりじりと、地面の灼ける音。
目の前に広がる団欒室の風景が、ほんのひととき、]
[どうしても、昨日からの記憶が曖昧に霞がかっている。
ぼうっと一日を過ごすのは常のことではあるのだけれど、そうだとしても。
マドカの手に掲げれたデカすぎメロンパンに。
竹刀を振り上げて盛大な掛け声をあげるチアキに。
エリアスはそういえば、何の部活動をしていたのだっけ、だとか。
少しだけ遅刻したヒナコが連れてきた同級生に。
さらに遅れた一人への、マドカのメール。]
……予知夢?
[それにしてはひとつひとつが鮮明で。
それにしては、全てどこかが違う。]
[やっぱりまだ寝ぼけてるのかな、なんて。
頬をつねって首を捻った。]
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