82 謝肉祭の聖なる贄
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[贄の瞳は黒みがかった深い茶に見えた。 それが、何かの弾み、強い輝きを帯びて磨き抜かれた珠のごと暗く光るらしい。 愛でるように探るように、まじまじと瞳を眺め、時折角度を変え]
――ふ。
[うっすらと嘲笑(わら)った。]
(60) 2012/03/15(Thu) 08時頃
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[すうと纏う気配が苛烈な冷気を帯びたものに変わる。]
汝は先ほど東風の名を尋ねていたな? 我は今手持ち無沙汰で退屈している。
[そこで視線は寸時壇上の最初の贄に歩み寄る茶の輩へと流れた。]
我の無聊を慰めて見せよ。
[じわりと冷たい熱を以って、しなやかに筋肉の陰影を浮き立たせた褐色の膚を睨め回す。]
(62) 2012/03/15(Thu) 08時半頃
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[大神からすれば、単なる退屈しのぎ、幾分かの八つ当たりだろう。 逆らうことを許されぬ贄の心持ちなど、端から思慮に無いと見える振る舞い。
が、実のところ銀灰の大神は、贄が何もせずとも、怒りもせず罰も与えない心積もりであった。 精々が苛立たしげに去ねと命じるくらいであろう。 しかし、それが贄に分かるかどうか。**]
(64) 2012/03/15(Thu) 08時半頃
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>>66 [髪先へと差し向けられた褐色の指先を、銀灰色は腕を組んだままの不動で許した。 触れるも触れぬも贄の心持ち次第――しかしそれは試しでもあり。
舞手の一挙手一投足、焦げ色の瞳に浮かぶさざなみひとつ見逃さぬ、凍の双眸の前で如何に振舞うか。 それすらもまた試しであった。]
(83) 2012/03/15(Thu) 17時半頃
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[と、どっと歓声が沸き上がった。 茶の大神が最初の贄の胸を断ち割り、心臓を高く掲げた瞬間、祭壇を囲む村人たちが歓喜の声を上げたのだ。 空気に濃い血臭が混じる。 けれども、銀灰の大神は身動ぎもせず、褐色の贄を半眼に見据え佇んでいた。
が。 優れた舞手であれば――或いは。 歓声の上がる直前に、銀灰の大神の気配が微妙に変化したことに気付いたやも知れぬ。 徒人(ただひと)では見過ごしてしまうほどに僅かではあったが、 白く冷たい面のうちに何かが、]
(85) 2012/03/15(Thu) 18時頃
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[腕を解き、すいと手を上げて、沈黙のうちに制止を命じた。 黒衣を翻し、褐色の若者に背を向ける。 その足は贄の据えられた架台へと。振り返りもせずに歩みゆく。 しばらく歩を進め、ふと思い出したように]
暫し待て。
[低い声で言い置いて去った。]
(86) 2012/03/15(Thu) 18時頃
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[ハ、とうっすら開いた口からかすかな吐息が洩れる。 銀灰色のからだから漂う甘く鋭い冬の香の体臭に、花蜜の如く甘く酸い、ねっとりと重い香が加わる。 それは、大神にしか分からぬほどのかすかなもので。
銀灰の発情した香、なのだった。]
(*21) 2012/03/15(Thu) 18時半頃
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[白い貌は仮面の如く、冷たく硬く。 するり黒の衣を肩から落とすと、白くしなやかな上半身があらわになる。 楽の音はまだ続いているのか、太鼓の取る拍子だけが妙にくっきりと湧き立つ。
鮮烈な赤に沈んだ贄の躯と、血塗れて肉を喰らう同胞。 その前に立つと、目を細めて胸いっぱいに血臭を嗅ぎ、天を仰いだ。]
(88) 2012/03/15(Thu) 18時半頃
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[ごきり、とくぐもった音を立てて顎骨が組み変わる。鋭い牙が迫り出して、がちがちと鳴った。 爪もまた剃刀のような鋭さ備えて1寸ほどに伸びていたろうか。
赤い舌を閃かせ、唇を舐めると。 身を乗り出し、贄を囲む輩たちの間に割り込んだ。]
(89) 2012/03/15(Thu) 18時半頃
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[白い貌に嵌った薄色の眸は、水銀のごと煌めいて蕩けている。]
(*22) 2012/03/15(Thu) 18時半頃
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[贄の未発達の下肢を開き、手付かずの腿に牙を立てる。 銀灰色の頭を振り立てると、繊維の千切れる鈍い音、ごっそりと腿肉を噛み取った。 咀嚼音とともに、白い脂肪層が仄見える肉が牙生えた口中に消える。 仮面の如き無表情ながら、幽かに熱のこもった息吐き、頬に飛び散った血を舌で舐め取る。 そうして、同輩と肩を並べて贄を貪りに掛かった。**]
(93) 2012/03/15(Thu) 19時頃
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[る、と喉が鳴る。 生命の無い死肉なのが幸い、贄の脚の間に昂った熱を捻じ込みたいという欲は、強烈な自制心の堰に押し留められていた。**]
(*24) 2012/03/15(Thu) 19時頃
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[両脚から食える肉を粗方剥ぎ終えたところで、身を引き動きを止める。 肩を上下させて、荒い息を整える、ふーっふーっという音が赤く濡れた唇から幾度か洩れ。
先端が血で染まった銀灰の髪を鬱陶しそうに振り払う頃には、元の通りの冷厳な貌を取り戻していた。 ――ただし、発情の花香はその身に仄かに纏わりついて、消え去ってはいない。]
(*26) 2012/03/15(Thu) 20時頃
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[やがて銀灰の髪を打ち振るい、大神のひとりが贄から身を離した。 朱に染まった指を長い舌でぞろり舐めながら、ゆるゆると壇上から降りる。 肌蹴た黒衣を清めた手で直したその顔は、元の通りの冷厳さでありながら、どこか気だるげでもあった。**]
(104) 2012/03/15(Thu) 20時半頃
