[──夕暮れの教室で、彼女が言った。
『日向さん、貴女は。……どうして、喋ろうとしないの』
もう柔らかい元気に満ちた声ではない。刺々しく、責める意味を帯びた疲れた声だった。
ごめんなさい、と思った。私のせいで、疲れさせてしまった。
同時に、聞かれたって分かるわけない、とも思った。
話そうとしないんじゃない。話せないんだ。
どんなに期待をされたって責められたって。仕方ないでしょう、出来ないんだから。
話せない。そうなんだから、どうしようもないでしょう。
こうして胸のうちで渦巻く思いすら、上手く口に上らせることができない。
それが、どれだけもどかしいか、苦しいか。
何不自由なく上手く話せる人になんか、分からない。ぜったいに。
手元の紙とシャープペンシルに視線を落とす。
突き刺さる言葉の棘がいたむから、声の代わりの文字すら1文字も綴ることが出来なくて、そのまま固まるしかなかった。
そうやって、筆談というコミュニケーションツールすらまともに扱えなくなっていった。]
(@16) 2015/02/07(Sat) 21時半頃