88 吸血鬼の城 殲滅篇
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クラリッサは、ラルフの呆然とした表情が視界の片隅に映り込む。
2012/04/29(Sun) 12時半頃
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何方かの甘さがうつったのかしら
[呟く声が痛みに震える。 ジェフから逃れようと身を引けば 鋭い刃が更なる熱と痛みを齎し女を苛む。 傷口から溢れる赤がドレスを濡らし 城の床に血溜りを作りゆく]
(113) 2012/04/29(Sun) 12時半頃
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[血は力の源。 このまま血を失い続ければ――。 警鐘が鳴り響くかのような感覚]
先の炎だけでは まだ、遊び足りないのね
[終わらぬだろうと踏むエリアスに 吸血鬼は軽口を紡いだ]
(116) 2012/04/29(Sun) 13時頃
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クラリッサは、ドナルドが呼ぶを聞き、眸が一度そちらに向けられた。
2012/04/29(Sun) 13時頃
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[人間のようと言われた吸血鬼。 十余年の歳月では人間であった事を忘れ切れなかった。 主が人間の手に掛かったあの時 女を匿ったのは彼の方に他ならない。 こうして危機に陥り思い浮かべるのもまた――]
“ My Lord ”
[個を思いながら個の名は紡がず その姿を探すように女の双眸が揺れ彷徨う]
(118) 2012/04/29(Sun) 13時頃
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[パチン、と。 重い腕を持ち上げ指を鳴らせば目晦ましの閃光が二階に満ちる。
光がおさまる頃、人間の眸に映るのは 螺旋階段を上ろうとする城主の後ろ背。
赤い赤い血の跡を残しながら 女が目指すは物見塔の屋上――**]
(119) 2012/04/29(Sun) 13時頃
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[ 黒犬の声が、彼の君の言葉を娘に伝える ]
[ 女は大きな眸を更に大きくして ]
[ ――嬉しそうに、微笑んだ ]
(136) 2012/04/29(Sun) 15時頃
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―― 物見塔の屋上 ――
[螺旋の階段の残る赤は人を誘う道標。 心の臓を掠めた刃の名残を感じながら 女はその胸を強く押さえ物見塔をのぼる。 屋上へと辿りつけば強い風が亜麻色の髪を浚う]
――…は、ぁ
[荒い吐息がやけに耳につく。 追っ手は現れるだろうか。 未だその姿は見えず女はずるりとくずおれるようにして 城壁にその背を預けた]
(137) 2012/04/29(Sun) 15時頃
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[ドナルドと出会うはヘクターとの再会果たす少し前。 城主ヘクターに憧れ抱く娘が人間であったあの頃 湖岸に佇む幼き少年を見つけたのは偶然。 草臥れた姿には逃げる過程の疲労が見えた。
“――大丈夫?”
ありふれたささやかな言葉を少年に向けて 彼の傍へと娘は歩み寄る。 案じるように手を差し伸べ彼の手に触れれば 疲労の為か病をえていたのか熱を帯びているよう。
名も知らぬ少年をほおってはおけずに 近く信頼のおける教会へ彼を預けることにした]
(138) 2012/04/29(Sun) 16時頃
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[寝込む少年を看るは必然。 彼が目を覚ますまでは教会に泊り込み 幼きその傍らに付き添い夜を明かした。
次第に回復し元気になってゆく姿に 娘は安堵したのを覚えている。
“元気になってよかった” “私ね、クレアっていうの”
“あなたの名前、おしえてくれる?”
彼の過去は問わず名だけを尋ねた]
(139) 2012/04/29(Sun) 16時頃
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[それは長いようで短い時間。 湖上の影を見詰めながら城主の事を少年に語る。
クレアが幼い頃に城に迷いこんだ事。 城の中庭に深紅の薔薇が咲いていた事。 薔薇の花がとても綺麗だった事。
城主がクレアの髪に薔薇をさしてくれた事。
嬉しそうに幸せそうに。 それはまるで夢見るような響き]
(140) 2012/04/29(Sun) 16時頃
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[或る日、クレアは少年に言う。
“ドナルド、喜んで” “私、お城で働ける事になったの”
“きっと城主さまにもお会いできるわ”
娘は自らの身に起こることを知らぬまま 城にゆき城主に会えるだろうことをとても喜んでいた]
(141) 2012/04/29(Sun) 16時頃
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[城主ヘクターに見逃された幼き獲物は 蕾であった華を綻ばせて彼の手の内へと舞い戻る。
“――城主さま”
城内で彼の姿をみつけ娘は声を掛ける。
“覚えておられますか?” “以前迷い込んだクレアです”
ヘクターにとってはささやかな出来事だったろう。 覚えていて欲しいと思いながらも 覚えていない不安も確かにあり声が微か震えた。
“あの時は、薔薇の花を、ありがとうございます”
長く言いそびれていた礼の言葉を 娘は漸くヘクターへと伝え華の笑みを浮かべる]
(143) 2012/04/29(Sun) 16時半頃
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[血に塗れたクラリッサの手には深紅の薔薇が一輪。 それは黒犬の残した薔薇の花。 傷を塞ぐ為の魔力を女は薔薇を手繰り寄せる為に使った。 愚かだと人は笑うかもしれない。 けれどクラリッサにとっては大事で――]
――…ヘクターさま
[二人きりの時にしか紡がぬ名を紡ぎ 薔薇の花を見詰める女は儚い笑みを浮かべた**]
(146) 2012/04/29(Sun) 16時半頃
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/*
わんこをぎゅーしにいきたいのを たえた …!!!