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[銀灰の髪に血に浸った跡を残して、元の席へと戻る途中、人が寄り来って血の汚れを清めに掛かる。 それを物憂げに受け入れ、白い貌は先ほど舞の途中で待たせた褐色の贄に向けられた。]
(113) 2012/03/15(Thu) 21時半頃
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……選り好みせねば色艶などすぐに戻ろうよ。
[随分と経ってからぽつりと。 僅か皮肉ないろの戻った声音で呟く。]
(*31) 2012/03/15(Thu) 21時半頃
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>>*33 [ハッと嘲るように鼻を鳴らす。 少なくとも、今は微塵もそんな気にならないらしい。]
(*37) 2012/03/15(Thu) 22時頃
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[しかし――堰き止められたものは、底に沈殿はしても消え去りはしない。]
(*38) 2012/03/15(Thu) 22時頃
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[それゆえ、]
(*39) 2012/03/15(Thu) 22時頃
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[拭われたばかりの髪は少しばかり湿っていた。 付き人が盆に乗せ櫛捧げ持つを尻目に、大神は祭壇に腰下ろす。 そうして、褐色に手差し伸べ、傍に来よと無言のうちに命じた。]
(124) 2012/03/15(Thu) 22時頃
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[自制の箍が外れ、血に狂乱する銀灰は淫らに咲くが、それを味わった輩は少ない。 その相手が人ならぬ同胞であろうと何であろうと、引き裂き喰らうからだ。
そうでなく――常態の銀灰を口説き落とし、尚且つ血の滾りを抑えた交わりを持てた輩は……果たして存在するのかどうか。]
(*41) 2012/03/15(Thu) 22時半頃
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>>128 [触れるを避けるかのように控え目に添う褐色の腰を捉え、もそっと近付くように動作で促す。 鼻先を赤銅色の胸板に寄せ、すうと息を吸う。 若者からは、銀灰の髪がすぐ間近に見下ろせる位置となろう。 血臭は薄れていて人間には嗅ぎ取り難かろうが、大神の鋭い甘さ持つ体臭と綯い交ぜになり、馨にアクセントをつけていた。]
(136) 2012/03/15(Thu) 23時頃
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[鼻先で黒い衣を捲り上げ、そろと舌先を膚に付けた。 冷たくも硬くも見える白い手とは異なり、舌はやわらかく温かい。]
この、からだの染料は、 いったい何だ……?
[低い囁き。胸元から上目遣いに贄の顔を見上げる。 その言葉の合間も、ちろちろと舌は膚の上に描かれた紋様をなぞる。]
(139) 2012/03/15(Thu) 23時頃
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>>*44 [5年前の騒動の折、堪忍袋の緒が切れて激怒した銀灰は、体躯に劣る白金をこっぴどくどやしつけたが。 その仕打ちというのが、首を押さえつけた上で背後から圧し掛かるという大神の基準からしても屈辱的なものだった。
その上で更に、 「何なら主を犯し喰ろうてやろうか。 ヒトにはあらぬ故、そう簡単に死にはすまい」 と、どすの利いた低音にたっぷりの毒と艶を交えて白金のへたりと伏せた耳に吹き込んだのだったが――]
(*45) 2012/03/15(Thu) 23時頃
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>>142
――草の、味か。これは。
[贄の答えに満足したか。舌は更に紋様を辿る。 ヒトとは異なる舌はざらりとして、やわらかいだけでない微妙な刺激を膚に与えた。
薄布掻き分け、平らかな胸の尖りに近付くと、気紛れのように食んだ。 そのまま、舌先でじりと弄ったあと、軽く吸う。]
(151) 2012/03/15(Thu) 23時半頃
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>>143 [目の前の贄を味わっている最中ではあるが、贄の娘の声はちゃんと耳に入っていた。 つい先ほどまで膝の上で泣き濡れていたを思えば、天晴れと言っても良い気丈さである。]
(153) 2012/03/15(Thu) 23時半頃
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>>*46
懐く…?
[同胞の声に、ふ、と嗤いを返す。]
懐いた程度では到底。
[足りぬ、と言いたいのだろう。 昔から贄には、その肉だけでなく、最も苛烈なものを要求してきた。]
(*48) 2012/03/15(Thu) 23時半頃
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[――魂を捧げるほどの希求を。 逆にそれが充たされなければ「何でも良かった」。]
肉であれば。 さしたるものは求めぬ。 食いでがありさえすれば。
[まぐわいに充分であれば。]
(*49) 2012/03/15(Thu) 23時半頃
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>>157 [濡れてやわらかい鑢でじりと擦れる感触、 鋭いエナメル質で突起を挟まれ転がされる感触。 それらで贄を一頻り責め、
唐突に唇を離し、 若者の焦げ色の瞳に目を合わせ真っ直ぐ覗き込む。]
それほどに、汝は喰われたいのか? あの東風にか。 それとも、贄の栄を得られれば誰でもいいのか。
[声音に甘やかさはなく、漂う馨だけが大神もまた今の行為に幾分か快を得ていたと知らせるのみだ。]
(159) 2012/03/16(Fri) 00時頃
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あれは、用事とやらで先に帰った。
[聞くともなく、白金の呟きが耳に入って反射的に応えていた。
死んでも口にせぬが、冷たくあしらっても懲りず構う、ぎんいろの輩には密かに好意を持っていた。 あれには、話しておきたい――相談したいこともあったのだが、と。 そんな思いが、ついうっかり白金への返事となった。]
(*55) 2012/03/16(Fri) 00時頃
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