(-35) 2012/04/29(Sun) 16時半頃
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[ヘクターに与えられた血が城へと還ってゆく。
薄れ掛けた意識に過ぎるのは血を与えられたあの日の事。 衝動の理由が語られていたなら 元より貴方のものだったと笑うのだろう。 血と共に奪われた生命。 血と共に与えられた二度目。 薔薇の香りに生々しい血の香が、混じる]
――…、
[もう一度音なく紡がれる『彼』の名。 別れの日に向けられた思念が真実であるなら――]
(166) 2012/04/29(Sun) 20時頃
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[手の内にある薔薇が花弁を散らす。 遅れて娘の身体に衝撃が伝わった。 刀子が浅く鎖骨の下の肉を抉る。
開かれたくちびるは音を結ばぬまま 悲鳴上げることを拒むように噛み締められた。
伏せ勝ちであった睫が持ち上がり 刀子を放った者をきつく見据える]
(168) 2012/04/29(Sun) 20時半頃
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逃げられない
私も、 あなたたちも
[追ってきたドナルドとラルフの二人に、告げた]
(169) 2012/04/29(Sun) 20時半頃
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[城を閉ざすだけの力は残っていない。 けれど主の気配は確かに近く感じられた。 予言めいた言葉を口にした娘は――
大きく成長したドナルドを前に、微笑む]
(170) 2012/04/29(Sun) 20時半頃
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追っ手があなたでなければ 反撃できるのに……
[過去の縁が情となり枷となる]
(171) 2012/04/29(Sun) 20時半頃
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――…私は あなたたちから逃げられない、でしょう ?
[ラルフの問い掛けに僅か首を傾けて]
あなたたちは……
[誰から、とは言葉にせぬままくちびるを結ぶ]
(177) 2012/04/29(Sun) 20時半頃
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[懐かしい名で呼ばれ 深紅の双眸がドナルドへと向けられる。
狙いを定める隻眼をじっと見詰めて 女は観念したのか 胸へと宛がっていた両の手を下ろした]
ドナルド
[応じるように名を紡ぐ]
(181) 2012/04/29(Sun) 20時半頃
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――嗚呼
そんなことまで覚えていたのね
[ドナルドのいう『あの人』は クラリッサが思い浮かべた者と同一だろう。 懐かしむように女は呟く。 レイピア構えるラルフが問う姿をちらと見遣るが 口を挟むことはしなかった]
(184) 2012/04/29(Sun) 21時頃
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――…あなたは自らの名誉の為に 手柄を立てずとも良いの?
[嘗て魔女と呼ばれた者。 術に長けたエリアスが思案する様子にそと尋ねる]
(188) 2012/04/29(Sun) 21時頃
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ど、して…… そんな風に思うの?
[クレアだった者はドナルドの言葉を聞き ことりと首を傾げる。 討伐隊に加わった彼もまた手柄が必要なのだろうか。 彼の真意を知らぬまま不思議そうに瞬くが
ドナルド笑みが見えれば 少年であった彼の面影と重なり その提案を受け入れるように仄かにわらう]
(193) 2012/04/29(Sun) 21時頃
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[放たれた銀の杭が風をきる。 ジェフが貫いた其処に吸い込まれるように 銀は深々と女の胸を射抜いた]
――…、……ふ
[笑み声にも似た吐息とともに こみあげる赤が女のくちびるを染める]
(196) 2012/04/29(Sun) 21時頃
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[――あの日。 領主の計らいで匿われ今の地位についた娘は 王にクラリッサという名を与えられた。 それから娘をクレアと呼ぶ者はいなくなる。 クラリッサ、若しくは、アヴァロン伯、と。
討伐され眠りについた主に会いたいと何度も思ったが 血を注ぐべき『彼』の名残が見つけられず叶わぬまま月日が流れる]
(197) 2012/04/29(Sun) 21時頃
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[五年前、王への反逆を理由に討伐された領主の話を耳にした。 多くの者が犠牲になったと聞く。 反逆の真偽は定かではない。
アヴァロンの領地に妹を探す姉弟が来たのはややしての事か。 大事な者を探す二人の姿が 大事な者を失った自分と重なる。 話を聞き手を差し伸べて娘は二人を傍に置く。
何の疑いもなく慕ってくれる二人の存在が癒しだった。 主をなくした寂しさが少しずつ癒されて わらうことを忘れていた娘に その感情と表情を取り戻させた]
(198) 2012/04/29(Sun) 21時頃
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[エリアスの言う信用。 女もまたその信用を必要としていた。 五年の間、傍に居てくれた騎士の――]
……ッ
[名を紡ごうとくちびるが動くが 喉に詰まる赤がそれを邪魔する]
(200) 2012/04/29(Sun) 21時頃
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[ドナルドの答えが遠く聞こえる。 何をみたくなかったのか尋ねられない。 魔性として生きる私を見たくないのだろう、と そう思い至り女は目を伏せる。
銀に貫かれた心の臓からは 夥しい血が流れ出し城へと還ってゆく。
閉ざされた眸には何も映らない。 闇の気配が一層濃くなるを感じる。 城壁に凭れていた女の身体がずるずると頽れて]
(204) 2012/04/29(Sun) 21時半頃
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[女であったものは白き灰へと姿を変えて]
[一陣の風が白の全てを攫ってゆく]
[其処に残されるは女の大事にしていた紅玉の髪飾りのみ**]
(208) 2012/04/29(Sun) 21時半頃
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[器を失い魂だけの存在となった娘は 灰と共に地下聖堂へと運ばれて微睡の中。
城の主の思念が伝えば 生前と変わらぬ娘の表情が 安堵したかのように緩んだ]
(234) 2012/04/29(Sun) 22時半頃
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